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  3. arima0831さんのレビュー一覧

arima0831さんのレビュー一覧

投稿者:arima0831

57 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本紙の動物園

2015/09/27 23:38

不思議な情感がしみる

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本来SFはあまり得意分野ではなくて、基本的に食いついて読むことはない。
しかしこの本に関しては、話を聞いただけで読みたくてたまらなくなった。

中国生まれアメリカ育ちの作家が紡ぎ出す、ちょっとエスニックな味わいのあるファンタジーSF短編集、という情報に惹かれた部分は大いにある。表題作は折り紙の動物たちが繰り広げる世界を描く、と聞いて、これがどうSFになるんだろう、と引っかかったこともある。

本作は日本単独で編集された短編集。2002年から2013年初頭までに発表された70篇の作品の中から、翻訳者が独自に15編を選び抜いたものだ。本国アメリカで著作が出版される前にこちらが進んでいたということで、非常に珍しいことではある。

で、読み始めて、まず冒頭の『紙の動物園』ですっかりやられてしまった。脳裏に浮かぶ情景は、温かで美しいイマジネーションに満ちていて、ワタシの気持ちの襞に、問答無用で食い込んでくる。あと、冒頭のこの一作はファンタジーではあるがSFではない。作品集全体を読み通しても、私的に一番気持ちの奥に直球で食い込んできたのはこの一作だ。

他の作品もすべて、なんとも不思議な情感に溢れている。しかし単に素直な気持ちの流れに沿って走る話でもない。その奔流があまりに多彩で強く激しいので、話によってはちょっとついて行けない時もあった。正直に言うと。

歴史ものかと思えばキュッとSFに転化したり、典型的なSFが美しいラブストーリーに化けたり、あるいは二転三転したり。不思議なひねりとうねりのなかで、アレレという間に気持ちよく飛んでもないところに落とし込まれてく。

読み終わってしみじみ思う。この作家の体中の細胞には、言葉と物語が溢れているのだ。
実は必ずしも上手な作家ではない、とは思う。端正な展開で緻密なプロットを練りあげるよりは、自分の中からあふれ出る奔流を一気にストーリーとして落とし込んでくる感じ。だから時には、ほとばしる流れを扱いかねるような印象の話もあるように思う。

でもどの話もアレアレレ、と驚いているうちに、じんわりした温かい余韻を残していく。この味わいが気にいれば、いくらでもいつまででも読んでいたくなる作家だ。

訳者のあとがきによると、この作家はハーヴァード出身の弁護士でもあり、プログラマーとしての顔も持つそうだ。多彩な人、というイメージは作品そのものでもある。色々面白い背景のある作家なので、かなり詳しいあとがきがついていて、こっちもこっちで楽しく読めた。

さて、第二作品集はいつ出るのだろう?
長編もそのうち出るということだし、また一つ待つ楽しみが増えた。とても嬉しい。

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紙の本安心のペットボトル温灸

2015/10/01 15:41

簡単だが効果は抜群

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まずは個人的な話から入ってしまうが、実はかなり前から温灸信者だ。
ツボの上にもぐさを乗せて火をつける、あの日本の古典的なやつ。と言っても最近はかなりインスタントな形状のものがあって手軽にできる。

この従来型のもぐさ温灸を、通い始めた鍼灸の先生に勧められたときは半信半疑だった。でもある晩、パソコンで長時間作業をした後の首肩凝りがあまりにひどくて、藁にもすがる思いで腕に数か所据えてみたらアラ不思議。バキバキの首筋がひゅるっと緩んでいるではないか。
それ以来、我が家には安価なインスタント温灸が常備されている。

一体なにがどう効いているのか鍼の先生に聞いてみたら、要するに温熱刺激の効果なのだそうだ。
押されれば跳ね返る原理で、熱さにキュッとなった体が反動で一気に弛緩する原理、というのか。
ツボを押さえてやれば効果絶大だが、そこを外したところで特に実害はなく、押して痛むところにテキトーに置けばそれなりに効く、といういい加減さがとても嬉しい。

