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かしこんさんのレビュー一覧

投稿者:かしこん

377 件中 1 件~ 15 件を表示

『ポーの一族』、第二幕スタート!

14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『ポーの一族』、40年振りの新作!、ということで掲載雑誌が即日完売で全然手に入らない・・・という事態が続いた昨年の悲劇(?)をへて、待望の単行本化!

熱狂的なファンの方々からは「絵が、線が全然違う」という文句もあったようですが、私はずっと萩尾望都マンガをリアルタイムで読める分は読んできたので(多分、『マージナル』あたりで追いついた気がするので、それ以前の作品の線の細さなどの違いを私はその段階で受け入れている)、全然気にならない。
そりゃ40年もたてば絵が変わるのは当たり前だし、むしろはっきりした線のおかげで「子供のはずなのにずっと大人みたい」と思われるエドガーたちの特徴が強調されたように思う。

タイトルの『春の夢』はシューベルトから。
ときは第二次世界大戦末期。空襲を避け、イングランド郊外の田舎町にやってきたエドガーとアランはある山荘で暮らし始める。
町中でエドガーは印象深い少女を見かける。のちに、その少女ブランカは弟とともにナチスドイツから逃れてきたドイツ人(実はユダヤ人)であることがわかる。過去から逃れてきた姉弟、しかし二人の心には幸せだった時期の記憶も残っていて・・・エドガーはその悲しみに共鳴する。
これだけだったら、これまでの流れで断片的なエピソードのひとつだったかもしれない。
だが、物語は大きく転換を見せる。
ポーの村にいる他の一族とエドガーのつながり、一族ではないバンパイア(バンピール?)・ファルカの存在、ついに大老キング・ポーの登場!、など、これまで触れられてこなかった一族の秘密について少しずつですが出てくることに違う種類のどきどきが。

この物語はこれ一冊で終わっていますが、来年から新たな『ポーの一族』の連載が始まる様子。叙情的ではなく論理的に進む話になるかもしれませんが、それもまた時代の変化というか、そういう流れのほうが求められているような気がするし(むしろそれ私の好みである気がする)。
個人的にはこれまでのアランの我儘さ・きまぐれさがちょっと・・・だった私としては、本作でその理由がわかって納得でした(当時子供だった自分には理解できてなかったです、ごめん)。でもアランのそんなある種の無邪気さがエドガーの救いになっていたことは感じ取っていたので、それが確信に変わってよかったです。
ブランカの変容は、『すきとおった銀の髪』にもつながるようで・・・切り口は変わってもやはり世界観は揺るがないのだとためいき。
ストーリーテラーとしての萩尾望都の衰えを知らない確かなチカラを思い知らされました。

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このサイズで読める至福

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

和田慎二傑作選ということで、書籍扱いコミックスですが、大きな版で読めるというのはとてもよろこばしいこと(その分、お値段も少々張るけどお金では代えられない)。

『銀色の髪の亜里沙』に出会ったのは小学生のとき。 それから何度繰り返し読んだかわからない。 しばらくぶりに読んで驚いたのは、「こんなにページ数が少なかったか?!」ということ。 特に地下洞窟の部分はもっと長かったような気がしていた(それだけ、思い入れが深かった)。
『大逃亡』はその当時古本屋さんでも手に入らなくて、でも『スケバン刑事』で沼さんの昔語りとして大筋は知っていたものの、全編読むのは初めて。 それでも初めて読んだ気がしないのは、<和田慎二フォーマット>がすでに出来上がっていたからだろう。

このサイズでいいので、昔のノンシリーズの傑作(『呪われた孤島』・『朱雀の紋章』などなど)も再版してほしい。 『パパ!』シリーズで一作もありかと。 お値段は多少高くてもかまいません!
そんな夢を見てしまいたいくらい、この本の発売はとてもうれしい驚きでした。

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『亜里沙とマリア』に引き続き、和田慎二傑作選(書籍扱いコミックス)の2冊目が登場!

