紙の本
なぜよその国で戦争をする?
2018/09/20 19:41
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投稿者:親譲りの無鉄砲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユーフスフザイというパキスタンの少女の名前を知る人は多いだろうが、ナビラ・レフマンという同じパキスタンの少女を知っている人は少なかろう。評者も本書の出版がなければ知ることはなかった。著者・宮田律氏は、意図的にこの知名度的に非対称な名前を列挙したタイトルをつけた。彼女らは、境遇は異なるが、いずれも異口同音に、戦争をなぜやめないのか、戦争をするお金をなぜ教育に回さないのか、と切実に訴えている。この訴えが本書のテーマそのものである。
彼女らはパキスタン・タリバン(TTP)が跋扈する部族地域に住むパシュトゥン人である。そこは米軍によるテロ掃討作戦が展開されている。マララはTTPに狙撃され、頭部に重傷を負った。イスラムの女性が教育を受けられるようにと世間に叫んだことが、偏狭な教義解釈を信奉する彼らの憎悪を掻き立ててしまったのである。TTP掃討の正当性を主張する西側諸国にとって恰好の宣伝材料となった。重傷を負った彼女は、英国で先端医療を受け快復、その後周囲の援助もありそのまま英国の高校に進学、今はオックスフォード大学で勉学中とのこと。一方ナビラの場合は、米軍のドローンからのミサイル攻撃が、彼女や兄を大けがさせたのみならず祖母を死に至らしめた。彼女らは農作業をしただけなのに、ドローンからの映像をみたCIAがテロリストと誤認したのだ。ナビラは自分たちの被害をアメリカの議会の聴聞会で訴えたが、そこには435人中わずか5人の下院議員しか出席しなかった。この差別的な扱いは、直接の加害者が誰だったかに依った。ナビラのケースは米国にとっては都合の悪いものなのだ。その挙句米国からの正式な謝罪も賠償も一切ないという。さらに、加担しているメディアの情報選択の恣意性については著者も大いに憤っている。但しマララに向けられた賞賛や評価が不当に高いというわけではない。彼女は至極まっとうなことを言っている。マララはオバマ(前)大統領にもホワイトハウスに招かれているが、その場で堂々とドローンによるミサイル攻撃を批判したという。
本書は小中学生向けに書かれたようだ。しかし内容は大人にとっても高度だ。シリア・イラク・トルコにまたがるクルド民族と同様、彼女らの民族パシュトゥンもパキスタンとアフガニスタンに分断されている。それゆえそれぞれの中央政府の経済政策から取り残されてしまった。過激組織のresentmentの原因がここにある。さらに民族分断にまで至る歴史的流れを19世紀の西欧による中央アジアの植民地統治にまでさかのぼり丁寧に解説する。またタリバンの台頭が、ソ連によるアフガン侵攻への対抗から米CIAらが過激組織を支援した事に端を発している。つまり、米国はテロと戦うといっていながら、その製造責任者は米国自身(マッチ・ポンプ)だった、ということだ。また米国とイスラムの対立構造には、オスマン帝国のサイクス・ピコ協定という欧米列強による恣意的な分割統治、第二次大戦後のイスラエル建国に伴うパレスチナ人の難民化に深く米国が関与していることなど、複雑に絡んでいることも丁寧に解説する。(ただし米国が執拗に干渉するその裏に石油利権が絡んでいることまでは本書では言及されていない。)体裁は子供向けに易しい記述の本書だが、米国による母国の隷属化に何の違和感も持たず、沖縄の米軍基地を容認し、ドローン攻撃は不可欠と嘯く新聞を読んでも何の疑問も湧かず、集団的自衛権行使を推進しようとする日本の大人にこそ読んで欲しいと思う。実は著者もその層を本当の対象読者として想定しているような気がする。
紙の本
児童書というなかれ。
2017/08/04 10:08
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投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
児童向けの本ですが、中東やインド周辺の国々の国境、宗教、民族のことが丁寧に説明されており、大人にとっても難しい問題が記されています。
アメリカ合衆国のドローンからの攻撃で負傷したナビラさん、マララさんと同じく教育者の家庭に生まれ、教育を受ける権利を主張する少女です。
負傷させた側の違いで、その後の扱いや注目の度合が変わるのはありがちですが、忘れてはならない事実から目を逸らしてはならないと感じます。
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大人も読むべき本
2017/04/12 21:34
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投稿者:bookman - この投稿者のレビュー一覧を見る
子供向けに書かれた本だとは知らずに読み始めましたが、大人が読んでも十分中身のある本でした。なぜ今のような事態になったのか、その元を時代を遡って丁寧に説明していますので、中東のことをよく知らない大人にとっても、勉強になる本です。