しかし長年やっていて残念なのは、もぐさに火をつけるパターンだと肩だの背中だの頭だの顔回りだのに一人でできにくいところ。よくよく辛い時は連れ合いに頼むなり、意を決してもろ肌脱ぎ状態で自分の後ろ首に恐る恐る据えるなりしていたのだが、手足にチョイチョイ置くのと違って、しょっちゅう気楽にやれるパターンでもない。あと頭や顔はさすがに無理。
この辺、なんかいい方法はないかなあ・・・と思っていたら「ペットボトルを使え」という話に最近行き当たった次第。

80度くらいのお湯をホット用のペットボトルに入れて、ツボにギュッと押し付ける。それだけ。数秒押し付けてアチチと感じたら離してまた押し付ける、を数回。
なるほど、これだと首肩腰にお腹に背中、そして頭や顔回りまで、面倒も何もなく熱刺激を入れられる。

いやまあ、応急処置だから効果はそんなに・・・とやってみたら、なんだかひゅるっと緩むではないか。侮れない効き具合だ。もぐさ温灸のほうがじっくりじんわりくる感じはするものの、家でも外でもホット用のペットボトルとお湯さえあればできるお手軽さは何よりありがたくて、このところ本当にお世話になっている。

ワタシの場合、もう最初からすでにお灸マニアみたいなものだったので、ツボやら経絡やらは自分でもそこそこ見当がつくし、基本的なやり方はネットにも出ている。だからあとは我流でテキトーにやればイイヨ、と思っていたのだが、どうにも興味が湧いてきてついに本書を購入してしまった。

もう延々と長い前振りで申し訳ないのだけれど、結論を言うと買ってよかった。
例えば腰痛、咳、頭痛、胃の痛み・・・と諸症状への対応がカラー写真入りで説明されている。こういうツボや経絡の本は以前にも何冊か読んだけど、非常に無駄なくシンプルにまとまっていて、単なるツボの本としてもわかりやすい良書だと思う。

半分はそうしたペットボトル温灸のハウツーで、残りの半分は養生の秘訣と体質診断。
食養生、漢方、お風呂のススメなど、嫌みのない明快な語り口で、押しつけがましさがないのもいい感じ。するすると読める。こうした本の場合どうしても「あれはダメこれもダメ」の説教トーンが前に出てきてしまうのだけれど、その辺が極力抑えられていて読みやすい。

そういうわけで、ワタシには投資価値がある一冊となった。

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紙の本有頂天家族

2015/08/30 01:42

面白ファンタジー♪

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

京都には狸がたくさんいてね・・・という面白ファンタジー。
一見漫画的に軽い話なのだが、ひょいと読者を担いですたこらどこかにつれていくような、エンタテイメントとしての疾走感と緊密さは極上だ。
非常にテンポが良くて頭から尻尾まで楽しくて、この楽しさが、もうそれはそれは見事に一気に終盤まで繋がり、ラストの怒涛になだれ込んでいく。
しかし結局は「京都の狸」のお話なので、ぽやんとした能天気さに落とし込まれて「じゃあまたね」と終わってしまうわけだが、読後の和み感は比類ない。

好きなシリーズ。

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紙の本皇居東御苑の草木帖

2015/10/12 23:52

質量内容ともに非常にハイレベルな素晴らしい一冊。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

タイトルが示す通り、皇居東御苑の植物を紹介した本。御苑の位置に従って、各場所に植えられている植物が網羅されているだけでなく、その周辺でひっそり自生する野生の野花なども取り上げられているのが嬉しい。

各ページには隅から隅までいっぱいに、様々な花の絵と解説などが書き込まれている。植物名や科目などは活字で入っているが、絵とともに手書きのコメントもあれこれちょこちょこ書き込まれていて、情報量は膨大なもの。基本的には図鑑なのだが、読み物としても楽しめる一冊だ。

作者は植物が専門ではなく、建築設計の専門家あり画家でもある人だ。
非常に細密だが優しい絵が良い目の保養になる。
専門家とは違った視点から見た草木の解説を読むのも楽しい。