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

最初はタイトルだけの告知だったので、「『愛と死の砂時計』と『オレンジは血の匂い』か」と予測・・・実際に本を手にしたら、帯に<神恭一郎VS西園寺京吾>の文字。
このふたりは昔の友人ではあるけれど、直接戦ったことはないはずだけど。
どうやら、神恭一郎作品の代表作ともいえる2編に、西園寺京吾の作品も収録されているから、という意味らしい・・・あぁ、びっくりした。

『愛と死の砂時計』は<和田慎二版・『幻の女』>。
でも今回改めて読み直してみて・・・まず視点が違う(『幻の女』他、身に覚えのない罪で投獄される男の側から描かれているけど、これでは男の内面描写はほとんどなく、彼の婚約者視点で物語が動く。 少女マンガだから、と言われるとそれまでですが)、そして中盤でもう犯人が読者にはわかってしまう! 探偵役が真相に近付くにつれ手掛かりを持つ人物が先んじて殺される、という展開だけで十分ハラハラものなのに、犯人が身内にいると早々にばらした上で一緒に犯人を追うのだからハラハラ度倍増! 元ネタを越えよう!、という気概を感じます。

『オレンジは血の匂い』も、和田慎二復讐シリーズ(?)の中で好きな作品の上位に食い込む作品(今は『深海魚は眠らない』がダントツの一位なのですが、それが現れるまではこれがほぼ一位だった。 『銀色の髪の亜里沙』は別格)。
カメオのつくりかたもこれで学んだ。 その当時小学生、以後、大学生ぐらいになるまで「カメオのつくりかた」が一般常識ではないことに気づかなかった!
この作品は細かな章立てが特徴で、結構めずらしいかなぁ(他には川原泉の『銀のロマンティック・・・わはは』ぐらいしか思いつかない)。
ヨーロッパ観光ツアーのように各地を転々とし、ヒロインは命の危機に瀕し、と今思うと二時間サスペンスドラマ要素てんこ盛りなのに、和田慎二世界においては一切がなんの違和感なく存在してしまうすごさ。

『パニック・イン・ワンダーランド』は<マンガ・ファンロード1号>に掲載されたお遊び原稿。 和田慎二レギュラーキャラクター勢揃い。 これだけ1985年のものですが(他の作品は1973年・74年)、人気マンガ家であるが故の企画モノ。

そして『バラの追跡』。
海堂美尾と西園寺京吾の出会いを描いたものですが・・・前半が私の記憶と全然違う!
でもラストは同じで、なんでだろうと思っていたら、和田作品で唯一のリメイク、『バラの追跡』を読者の対象年齢をあげてもう一度新たに描き直した『バラの迷路』があるとのこと。 自分が読んだのはそっちだ!
美尾さんはその後、神恭一郎探偵事務所の秘書として働くことになるので、彼女の人生は『スケバン刑事』でもやんわり語られますが・・・(そこで、西園寺京吾と神恭一郎の繋がりも判明)。
こうやって別作品の登場人物が繋がっていくのがまったく不自然にもやっつけにも感じられないのは、裏シナリオがきっちりつくられているからだろう。

あと、美内すずえロングインタビューと、いろんなマンガ家さんからのトリビュートイラスト集。
美内すずえロングインタビューはそれなりに読み応えあり。 全盛期の仕事のやり方等は勿論面白いし興味深いのだけれど、いちばん切なかったのは、訃報のあと、悲しみを紛らわしたくて和田作品を読みふけろうと思ったのに、自分のは書庫に仕舞っていてすぐに出せる状態じゃないからとマンガ中心の本屋に行ったのに、若い店員さんに“和田慎二”が通じなかった、というくだり。
「いつの間にこんなことになったんだろう・・・」、という言葉が、重い。
なので、更なる作品集の刊行を希望!

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事件記者の真骨頂をここに見る

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

犯罪ルポものを比較的読み漁っている身としては、筆者の前作『遺言-桶川ストーカー事件の深層』(文庫化に際してタイトルのメインとサブが逆になりましたが)は当然読んでいたので筆者のことは知っていたし、なにかのタイミングでかその当時の日本テレビでの特集(最初は『バンキシャ!』だったと思う)をリアルタイムで見ていた私にはなじみの内容である。
事件で自分は冤罪だと訴えていた方に無罪確定・釈放というのは勿論めでたいことだとが(何年・何十年も理不尽に閉じ込められた方に「めでたい」と表現するのは失礼だとは思うのだが、誤りが正されたという意味で「めでたい」という言葉を選んだ)、私がいつも感じるのは、「じゃあ、真犯人は誰なの?」ということ。 マスコミ報道は冤罪に至った過程を検証するけど、それも重要だけど、真犯人の存在について言及する例があまりに少ない、と常々思っていた。 だから、「あくまで真の目的は真犯人の検挙」という筆者の姿勢が好きなのです。 だから<足利事件>の冤罪証明は途中経過に過ぎない、という発想に同意。

