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    3月のライオン(1)

    3月のライオン(1)

    羽海野 チカ(著),先崎 学 (将棋監修)

    5つ星のうち 4.5 レビュー詳細を見る

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    はらぺこあおむし 改訂

    はらぺこあおむし 改訂

    エリック=カール (さく),もり ひさし (やく)

    5つ星のうち 4.5 レビュー詳細を見る

YKさんのレビュー一覧

投稿者:YK

151 件中 1 件~ 15 件を表示

STAP細胞の騒動を冷静に追い続けた本

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

STAP細胞に関わる一連の騒動は、報道内容を追うだけでは何となく訳が分からないうちに幕引きされた印象がありました。事態の真相を知ろうと関連本を探していたところ、毎日新聞科学部記者が執筆、大宅壮一ノンフィクション賞受賞という本書ならと思い読んでみました。期待を裏切らない内容でした。個人的な取材でやり取りしたメール、記者会見の内容などが時系列でまとめられており、華々しい記者会見から事態が一転して疑惑が次々と出てくる状況の下、それぞれの当事者がどう発言し、主張したかが非常によく整理されています。最初から誰がシロ、誰がクロと決め付けるのではなく、事態の進行に従って著者が感じた疑問を素直に取材対象に質問し、咀嚼しつつ取材を進めるプロセスには好感が持てます。またこういうニュースを理解する時に必要となる専門分野の基礎となる知識も解説されており、これ一冊でSTAP細胞に関わる事態の全体像がつかめます。どういう状況で研究不正が発生しやすいのか、真面目に研究に取り組んでいる研究者はどういう印象を受けたのか等について貴重な提言やコメントもあり、研究職を目指す高校生や大学生には是非読んでもらいたい気がします。

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紙の本ヒート

2016/07/27 19:58

スポーツの記録に選手の能力以外の要素の関与をどこまで許されるのか考えさせるストーリ―

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日本人ランナーにマラソンの世界最高記録を日本で開催されるマラソンで実現させようと、様々な立場の人間が織り成すドラマ。世界最高記録達成のためにマラソンコースそのものを設定して新たな大会を開催し、ペースメーカーを選定してエースに記録を狙わせる。その過剰なまでの「お膳立て」に対して記録を期待されるエースランナーが感じる葛藤。ちょっと前、競泳界では高速水着の問題がありました。スポーツが靴などをはじめ様々な道具、環境の下で実施される以上、どこまで人為的な関与が許されるのか、考えさせられる小説です。

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福島第一原発で本当に起こっていたことの証言

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福島第一原発の所長であった吉田昌郎氏の証言を元にした「「吉田調書」の報道で朝日新聞が「作業員が所長命令に背いて撤退した」と報道し、後に謝罪会見を開く事態にまで至った誤報事件。生前の吉田氏にインタビューし、震災直後の現場の真実を「死の淵を見た男」で詳細に伝えた著者が、朝日新聞の報道内容とは違って本当はいかに現場の作業員の人たちが責任感を持って持ち場を死守したのかを改めて伝えるノンフィクション。是非「死の淵を見た男」と併せて読んでみて下さい。原発推進とか反原発とかの立場ではなく、一般論として危機管理とはどうあるべきか、報道とはどうあるべきか、非常に示唆に富んだ本だと思います。
「日常の営みは、非日常のためにのみ存在するのではない。日常の営みと非日常への備えのバランスを欠くようでは、人間の幸福に寄与するシステムとはいえない」という一節は、「非常時の安全」にどこまでのコストや不便さを私たちが許容できるのか、問いかけているのではないかと思います。

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米軍と人民解放軍の戦略をやさしく解説

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尖閣諸島や、南シナ海で活動を活発化させている中国。その中国で勢力を拡大しつつある人民解放軍について、その強みと弱みはどういう点であるのか、現状を踏まえて2030年ごろまでの時間軸で分析。なぜアメリカは日本との同盟関係を重視するのか、自衛隊・アメリカ軍の装備は対人民解放軍という構図で見たときに適正な整備がなされているのか、もし対中国との紛争が勃発した場合にアメリカはどのように対処するプランを検討しているのか、そのプランの中での日本の位置づけは?など中国との安全保障に関わるニュースに触れる際の予備知識としての現状分析が非常に分かりやすく整理されています。