シダや竹など、絵では細かい違いをとらえるのが難しそうなものについては写真がついているケースもある。たとえばシダが2ページに15種類、竹が13種類、菖蒲に至っては84種が並列して解説されている。桜の色々、梅の種類、皇居にやって来る鳥たちや池にいる魚たち、毒のある植物の一覧まで、開くたびに見つかる楽しい別枠記事。どれもやはり素敵な絵がみっしり描きこまれている。

眺めていると、今まで姿形は知っていても名前がわからなかった花がよくでてくるのも楽しい。
図鑑で写真を見ていても、イメージがうまくつながらないことがよくあるのだけれど、この本の絵は「見えるままのイメージ」を見事にとらえているので、ああこれこれ!という発見があった。

この膨大な情報と絵を収集する手間を考えただけで気が遠くなりそうだが、それを編集し、バランスよく構成して出版する作業を思うと、もうひたすら頭が下がってしまう。
作者の植物に向ける情熱と愛情が先ず圧倒的だが、背後で支えた編集出版の関係者も大変な努力をされたのではないだろうか?
しかもこれが2000円しないのだから、皇居を訪れる機会があってもなくても、植物が好きな人ならば買って損はないと思う。

というわけで、質量内容ともに非常にハイレベルな素晴らしい一冊。
これを手にしてまた皇居に出かけたい。

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紙の本もう過去はいらない

2015/08/30 01:44

爺対決!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

メンフィス署の元暴力刑事バック・シャッツ。二次大戦ではアイゼンハワー将軍のもとで従軍したがヨーロッパで捕虜となり、ナチに囚われて強制収容所送りになった過去を持つ。そして引退後30年余り、強烈な口の悪さと偏屈さで周囲を困惑させ続けるヘビースモーカーの87歳が、過去のしがらみから事件に再び巻き込まれる・・・という設定は前回と同じ。

時は2009年。バックは前作から一つ年を取って88歳に。
さすがにこの年代になるといきなり数年飛ばせないようで、時間経過の刻みは細かく、おそらく半年後くらいの設定だ。

前作で集中治療室から(諸々あって)奇跡の生還を果たしたバックは、妻のローズとともに自宅を売却して老人ホームで生活している(このホームの名前が「ヴァルハラ・エステート」でクスッと笑える。もちろんバックが毒を吐いている)。日々辛いリハビリに励んで三か月以上過ぎるが、いまだに歩行器なしでは歩き回ることもままならない上、認知症までが進行中。前作以上に心身厳しい状況だ。

ある朝そんなバックのもとに、過去の未解決事件の犯人が現れる。
1965年にメンフィスで起きた大暴動に乗じて、銀行から巨額の現金を奪って逃げおおせた大泥棒。現在80歳。アウシュビッツの生き残りだ。
彼は何故かバックに「命を狙われている。身を守るために手を貸してくれ」と頼むのだが、案の定こいつが曲者で・・・。

話は2009年現在と1965年を往復しながら展開していく。
そして元暴力刑事ジジイVS大泥棒ジジイの息詰まるやり取り。
バックが終始一貫吐きまくる悪口雑言もますますヒートアップ。
拳銃と悪口雑言だけを武器に、まともに歩けもしない88歳が事件解決に向かう。
クライマックスは「入れ歯対決」と「歩行器勝負」だ(笑)!

