紙の本
小説を読んでいるということを忘れる
2022/04/03 06:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Pana - この投稿者のレビュー一覧を見る
西 加奈子さんの本をはじめて読みました。
とても心が重たくなる、また過激なシーンもありましたが、続きが気になり次々と読み進めていくことができました。
小説を読んでいるはずなのに、現在の社会問題についての書物を読んでいるまたは、テレビで取り上げられている内容を見ているかのような感覚になりました。
電子書籍
もっと深く
2022/12/12 19:30
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投稿者:わたぼうし - この投稿者のレビュー一覧を見る
紙と鉛筆で作者がゼロから作り上げた世界。この世界を自由に操れる作者を持ってしても世は明けなかった。ハラスメントの残酷さは、ハラスメント側が幸せな人生である事が何よりキツイ。その本質を捉えいると思いました。もっと長く、もっと残酷でも良かったが、それはラストにある通りに現実世界が軽く小説を超えていますね。
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「苦しかったら、助けを求めろ」
もうこの一言に救われる。
人生のどん底に落ちてしまった主人公を見るのが辛くてたまらない。
でも、後輩の子がかけてくれたこの言葉(実際は先輩の受け売りなのだけれど)のパワーで、読者も救われた気分になるのではないか。
この話は、100%ハッピーエンドではない。でも、人生のどん底に落ちる前に、逃げたり、助けを求めたりしよう。それは怖いことでも、情けないことでもない。
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20210919ツライ。読んでてツライと感じさせる本は苦手だが、それが評価されることが多いようにも思う。最後まで読めばただツライわけではないけれど。だから評価されるのか。だから読みきったのか。
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ある映画俳優をきっかけに仲良くなる高校生男子の俺とアキ、スタインベックの『ハツカネズミと人間』に似てるかな?というところから始まる。
高校を卒業、就職とどこまで行っても二人の人生に光は見えない。高校のマドンナも就職後は記憶の中のぼんやりとした光になってしまう。
メインの2人以外のどの登場人物も、心に暗い虚ろなものをかかえつつ、生命力が溢れ力強く生きていることが伝わってくる。
ずんずん読んでページを捲っていっても救われない。全然救われない。最後に1つだけ悲しい夢の中で起こるような奇跡が訪れるけれど、それも「俺」にとっては救いではなく。でも「俺」はまた世界に向かって踏み出す。
西さんは初読。途中「小説じゃないと無理」という展開になりますが、密度が濃く生命力あふれる作品を書く個性的な作家さんという印象を受けました。面白かったです。
#夜が明ける
#NetGalley
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作者の伝えたい思いがこれでもかと溢れてる。怒ってるんだなって。サラバ!が好きな人には絶対にハマる作品。
アキ・マケライネン、男たちの朝ってGoogle検索したのは私だけではないはず。何度検索しても出てこず、キーワードも変えたりした。それほど実際にありそうなんだよね。知りたくなった、アキがどんな風貌なのか。
出逢えてよかったこの作品に。頑張っても頑張っても報われないあなたに、疲れたあなたに、手にとってほしい。
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目を、耳を、心を、そして本を閉じてしまえば楽になれるのに
知らないことの重大さを、無知と決めつけてはいないだろうか
著者の痛烈な叫びを、わたしは受け止められるだろうか
自問して咀嚼しても、いまのままでは飲み込む力が足りない気がする
