紙の本
松本清張にまだ未刊行の短編があったなんて
2022/12/06 16:38
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
松本清張が亡くなったのが1992年8月だから
今年(2022年)で没後30年になる。
今でも多くの愛読者を持つ国民的作家に、
まさか「全集」や短編集にこれまで収録されてこなかった作品が
まだあるとは驚きだし、
しかもそれらの作品が決して駄作でないことに
あらためて松本清張という作家の偉大さに気づかされる。
それが2022年11月に刊行された、『松本清張未刊行短編集 任務』だ。
この短編集には表題作である「任務」のほか、
「危険な広告」「筆記原稿」「鮎返り」「女に憑かれた男」
「悲運な落手」「秘壺」「電筆」「特派員」「雑草の実」の
全10篇が収められている。
これまでに刊行されなかったということなので
初期の頃の作品が多いが、
半生を綴った自伝作品「雑草の実」は1976年のもので
しかも清張の若い頃の生活を知る上で貴重な作品といえる。
しかも、これらの作品群はバラエティーに富んでいて
「危険な広告」は社会派作品だし、「鮎返り」は恋愛もの、
「悲運な落手」は将棋の対戦を描いた作品(私のオススメはこれ)、
「秘壺」は清張ならではの美術界を題材にしたもの、
「電筆」は速記を生み出した伝記小説と
読みごたえのある短編ばかりといえる。
これから松本清張を読もうと考えている人だけでなく、
すでに清張作品を読破してきた愛読者でも堪能させる
短編集であることは間違いない。
紙の本
のちの作品と補完し合う作品
2022/12/04 10:30
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
これまでの単行本や短編集に未刊行未収録の10篇を収めた短編集。1950年代から70年代のもの。
清張の軍務体験に基づく表題作のほか、のちの数理小説を彷彿とさせる男女もの、自伝風の作、新聞社の広告や特派員を主人公にした作品も。
清張ファンには必読の書である。
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自身の体験を反映した戦争小説から実在の事件に取材した小説まで、単著・全集未収録短篇十篇を精選。没後三十年記念企画第二弾。
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この作家の膨大な作品の数々を「清張山脈」と称することがあります。デビューの遅さを反発力とするかのように社会構造、昭和史、古代史、占領下の闇、そして天皇制…テーマがテーマを呼び次々と連なっていく激しい造山活動は発表当時のジャーナリスティックなインパクトを超えて没後30年を過ぎ今もなお仰ぎ見られています。今年になってもNHKで「小説 帝銀事件」という作品自体の成立をテーマにしたドラマが放映されていました。しかし遠くで眺める山脈の中にどんどん分け入っていくとちょろちょろとした渓流にもならない湧き水みたいなものがあることを知るのです。湧き出ているのは人間の嫉妬、恨み、憧れ、虚栄、諦観、自分でもコントロール出来ない感情の漏れ。そういった「清張源泉」みたいな短編集が本書です。今まで雑誌や新聞には掲載されただけで本になってない作品の数々。それは人間の小さな心の揺らぎのスケッチみたいなもので大作になる前のデッサンのようにも思えるのです。きっと「清張山脈」は「清張源泉」という感情の水脈が社会テーマという山塊を削って出来た作品群なのかも知れません。そして巻末の「雑草の実」を読むに至り、登場人物の心の泡立ちはすべて清張自身の心から生まれているのだと確信します。「半生の記」は読んだことがありましたが「雑草の記」で語られる友人という存在に憧れ、逆にそれから距離をおく感情の痛々しさこそ松本清張が原動力なのではないか、と思いました。
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松本清張未刊行短篇集。あまりミステリ寄りではないです。自らの体験をもとにしたものや、実際の事件をモデルにしたものなどリアリティ満載の作品集です。
お気に入りは「女に憑かれた男」。これまたリアリティはあるのだけれど、内容としては完全にホラーです。恋愛小説でもあるのだけれど、いやいや怖すぎますって。世間から見れば藤川は単なる犯罪者になってしまうのでしょうが。実は被害者だよね。しかしあるいはそのような何かを背負ってしまった加害者でもあるのでしょうか。ぞくりとします。
「雑草の実」は自伝だったのですね。まったく予備知識なく読んでいて、「西郷札」が出てきたところで「あれっ」と思った次第。時代背景がよくわかる小説としても読めそうです。
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多作だった松本清張。偶然に単行本の掲載から漏れていた10の掌編。
特にテーマなく集められた分、清張の広い分野に渡る筆力が満載の一冊。
何より「半生の記」の続編ともいえる「雑草の実」が秀逸。
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2022秋に発刊された当作品、行間から清張のあの【顔】と作品の根となったとてつもない臭いが立ち込めて来た。
匂いではなく臭い・・・北九州から中央へ出て、「清張在り」という立ち位置を確立した彼の足取り。
旧弊むんむんの文壇に一見さらりと立ち向かい 実は執筆人生のほぼ24時間脳裏に救う物凄いエナジー。
サスペンスモノはなく、実録を基にした周辺エピソードを膨らませたものが大半。
清張好きにはたまらないだろう・・関心がない人にはこの「臭さ、暗さ、湿り気」に辟易するだろう。
案外、昨今のインスタグラムにも近いねっとり感すら覚えた。
特にラストの「雑草の実」~清張ファンなら既読感ある情景が立ち込めると思う。
最後の1行で~「友達は多すぎても行けないと思う・・父も友達は一人もいなかったが楽天的な一生を終えた」とあることに妙に真実味を覚えた。
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いつも利用している図書館の新着本リストで目に付いた本です。
松本清張さんは私の好きな作家のひとりですが、本書は、松本さんの没後三十年記念企画の1冊で、いままで未収録だった短編から10篇を選んで書籍化したものとのことです。
採録された10篇、どれも密度の濃い短編ですが、それぞれに色合いが異なっていて、その筆の多彩さに素直に驚きました。