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先月(2017年6月)

browntabbyさんのレビュー一覧

投稿者:browntabby

2 件中 1 件~ 2 件を表示

電子書籍小さいおうち

2013/11/04 22:39

時を経てより鮮やかに映る小さいおうちでの日々

22人中、21人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

小さいおうちの思い出は、甘やかで愛おしく、そのなかにある秘密はどこか後ろめたくて、子供の頃に、こっそり隠した宝箱のような輝きを放っている。読者は、そんな宝物を覗く楽しみで、タキのノートをめくるのである。
 物語は現代のタキが、十五歳だった昭和7年から11年間、女中として奉公した平井家での日々を思い返しながら、ノートに残していくことで綴られる。たくさんの家で奉公してきたタキであるが、赤い三角屋根の平井家で過ごした日々は特別だった。
 平井家の時子奥様は若く美しく、何不自由なく育ったお嬢様そのものであった。年も近く、お互いを認め合い、唯一無二の関係で結びついた時子とタキ。ひたむきに時子奥様を慕うタキの姿が、まっすぐ健気で、だけど芯は通っていて、また、タキをタキちゃんと呼び、信頼を置く奥様のお嬢様らしいおっとりとした人柄も微笑ましい。
 女中という職業は、貧相で不憫な職業として描かれることが多いが、小さいおうちのタキは清々しく、誇り高い奉公人として映る。何より、タキ自身が平井家で働くことをとてもとても気に入っていることが伝わってくるのだ。
 そして、物語から見える2人の小さいおうちでの生活から、昭和初期がこんなにも優雅でモダンな時代とは、興味深い。今でも全然古くない銀座の資生堂やアラスカのエピソードや、華やかに装う奥様の姿など、そこには私が知らなかった昭和の情景を見た。それはカラフルで、今までモノクロでしか見えていなかった昭和初期の東京がお話を通して、彩られていくようだ。昭和初期といえば、モノクロ写真で見た主に戦時中~終戦の頃の、瓦礫に覆われた町の印象が強かったからだ。
 そんな2人は奥様の秘密を巡って一度だけ対立することがある。タキのまっすぐ通った芯の強さを感じさせるエピソードで、晩年になってもタキの心に強く残る一件だ。心の拠り所として、振り返れる思い出があることは幸せに思えるが、物語最終章でのタキの姿からは平井家にまつわる記憶は果たしてそれだけだったのかは見えない。さらに、戦争に翻弄された当時の人々の運命もまた物語に大きな影を落とす。
 華やかで幸せだったタキと時子の小さいおうちでの思い出は、それからの2人と平井家の歩んだ人生の明暗やその年月の重みを通して、より鮮やかに読者の心に刻まれるのである。

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電子書籍オリンピックの身代金 下

2013/10/21 00:41

実際にあったのかもしれないオリンピック人質事件の記録

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

身代金というタイトルから、単なるサスペンスものと思ってはならない。東京での2回目のオリンピックが決まったが、かつての東京オリンピックを知らない私にとって、オリンピックが東京にやってくることの意味、責任を、当時の時代背景も忠実に、衝撃的に教えてくれる作品であった。
 物語は東京オリンピックを目前に控えた昭和39年の夏から始まる。東大大学院生の島崎国男は、故郷である秋田から出稼ぎに来ていた兄が、飯場で不可解な突然死を遂げたことを機に、兄と同じオリンピック施設の建設現場で働き始める。当初現場では兄の弔いと告げているものの、亡くなった兄は生い立ちも、置かれた立場も兄弟とは思えないほど、遠い存在であり、マルクス経済学の研究室に籍を置く島崎の真意は、労働を通して、プロレタリアートを体感することだった。
 飯場で出稼ぎ人夫たちと寝起きを共にし、過酷な労働条件の下で肉体を酷使していくなか、島崎は、民主主義の不平等や、東京と地方の理不尽な格差に不満をつのらせていく。飯場での生活には、麻薬、賭博などの悪習が横行し、東京オリンピックを控えて華やぐ東京の人々との対比が痛ましい。そんな島崎は冷やかに、しかし強い意志を持って、テロリストとして、オリンピック開催を阻止するための、爆破活動を始める。
 当時の東京、日本にとって、東京でオリンピックを開催することは、敗戦からの復興を世界にアピールするための一大イベントであり、国民を総動員したオリンピックは国家そのものであったことがわかる。よって、島崎の活動は国家に刃向うことにほかならない。島崎からオリンピックを守ることは、警察にとって、国家を守ることになるのだ。
 島崎は自棄を起こした爆弾魔でもなければ、過激な思想犯でもない。世の中への未練がなく、死ぬことを恐れない、孤独で、そしてどこまでも聡明で落ち着いている。故に、彼がおこそうとしているテロも全く理解できないものではない。一方で、島崎を相手に国家を守ろうとする刑事、公安の使命も絶大であり、彼らの奮闘ぶりも当然うなづける。島崎が国を相手に、仕掛けてくる様々な挑戦もおもしろく、最後の最後まで息抜けない展開が続く。最後の本当の結末は読み手の想像に任されているのか。
 物語は、一歩進んだ刑事や島崎の同級生らの視点でのエピソードと、それより少し前のできごとを島崎の視点で綴ったエピソードが交互に書かれている。その時間のずれが徐々に詰められていくのに合わせて、ストーリーの中で島崎と警察の距離も詰められていくのが絶妙で島崎と警察の攻防の緊迫感を見事に演出している。
 また、東京の水不足や工事の騒音、交通機関、商店などの描写や、当時の流行語から見えてくる時代背景も大変おもしろく、読み手の気持ちを高めてくれる。圧倒的なリアリティから、この小説で描かれるエピソードが本当にあったことだったとしても、決して矛盾が生じないと思うのだ。オリンピックが再び東京にやってくることが決まった今、1回目の東京オリンピックが日本にもたらした興奮と、誰かが当時形にしたかったかもしれない思いをこの作品で味わってみるのはどうだろうか。

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