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NetGalleyで、発売前に読ませてもらいました。
重い作品。楽しくはない。でもとても大切なことをいくつも言われたように感じたし、それはずっと心に残っていくと思う。
高校で出会った「俺」と 、異形とも言うべき風貌の「アキ(深沢暁)」。高校生活のエピソードと、それぞれのその後。
前編はまだ明るさがあった。青春っぽさもあり、それぞれ夢もあった。
後編ではそれが一変する。居場所を見つけたはずの「アキ」にはつらい変化が待っていたし、人並みの生活が送れていた「俺」も、そうではなくなっていく。金銭的な苦労がつきまとい、仕事では、考えられない過労働に加えて理不尽すぎる扱い。
生活や心が徐々に壊れていく様子がこまかく描かれている。彼らだけでなく、ここに出てくる人たちはみんな、前向きな人もそうでない人も、とてつもなく辛い思いをしている。読み進めるのがつらく感じることすらあった。
フィクションではあるけれど、現実味がある。心情の描写がリアルで、こういう思いをしている人は本当にいるだろうと感じた。加えて、実在の映画や俳優、現実に起きた事件を想起させるニュースなどが登場してくるから、余計に現実味が増しているのかもしれない。
周りがみんな敵のように思えて、誰にも弱音を吐けなくて、苦しくて上手く生きて行かれなくなる人は、実際にたくさんいるんだろうと思った。それでも、よく目を凝らせば、優しい人や手を差し伸べてくれる人が近くに必ずいると思いたい。
「苦しかったら、助けを求めろ」というセリフは、西加奈子さん自身の叫びのように思えたし、現実の社会で苦しんでいる人たちにも伝えたい思いなんじゃないかと感じた。
いま普通に暮らせている私自身も、少し環境が変わるだけで「俺」になり得る。「俺」が名前で書かれないのは、誰もがそうなるおそれがあるってことなのかもしれない。
ラストシーンの後はどうなったのか。展望は明るくないような気がするけれど、抗い続ける人がいるのは救いだなと思った。
その他、ちょっとした感想。
□アキ・マケライネンは調べちゃう。
□『ほとんど〜〜だった』という表現が多く感じた。
□226ページ
紙ナプキンだった鼻をかむのも→紙ナプキンだった。鼻をかむのも
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「世界に目を向けてみろよ。 どれだけの不幸がある?餓えと貧困に苦しんでる子供達。体を売らなければならない女達。戦争で命を落とす男達。俺たちは、そんな人間たちの不幸の上にあぐらをかいてるんだ。 最近の若い奴は甘いよ。 仕事がしんどければすぐ辞める。上司にしごかれたらすぐ辞める。それは贅沢だよ。 仕事を選んでる時点で、そいつらは恵まれてるんだ。 無事に学校に行って、命が脅かされない状態で勉強出来るだけで、 恵まれてるんだ。」(P.90)
この世界には、誰にも知られていない不幸がある。
自らに与えられた環境に疑問を持つことが出来ず、ただただ現実を受け入れるしかなく、慢性的な、もはやその怒りで自分自身を殺してしまいかねないほどの怒りを抱えながら、生きて行くしかない存在。(P.112)
そのADはまだ、怒りが外に向かっていたから健全だ。 大抵の人間は、怒りを表明する前に、「自分が悪いのだ」と思わされる。自分はクズだ、才能がない、何も出来ない。(P.139)
「みんな、安心したいんとちゃうん?自分より賢くてバランスええ人見るのはしんどいんやろ。 賢くてイケてておもろくて、挙句明らかに自分より金もらってる奴見ると落ち込む一方やん。 でも、阿呆見とったらさ、いくらそいつが自分より金もらってても、そいつになりたいとは思わんやん。安心してバカにできるやん。」(P.143)
「まだ意見なんて言わないよ。2歳だ。母親が全てだろ。叩かれても蹴られても、それでも母親を愛してしまうんだ。そんな母親でもな。」(P.165)
「そういうのはもういい。 悪い人間にも理由があるとか、本当はいい人だった、とか、そういうのはもういい。そこから、根本から、社会の構造から、しっかり考えないと虐待がなくならないんだよね、知ってるよ。でも、いらない。そういうのは、他の人にやってもらおう。」(P.168)
