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この歌集は装丁にバリエーションがあるときいていますが、私のところへきたのは、杢グレーの布製の表紙、春らしい薄いピンクの裏表紙で綴じられ金色の題字、青と茶の二本の栞がついたお洒落な本でした。
中に入っている花の歌と相まって春気分、満喫でした。
以下に特に好きだった歌を載せます。
○風にだけ読める宛名が花びらに書かれてあってあなたへ届く
○雨、ぼくはぼくよりも不憫なひとが好きで窓から街を見ている
○未来って読めないけれどきらめいて涙でにじむネオンみたいだ
○声にして意味の重さを与えれば音も私も壊れてしまう
○鎮火してもらうつもりでくちづけを求めたけれど、けれど、全焼
○たんぽぽに生まれ変わって繁栄のすべてを風に任せてみたい
○かなしみの森をあなたのろうそくの火で台無しにしてほしかった
○てのひらに雨を受ければかなしみをどれほど数えたかも忘れる
○春なんて根こそぎあげるその代わりずっと消えない夏をください
○春がまた大人に夢を見せながら叶えないままただ過ぎてゆく
○詩はすべて「さみしい」という4文字のバリエーションに過ぎない、けれど
○生きなくちゃ 会う約束をしたために暗に生まれる会わない日々を
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情熱大陸を見た後に購入したというのもあるのかもしれませんが、木下龍也さんの第三歌集『オールアラウンドユー』大変感動して拝読しました。
木下さんの第一歌集『つむじ風、ここにあります』第二歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』どちらも読んでいましたが、個人的にこの第三歌集が一番ピュアな作品かなという気がします。
木下さんの作品の中で一番好きな作品です。
あとがきに書かれていましたが、第一・第二歌集を作るところまでは一人で、その後、共著を出して、依頼者と共に作った『あなたのための短歌集』を出して、第二歌集から6年間を経て満を持しての第三歌集の完成。
僕は、このストーリーのファンです。
情熱大陸で少しお話しされてましたけど多分この6年間の間に、職業歌人として独立するプロセスがあって、その大きな軸が『あなたのための短歌集』なんだろうと思います。
いろんな歌集を読んでいると、やっぱり短歌って著者の個人的な視点や内面のことを題材に書くことが多いと思うのですけど、誰かのために作る短歌というのはありそうでいてあまり読んだことがなかったように思います。
そして依頼者さんからのお題を見ていると、やはりディープなものもあるし、辛くてしょうがない時とか、何か特別な思いを持って依頼しにきている人ばかりで、「オーダーメイドの言葉のお守り」を作りに来ているような感じです。
そこに答え続けるというのは、ある意味で、駆け込み寺のような役割を果たしているようにも見えるし、他人の人生の大事な部分を短歌で引き受けることに腹を括っているような気迫を感じます。
情熱大陸を見て、精神的にすごくタフな作業をされているな、苦しそうだなと思いましたが、ボクシングなどしながらバランスをとって続けているのは本当に何か一つ突き抜けた決意のようなものを感じました。
そんな中で、“あなたのため”を離れて、改めて自分自身と向き合って作ったのが『オールアラウンドユー』だと思うのですが言葉を眺めているだけで、込み上げてくるものがあります。
「今でも不安です」とか「短歌を作ることを楽しいと思ったことがない」とか、インタビューでおっしゃってて、きっとほんとにそうなんだろうなと思いますが、この歌集を読むと、それでも短歌を作ることで得ている充実感や、祈りにも似た何かを、少しづつ捕まえている手応えがあるんじゃないかなと思います。
今後、木下さんに短歌を作って欲しい人とか増えると思いますし、いろんなお題が集まって負荷が重くなりすぎないといいなと思いますが、でも逆にそういう負荷を経て磨かれた、よりウェイトのある、木下龍也さん個人の作品を今後も楽しみにしていきたいと思いました。
『天才による凡人のための短歌教室』で、“自分の歌では自分の胸は打ち抜けないという絶望に至った”と言ったようなことが書いてありましたが、こういう活動を続けていく限り木下龍也さん個人の作品はこれから先まだまだ良くなるのじゃないのかなと思います。
その伏線としての第三歌集『オールアラウンドユー』な��ではないのかなと思いました。