なにしろテレビ報道をそのときは期待して見ていたので、「あ、あの部分は書かれてないんだな」といろんなことを思い出す(主に被害者家族の言葉が印象に残っていたのだが、あえてそちら方面にはあまり踏み込まないようにという気遣いかもしれない。 必要最小限かつ重要なことは記載されている)。
「真犯人らしき男について、実は特定している」という報道も見た記憶はあって、でもそのあとどうなったのかわからなかったのでこの本を読んでみたわけですが・・・そうか、もうちょっと、というところで3.11が来たのか・・・私の記憶も飛んでいるはずである(ただ、何故真犯人と目される男に筆者が辿りついたのかの説明がぼやかされていて、そこは少々イライラするところではある。 でも確たる証拠がないし警察も動いていない以上、プライバシーその他は守らねばならない)。

当時科警研が進めていたDNA型鑑定の弱点についてつっこまれて、それを証拠として有罪が確定した案件までもひっくり返されることを恐れる警察・検察・裁判所・法務省などひっくるめてこの事件に知らんぷりしたい・・・という組織側の姿勢を激しく糾弾しつつ、真犯人に対してもケンカ(?)を売っているのがこの本の骨子といってもいいかも。 「ジャーナリズムは公正中立」というお題目にとらわれず、自分が知りたい・やりたいようにやってしまう、だから結構私噴も丸出しで、第三者的視点から語るのではなく自分の言葉で突っ走ってる感じが、私は好きである。
スクープをつかんでも、すぐ発表したらどんな影響があるかわからないのでそれを確認してから、なんてのはある程度当然のことかと思いきや出来てる人、少ないよね~、と感じさせられたりした。

『バンキシャ!』出演時に<(桶川ストーカー事件の際に警察よりも先に犯人を特定した)伝説の記者>と紹介されたのに対し、心の中で「伝説ってなんだ、俺はまだ現役だ」と毒づくなど、私の好きな職人肌頑固おやじ的要素をこの人が持っていると感じられるから好きなのかもしれない。
事件を風化させないために雑誌にも連載し、それでも当局が踏み込まないのでこの本の刊行を決意した、とのこと。 一刻も早い解決を望んでやまない。 そして、他のすべての未解決事件についても。
刑事ドラマ全盛の世の中なのに、実際の警察組織がお粗末なのは恥ずかしいよ。
ハードカバー刊行時以降の動きについても触れられているが・・・解決までにはクリアすべきことがまだあるようです。続報を待つ。

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やっぱり表紙は『摩利と新吾』なのだな~。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ずっと、世間的には木原敏江は過小評価されているのではないかと思っていた。
でも、このような形でムックが出たのは、すごくうれしい!
あぁ、なんてゴージャス。

私が初めて木原作品を読んだのは、小学生のときの『アンジェリク』。
全5巻のプリンセスコミック版は、何度も繰り返し読んだため(そしてその後、妹もはまったため)、ヨレヨレ。コマ割りからセリフまでほとんど覚えているのに、家を出てからやはり読みたくて文庫版を買った。なのに新装版も買っちゃったくらい、私はこの物語に今も夢中である。
LGBTの人に「(性的少数者に対する)あなたの理解力と共感力、偏見のないフラットな見方はどこから来るのですか」と聞かれることがあるのですが、それは自分ではわからない。もしかしたら、ずっと木原作品を(そして萩尾望都や青池保子、竹宮恵子作品も)読んできたから、かな。
リアルタイムで読み始めたのは『夢の碑』の途中ぐらいから。それまでは過去作品を古本屋さんで漁ってました(そして結構泣いていた)。『摩利と新吾』も完結していたのではないかしら。
そんなわけでものすごく私はこの人の影響を受けている。
だからちょっと高いけど、このムックを飛びついて買いました。
ご本人インタビューに、胸をときめかせるたくさんのカラー原稿(あぁ、この絵、綺麗ですごく好きだった・・・とかつい思い出す)。
なにより楽しいのは木原敏江×萩尾望都×青池保子の三者対談!