お前より自分の方が頑張っている。お前より自分の方が大変だった。
被ったトラブル、乗り越えた厄介ごと、その規模が大きければ大きいほと武勇伝になり、箔がつく。 3日間の制作期間で、音をあげることは許されない。(P.181)
この恐怖を克服すれば、静かな世界がやってくることは、経験から知っていた。空腹は最初体を緩慢に苦しめ、それが深く鋭くなって、やがて芯を貫く痛みに変わる。でも、それが過ぎると、ただ眠くなる。 視界が狭くなり、自分が今空腹であるのかどうかが、分からなくなってくる。 小さな頃は、その時間がくると、安心すらしていた。 食べ物のことを考えなくて済むからだ。(P.194)
自分でも、陳腐なことをしている、と思った。 手首を切る人間のことを、俺は軽蔑していた。誰かに自分を認めてもらうために、死なない程度の傷をつけるなんて、自己愛と自己顕示欲にまみれた、卑しい行為だと。でも、実際にやってみると、それは自分で思っていたものとは違った。 全然違った。(P.199)
貧乏って、きっとそういうことじゃないんだよね。実際臭うことよりも、実際汚いことよりも、 どうやら臭そうだ、どうやらそうだ、ていうことだけなんだよ。誰かがそれを知ったら、その子がどれだけ清潔にしてても、きちんとしてても、貧乏なんだよ。 そして、貧乏ってだけで、 虐めてもいいんだよね。(P.216)
私は、自分が望んでこの環境にいるわけじゃない。同じように、ほかのみんなも偶然、たまたまお金持ちだったり、お金を持っていなくても、当たり前みたいに学校に通える。少なくともお弁当を食べられる環境にいる。それで、お弁当を食べてない子のことを心配して、声をかけてあげらかる世界にいる。優しい人間でいられる。当然のように、そこにいる。(P.217〜P.218)
強い人間は恨まないんでしょう?弱いから、弱さの中にいるから恨むんでしょう?
誰かの、世界の優しさを信じられないのは、その人が弱いからなんでしょう?(P.218〜P.219)
ストレスだと、簡単に片付けられるのが嫌だった。おそらく全ての大人が、いや現代では子供ですらストレスを抱えている中で、こんなに、圧倒的に、ただただ弱っている自分を認めることが耐えられなかった。(P.295)
自分が、自分ではない気がした。
ストレスが限界を超えると、自分の体から意識が離れていく、そんなことを聞いたことがある。「離人」と呼ばれるらしい。でも、俺の場合は、それに当てはまらないような気がした。(P.330)
助けてもらうことは、もちろん負けじゃなくて、得でも損でもなくて、当然のことだから。(P.376)
もちろん、根性は大切だと思うんです。頑張るべき時は頑張る、それは絶対に大切だと思うんです。でも、頑張っても、頑張っても、ダメな時はありますよね?
先輩には、先輩のために、声を上げてほしいんです。苦しいときに、我慢する必要なんてないんです。それって誰が得するんだろう?それに我慢を続けたら、きっと、声を上げた人を恨むようになっちゃうと思う。(P.379)
苦しかったら、助けを求めろ(P.380)
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1998年。15歳だった俺と俺の友だち深沢暁。
アキは身長が191センチあり吃音でした。
父親が映画マニアだった俺の家にはビデオテープが山のようにあり、俺はフィンランドのスーパーマイナーなアキ・マケライネンというアキと容貌の似ている役者をアキに教え、『男たちの朝』というビデオを貸します。
アキはすっかりそのビデオが気に入り、アキ・マケライネンになろうとします。
アキは心優しい大男でしたが母しかいない家は貧しくガソリンスタンドでアルバイトをしていました。
俺の父親も高校2年の終わりに車の事故で多額の借金を残して、自死。
俺は奨学金を受けてなんとか大学には進学しますが、その後二人共、大変な人生が始まります。
役者になりたいアキは一つだけアキを受け容れてくれた劇団にアルバイトのかけもちをしながら、劇団では毎日掃除。