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木下龍也(1988年~)氏は、山口県周南市生まれの歌人。2011年に本格的に作歌を始め、2012年に現代歌人協会主催の全国短歌大会で大会賞を受賞して歌人としてデビューし、俵万智、穂村弘の後の世代では、現在最も注目される歌人の一人である。
これまで、第1歌集『つむじ風、ここにあります』(2013年)、第2歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』(2016年)を出し、本作が第3歌集である。また、2017年から、個人に対して短歌を作る「あなたのための短歌一首」を行っており(直近は11,000円/1首)、その作品を書籍化した『あなたのための短歌集』(2021年)も出版している。(尚、同書の印税は歌集を購入して学校や図書館などに寄贈するために使っているという)
私は50代の会社員で、近年短歌に興味を持ち始め、俵万智、穂村弘、東直子、枡野浩一、木下龍也、岡野大嗣、九螺ささら等の歌集や短歌入門書、また、山田航の『桜前線開架宣言』、瀬戸夏子の『はつなつみずうみ分光器』、東直子/佐藤弓生/千葉聡の『短歌タイムカプセル』等の現代短歌アンソロジーを読み、1年ほど前から投稿を始めた新聞歌壇では、多数の歌を選んでいただいてもいる。
そうした中で、私の最も好きな、憧れる歌人は木下なのだが、それは、テーマの切り取り方・創り方と言葉の使い方のセンスが極めて優れており、かつ、歌人以外には(よさが)分かりにくい歌を詠む歌人も少なくない中で、木下の歌は、素人にも共感・納得できる歌だからである。そういう意味では、俵や穂村以降の数々の若手歌人の中でも、他の追随を許さない特異な存在である。(強いて言えば、岡野大嗣が近い作風と言える)
また、木下(と岡野)の歌については、『桜前線~』の中で山田が、とても興味深い分析をしている。それは、近代短歌とは、「読み人知らず」の精神を否定し、「ここにかけがえのない僕がいる」と叫ぶことを是とする「個の詩型」で、現代短歌も大方はそれを踏襲しているのに対し、木下や岡野の歌は、「僕の存在」を叫びたいのではなく、「ふとした瞬間に兆した何らかの感情」を共有する超時空のコミュニティを作るために短歌を提出している、即ち、「個の詩型」ではなく、「場の詩型」としての短歌を志向しているというのである。そして、こうした、「個」よりも「場」を重視する姿勢は、短歌のポストモダンへの一つの回答となりうるだろう、とも書いている。
また、木下は、いわゆる短歌結社・短歌会には(おそらく)所属しておらず、ネットや投稿で認められ、活動している歌人で(歌壇に背を向けているわけではなく、単に必要性を感じていないのだろう)、そういう点でも今後短歌界の在り方を変えてゆく存在になるのかも知れない。
美しく、繊細で、重くなく、共感・納得感を抱きやすく、前向きな、現代短歌のホープの歌が詰まった、待望の第3歌集である。
(尚、私は神保町の東京堂書店で木下のサイン入りを購入したのだが、大手書店では暫くは入手可能かもしれない)
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木下さんの短歌はもちろん、あたたかみのある装幀と、栞の抄録も含めて全部が素敵。木下さんの表現を通して自分の経験や記憶がよみがえったり、これからも頑張って生きようと思えたり、お気に入りがありすぎて選べない。
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短歌を好きになったきっかけが木下龍也さん。
装丁も素敵でどの短歌も心地よく、声に出して少しずつ読み進めた。
花瓶や花のモチーフが多かったがどれもハッとさせられるような視点でお気に入りです。
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大好きなブルー地にゴールドの題字という素晴らしい装丁に即買い。
栞 谷川俊太郎と木下龍也の対談抄録まである。
どれも優しく心にスッと入ってくる。
センスが良いのは彼自身の持ち味なのか…。
風にだけ読める宛名が花びらに書かれてあってあなたへ届く
声にして意味の重さを与えれば音も私も壊れてしまう
一輪のどうしても手に見える葉の二枚は残し西日に飾る
帯にも素敵な歌があったが、あえて好きな歌を載せた