そしてつくづく思うのは・・・編集者の存在って大事だなぁ、ということ。相性の合う編集者と組んだときはすごくいい作品になるし、いまいちな編集者のときは意思疎通もろくにできてなくて構想に対して短すぎる連載期間になってしまうことも。そんな山谷があってもこれだけの作品を残してきている・・・やっぱりすごい人だと思う。
収録されている『封印雅歌』・『夢占舟』を読んでじぶんでもびっくりするほど泣いてしまった。多少大判で、新しい印刷で、となると更に胸に迫るのかしら(特に『封印雅歌』はかなりカラー復元バージョンだったし)。
私自身はファンレターとか出さないタイプなので、「読者からの反応が薄くて落ち込んだ」と聞くと大変申し訳ない気持ちになる。今からでも出したほうがいいかしら・・・(『夢の碑』でいちばん心えぐられたのは『風恋記』と『雪紅皇子』です!)。

現在連載中の『白妖の娘』は現在単行本が2巻まで出てますが、4巻で完結予定とのこと。
「これが最後の連載」とおっしゃってますが、『杖と翼』のときもそうおっしゃっていたので、そんなことはないと思いたい。いえ、密度が濃いから短編でもいいんです、描き続けてください!
<エレガンスの女王>という称号は初めて聞いたけど・・・まぁ、確かに。でもそれだけでは絢爛豪華な作品群のことを言い尽くせてはいないんだけどね。
選ぶ言葉の美しさとリズムに、もっと注目したコラムがあってもよかった。まぁ愛読者ならば、すでにわかっていることですが。
以前の作品の復刻が難しいなら電子書籍化を進めてほしい。『ダイヤモンド・ゴジラーン』とか『無言歌』とかいろいろまた読みたくなってしまったから。読んだらまた泣いちゃうんだけどさ(『アンジェリク』だって数えきれないほど読んでいるにもかかわらず、同じところで泣くからね)。
少女マンガ界において比類なき語り部。木原敏江に影響を受けたマンガ家は大勢いるが、フォロアーと呼べる人はどこにもいない。萩尾望都や青池保子と同じく、彼女もまた唯一無二の存在。彼女の読者でいられて、私はとてもしあわせだ。

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今回の表紙はアンジュー公アンリ

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『王妃マルゴ』もいつの間にやら4冊目。
一年に一冊出るかどうかのペースだから、1巻目が出てからもう3年ぐらいになるのか、ということに驚く。 作中では、もっと時間が流れているので特に違和感はないのですが。
“萩尾望都、初の歴史物!”、というふれこみで始まったこの物語、実際は「こんなにも自分が“女”であることに疑いをもたず、本能のままに行動するヒロインがこれまでの萩尾望都作品にいただろうか!」というほうが長年の読者としては驚きで、マルゴという人物をとてもハラハラしながら見てきたのですが、<運命の恋>に目覚めてからの彼女は一途な萩尾キャラらしくなり、しかし歴史の流れはその一途さを許さず、昔からのテーマである<母と娘>についてが際立って浮かび上がってくる仕掛け。

でもそのために“歴史”を背景としてただ借りてきたわけではなく、歴史の流れそのものもきっちりと過不足なく描き出す。 このバランス感覚、さすがです。
ちょうど『サラディナーサ』(これはスペインがメイン)で描かれていたほぼ同じ時代、フランスではどうだったのかがこれを読んでわかる!、というあたしのような世界史音痴にも大変ありがたい作品です。 カトリックとプロテスタントとの対立がだんだん明白になっていくところも非常に今日的というか。

マルゴをめぐる3人のアンリのうち、あたしはナヴァルのアンリが結構好きなんだけど・・・悲劇の予感で幕を閉じてしまった。
あぁ、早く続きを!

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山岸涼子、ジャンヌ・ダルクを描く!

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この表紙に、少女の目ヂカラに「おぉっ!」と心を打ち抜かれた気持ちに。
帯を見て、ジャンヌ・ダルクの物語だとわかって深く納得。
なにしろ私は高校では日本史選択だったので、ジャンヌ・ダルクのことは一般に流布するイメージ以上のことは知らない。 勿論、詳細な歴史的背景についても(基本、私はマンガで歴史を学んでおります)。
そして今作は、刑場に引き立てられていくジャンヌが、「どうしてこうなってしまったのか」と回想するシーンから始まる、という否応なく緊迫する構成で(途中でもたびたび<現在のジャンヌ>の内省が挟み込まれる)。

そこにあるのは“英雄”として軍の先頭に立った雄々しき姿ではなく、「神の啓示のもと、求められるままにここに来た」という<神と自分との対話>。
ついにキリスト教にまで切り込んできたか、という驚き(著者は相当資料を読みこみ、時代背景とともに完全に理解したうえでの覚悟の執筆、という感じがする)。
13歳のジャンヌはまだ文盲で、社会的に弱すぎる女性の立場についてもはっきり言及できるほど賢くはない。 むしろ、他者から「思い込みが激しい」と見られることもある信心深い愚かな少女がこの先どうなっていくのか、ということにすでにあたしは心をえぐられている。
まだ1巻、物語はまだ始まったばかり。 あぁ、続きが楽しみなマンガにまた出会えたぞ!

