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動物保護活動家の母を早くに亡くし、宇宙生物学者の父親と二人暮らしの発達障害を抱える少年。
自然を愛する一方で学校生活になじめない中で、両親の科学者同士のつてから新しい精神療法を試していくことになる。
動植物や宇宙の星々を瑞々しく描写しつつ、知性と半知性、人と自然という中で描かれる親子の姿は、さながら作中の機能的磁器共鳴装置のように読者の感情を引き付けていく。
“他の皆がどこにいるのか突き止めることのできなかった惑星がかつてあった。その惑星は孤独が原因で滅びた。”と著者は書いている。
たぶん、惑星も地球も、そして少年だけでなく、すべての人が少しずつ孤独なんだろう。
僕は思わずくしゃみをした。
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私の初リチャード・パワーズとなったのは本作、2021年に発表された『惑う星(原題:Bewilderment)』。
地球外生命体の存在を探る研究者(=宇宙生物学者)であるシーオは、動物の保護活動を行うNGOで活動していた妻アリッサを亡くす。母親を喪ったことによって情緒不安定となった幼い息子のロビンは、学校で友人に暴力を振るって怪我をさせてしまう。このままでは息子が学校を追い出されてしまうと危機感を募らせるシーオ。だが、息子に向精神薬を飲ませたくはない。
そんな時、シーオは妻の知人であった神経科学者カリアーが進める、「fMRI(機能的磁気共鳴機能画像法)」を用いた神経フィードバック治療を思い出し、一縷の望みを賭け、ロビンを被験者として欲しいと願い出る。亡き母の脳パターンと同期させるセッションを重ねるロビンは、精神の安定と聡明さを獲得、そして母が生涯をかけて取り組んだ動物保護への意識を深めていくが―――。
「大自然、大宇宙の"生命"に思いを馳せる、幻想的な筆致で描かれる、父と子の切ない物語。」
父が子に聞かせる様々な惑星の幻想的な光景、脳パターンを同期させることで亡き母を内で感じる幼い子、直面する厳しい現実に"惑う"父子―――物悲しい幻想的な雰囲気を味わうことが出来る作品だった。ただ、シナリオ自体の面白味はそこまで。自分が「動物保護運動」というものにあまり良いイメージを持っていないことが大きな要因かもしれないが・・・。
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自分がいかに見て見ぬふりをしているか、自分がなにも知らずに生きているかを思い知らされる小説でした。
妥協せずに生き、あっけなく死亡したアリッサ・バーン。トレーニングを受けて覚醒していく天才少年ロビン・バーン。そして主人公のシオドア・バーン、2人にくらべたら凡人であるシーオは本当に私なのです。
説教くさくなく楽しい箇所もたくさんあります。
たとえばシーオとロビンが地球外生命体のいる惑星を探検するシーン。
ドヴァウ・ファラシャ・ペラゴス・ジェミナス・スタシス・クロマット・マイオス・ナイザー・シミリス・ジーニアにいる時、2人は平等でした。
物語の中で2人は2度グレートスモーキー山脈でキャンプをするためにウィスコンシン州からイリノイ州・インディアナ州・ケンタッキー州を経由してテネシー州へむかう。1度目は糞虫大統領(トランプ?)によって不安定なアメリカ社会を憂いながら肩寄せあって帰るのですが、2度目の帰りはシーオ1人のみの旅になってします。ロビンは絶望しかないこの世から脱出してしまったのかもしれない、父をこれ以上苦しめたくないという思いもあったと思います。
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回りくどい表現や行間のわかりにくさにつまずき、惑星や物理などやや難解で遅読。ASDの子をもつシンパパの奮闘、自然や動物愛護、宇宙への焦がれ、脳科学への興味…いろいろ知識とトレンドをばら撒いているかんじ。愛する人の死や死者へのシンクロ前後など、感情の揺れや移りの表現を、宇宙の広さや不確定さにもっと繋げるとか?期待していた。
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読了してから丸いちにち、いろいろ考えたけれど、この小説の感想はちょっとした字数で、気の利いた感じで書けるようなものじゃない。一生かかるようなテーマだな、とおもう。だからもう少し長い時間をかけて、パワーズにおける科学と非科学というか、未科学の領域の拡張可能性(それは取りも直さず文学の、想像力の問題だ)について、考え続けなければならない。合理主義的な相対主義的態度に、いまこそ抗う必要がある。
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最愛の妻を亡くした宇宙生物学者・シーオは母親を失った子の父親でもあり、彼は情緒不安定で不登校の息子・ロビンにの対応に行き詰まる。息子に向精神薬を飲ませたくない彼は、亡くなる前に取った妻の感情データを息子に追体験させることにした。
・彼自身の仕事の行き詰まり、機能不全になった政治、インターネットやSNSの功罪、自然保護、この作品では次世代に残せるものは何だろう、と様々な問題が私たちに投げかけられる。
・父親と息子が様々な惑星を訪れる場面はまるで宇宙旅行、目の前に宇宙が見えてくる。
これらがとても印象に残りました…がやっぱりこの主人公の父親としての在り方がちょっと無理…(汗。
自閉症スペクトラムと診断されそうな息子の対応に行き詰まり
息子はまだ9歳で脳は発達過程にあるから向精神薬は飲ませたくない…分かる
「薬以外で、息子をおとなしくさせて、校長を黙らせる何らかの方法を知りたいだけだ」(P133)ので、脳の実験に参加させたい…なんで???
