紙の本
桜井さんの思い
2021/08/05 23:41
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投稿者:玉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
桜井さんのお話を3回聞きました。歌も聞きました。
その桜井さんの思いを、みごとにまとめてくれた1冊です。
桜井さんや布川事件のことを知らない方にも、
ぜひとも読んでほしいものです。
もちろん、ご存じの方は、絶対にお読みください。
桜井さんの人生が、描きだされています。
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筆者の桜井昌司氏は、布川事件の犯人として20歳で誤認逮捕される。刑事からの度重なる自白の強要に耐えきれず、「自分がやりました」と嘘の告白をしてしまう。自白と警察にねつ造された証拠の合わせ技により有罪判決となり、強盗殺人容疑で無期懲役を宣告された。その後何度も再審請求をするも退けられ、29年間を獄中で過ごす。49歳で仮釈放されるも、彼の「無罪」が認められたのは64歳であった。
44年の歳月を経て自由を勝ち取ったものの、そこから8年後の2019年9月、医師から直腸がんの告知を受ける。病状はステージ4。定期的に薬物を注入して余命2年、何もしないで1年という宣告だった。
壮絶すぎる。
不運すぎる。
こんな星の下に生まれたなら、神様を呪わずにはいられなくなるだろう。
だが、彼は自分の運命について、力強くこう答えている。
「不運は不幸ではない」と。
桜井氏は自らを「自己中心的で自分勝手な男だった」と評している。そして、「そんな男だから冤罪に会ったのだ」とも言い切っている。というのも、彼はもともと盗みを繰り返す非行少年であったのだ。人の行いがその人の運命を決定づけるのであれば、自分は受けるべくして罰を受けた、というのが桜井氏の本音である。
「運とはなんだろう。私は、その人の思考と行動が招くものが運だと考えている。何を考え、何を好み、何を否として行動するかで道は違ってくる。道が違えば出会う人が違う。人との出会いこそが、人に起こる出来事を左右して運となるのだ」
そうは言うものの、彼が受けた罰はバッドラックで片付けられるものではない。29年の投獄は、非行少年に与える戒めとしてはあまりに重すぎる。
にもかかわらず、彼が運命を呪わない境地に達したのは、冤罪を晴らそうとする支援者と出会ったからである。檻の外では救いようがないぐらいダメな人間であったが、そんな落ちこぼれにも無償の愛を注ぎ続け、29年の間伴走してくれる人がいた。見返りも無しに、無罪のために力を貸してくれる人の存在を知った。そこから筆者は劇的に変わったのだ。
「これまでの人生を振り返ると、29年間の獄中生活も含めて、すべて幸せだったといえる。充分に人生を楽しみ、1年後に死んでも満足だと心底思えたのだ。」
「真犯人に対しての思いは、今でも変わらない。もし会ってしまったとしても『大変だったね』と声をかけるだけだろう。本当に人を殺した人の痛みと後悔を傍で見て知ってみると、精算し得ない思いを抱えながら生きていける真犯人は気の毒とさえ思える。それだけだ」
新しい出会いが、筆者を人として成長させたのであった。
筆者の不幸はまだ終わっていない。無罪を勝ち取ったのもつかの間、ステージ4の直腸がんにより余命を宣告された。しかし、そんな状況でも彼は明るい。刑務所の中での苦難も、余命宣告の苦難との出会いも、自らを喜びに導く種だ、と力強く語っている。
「苦しみに耐えた人が
もし強くなれるのならば
私の強さは無類だろう」
「人生は苦しさを味わうたびに何かが生まれる。自分の中に眠っている力が湧き上がる」
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布川事件の冤罪被害者の書籍である。20歳で逮捕され、物的証拠がなく供述内容も矛盾だらけであったが、強盗殺人の罪で起訴された。29年間を獄中で過ごし、再審で事件から43年7か月後に無罪を勝ち取った。検察が証拠として提出した自白の録音テープからは13カ所の改ざんが判明した。捜査は極めて悪質であった。これは袴田事件や湖東記念病院事件など他の冤罪事件と共通する。
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冤罪で牢屋に入ったけれどそんな境遇の中、冤罪だと信じ一緒に戦ってくれた周囲の人たちの存在こそが幸せそのものだと体感して人生の達人だと思った。今を一生懸命生きるとはこういう事なんだろうなあ。がんでも長生きこころのメソッドという本に素敵な事が書いてあったけどそれを教わらなくても体得していたような著者。私も今を一生懸命そして感謝を感じる事が出来る人間でありたいと思った。