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まさに調査報道の真骨頂!是非ご一読をおすすめします

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幼女誘拐殺人犯として誤認逮捕された菅家さんが2009年に釈放されました。17年におよぶ刑務所生活からの解放です。実はこの釈放の背景には、真犯人が他にいるとの信念のもとに取材を続けたジャーナリストの存在がありました。そのジャーナリスト本人が、いかにして菅家さんが冤罪であるかを突き詰め、そしてついに検察、裁判所までを動かす大きな波を起こしたのかを辿るノンフィクションです。著者の「真犯人を野放しにさせない」との執念が結実した1冊です。まるで推理小説を読んでいるかの如く引き込まれます。菅家さんを自供に追い込んだ当時の警察の取り調べの状況、一旦下った判決への疑念に対する取材への警察の抵抗、そして事件の報道とは誰のためになされるべきか等、読みどころ満載で、書評サイトHONZでも高評価なノンフィクションです。昨年「文庫X」と書名を敢えて隠して発売され話題にもなりました。

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紙の本不屈の棋士

2017/03/14 18:53

棋士とはどういう存在なのかをAIを通じて述べる好著

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AIを用いた将棋ソフトに対する考え方について現役11人の棋士にインタビューした内容をまとめた本。インタビューの対象はソフト利用に肯定的な棋士、ソフト利用に否定的な棋士、実際にソフトと対戦した棋士、そして現時点で棋士の最高峰と目される羽生氏、渡辺氏の2人という多岐にわたります。
著者がインタビューで投げかける質問が非常に鋭く、対象となっている棋士の考え方をうまく引き出している印象です。
どの棋士の考え方にも納得させられるものがあり、まず感じるのは棋士というのは自分の考えを非常に分かりやすく表現されるなあ、という点です。これは棋士という職業が論理的な思考を常に求められているからかもしれません。
ちょうどソフトの力量が人間に並びかけている微妙なタイミングである今だからこそ、棋士のソフト(AI)に対する姿勢は様々なスタンスがあり、これは将棋界に限らず今後AIが進出してくる領域と関りを持つ私たち一般の人間が体験し、考えさせられる事なのかもしれないと感じました。
棋士という職業がどんなものかという点でも理解を深めることができる1冊です。

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紙の本原爆投下 黙殺された極秘情報

2017/03/14 18:50

原爆投下に隠された事実に迫る1冊

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広島、長崎の原爆投下の際、何故か空襲警報は発令されていませんでした。もしも空襲警報が発令されていれば、犠牲者の数はもっと少なくて済んだはずと言われています。一方、陸軍、海軍はアメリカ軍の通信を解析してB29のコールサイン(飛行機固有の呼び出し記号)を割り出し、ほぼその出撃態勢をつかめる程のレベルに達していました。そして、広島、長崎に原爆を投下したB29についても「特殊任務機」という呼び名で識別ができていたことが本書で明かされています。なぜ原爆を積んだB29の動向をつかんでいながら、なんの対応も取れなかったのか。当時を知る数少ない人達の証言をもとに事実を明らかにしていきます。国民の人命よりも軍などの組織の体裁を優先する歪んだ思想が、どれほど多くの人命を犠牲にしてしまったかを本書は訴えて来ます。
追い詰められた軍首脳部の対応は、福島原発事故の際の東京電力、政府の対応と重なる部分も多く感じられます。
かつてNHKスペシャルで放映された内容を基に構成されていますので、難解になり過ぎず、しかし肝心な情報は整理されて記述されていますので、どんどん引き込まれる本でした。

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紙の本日本水没

2017/03/14 18:49

震災被害を忘れないために是非おすすめ

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巨大災害を研究テーマとしてマスコミにもよく登場する河田先生の著書。東日本大震災以来、地震と津波のリスクはかなり考慮されるようになってきましたが、過去の発生頻度や被害規模から考えると、3大都市圏への高潮・洪水による被害リスクの方が断然大きいという著者の主張が展開されます。そして何より国難となり得るパターンは、南海トラフ地震と首都直下型地震が起こり、河川堤防などにダメージが残る状況で、温暖化によって強大化した台風や、豪雨による河川氾濫、高潮などが追い打ちをかける複合型災害であるというのは非常に説得力があります。「そんな酷い災害が、立て続けに起こるのか」という素朴な疑問が沸きますが、実は江戸時代末期、3年立て続けに南海地震(海溝型地震)、江戸地震(直下型地震)、江戸高潮災害が起こり、その被害による財政圧迫が江戸幕府が倒れる一因となった事実があるのです。
日本の3大都市圏が広大な地下街を持つというのは先進国でも実はかなり特殊な特徴で、それらが高潮災害の際には即、水没してしまうリスクを抱えていることなど、著者の長年の研究成果をまとめた1冊となっています。
私が大学に在学中は河田先生の授業を一度も聞いたことがなかったのですが、これからも災害リスクを広く伝える研究を続けていただきたいです。