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木下龍也さんは本当に日常の切り取り方、表現の仕方がうまい方なのだな、と思う。何冊か歌集を読んだけれど、どれも誰もが実際に体験し得るラインと、そうでないラインの境目をついてくるような感じ。何回か読み返しながら、もっと好きな歌を見つけていきたい。
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今までの歌集の中でいちばんつかみどころがない印象を受けた一冊。目次や詞書もなく、1ページに一首、多くとも二首しか掲載していない。一首ずつそれぞれが独立しているという印象が際立つ。
木下さんならではのトリッキーな短歌は前作に比べると少なくなっており、より情感の表現に寄っていることがなんだか意外だった。
造本がかわいい。布張りに箔押しで、本文用紙が角丸してある。かわいい。
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同じ日本語話者なのに、どうしてこうも表現力がちがうのかなって思わせてくれるモノを読むのが好き。
俳人とか、コピーライターとか
短くぎゅぎゅっと詰めるその絶妙さよ。
俳人とか、コピーライターとか
短くぎゅぎゅっと詰めるその絶妙さよ。
情熱大陸で観て、気になっていたこの方。
俊カフェの近くを通って、思いつきでお茶しに寄ったら出逢えた一冊。
布張りで、一生ものにしたくなる装丁の
とっておきの歌集を読めました。
-雪だったころ つけられた足跡を 忘れられないひとひらの水
冬至を終えて、すでに春が待ち遠しい。
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ブク友さんの告知で情熱大陸に出演された木下龍也さんについて、穂村さん大好き短歌同好会の皆さんと視聴感想を交換するという素敵な時間を過ごすことができて早数週間。この本ができるまでの様子のドキュメンタリーだったので、手にしたときは感慨深いものがありました。
よくいく本屋さんで秋色の表紙をレジに持っていくと、サイン入りの同じ表紙の本が一冊たった今キャンセルされたからと店員さんから勧められ迷わずそちらを購入!
犬らしきイラスト付き♡
1ページに一首ずつ、じっくりミニシアター、プロモーションビデオ(?)を観ているような行間。部屋の一輪挿しに花を絶やさないようにしているそうです。だから花を詠んだ歌が多くて美しいです。付箋だらけになりました。皆さんにも読んでほしいので紹介するのは厳選して少しだけ。
ねむれないおまえのためにできるのは灯りをひとつひとつ消すこと
(不眠がちの人にはじんわりしみいる歌なのではないか、こころに灯りがともります)
波ひとつひとつがぼくのつま先ではるかな旅を終えて崩れる
(海とは一言も書いていないのにあのさざ波が見えてくるよう繊細な描写 暗記!)
またわたしだけが残った、そう言って花瓶は夜の空気を抱いた
(夜の花瓶を洗う状況を直喩でこんなに寂しく切なく表現する歌はみたことない 句読点の効果も絶大)
すずらんをたくさん轢いた罰として薄く輪切りにされてゆくバス
(バスのお題でこの情景を表現できることに驚嘆 花弁が舞い散る場面がフラッシュバック)
花を嗅ぐひとときだけは許されたような気持ちでマスクを外す
(コロナ禍を詠った歌はあるけれど、ああ、花の香りを嗅ぎたくなるあの一瞬が蘇る)
読み終えてややふっくらとした本にあなたの日々が挟まれている
(本好きの皆さんならあるあるの場面、これは覚えておきたい歌)
生きなくちゃ 会う約束をしたために暗に生まれる会わない日々を
(熱い思いが込みあげてくる 会えない日々をこんな風に感じたら救われる何かがある この歌も覚えておきたい歌)
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ベルガモットのレビューを読んで一刻も早く読みたくなり、3週間ほど前に購入。じっくり読んだ。
初版はカバーの色が5種類あるみたいだが、本屋にあったのは薄緑色で、落ち着いた雰囲気が気にいっている。肌触りもとてもいい。
みんなのレビューを読んでハガキを初めて読んだ。「町の名前はお好きですか」っていう質問が面白い。
選んだのはかなり迷ってこの5首。
“波ひとつひとつがぼくのつま先ではるかな旅を終えて崩れる”
“雪だったころつけられた足跡を忘れられないひとひらの水”
“まわれ右してかなしみを背景にすれば拍手のなかの幕開け”
“人間へ まだ1割の力しか出してないけど? 消費税より”
“一輪のどうしても手に見える葉の二枚は残し西日に飾る”
本の制作過程をテレビで見てから買うというのは、初めての経験で忘れられない思い出に残る1冊になった。