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マララさんを襲ったのはイスラム過激派、ナビラさんにミサイルを発射したのはアメリカの無人機ドローン、マララさんはノーベル平和賞を受賞、ナビラさんはほとんど知る人がいない。
加害者の違いこそが、2人のその後の境遇を決定づけた。
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マララと違い、ドローンによって、アメリカ軍から攻撃を受け、なんの謝罪もなく、マララとの比較により、
今後のドローンの在り方を考えさせられる、決して他人事ではない内容です。
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同じパキスタンでうまれ、対テロ戦争に巻き込まれ負傷した二人の少女、しかしその二人のその後はあまりにも大きな違いが…
かたやノーベル平和賞受賞、かたやアメリカ議会公聴会で講演、しかし出席した議員はたったの5人…
なぜか?それはナビラさんと祖母を襲撃したのがアメリカCIAのドローンだったからだ。
オバマ前大統領は、アメリカの学校で銃撃事件が起きた時涙を流していたが、その裏では400回以上のドローンによる攻撃で子どもを含む一般市民が千人も犠牲になっていた。
ナビラさんもマララさんも訴えは同じ。戦争に大金を使うなら、それを教育に使うべきという事。
まずはこの本を子どもたちへ紹介、勧めたいと思う。小学生には途中中東の領土、宗教、民族、情勢などかなり難しい部分もあるが、子どもたちの知る機会を、知った人が手渡さなければ。
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朝日新聞の読書記事を観て、図書館で借りて読む。
ノーベル平和賞のマララさんのことは有名だけれども
彼女のような境遇の人もいることが知ることができて良かった。オバマ政権からトランプ政権に変わり、対テロ戦争はどのように舵取りが行われるか、正視していきたい。
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どう考えても ドローンで攻撃する
それも 沢山の民間人が犠牲になっていて
アメリカ人の犠牲を出さないため
ゲームのように人を殺すって
どうかしてますよね
ドローンを選択した
オバマさんにびっくりですよ
イメージって恐ろしいな・・
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「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界
を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です。エデュケーショ
ン・ファースト(教育を第一に)」
女子教育を否定するパキスタン・タリバン運動に襲撃されながらも、
奇跡的な回復をしたマララ・ユスフザイさんが、2013年に国連本部で
行ったスピーチの一部だ。
マララさんはアメリカでオバマ大統領(当時)と会談した際に、ドローン
を使用した対テロ戦争を止めるよう求めた。
ノーベル平和賞を受賞したマララさんと同じ、パキスタンで生まれ育ち、
対テロ戦争の犠牲になり、アメリカで被害を訴えた少女がいた。
ナビラ・レフマンさんだ。マララさんの国連での演説には多くの人々が
集まったのに、ナビラさんの話に耳を傾けるアメリカ下院議員はほと
んどいなかった。
なぜなら、ナビラさんと家族を襲ったのは、イスラム過激派ではなく
アメリカ・CIAが運用する無人殺人機ドローンだったからだ。
本書は2015年にドローン被害と教育の必要性を訴える為に来日した
ナビラさんの話を中心に、イスラム教のこと、中東の情勢、テロ戦争
がなぜ起きて継続しているのか等を、小学校高学年向けに書かれ
たノンフィクションだ。
本当に申し訳なく思う。日本に来ているのに、私はナビラさんのニュー
スを完全に見逃していた。マララさんの国連演説などはきちんと見て
いたのに。
インターネットどころか、テレビさえもないパキスタンの部族支配地域
で、豊かとはいえない暮らしをしているところに突然、ドローンから爆撃
される。その場に居合わせたナビラさんも、彼女のお兄さんも、そして
ナビラさんから30メールしか離れていない菜園でオクラを摘んでいた
おばあさんも、テロリストではない。それなに、ドローンの攻撃を受けた。
おばあさんは亡くなり、ナビラさんも怪我を負った。でも、誰も何もして
くれない。パキスタン政府は「アメリカの責任だ」と言い、アメリカは誤爆
の事実を認めない。
アメリカの敵であるイスラム過激派に襲撃されたマララさんへの対応と、
なんという違いだろう。加害者が誰なのか?アメリカの敵か、アメリカ自
身かで被害者のその後の環境は真逆の位置になってしまう。
ナビラさんもマララさんも、自分たちにまったく関係ないところで始まった
対テロ戦争の犠牲者なのにね。アメリカが行っているドローン攻撃で、
ナビラさんのように犠牲になった人たちはたくさんいるんだよね。
「なぜ戦争をするのですか?なぜ教育のことを考えないのですか?