俺は大学卒業後、マスコミを志望して、ADになりますが、苛酷極まるADの仕事で、ストレス性胃腸炎から鬱になりかけます。
アキは劇団が解散した後もマケライネンになろうとしながら残飯を漁り、路上で眠り生き延びようとします。
読んでいる間中、怖いと思いました。
アキや俺の境遇がもし自分に降りかかってきても何もおかしくないことだからです。
ちゃんとした場所でちゃんと働けるというのはすごく幸運なことなのだなあと思いました。
でもこの小説は異常に苦しい。苦しすぎる。なんでこんなに苦しいのだろうと思って読み続けました。
でも答えは用意されています。
「苦しかったら、助けを求めろ」
そして、ラストに奇跡が起きます。
アキの全生涯は決して幸福ではないように思えますが、アキ自身はきっと幸せだったというような気がします。
だって、アキはマケライネンになることができたのですから。
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・「名前」の持つ力を、俺はアキから学んだ。自身のことをいくら強固にイメージしていても、名前を呼ばれると、ー中略、そのイメージはやがて名前の持つちからに取って代わられる
・納土さんにとって大切なことって何ですか
ー中略、自分が不要だと考えて切り捨てた部分。僕はどうしてそれを捨てたのか。どうして不要だと思ったのか。
・あらゆる人の優しさを、そのまま受け止められるような世界に、私はいなかったんだよ。
どうしていつも優しさをもらう側でいないといけないの?
私は優しいんじゃない。私は誰も恨まない。ずっと笑ってる。負けたくないから。
・気張ってた時とか、怒ってたときって、「守る」とか「言い返す」みたいことが目的になっちゃうんですよね。敵を作って、その敵をやっつけるために、身内の悪いとこ見ないようにしちゃって。それって不健康なんですよ。悪いところがあれば、身内にも言わないといけないし、それで、そんなもんで壊れるような戦いにしちゃいけないんですよ、これは。
・自業自得だとか、自己責任とか言う言葉をよく聞くよねって。ー中略。最近は、大切な現実を見ないようにするための盾になってる気がするって。ー中略。そんな言葉は、その人が心から安心して暮らせるようになってから、初めて考えられるんだから。初めて負える責任なんだからって。
大切な現実って、今ここに、困ってる人がいるってことなんですよ。
・根性も大切だと思うんです。頑張るべき時は頑張る、それは絶対に大切だと思う。でも頑張っても頑張ってもダメな時はありますよね?
先輩には先輩のために声を上げてほしいんです。苦しい時に我慢する必要なんてない。それって誰が得するんだろう。それに我慢を続けたらきっと声を上げた人を恨むようになっちゃうと思う。ーでも自分のために声を上げた。それは当然の権利だから。
・苦しかったら助けを求めろ。
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『サラバ!』以来の西加奈子さんの作品。
著者の文章は物語に引き込む力が凄い。
一気読みしてしまいました。
ストーリーはアキと俺の成長の物語。
暗雲が立ち込めてきて、読んでいて辛かった。
とくに、アキの不憫な環境に、「勘弁してあげて!」と涙が出そうになりました。
最後、希望は残ったのかな?と思います。
生き辛さを感じた時、自分は何と戦っているのか。
本当に戦いなのか。何に勝ちたいのか。
立ち止まってみて、考えるようにしたい。
負けない!負けたくない!という気持ちを抱く時、その相手は案外いなかったりする。
勝つことを求めるのは自分のエゴだったりする。
それが返って自分を苦しめているならば本末転倒。
助けを求める権利、救いの手を求める権利は皆平等にもっている。
社会は自分が思っているよりも優しい。
その優しさを素直に受け入れられる自分でありたいし、助けを求めている人に手を差し伸べられるように、気づける人でありたいと思った。
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アキと俺の高校生活を描く冒頭は青春ものの様相もあり、甘酸っぱい感じ。
だけど、2人が大人になって、それぞれの悲惨な人生が描かれ始めた途端、苦いものが喉元にせり上がってくるような苦しさを伴う。
