ヒーロー無き言語との戦い
2016/12/18 18:44
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
発声器官が二つある異星人と共生している植民惑星。その異星人の言語は、二つの発声を同時に行わなくてはならないので、人類には話すことが不可能であり、様々な方法を講じるのだが、言語によるコミュニケーションができないままに、なぜか隣接する都市で共存している。人類としては、その勢力圏の辺境にあるこの地を橋頭堡としたいのであり、植民者たちは安逸な暮らしと友好関係が欲しい、そして異星人たちは何を望んでいるのか分からないが、敵対するようなことはなく、人類がもたらすテクノロジーと生活物資の交換にも応じるし、友好的な関係は維持しているように見える。
言語によるコミュニケーションを模索する中で、災厄が生じる。それは思考は言語に規定されてしまうことにより、ある特殊な会話能力を持つ人間が決定的な影響を与えてしまった結果だ。そして、独特な幾何学的手段による超空間航法で、様々な惑星と宇宙空間を旅して来た主人公と、夫の言語学者が、そういう言語体験の奇妙さ、それから複雑なコミュニティのはざまに置かれて、問題を解きほぐそうと、果てない混乱に巻き込まれていく。
またこの物語は、言語や生態、文化の衝突という思考実験だけでなく、この人類コミュニティがまったくリベラルな価値観で成り立っており、明確には示されていないが半共産主義的社会であるという点で特異なものになっている。ちょうどA.K.ル=グインの『所有せざる人々』などが、そういった社会制度をテーマとしていたのに似ている。だから超人的だったり、勇敢だったりする英雄によって世界が救われることはない。人々の意識が少しずつの変革していくのに連れて、社会全体も少しずつ変わって行くのであり、その過程で主人公を始め多くの人々が傷つき、様々なものを失い、時には惨たらしい場面にもいくども遭遇し、それでも緩やかに破滅への道を回避して行く。
最終的に大団円にもならないし、言語の変革という解決も目に見える形の成果にはならず、何一つカタルシスを得ることがない結末で、言ってみればSFの持つ宇宙冒険小説としての性質を全く放棄し、なにかプロレタリア文学であるかのようになっている。
人々は惑星における危機を回避しつつ、人類帝国による介入と抑圧の口実も解消したが、その代わりに新しい退廃のリスクも受け入れることになった。すべてを解決するような都合のいいテクノロジーも登場しない。登場人物たちは、この異世界に順応する中での個性を持っており、安直な感情移入や、現代における共通認識としてのヒューマニズムの観点での理解もまた拒否している。そういうタイプの物語を創出しようとしているのが、この作品であると言えるだろう。
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筋立て自体はシンプルながら、重層的な構造がミエヴィルらしい1冊。
序盤がやや説明不足かな? 都市の崩壊が始まってからは夢中で読んだ。
随所に現れる有機的な描写が『ペルディード・ストリート・ステーション』を思わせて、『ペルディード〜』好きには嬉しいw
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これぞSFか、世界観は綿密ですごい。しかし、読みづらい。世界観のすべては要らない気もする。主題とは関係ない設定が多く最初はとても読みづらい。
全体としてはなかなか面白い。
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2つの口から同時発話してそれ以外の音声は言語として認識できず、また構造上真実しか話すことができない…というアリエカ人。彼らに対する大使として派遣されてきた一組の地球人がアリエカ語=「ゲンゴ」を話すと、その言葉はアリエカ人には強力な麻薬として作用し、アリエカ人社会と地球人の植民都市「エンバシータウン」は大混乱に陥る。
…と、出来事を追っていくのは難しくないのだが、そうなる理屈を飲み込むのが難しい。というか、何とか読了してはみたが、きちんと飲み込めた自信がない。ソシュールとか言語学の知識があれば分かるのだろうか。
結末として、アリエカ人の「ゲンゴ」は使えなくなり、主人公ら地球人の影響を大きく受けた新しい言語が誕生するわけだが。外来者の進出によって旧来の言語文化が失われた…と捉えると、英語圏以外の読者にとっては(例えば日本語を使う私などのように)ちょっと残念な結果にも思えるのではないだろうか。宗教じみたところを除けば、主人公と対立したサイルに共感を覚えてしまうところもある。
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題名から想像していたのと違っていた。微妙。
真実しか語れない言語には嘘という概念はない。それは手続きを記述する言語ならありうる
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やや難解ではあるが、
とてもミエヴィルらしい都市の物語。
異形の世界に連れて行ってもらえる事が読書の醍醐味。