架空ではあるが連想できる史実を踏まえた過去が、現在の事件と交錯しながら進行していく仕掛け。話は前作よりもひねりが効いている。行き当たりばったりな展開も相変わらずだが、このシリーズの場合はむしろB級ないい味わいになっているような気さえして楽しい。

老人自虐ネタを満載にして毒の効いた言葉を吐き続けるバックなのだが、モデルは作者の実の祖父との由。話が変にグダグダと喜劇的にならず、むしろ捻った笑いの中にキリッとした爽快感があるのは、作者の祖父への深い愛情ゆえだろう。
結局ナンダカンダ言って、この爺はとてつもなくカッコいいのだ。
今回の展開だと第三作もありそうなので、次を楽しみに待ってます。

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紙の本影の中の影

2016/01/10 14:41

アクションものや国際謀略ものが好きなら、確実に堪能できる一作。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『機龍警察』の月村了衛の新作。2015年はこれで三作目。
このところコンスタントに密度の濃い作品を出している。

中国のウィグル人弾圧問題を追う社会派女性ジャーナリスト仁科曜子は、ウィグル族難民グループの有力活動家テギンとのインタビューを取り付けるが、待ち合わせの場所で突然襲われ、テギンは殺されてしまう。死に際に残した一言は「カーガーに連絡を」だった。その後、中国からアメリカに亡命し、中国の国家的犯罪を告発しようとしているウィグル人グループとのコンタクトに成功するが、グループともども中国が送り込んだ刺客に追われることになる。追いかける集団は、中国人民解放軍特殊部隊でも最強の精鋭部隊の殺し屋集団。対して彼らを守るのは、曜子とかかわりのあるヤクザの率いる一団と、そして「カーガー」と名乗る謎の人物だ。カーガーは元日本の警察官僚だったが、過去のちょっとした経緯からスペッツナズでロシア式武術などの特殊訓練を受けた男だった。
ついに血で血を洗うせめぎ合いの幕が切って落とされる。

ウィグル族を弾圧する中国国家の国際謀略にCIAが絡み、日本の国家権力の思惑が複雑に錯綜する。背景が先ず抜群に面白い。しかしただの「怖い謀略もの」で終わらず、ヤクザと中国特殊部隊の死闘は始まるは、陰を背負った男カーガー対警察上層部との暗闘は絡むはで、アクション要素もテンコ盛り。なによりも終始奔流のように展開するストーリー展開は、一度読み始めたら最後まで本を置けない牽引力だ。さすがは月村了衛。今回も大迫力で突っ走って、一気に読み耽らせてくれた。

アクションものや国際謀略ものが好きなら、確実に堪能できる一作。
筋立ては少年漫画的なのだが、緻密な筆致と抑えた語り口は安っぽさを感じさせない。
さて次は何が出てくるのだろう?
機龍警察は新シリーズの連載が始まったそうだし、次々と目が離せない作家である。

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古代オリエントの宗教史を概観し、それが一神教世界にいかに変転していくかを自在に俯瞰する一冊。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

オリエント世界の歴史の中で、多神教から一神教に向かう宗教世界のダイナミズムがテーマ。

古代ローマ史の専門家である作者が古代オリエントの宗教史を追いながら、メソポタミア、古代エジプト、シリア、ギリシア、ローマといった古代世界の多神教世界を概観し、次にユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教に変転していく経過を追いながら、全体を「心性の歴史」と捉えて俯瞰する試みだ。

各地の古代史にせよ、それぞれの宗教の成り立ちにせよ、各地各国それぞれを切り出した形での解説はよくあるのだが、複数の世界を同時に行き来しながら全容と流れを捉える、というスタンスは珍しい。歴史の話は縦軸は綿密に追えるのだが、横軸で捉えようとすると途端にわからなくなるものだけれど、現実に隣り合う世界であれば、確かに一つの軸だけでは見えないものもある。

そうした複数の軸を自在に飛べるだけの学識のある人は、意外といそうでいないものなのだと思う。
わかりやすく説明する、となると、これはもう不可能域に思える。
宗教的背景のしがらみもあることを考えると、日本の研究者という立ち位置は、遠く離れて俯瞰するにはちょうどいいのかもしれない。

特にアクエンアテンの一神教改革とユダヤ教の源流との関わり合い、などという部分はちょっと胸が躍った。なるほど確かに時代で言うと、アマルナ遷都から出エジプト記の頃は半世紀ちょっとくらいの差だから、そういうこともあるかもしれないな、と思いを巡らせる。それ以上の細かい検証はなく、そう指摘するものが多くいて、必ずしもトンデモ話とは思えない、くらいにとどまっているのだが。