それでも2人の行く末を見届けたくてなんとか読み進める。
虐待、貧困、パワハラ、ブラックな職場、反吐が出るような環境で次第に壊れていく俺を救ったのは俺が馬鹿にし、嫌悪していた仲間だった。
「苦しかったら、助けを求めろ」森さんの言葉が胸に響く。自分も助けを求められた時、自己責任と切り捨てるのではなく助けてあげられる人でありたいと思う。
自暴自棄になっていた俺が助けを求め、少しずつ生活を立て直して行くラストには胸を打たれた。どん底にいる人が再び頑張ろうと思える社会であって欲しい、そういう社会にしなければならないと強く願った。
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みなさん、前回のレビューをご覧いただけただろうか。
(ホラー映像風)
ご覧いただいていない方のために、もう一度説明しよう。
naonaonao16g、口内炎が悪化して喉や耳まで痛み、耳鼻咽喉科を受診したら中耳炎になりかけていたんです。お医者さんの言うことをしっかり聴いて過ごしていたんです。
しかしである。(ここからが後日譚)
耳鼻科からもらった薬を飲んでも治りが悪いどころか、夜中に目が覚めて眠れなくなる事態に。
奥歯の方もじん、と痛い。
もう一回耳鼻科を受診し、同じ日に歯医者も予約(しかも同じビルにある)。
そこでようやく、naonaonao16gを蝕んでいたものの正体がわかったのです。
なんと、親知らずだったんです!!ヒイイイイイイ!
炎症が治るまでだいたい一週間くらい様子を見て抜きたいという歯医者さん。しかし、夏の予定(特にBBQとロッキン)的にそれでは間に合わないnaoaonao16g「先生、時間がないんです」。
そんなこんなでなんとか仕事や予定を調整して週4で歯医者に通い、数日前親知らずを抜いてきました。
今んとこ痛みは落ち着いてて、ぷくりと腫れた頬が少し愛らしく思えるほどの状態になってきました。
いやぁ…原因がわかってよかった!多くて人生に2回しかない親知らずの大手術。記念に抜いた歯を持ち帰ってきて、時折見つめています…笑
と、こんなnaonaonao16gのしょうもない日常で尺をとってどうする!今日のレビューは西加奈子さんの5年ぶりの大長編『夜が明ける』。
二人の青年が死に物狂いという言葉では表現しきれないほど死と隣り合わせの世界で生きてきた物語。「死と隣り合わせの世界」、それは知らない国でもなければ、反社会的な世界のことを言っているのでもない。わたしたちが生きている日本の話であり、わたしたちが生きている、ごくごく普通の社会のことである。
もともと貧困家庭に生まれ育ち、母(シングルマザー)から虐待を受けてきたアキ。母は差し伸べてきた手を拒否してきた。その手は母の機嫌を悪くするものだったから。だからアキも、差し伸べてくる手を信用していなかった。アキはつまり、助けを求める方法を知らなかった。助けを求めても、うまくいかなかった。
貧困家庭に生まれ育ち、助けを求める方法を知らずに、うまく助けを求められなかった青年、アキの物語。
もともとは「普通」の家庭に育った俺は、家庭を襲ったある出来事から、貧困に陥った。助けてくれる人や、話ができる友人はいた。それでも、ごりごりの体育会系の会社の中で働く苦しみや、助けを求めようにも求められない苦しみを、全て吐き出せる人はいなかった。
自立する過程で貧困に陥り、助けを求める方法は知っていたが、助けを求められなかった俺の物語。
別の境遇から「貧困」に陥った、そんな二人の青年の物語だ。
アキの章も俺目線で語られるという珍しい手法で描かれている。
全部で407ページ。『貧困』と名のつく多くの参考文献がずらりと並ぶ。
ここからもう西さんの熱意が伝わってくる。
当事者ではない西さんが、戸惑いながらも作家として全力で描いたというこの作品は、誰にと��ても他人事ではない。
シングルマザー、虐待、貧困、ハラスメント、ブラック企業、過重労働、うつ病、生活保護。
他人事だと思っているそれらのことは、いつ自分に降りかかってくるかわからない。
どうしてこんなに助けを求めづらい?どうしてこんなに誰かに頼ることが難しい世界になった?