直喩の扱いがとても面白い。
メタファーのない日常は味気ないと思います。
2012 年 ローカス賞 SF 長篇部門受賞作品。
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色んなとこの書評で絶賛に近かったので楽しみにしてたが。
こんなもんかあ。
この設定でこの筋立てだったら、もっと面白く出来んじゃないのかな。
兎に角、色んなオリジナルの用語とか設定とかあるが、全く説明なくどかすか進んで行くのはきつい。この歳になると、登場人物の名前すら覚えられなくって、こいつ何やったんだっけと遡らないと判らない。
途中から面倒臭くなって、判らないなら判らないままで読飛ばしたが、それでも大体判ったような気がする。
てことは、そんなディテールはなくても良いんじゃないかと思った。
あらすじ読むのが一番面白そう。
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この星の先住民族であるらしいアリエカ人。
彼らは二つの口を持ち、言葉ではなく音に乗せた意識、
ゲンゴで意思の疎通を行なう。
地球人から進化したらしいテラ人は
アリエカ人との意思の疎通を大使に委ねている。
大使は二人一組で特別に育てられゲンゴを使用することができる。
新たに赴任してきた大使は強大な力を持つブレーメンという
外の星から思惑を抱えてやってきたのだった。
ということを理解するまでに結構時間が掛かる、
歯応えのあるSFでした。
通常設定を理解すればその先は早く読めるのですが、
この作品では後の方で明らかになる設定が結構あったので
最後まで読むのが大変でした。
SFらしい作品。
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遥か未来、人類が先住種族アリエカ人と共存する惑星での物語。
アリエカ人の奇妙な言語構造、人類が彼らとコンタクトするために生み出した”大使”など、特殊な世界観に慣れるまではかなり難しかったが、新任大使エズ/ラーが登場して物語が動き始めてからはどんどん読み進んだ。
正直すべて理解できたとは言えないが、混乱した事態を収束させるための色々な方向性が面白かったし、終盤アエリカ人が主人公の助けを借りて自ら変わってゆく過程は感動的。何よりも言語と思考について考えさせられた。
久々にガツンとしたSFを読んだ気がする。頭が疲れたけど読後感は爽快。
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面白かった。
最初は難解だったけど(今でも理解出来てない部分がいっぱいあるけど)読後感は面白かった!に尽きる。
これぞSFって感じ。
本の裏にあるあらすじから新しい大使が現れて不思議な力を悪用して星を乗っ取る話だと思っていた。大雑把に言えばそういえなくもないけど全然違った。
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哲学的なSF。遥かな未来、辺境の惑星アリエカ。先住種族アリエカ人は口に相当する二つの器官から同時に発話する特殊な言語構造を持つ。アリエカ人は現実に存在しないことを語ることができない。人類と平和に共存していたが、新任大使が来たことで動乱が起きる。
事象と表明、直喩と嘘、記号論など、言語を中心として物語が展開していく。前に読んだ『都市と都市』と同じく、今回も脳が揺さぶられる感じがして面白かった。ただ、登場人物が魅力的でないのが残念。
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間違いなくSFだけど、哲学書のような趣。今年のバカロレアの哲学の試験問題に通じる「言語は単なる記号なのか?」という…
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遠い未来。人間とエンバシータウンで共生する、「ゲンゴ」を話す異星人たち。彼らと人間、そしてその両者を繋ぐ〈大使〉たちの間で起きる、「言語」を巡る物語。SFだけど哲学だ!
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ちょっと記憶にないくらい久し振りに挫折。
120頁読んだけど物語に入っていけない。いつまでたっても面白くならない。哲学的なSFは苦手なのかな~?
こんなに取っ付きの悪い小説も久し振り。
このシリーズ初めてのハズレ!でした。
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難解なSFでした。二つの口を持ち同時に発音して意思を伝えるゲンゴを話すアリエカ人、彼らは真実しか話すことができない。アリエカ人の星に居留する人類、アリエカ人と交流するためにクローンで二人一組で育てられた大使。この設定を理解するまでの序盤をクリアできるまでが辛い。
人類の大使がゲンゴを使ってコミュニケーションをとり、アリエカ人に影響を与え、やがて真実以外を伝える新しいゲンゴを持ちはじめたアリエカ人が現れ、いろいろ確執が生まれてきてからの展開は面白かった。