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紙の本スチーム・ガール

2017/10/31 05:06

スチームパンク時代のジェンダーフリー

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これはちょっと間違えて予約しちゃった・・・『叛逆航路』の作者の人の最新刊かと思ってしまった(正確には訳者が同じ人なので、私の勘違い)。表紙やパラパラめくってみたときの主人公の一人称の感じがライトノベルっぽくて、「あれ?」と気づいた。
でも、主人公(女性)が好きになるのは女性、登場人物紹介のところで「性自認は女性」というコメントがあって・・・LGBT的に結構厳密な内容が根底にある?!、と感じて改めて見直した。
タイトル通り、スチームパンクな世界観を利用しつつ、描きたいのは<ガール>なのかもしれない。だとしたら、私の好みだ!
ということでさっそく読みだす。舞台はゴールドラッシュに沸くアメリカのある港町ラピッド・シティ。物語はスチームパンクであり西部劇でもあり、切り裂きジャック的な殺人事件も絡ませ、高級娼館で働く人々の暮らしを活写しつつ、語り手の<わたし>の成長物語でもある。
男らしさとか女らしさとかにこだわることなく、自分を偽らず正直に生きる人たちはたいていなんらかのハンディを抱えている社会的弱者。対して悪役たちは文化的男女の違いに忠実で、頭が固くてあくどいから権力を手に入れている。そんな一部紋切り型の構図がまったく気にならないほど、<わたし>たちは生き生きとしていてとても前向きでナチュラル。この感覚、今でこそ必要というか、これが常識になってほしいというか。
ラノベと勘違いしちゃってすみません(別にラノベを下に見る気はないんだけど、一部表紙があまりにもマニア向けなんで知らないとちょっと引いてしまうのです)。
描かれている時代は19世紀だけど、21世紀だからこそ生まれたスチームパンクSFでした。読後感も最高!

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紙の本制裁

2017/03/20 07:19

待望の復刊!(原著改定版でもある)

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『熊と踊れ』で注目が集まったアンデシュ・ルースルンドのデビュー作にしてガラスの鍵賞受賞作。 一応、<グレーンス警部>シリーズ第一作となっておりますが、この作品の中では印象が薄い(のちのち、シリーズが進むにつれ彼中心っぽくなっていきますが)。
私はかつて武田ランダムハウス版で読んでいるから(しかし版元倒産のため、現在すべて絶版のところをハヤカワが『熊と踊れ』のヒットに当て込んだ模様)・・・とスルーしかけましたが、「筆者改定版を反映した新たな文庫化」ということで・・・やっぱりデビュー作だから、ご本人としても振り返ると直したいところがあったのか。
ちなみにこのシリーズ、「北欧のイヤミス」と当時は捉えられていましたが、そうではないのです。 確かに読後感は最悪ですが、あくまで事実をベースに作品を書いている。
これはスウェーデンの、ある意味先進諸国の暗黒面なのです。
もし、これで絶版分(『BOX21』と『死刑囚』)を早川が責任もって出してくれるというのなら、この体裁で揃えますけど!

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山賊ダイアリー、一区切り。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

帯に<1st.シーズン最終巻>とあってびっくり。
これもずっと続くものだと思っていた・・・でも思い返せば「猟師という生き方・野生動物との向き合い方」について実は静かに考察を続けていた描写はあった。 ひとつ、結論が出たのかも。
ラストエピソードで、見開き2ページを使ってのカラスとの対峙の場面。
全7巻を通して描かれてきたテーマが凝縮されていたと思います。

帯の裏には<新シリーズ『山賊ダイアリーSS』、今冬連載スタート!>とあり・・・SSって何の略ですか!