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駒大苫小牧幻の3連覇に隠された真実に迫るノンフィクション大作

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駒大苫小牧 田中投手と早稲田実業 斎藤投手が投げ合い再試合となった2006年夏の甲子園決勝。多くの人の記憶に残るこの試合が、実は駒大苫小牧が夏の甲子園3連覇達成を賭けた舞台であったことを記憶している人は少ないかもしれません。それまで北海道勢が夏の甲子園で優勝するなど想像もできない偉業であったのに、夏の甲子園連覇、そして3連覇に限りなく近づいたのがあの試合でした。この時、監督として指揮を執っていたのが本書の主人公、香田誉士史氏です。
弱小高校であった駒大苫小牧に赴任後、様々な試練を乗り越えて甲子園出場を果たし、そして連覇。しかしその直後に不祥事が発覚し、マスコミの手のひらを返したような対応に、精神的に追い詰められて、そしてあの2006年決勝の翌年、同校を去ります。そのジェットコースターのような数年間を丹念に取材し、香田氏がいかに大きな葛藤を抱えつつ過ごされていたのかを描き出した長編ノンフィクションの名作です。田中投手の存在だけにスポットライトが当たりがちな”あの試合”にこんな濃密なドラマがあったとは。単行本400ページを超える大作ですが、スポーツノンフィクションが好きな方なら、是非一読をお勧めします。

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沖縄水産高元監督 裁弘義氏の壮絶な生涯

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1990年代に沖縄水産高校の監督として甲子園の常連だった裁弘義氏(故人)の高校野球との関わりを通じた生涯を追ったノンフィクション。裁氏がすでにお亡くなりになっておられるので、教え子に当たる元野球部部員や、同僚の教員、コーチなどの証言をもとに裁氏の人間像を描きます。
高校野球中継で見た好々爺然りとした外見とは全く異なり、元部員曰く「近くにいるだけで吐きそうなぐらい怖かった」という程の練習を課し、当時の内地から見下されていたレベルであった沖縄の高校野球のレベルを強豪県と呼ばれるまでのレベルに引き上げました。
沖縄が内地に対して誇れる物を持つことができた事への最大の功労者が裁氏であることは間違いなく、本書のタイトルが誇張でないと感じました。
内地へのコンプレックスや、のんびりとした県民性、出る杭を打つ島独特の閉塞感など、周囲の環境を敵にまわしつつ自分の意思を貫く生き様は壮絶です。

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国防について今だからこそ読むべき本

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1993年日本海で北朝鮮の不審船と自衛隊イージス艦「みょうこう」とが遭遇した時、艦橋に航海長として任務に就いていた著者が自衛隊や、軍事行動の本質について述べる本。タイトルからはちょっと過激な思想の本かという印象を受けますが、それはいい意味で完全に裏切られます。
自衛隊は軍隊ではないとか、スーダンは戦地ではないとか、建前論に終始する政治家の言葉とは異なり、自衛隊や軍事行動の本質を単刀直入に切り込みます。著者が自衛隊は戦闘行動を目的とした組織である事を認めた上で述べる次の一文は建前論ではなく、すっと腑に落ちました。「軍事行動とはあらゆる解決策を模索し、懸命に和解を企図したにも関わらず、万策尽きてなお、国家としてどうしても譲れないと判断した事柄についてのみ発動されるもの。どんなに美しい言葉で飾ったところで、国家がその権力を発動し国民たる自衛官に殺害を命じ、同時に殺害されることをも許容させる行為。ゆえに権力発動の理由が『他国とのおつきあい』や『〇〇大統領に言われたから』などというものであってはならず、日本の国家理念に基づくものでなければならない」
部下の隊員の命を預かる幹部自衛官の心得を垣間見ることができる本でした。
冒頭に触れた北朝鮮不審船事件の際の艦橋内における緊迫のやり取りを収録した本書前半部も読み応え十分です。

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自転車ロードレースにおけるドーピングの実情を告白した著者の勇気によってできた本

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自転車レースの最高峰「ツールドフランス」。そこで活躍したトップ選手タイラーハミルトンが当時は自転車レース界に蔓延していたドーピングの実情を切り口に語るノンフィクション。ドーピングに拒否的な態度であったハミルトンがキャリアを上り詰めるにつれてドーピングを容認して行き、検査で陽性反応が検出されるまでのリアルな描写。当時のトップ選手のほぼ全員が薬物を使用し、かつその事実を部外者には語らない「暗黙の掟」が存在する中、あえて事実を語った勇気は賞賛されるべき。
「誰もが悪いと感じている」のに「誰もが異を唱えない」状況で「敢えて異を唱える」行動は「いじめ」を黙認しないことや、業界ぐるみの不正を告発するのに似ていて、その主張を貫くのは相当覚悟が必要なのだろう。

