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東海地域で不動産業を営む経営者による自伝。1976年28歳で不動産会社に転職し、1983年には社長に就任、以後年商120億円(2013年)を売上げる規模にまで成長させた経緯を説明している。大きな失敗も何度かありながら、顧客本位の姿勢とITへの積極投資などが成功したカギであったと述べている。経営者としての考え方と決断の在り方について、とても参考となった。有意義な1冊。
「(街の状況把握)地図を見てイメージするより実際の現地に足を運んで確認する方が、はるかに記憶の定着率が良いことがわかりました」p30
「入社して初めて迎える春は、忙しさに圧倒されました。賃貸仲介業は春が1年で最も忙しくなります。正月休みが終わると問い合わせが急増し、2月、3月はほかの月の倍以上の仲介件数になります」p31
「(イライラしての喧嘩)普段ならこんなトラブルは起こらないのですが、それだけ当時は営業支店も編集企画課も成長スピードが速すぎてみんな余裕がなく、殺気立っていたということです。事業の成功は喜ばしいことですが、その分、内部に歪みを生じやすくなります。上昇気流のときほど上ばかりを見ないで足元をしっかり意識しなくてはならないと学んだ出来事でした」p79
「専任物件が多いと何が良いかというと、自社の賃貸住宅情報誌で他誌には決して載せられないレアな物件を紹介できるため差別化が図れます。「アパートニュース」に掲載される物件の7割は専任物件のため、読者はここでしか巡り合えない一期一会の出会いがあるのです」p95
「(都銀からの融資了承)数日後、支店長から融資OKの電話がかかってきて、株券と自宅を担保にして妻が連帯保証人になることで融資を取り付けることができました。支店長は「御社の業績と今後の成長が評価されました」としか言いませんでしたが、おそらく本部とかなりの交渉をしてくれたに違いありません。今でもそのときのことを明確に覚えており、支店長および銀行には感謝をしています」p108
「(長年付き合いのあった会社を切る)あとになって中村氏から「編集プロダクションを切ると決めたら鬼になってやり抜かなければならない」との覚悟だったと聞かされました(義理人情に厚い社長には相談しなかった)」p130
「(広告費の膨張)広告費がかさんできて「これではいけない」と気づいた時には「時すでに遅し」で、収拾が付かなくなっていることも多いのです。広告は会社利益を増やすために打つもので、広告費が会社利益を侵食するようでは本末転倒です。広告物の選択と集中を意識して統制していくことが重要です」p136
「(IT化)私たちの会社の実情に合わせて開発されたソフトでしたが、試行してみると使いづらい部分が多くあり、かえって業務混乱が増大するなどなかなか満足のいくものにはなりませんでした。そんなとき、東京のシステム開発会社に勤務する経験のある社員が1988年4月に総務課に入社し、さらに同年末にオフィスコンピュータに詳しい社員が入社したことでシステム課の陣容が整い、社内業務のデジタル化が一気に進むことになります。オフィスコンピュータは当時の企業の間で一種の流行りではありましたが、中小企業では継続維持するための人材がおらず、多くは宝の持ち腐れとなっていました。そんななかで私たちの会社は有能なスキルを持った社員を確保でき、デジタル化がスムーズに運びました。これは本当に幸運だったと思っています」p138
「(相談アドバイス業務)以前より「ニッショーにはなんでも気軽に相談しやすい」とオーナーから言ってもらうことが多く、1983年に営業推進課を設置し専任1名を配置しました。2017年からはテナント課を併合し資産活用部として総勢7名で、大型店舗、倉庫などの用地開発、誘致の相談も行っています。相談内容としては「遊休地を活用して収入源をもちたい」「空き家になった実家をなんとか活用したい」「相続税対策を今のうちにしておきたい」「固定資産税の負担を減らしたい」「古くなったアパートを建て替えたい」「2棟目のアパートを建てたい」「隣家との境界線問題で困っている」などさまざまです。こうしたオーナーの不動産にまつわる悩みや希望をヒヤリングし、適切なプランをコンサルティングするのは資産活用部という部署の仕事です。またオーナーがハウスメーカーや工務店、ローンを組む際の金融機関などを選ぶ際のアドバイスや紹介もできます」p152
「(経営者とは)もちろん財界向けの雑誌を定期購読したり、管理者セミナーや経営者の勉強会に参加するなど、知識の習得も意識的にしてきましたが、経営というのは生き物であり変化し続ける環境に応じてスピーディに対応を判断しなければなりません。そうしたことを繰り返しながら今日まで来た印象です」p172
「(仲介業・管理業)大きく儲かることはない代わりに不景気に強いという点で、賃貸仲介業・賃貸管理業はやり方次第で堅実な事業になり得ます。やり方次第というのは、小さくても確実に収益を出していく仕組みを作ることです。具体的にはホールディング化することやフランチャイズではなく自社直営で支店展開すること、社員教育によってサービスの質を全店で高めることなどがあります」p178
「フランチャイズ店は一つひとつの支店が経営的に独立しており、支店長=店舗経営者です。そのため支店長は「ニッショーのために働く」よいうより「自分のために働く」という意識に偏りがちです。つまり、支店の利益こそが一番でニッショーの支店としての機能は二の次になってしまう傾向があるのです。そして、地域における賃貸住宅の管理・仲介業務を数多くやるよりも、売買をメインにして多額の手数料が入る案件を追いかけるようになっていたのです。これでは「アパートニュースのニッショー」という賃貸住宅で成長をしてきた会社を維持することはできません」p179
「これから国内では人口が減少し、賃貸仲介業や賃貸管理業も淘汰されていくことが予想されますが、最終的にどういう企業が生き残っていくかといえば、やはり誠実な仕事をする会社だと思います。どんな業界でも価格の安さや見た目の良さで一時的に人気になっても、その人気が長続きしないことは歴史が証明しています」p188
「経営者になってつらいこと楽しいこと、どちらが多いかと問われれば間違いなくつないことの方が多いですが、それはどんな経営者も同じです」p201