なぜたくさんのお金を戦争に使って、教育に使わないのですか?
戦争で何が解決できるのですか?」
ナビラさんの心の叫びだろう。でも、きっとアメリカでは中東やアジアの
人々の命は軽いのだろうと思う。2004年生まれの少女に与えた恐怖に、
誰も真剣に取り合おうとしないのだから。
児童書なので分かりやすく書かれており、これまで一般向けの中東問
題を扱った作品を読んでもいまひとつ理解しにくかった部分も補える。
小学生だけではなく、多くの人に読んで考えて欲しいと思った。そして、
イスラエルとドローンの共同開発をしようとしている我が国を、心より
申し訳ないと思う。
そのドローンがパレスチナで使われない保証はないのだもの。
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マララさんはノーベル賞をもらうなど大きく報道されているが、
この本ではアメリカのドローンによって祖母を殺され、自身も怪我をしたナビラさんのことについて書かれている。
彼女のような子供達がまだまだたくさんいるということを私達は知らなければならないと思った。
イスラム世界がなぜ今のような情勢になっているのかについて、基本的な部分ではあるが子供向けらしくわかりやすく書かれているので、非常に勉強になる一冊であった。
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アメリカによる対テロ戦争の大義名分のアイコンとして、聖人君子のように祭り上げられているマララ。
かたや、イスラム過激派ではなくアメリカ・CIAが運用する無人殺人機ドローンに家族を殺されたナビラ。
中東の泥沼化は遡ればアメリカが発端。
世界の正義面した大国が、裏でいかにむこの市民を犠牲にしているのか。生の少女の声が胸に痛む。
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銃撃されたマララさん。マララさんと大きく違うのは、銃撃したのがアメリカのCIAだということ。この本では、そこを切り口に報道のあり方やイスラムについて考えていく。
ドローンによる攻撃をアメリカ政府の人はbug splatと呼ぶのだそうです。人を攻撃しているのに。日本軍が戦時中、人体実験をするときに人間を丸太と呼んだことを思い出します。
報道の使命は「一番小さな声を聞くこと」(『殺人犯はそこにいる』著・清水潔より引用)、その大切さをこの本でも感じます。
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平和への道筋は、教育と本の中にある。
イスラエルは、一時期エジプトまで支配していたのか。1967年頃。
この本は中東の歴史についても、かいつまみつつ詳しく解説してる。
知らないことばかりだ。
「ナビラはドローンによる悲劇に巻き込まれ、それから二年間、どこのコミュニティにも属していなかった。つまり広く社会と接触してこなかったために、多くのことを失ってきました」 p.150
コミュニティに属せないだけで、失うことも多いのか。
「語学の習得は、他の生徒や教師たちとのコミュニケーションが円滑になるだけでなく、彼女にとって、メディアを通じて自分の体験や思いを発信する時に役立ちます。彼女は心の中に閉じ込めていることがまだまだたくさんあります。それを表現してほしいと思うのです。彼女自身の表現力を高めることも私たちの重要な教育目標です。まだ内気なところもありますが、ナビラはとても賢い子どもですので、いずれ十分に話ができるようになるでしょう。彼女が日ごとに前進することを、私たちは期待しているんです」 p.152
現代の世界で普遍的に通用する価値観や知識、テクノロジーを学ぶとともに、それらが発達してきた歴史も学ぶ必要がある。どこかからメールで送られてきたのではないのだから。
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テロに巻き込まれた少女たち。アフガニスタンの状況は、正確な情報をえたりきちんと理解することは難しいかもしれませんが、刻一刻と世界の情勢が変わりつつあります。
まずは知ることから始めませんか。
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【琉大OPACリンク】
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