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紙の本咬ませ犬

2016/10/14 18:55

名作ノンフィクションのオムニバス

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様々な分野で脇役として存在感を放つ人達を取材対象としたノンフィクションのオムニバス。
ボクシングで将来を期待される有望なボクサーがのし上がっていく際に”負け役”を暗に期待されるボクサーのことを”咬ませ犬”と言い、そのような役割を全うしたボクサーを取材した『咬ませ犬』。
プロ野球のブルペンで投手の球を受け続け、1軍での公式試合に出場することなくその後コーチ、2軍監督としてキャリアを積み上げていく職人肌のキャッチャーを追う『壁と呼ばれた男』。
競馬界で最も脚光を浴びる騎手でもなく、調教師でもなく、裏方として最も馬に寄り添う役目であるベテラン厩務員がG1制覇に賭ける日々を追った『ライアンの蹄音』。
他にも大学ラグビーの監督を扱った「楕円球への夢」、自らの登山スタイルを追う登山家を追った「ザイルの彼方」。
どのストーリーも各界でスターとして活躍する人々の周囲に、私たちの知らないこんなに濃厚な物語や世界があったのかと、どんどんのめりこんでしまいます。登場する人達は大半の読者にとって名前も聞いたことがない存在ですが、それでも十分にそれぞれの世界に浸ることができます。

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紙の本遠いリング

2016/10/14 18:53

普通の人を追い続けたノンフィクションの名作

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大阪の天下茶屋にあった(当時)グリーンツダボクシングジム。このジムに在籍したプロボクサーやトレーナーなど10数名の人々について著者が2年間にわたり見続けて綴ったノンフィクション。登場するボクサーで一流と呼べるのは1980年代後半に世界ストロー級チャンピオンとなった井岡弘樹氏とそのトレーナーであるエディータウンゼント氏ぐらいで、それ以外のボクサーはアルバイトや他の仕事を持ちつつ、ボクシングへのこだわりや捨てきれない思いを燃やしながらジムに通う言わば「普通の人」です。一生続ける事などできないボクシングをいつ引退するのかの葛藤や、試合前に湧き上がってくる緊張や恐怖感、試合の勝敗によって突きつけられる挫折や歓喜を著者の後藤氏は丹念に拾いあげていきます。登場する人物の大半が「普通の人」であるだけに、著者が描く心の揺らぎには非常に共感できます。同じプロスポーツでもプロ野球やJリーグなどとはちょっと異質な、陰を感じさせるような雰囲気は当時、このジムが天下茶屋という場所にあったこともあって、「あしたのジョー」に非常に近いものです。ボクシングをテーマとしていますが、試合の描写よりも人物の心模様の描写に力点があって、ボクシングへの興味がなくても、どっぷりと著者が描く世界に浸ることができます。実際、私もほとんどボクシングは観ることはないですが、文庫本で500ページを超える長編にも関わらず、夢中で読みました。後藤氏が取材対象に向ける優しい眼差しが感じられる1冊だと思います。

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スポーツノンフィクションの王道とも言える1冊

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ノンフィクションの第一人者 後藤正治氏によるオムニバス。対象となっているのは松井秀喜氏(元巨人)、小川良樹氏(高校バレー部監督)、上田利治氏(元阪急)、伊達公子氏(元テニスプレーヤー)、仰木彬氏(元オリックス)、古賀稔彦氏・谷本歩美氏(柔道)などです。最も印象的だったのは、下北沢成徳高校監督の小川氏の章でした。
20年ほど前、小川氏が同高監督に就任した当時はバレーの指導は根性バレー一色と言って良い時代でした。小川氏もその流れを踏襲したのですが、選手の気持ちをつかめないまま試行錯誤の上に選手の自主性を重んじる指導法へ切り替えられます。それと時を同じくしてバレー強豪校としての実績を重ねてゆきます。大山加奈、荒木絵里香、木村沙織など全日本を支える選手も小川氏のもとから育っていきました。
スパルタ式ではなく、しかし緩いだけではない指導法。それを著者は「バレーに疲れ切ることはなかった。小川は”余白”を残して卒業生を送り出したのである。」と表現しています。厳しすぎてはスパルタになりがち、でも「緩く」に傾倒し過ぎては結果が伴わない、この矛盾する状況に絶妙のバランスを見出した小川氏と選手達との日々は読んでいて清々しい気持ちになります。

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