厳密に事実関係を検証する学術論文という体裁ではなく、徹底した論証を行うものでもない。新書という形で作者の思い描くイメージを巡らせていくスタイルなので、細かいツッコミどころは色々とあるのかもしれない。しかし学識豊かな面白い大学の先生の雑談に耳を傾ける感覚で、一つの流れのある「お話」としてのんきに各章を追いかけていくとむしろ楽しい。新書ならではの切り口ではないだろうか。

生真面目だが非常に流れのよい語り口もスムースで読みやすく、基本事項はうまく整理されていてわかりやすい。さらりと読めて非常に面白い一冊だった。

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紙の本機龍警察火宅

2015/08/30 01:35

本シリーズをまず読んだほうが面白く読めるはず

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

至近未来警察SF小説。巻が進むごとに物語の世界感が広がり、ぐいぐい深みを増している機龍警察シリーズ第五作。今回は短編集だ。

近い未来を舞台に、警視庁特捜部が最新型特殊装備「龍機兵(ドラグーン)」で国際的なテロと戦う話。龍機兵は機甲装兵ないしは「キモノ」と呼ばれていて、要するにガンダムみたいなパワードスーツだ。カッコいいキモノが派手にガンガン戦うだけで絵になる面白い話になりそうだが、そこは話のごく一部分にすぎない。おそろしく精密な人物背景設定が物語全体に張り巡らされていて、SF小説ではありえない臨場感と泥臭さのある警察小説でもあり、非常に現実的な人間ドラマも同時進行していく。

正直言って「今回は短編集」と聞いて、もう第五作目だし、去年は『土漠の花』なんていうまるで別の傑作も生みだしたし、ここは各所で書いた短編を一冊にして「一回休み兼ファンサービス」ってやつなのだろうか、と薄く疑ってしまったワタシではあったのだが・・・いやいや、とんでもない。

今回の短編はそれぞれに、シリーズの登場人物の背景を浮き彫りにしていく。
こういう話はファンが読めば面白いに決まっているので、普通ならファン向けのオマケ本になってしまいそうだが、そうはならないのがこの作家の凄いところ。

シリーズの登場人物を掘り下げる形ながら、それぞれの短編が物語として完成している。
テーマは例えば、不良少年がある警官と出会うことで更生する話だったり、ウガンダのテロリストが企てる恐怖の次世代テロであったり、かと思えば官僚社会で苦闘するオトウサンの姿であったりと、バラエティー豊かで面白い。

その一方で、短編だからこそ可能な形で機龍警察の世界観に奥行きを見せているのだから、これは真のプロの仕事ではなかろうか。素晴らしいよマッタク。

でも何より大事なのは「この一冊から読み始めないこと」だと思う。
一巻で十分面白く読めるのは間違いないが、それではこの本を読む醍醐味が薄まってしまう。
どうせなら前の話を読んでからのほうが、はるかに楽しく物語世界に没入できるし、複雑なパズルのピースが嵌っていく面白さを堪能できるはず。

先のストーリーの布石になるような設定も出てきて、ますますシリーズ続巻が楽しみになってきた。

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紙の本忘れられた巨人

2016/01/10 15:02

淡々とした展開の中、冒険譚よりは不思議な寓話性に取り込まれていく感があった。

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昔々、まだまだイングランドが暗い荒れ地ばかりで、鬼や魔物が人々とともに住んでいたころの物語。
アーサー王亡き後の時代で、甥のガウェイン卿が老人になっているところを見ると、6世紀ごろらしい。

とある年老いた夫婦が住んでいた村を離れ、他の村にいる息子のもとに向かって旅を始める。ほとんど隣の村のことだとはいえ、荒れ果てた荒野を抜け、道なき道を歩む旅だ。道中で魔物に遭遇する危険もある。