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紙の本図書館の魔女 第4巻

2016/06/04 17:06

本好きの心の中にある大事な作品が次々と浮かび上がる

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

第45回メフィスト賞受賞作。
個人的にはメフィスト賞に別にこだわりはないのですが、年間ランキング時に翻訳家の大森望さんがこれを褒めていたような記憶が。 それにタイトル自体も何の変哲もないようでいて、微妙に気になる感じ。 しかも長い!

しかし読み始めてみると、山中の鍛冶の里の描写から。 タイトルからのイメージは、それこそ『ゲド戦記2 こわれた腕環』の巫女さんみたいな感じだったのですが、ハイファンタジーの世界とはいえ語り口がなんだか昔の日本っぽい(それは現在視点による地の文の語り手のせいでもあるのだが)。 なので荻原規子や上橋菜穂子作品が連想されたり。
メインキャラクターと思しき少年の名がキリヒトなので手塚治虫も浮かぶし、一の谷という国名・各地から集めた書物を保管する史上最古の図書館である“高い塔”の存在などは『指輪物語』のエルフのようだし、その図書館の管理者は古今東西の書物に通じ、あらゆる知識を網羅しているが故に“魔女”と呼ばれるが、その実態はまだ少女といってもいいほどの若さで、更に口がきけないとか、いろんな物語の要素が混ざっていますよ!、な感じ。

でもその<いろんな物語>は、読者によって、これまでどんな本を読んできたかによって感じ方が違うんだろうなぁ、と思わせるもので、決して不愉快ではない。 序盤からかなりの枚数を費やして「言葉とは、文字とは、いったいなんなのか」について語られるのは、ある意味<本読みの至福>と言ってもいいくらい。

では抽象論中心なのかといえばさにあらず、二巻目あたりで図書館の魔女・マツリカへの二人(二匹?)の刺客が出現してからは物語は一気に加速して怒涛の展開。 次なる刺客は暗示を利用する傀儡師(しかも名前は“双子座”!)だったりして江戸川乱歩や栗本薫を連想しますよ。 しかも双子座の正体についてはさりげなくヒントをばらまき、ミステリ的にもフェアであるという・・・。

才能はあるが口が悪い女子と、それをサポートする実直な男子、という組み合わせ的には遠藤淑子でもあるし、様々な立場の人々が集まって結果的に心を一つにしていくあたりは『南総里見八犬伝』にも通じるものが(そこまで人は死にませんけど)。 他にも思い出したものはいっぱいあるんですけどね、きりがないのと、やっぱり読んだ人によって思い出すものが違うと思うから。

国と国との戦い(内乱も含む)・資源の争いが物語の背景にはありますが、たとえば『氷と炎の歌』ほどハードでもドライでもなく、むしろ言葉や知恵の力で争い事を未然に防ごうとする話なので(登場人物が結構な怪我をする描写があるけど大概寝込んだ後は快方に向かう)、読者にも負担が少ないのはいいですね。
あー、面白かった。
めでたく10日ほどで読み終えました。

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紙の本現代思想の遭難者たち

2016/05/30 02:51

増補版、待望の文庫化!

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これの最初の単行本を持っているのですが、いつの間にか増補版が出ており、今回、その増補版での文庫化、ということで・・・確かに読んだことない章がある!
その第3章はギャグのキレがよりいつものいしいひさいち節で、思想家たちのキャラを自分のものにしてしまった強みを感じました。

もともとは<現代思想の冒険者たち>というシリーズ全集の月報に載っていた4コママンガ。 20代の私は図書館から順番関係なく一冊ずつ借り出してちびちび読んでいましたが、いつしか月報の4コママンガがいちばんの楽しみになり、そのギャグを理解したいがために本文を読んでいた、ような気がする(ギリシア~近代ぐらいまでなら結構親しみもあるのですが、現代哲学はユング以降さっぱりだったもんで)。

で、これだけ一冊にしてくれればいいのに、と思っていたので最初の単行本を持っているのです。 でも・・・遅ればせながら完全版を手に入れて、満足。
思想家のことは結構頭の中でごっちゃになっているので、これで復習できそうです。

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18世紀・ロンドン・外科手術・解剖・・・以上の言葉に反応する人は読まないと損!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

“Dilated To Meet You”というサブタイトルもついておりますが、もうこのタイトルだけで<18世紀・イギリス・外科手術・解剖>というキイワードが浮かび上がってくるではないですか。 にやにや。 あ、私は皆川博子さんの大ファンであります。