みんなができてることが自分にはできないから?ただただ恥ずかしいから?自己責任だと思ってるから?
こうやって「誰にでもありうることなんだよ」って、義務教育では教えてくれないの。困ったら相談するところがあることとか、特にお金に困ったら生活保護があることとか。そういう制度を使っていいんだって、その権利が誰にでもあるって、そういうことこそ、教えるべきだと思うんだ。
だけど、今の教育はそれを教えてはくれない。こうして直木賞を受賞した作家さんが、この目を引く表紙でもって、現代社会を生きていくことのしんどさを訴え、それでも最後には希望を持たせてくれることの意義。
西さんの作品は人の弱さを徹底的に描く。それでも、登場人物の強さに光を当てているから、最後には圧倒的な希望がある。
実際に生きている人にも、同じようにみんな強さがあると思うんだ。だけど、その強さに自分ではなかなか気付けない。だからこそ、その強さに目を向けてくれる人との出会いって貴重なのだけれど、残念ながら、機会に恵まれずにそれに気付けないままの人だっている。最近、それが顕著に感じられたのが山上容疑者だったり、京都アニメーションを放火した犯人なのだけれど。彼らの家庭環境は壮絶で、どうして誰も助けられなかったんだろうと思うばかりだ。助けを求めてもうまくいかなかったのか、助けを求める方法を知らなかったのか。もしくは、助けを求めることができなかったのか。誰か一人でも、彼らに寄り添ってくれる人がいたら。
どうしたって存在する格差社会を、どのようにして生きていくのか。
「自分は大丈夫」なんて思わずに、ぐるりと自分以外のところにもアンテナを向けてほしい。
「自己責任」て言葉で、貧困問題を捉えないでほしい。自殺者を追い込まないでほしい。
「貧困」と一口に言っても、単なる経済的貧困だけでなく「心の貧困」にも目を向けたい。
仲野太賀さんの帯。
『息を殺しながら生きなくてもいいように、誰かの心が壊れないように、この物語が生まれたんだと思う。』
この作品の良さを、端的に描いた素晴らしい文言だと思った。
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2021/10/20リクエスト 7
15歳の時、 高校で身長191センチのアキと出会った。
普通の家 庭で育った「俺」と、 母親にネグレクトされていた吃音のアキは、 共有できる ことなんて何一つないのに、 互いにかけがえのない存在になっていった。 苦労して奨学金を得て大学卒業、テレビ制作会社に就職。アキは劇団に所属する。 でも憧れ入った世界は理不尽なことばかり。思う以上に。2人とも少しずつ、 心も身体 も、 壊していく。
思春期に出会い、細く長く、相反するが中身は太く繋がっていた2人の話。
何という感想を言えばいいのか、わからない。
読み始めたら止まらなかった、辛かった。
貧困の恐怖を受け入れる、受け入れなければならない日本のこの辛さは、他国に比べたら大したことないから我慢しないと、というものではない。日本人は特に、「●●と比べたら」という比較をすることで、自分を納得させ乗り越えなければ、と鼓舞するようなところがある。それは苦しさを乗り越えるだけで、それを受け入れて、きちんと自覚していることではない。
しんどいと思ったらしんどいって言っていいんだ、ということ。
アキは貧困の極みから変化を遂げた。それは、アキのとんでもない量の努力によるものだと思った。
そこまでしないと、今の日本では普通の生活が送れない。
ささやかなことを言えば、物価がこんなに上がるのに給与は上がらない。それではギリギリの人は簡単に弾き出されてしまう。
そうならないように、選挙でも投票したけど。
今の日本を、外から見つめた作品。
西加奈子にしか書けない作品だと思う。