寒さや闇に惑いながらの道中、老夫婦が出会う不思議な人々。若きサクソン人の騎士、鬼に噛まれて村を追われる不思議な少年、そして年老いたアーサー王の騎士ガウェイン卿。吐く息が人々の記憶を消してしまう龍を退治しに、一行は山に向かっていくのだが・・・。

一歩間違うと安っぽいファンタジー小説になりかねない背景設定で、民話や伝説を淡々と綴ったような冗長さもある話だが、古のイングランドの闇を伝えるような筆致が不思議な情感を生んでいる。淡々とした展開の中、冒険譚よりは不思議な寓話性に取り込まれていく感があった。
様々なモチーフに託された比喩や隠喩が散りばめられて、茫洋とした捉えどころのなさが純文学的ではあるが難解さは薄い。非常に優しい語り口が魅力的だ。穏やかに慈しみあい労わりあう老夫婦の姿がとりわけ美しくて、淡々とした話に陰のある彩を添えていた。

ぼんやりと読み進めるのが非常に楽しかった。
何度かじっくり読みなおして楽しめる一冊になると思う。

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紙の本ザ・ドロップ

2016/01/10 14:44

なんとも不思議な語り口だが、乾いた独特の情感に流されるように読まされてしまった。

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孤独を抱えて日々を漫然と過ごすボブは、ボストンの場末にある冴えないバーの雇われバーテンダー。このバーはチェチェン・マフィアの裏資金の受け渡し場所(the drop)でもあって、裏の仕事はボブの従兄弟がもっぱら請け負っている。

ボブはある冬の日にゴミ捨て場で死にかけていた子犬を拾う。保護する時にたまたま行き会った女性ナディアに教えられながら、飼う気のなかった犬をなし崩しに飼う羽目に落ちるボブ。一方バーでは裏金の処理でトラブルが起き、店の周囲では危険な匂いが立ちこめていく。

孤独なバーテンダーが子犬を拾う、というところだけだと、なんだか心温まる話に思えるのだが、空気感はあくまで殺伐とモノトーン。背景にある場末のバー独特の饐えた淀んだ雰囲気が滲み出る。悪党もアル中も異常者も入り乱れて、ちょっと愚鈍なところのあるボブだけが温かみを感じさせてくれるような気がするのだが、話はラストに向けて意外な狂気を孕んでいく。

なんとも不思議な語り口だが、乾いた独特の情感に流されるように読まされてしまった。
全体は200ページもないので中編くらいの話だが密度は濃い。
明るさのない話に思えるが、ちょっとした光も感じられて魅力的だ。

非常に映像感が強いので不思議に思っていたら、解説によると「もとは映画」なのだそうだ。それも作者自身が脚本を担当した作品。さらにその基には短編があったとの由。
短編から映画ができて、さらにそれを作者自身がノベライズする。ややこしい背景だが、なんだか妙に納得してしまった。

映画のほうは日本未公開で、DVDだけは出ているらしい。なんと主演は『マッドマックス』のトム・ハーディー。どういう作品なのか、非常に気になる。

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紙の本こんちゅう稼業

2015/09/27 23:40

ほんわり恍けたお話が一つ一つ胸にしみる佳作。

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まず表紙がステキだ。
伊藤若冲の『糸瓜群虫図』調で、夕顔の花咲く間に間に虫たちが遊んでいる。

短い漫画はそれぞれに様々な形で虫をモチーフにした幻想譚。初出は90年代のガロだったそうで、なるほどちょっと見覚えのある「ガロっぽい」タッチではある。
ガロ調で虫?オエー!となる人も結構いそうだが、生臭くも暗くもない。
虫自体の書き込みはリアルなのに優しい風情で、虫好きとは到底言えないワタシでもほのぼのと楽しめる。それぞれが不思議で優しくて、ほんわり恍けたお話が一つ一つ胸にしみる佳作。

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紙の本有頂天家族 2 二代目の帰朝

2015/08/30 01:37

話の細部はけっこう生臭いけど、ほのぼのと優しい恍けた空気に包まれて面白馬鹿馬鹿楽しい話。

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京都に棲む狸たちの物語、第二弾。

面白馬鹿馬鹿楽しいストーリーはさらにボルテージを上げて、様々な姿に化けては京都の町のあちこちに現れる狸たちの生活を描き出す。

色惚けの老天狗に今回は後継者候補が出現。何故か百年前に諸々の経緯でイギリスに渡航して老師のもとを去ってしまったのだが、何故か帰朝して巻き起こる騒動。兄狸には恋話。主人公が許嫁の顔も姿も見られぬ深い事情は?敵の狸とは有馬温泉でついに因縁の対決が。そして兄狸は亡き父の「偽右衛門」をついに襲名できるのか?