人体解剖で人体の仕組みを読み解こう、と使命に没頭する外科医ダニエルと、その若き五人の弟子たち。 それだけで十分面白くなりそうなのに、次から次へと死体がごろごろと出現・・・。
おまけに田舎からロンドンに出てきた若き(幼い?)詩人ネイサン・カレンが弟子たちの二人と仲良くなったことをきっかけに彼も絡んできて・・・ネイサンが体験したロンドンは、まるで『香水~ある人殺しの物語』の一部を髣髴とさせる描写もあり、読んでいて、ついついわくわく。

『ルパート王子の暖炉』をはじめとする時代的に正しいトリックや、盲目の治安判事サー・ジョン・フィールディングが目が見えない故に他の器官が鋭敏で、人が嘘を言っているかどうか・この匂いはこの場にふさわしいものなのかどうか、といったポイントから真実に迫っていくのも実にフェアプレイ。 時代ものでありながら、ミステリの王道。
さすがです!

なんだかんだと脇のキャラクターもまた魅力的。 中でも5人の弟子エド、ナイジェル、クラレンス、ベン、アルときたら・・・まったく年齢がわからない! 少なくとも全員18歳以上だろう、さすがに(ハタチ越えてそうな人もいるし)、と思っていたら<少年>と描写される人もいたりして・・・個人的に大混乱。 そりゃ、サー・ジョンも困惑するよな~。
 しかし彼らのどこかあけっぴろげというか、底なしの明るさめいた空気が、死体がごろごろ転がるこの物語をまったく陰惨なものにせず、むしろユーモラスで爽快ななにかまでも感じさせてしまう。 その反動でしょうか、最後の2ページでうっかり泣いてしまいました。

弟子に慕われるダニエルも、実は思っていたより若いのか? 実のところ弟子たちの存在感に押されて影が薄くなっていた個所もあるドクター・ダニエル・バートンですが、彼がもうちょっと研究バカでなければ、まわりにいる人の気持ちをもっと汲んであげていれば、と思う部分はあるけれど(本人も最後のほうでそう反省されてますが)、そうではないからこそ弟子たちはダニエルに心酔しているのかもな・・・と考えると非常に
皮肉で、かなしい。

しかし全体として素晴らしい。 読書という至福のヨロコビを思い出させてくれるに十分な作品で、もう、「大好き!」としか言いようがない。(2012年4月読了)

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名作連作『夢の碑』に連なる、もうひとつの日本の歴史

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西洋を舞台に『それは常世のレクイエム~夢見るゴシック』という作品を本書に先駆けて一年半ほど前に出してますが、今回、あえて“日本編”と断る必要があったのか?
むしろ系譜としては『夢の碑』に連なる内容だと思うのだけれど、出版社が違うし時期も違うからなのか、シリーズ的な位置づけにした方が売れるという戦略なのでしょうか?

長年、木原敏江ファンをしておりますのでだいたいどういう話になるかは最初の何ページか読めばわかる感じになっているのですが、これは久々に王道の木原マンガ!
これ一冊できっちりまとまる完成度が素晴らしい(もっと続けてほしい気持ちはあるけれど)。 おまけに、わかっていても泣いてしまうよ・・・。

鎌倉・室町時代あたりを描くのがこの人にはやはり合っているのかも・・・あぁ、ものすごい満足感。 まだまだ描いていただきたいなぁ。(2014年5月読了)

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中世にも科学捜査の概念を持ち込む自然さが素晴らしい

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オドのケルン市警時代の物語、スピンオフ第2弾。
この物語自体を単独で楽しめるほど、世界観のディテールもしっかりしている。
後輩フリートくんが更に頼りなくなっていたり、薬草学の師とも出会ったり・・・解決しなければならない事件はひどく悲しいものだけれど、オドくんにとっては市警として生きることの充実期にあるように思える。
ミステリとしてもきっちり筋が通り、時代の古さをむしろ有利に働かせている。
そんなオドが世を捨ててのちに修道士になるのだから・・・やはりあの人が関係しているんじゃないか、と私はつい勘繰ってしまうのです。もしあの人の裏の顔があって、それをオドくんが知ったとしたら・・・と。
『ファルコ』や『エロイカ』の続きも読みたいのですが、オドくんの悲劇を目の当たりにするのを少しでも先延ばししたいので、『ケルン市警オド』の続きをしばらくお願いします。

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