いやホントどうしてそうなった。
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1年に2冊リチャード・パワーズ読めるとは。
「黄金虫変奏曲」の方が前評判高かったけど、個人的にはこっちかな。とっつきやすさ、分量の手軽さもあるけど、子持ちには刺さるわ。いや、ウチ2人ともロビンより大きくなってるけど。
父親としては「もしロビンがウチの子だったら、嫁さんに先立たれてたから」って「自分ならどうする?」で読んじゃうからグサグサ来る。
恥ずかしながらと言うか食わず嫌いでアルジャーノン読んでへんけど、自分が退行してることがわかる知性って辛いんやろな。まだらボケ老人とか想像するだにゾッとする。いよいよリアルな年齢になって来たし。
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宇宙生物学者の父シーオと、9歳の精神的に不安定な息子ロビンの物語。『アルジャーノンに花束を』を下地に置いているが、変わってゆく息子を見つめる父親視点で語られているのが特徴。生命や宇宙への敬虔な眼差しを、易しく情緒のある文体で綴ってゆく。
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人と人が完全に分かり合うことは、宇宙人を見つけるくらい難しい。そんなに難しい事なら、やめてしまおうか…
人と人の分かり合えなさというテーマはよく見るけど、この切り口は新鮮だった。
そして、4歳児を子育て中の身としては、「子供との分かり合えなさ」というテーマが辛かった。
少し前までは、「息子の考えていることは全てお見通し」って感じで、そこが愛らしかった。ついこないだまで赤子だったし。最近は、少しずつ、想定外の言動が出てきたような…そして、間違いなく、今後はその割合が増えていくのだけど、そんな事には、できることなら目を向けたくない。「いつまでも、僕の目と手の届く範囲にいる赤子でいてほしい。」そんな思いに気づかされた。「子離れ」ってもっと大きくなってからのものだと思ってた。
とても悲しい話で、読後は帯の上田岳弘さんの「奇跡の惑星に生まれ、”奇跡”の意味をまだ知らない」という言葉が響いた。読後に眠れなくなった本はいつぶりだろう。
訳者解説にあったが、「惑う星」という邦題はめちゃ良い。
装丁も著者名馬鹿デカだけど、カッコよくて、示唆的で良い。
「完璧な人などいない」「でもね、私たちはみんな、完璧からの外れ方がすばらしいの。」
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読み終えて、シーオとロビンの中で太陽系外惑星がワクワクする場所であったように、地球がそう思える場所である未来に向かっていけると諦めずにいたい。繊細で優しすぎるロビンには、困難な現実や有害と思われる存在はひどく心痛めるものだったであろう。それでも諦めることなく常に進み続けたロビンにとって、せめてママのことをたくさん知れたことが救いになっていたら良いなと思う。
宇宙生物学者である父シーオ・バーン。亡き妻アリッサは弁護士で動物愛護家。9歳のロビンは精神が不安定だが絶滅危惧種を少しでも救いたいと心から願う。
脳科学研究はロビンにとって希望が持てる未来に繋がると思いたかったのだが、政治や感染症などの現実はとても大きな障害だった。現実は一方で守られる立場のものもいるのだろうが、バーン親子にとっては決してそうではなかったことがなかなかにやり切れなく感じる。科学が閉ざされてしまったシーオにもせめて何か救いが見つかって欲しいと思う。
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話の中に出てくる惑星の描写がとても素敵
でも主人公の子育て方針には賛成できかねるので、読んでてつらかった
子供のためと言いながら、結局自分のためだよね
結末は予想通り
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この著者の作品としては読みやすく、長さも適度。内容はまさに現代のアメリカン・リベラルの本流というか、「この人、トランプのことが大嫌いなんだろうな」という感じがヒシヒシと伝わってくる(それが本題ではないが)。
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『黄金虫変奏曲』よりずいぶん読みやすい。メインの登場人物は皆知的レベルが高いのは同じだが、こちらはわかりやすい。
そしてトランプ(と書いてはいないが)政権批判の要素もある。
物語の大きな流れは本文中にも出てくる『アルジャーノンに花束を』に似ている。
名前は変えてあるがグレタ・トゥーンベリやTEDトーク、TikTok、こんまりみたいなインフルエンサーなども出てきて、ここまで現代社会を取り入れて書くのかとちょっと驚いた。
個人的には、ロビンが可哀想。優秀でも9才は9才。世間を知らないし、純粋だ。これは大人が守ってあげないといけないのに、シーオは優秀な宇宙生物学者でありながら、(ロビン自身が望んだとはいえ)動画サイトに息子を出す。愚かだと思う。あの感覚はパワーズを読むようなアメリカ人は共感できるのかな。
間で挟まれる他の惑星の話は、父と子の人となり、二人の間柄がわかってよかった。
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たった一人で死にゆく生き物たちのために戦うロビンがあまりに純粋で胸が苦しくなった。実験が行われる前でも、彼は十分聡明にみえたのに。父と息子の物語が好きだ。ずっと二人で星を探索しながら暮らしていてほしかった。
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21世紀のアルジャーノン?
シングルファーザーと母の遺伝と読める少し精神的に不安定な息子。脳内で母の感性が体感できるようになる高度技術にて、状況は改善方向に。しかし、それがなくなると…。
たしかにこの展開はアルジャーノンだ。作中にもアルジャーノンを読む場面が登場する。宇宙生物学者である父の話としてちりばめられた宇宙論は限りなくハードSFであり、、なぜ人類は孤独なのかといった問いも語られる。
でも、メインテーマはSFではないように読める。妻と息子をと研究を失った父の慟哭が心に残る長編だと思う。