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自分が短歌を始めるきっかけとなった木下龍也さんの第三歌集。
自分は短歌歴が浅いので載ってる歌のすべてを良いとは思わなかったし、理解しきれなかったと思う。
でもそれでもいいような気がする。
もっと短歌に触れてから読み返したら見え方が違う気がする。
最後のあとがきもとても素敵でした。
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本と羊さんで紹介されていて 通販で早速 サイン本と装丁に魅かれて購入
自分の置かれている状況に応じて短歌の解釈が違ってきそうな感じがする
今は
風にだけ読める宛名が花びらに書かれてあってあなたへ届く
この雰囲気が気に入っている
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表紙は5色の中からお好きなものを。
桜色の見返し。
角丸のページに、1首ずつそっと置かれた歌。
スピンが2本、茶色と紺色で。
谷川俊太郎さんと木下さんの対談栞も、さりげないプレゼントのようで嬉しい。
隅々まで素敵な歌集だ。
序盤の歌は深海に向かって静かに沈んでゆくような感覚だった。
まるでアンモナイトが見る夢のように、遥か彼方を懐かしむような。
かつて◯◯だった頃を思い出す、ような。
そのまま、水深が深くなるにつれ、歌の対象の輪郭がハッキリとしてくるように感じた。
キラキラした青春の一幕のような歌もあり。
たまに濃密で荒々しい素振りを歌っていたり。
けれど、どの歌もとても優しい。
茶目っ気が見えても、離れてゆく感情が見えても、それは同じ。
その分、悲しみや無念さを歌う歌は、とても静かなのに鮮明だった。
悲しみに直撃された瞬間って、感情が大きく波打つけれど、その気持ちのままに感情を歌にして投げられると、受け取ったこちらもそれなりに辛いし悲しみが連鎖する。
けれど木下さんの歌は、大きく波打ったであろう瞬間を越えた歌に思えて、悲しみの最中に居ながらも、静かな温もりが感じられる。
悲しくてたまらなくても時は経過してゆくので、コツコツと日常のすべき事をしなければならない。
その淡々とした様が見えて、読んでいる私の、別の悲しみにさえ寄り添ってくれるようだった。
凄いなぁ。
誰もが知っている言葉を使って日常を歌っているのに、
気付かなかった景色を見せてくれる。
氷が溶けただけでも物語が生まれる。
鳥が降り立ったのは瞬時なのに、スローモーションで見える。
当たり前だとスルーしてしまう事柄を掘り下げる、しかも違った角度から。
きっとご自身の心の機微を見逃さず、自分自身のことも対象のことも見つめて見つめて、言葉を選び抜いているんだろうな。
とってもデリケートで、それなのに赤裸々で、ちょっぴりセンチメンタルで、大人の色気もあるのに悪戯っ子の少年のようで、
あとがきまでも愛おしくなる歌集だった。
ハガキどうしよう。
すごーく送りたいのに5首になんて絞れないし
感想が簡潔に纏められない 笑
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木下龍也さんの第三歌集。
初版はうす緑色、煉瓦色、黄色、青色、灰色から選べる。
「墨田織」という布で作っているそう。
初版本を制作するにあたり、1色の布では足らず、複数の色が必要と分かり、お気に入りの色味を5色選んで作られたそうだ。
私は10秒ほど迷った末、青色をチョイス。
ネット書店から届いた本書はそれはそれは美しく可愛らしいもので、読む前からお気に入りの一冊に。
装丁だけではなく、中身も素敵な本だった。
花の歌から始まって、花の歌で終わる。
帯の花の写真は、薔薇だろうか。
葉元にある一本の棘が、この本のある側面を象徴しているような気もする。
優しさに溢れた歌集なのだけれど、時折強い皮肉も感じられる歌もあり、うっとりしていた目が覚める。
死を連想する歌も点在している印象なので、
「詩の神に所在を問えばねむそうに答えるAll around you」
が、「死」の神でもあるように思えてくる。←たぶん、違う。
あと「くちづけ」を歌う歌もわりと多く感じる。
木下さんにとって「くちづけ」とは、どういう意味があるのだろうと考えてしまった。
あとがきも余韻があって素晴らしい。
きっとこの歌集は、読者の手汗を吸い涙を吸い部屋の空気を吸い交わされた言葉を吸い、いつのまにか、この世でたった一冊の私の/あなたの本となるように生まれてきたのでしょうね。