・・・というわけで、今回も面白ネタ山盛りで展開していく。
ふんわりホンワリした序盤の展開に気持ち良い眠りを誘われながら読み進むと、終盤怒涛のように疾走するストーリーに驚かされる。
終わってみれば469ページもあって、中身も結構みっちり詰まっているから、軽い楽しい読み口の割に読み応えがあった。

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紙の本ドクター・スリープ 上

2015/08/30 01:28

シャイニングの続編

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キングの場合、他作品も似た傾向にあると思うのだが、何せ背骨のガッツリした長編だけに、背景設定が綿密に組み立てられて行く冒頭三分の一くらいは、ガッツリわしづかみで急加速しているとは言い難い。この辺が冗長だと思う向きはあるかもしれないと思う。

しかしそこを越えて話の全容が見え始めると、もう身動きできなくなってしまった。搦め手でドロドロした怖い世界観が醸成されていくとともに、輝く者たちの戦いへの道のりが示されていく。このややこしいようで直截的な勧善懲悪コントラストにかなり痺れた。

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紙の本塔里木秘教考

2015/08/11 01:08

端正で古めかしい語り口から生み出される、変幻自由自在な怪異譚。

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中国文学者でもある中野美代子先生の小説。
舞台は中央アジア。まずは新疆ウイグル自治区のウルムチから始まる。時代はおそらく1970年代のいつごろか。

しがない若手博物館員のアブリムクが、ある日不思議な古文書を読み解き始める。12世紀の古ウイグル語の文書とされていたものが、実は9世紀ごろのソグド語の写本ではないか、と疑いながら読んでいくと、何故かソグド語の文中にウイグル語で「アトム・ボンビシ(原子爆弾)」という言葉が出てくるのだった。
そして彼は、何故か中国政府の手によって連れ去られてしまう。

同居する双子の兄ウスマンは、地質調査を専門とする技師。帰らぬ弟を待っているうち、政治的な思惑から漢族の娘と結婚させられた上、突然タリム盆地の中心部で油田探しを命じられる。

一方別に展開する物語は、9世紀ごろのサマルカンドで始まる。
ここにも双子の兄弟がいて、弟は詳細を認められて隊商の一員に。兄は絵の才能を認められて神殿にマニ教の宗教画を描く役割を負ってやはり隊商に随行する。しかし、砂嵐に巻き込まれ、兄弟は離れ離れになってしまう。

そしてこの二組の双子の兄弟たちが、時空を超えて繋がりあう。時間軸を狂わせる砂漠の魔力に翻弄されながら、果たして彼らは片割れに再び巡り合えるのか…?

全編非常に静かで端正な言葉で綴られていく中で、幻想的な空気が濃厚に滲んで、時折耽美的な部分さえ見え隠れする。複雑な歴史背景や宗教状況などを綿密に抑えつつ、独特の幻想世界が織り成されていく。中世の中央アジアの状況も興味深いが、中国政府の圧政に虐げられるウイグル民族たちの社会的な立場なども物語のモチーフとなってくる。

そうした骨格のしっかりした背景に支えられつつ、荒唐無稽な幻想世界が止めようなく広がっていく。なんという広がりに満ちた話だろう、と読みながらため息をついた。
これは傑作だ。

中央アジア、シルクロード、新疆ウイグル地区、といった言葉に反応する向きは、非常に楽しんで読める話に違いないから、強力にお勧めしたい。そうでなかったとしても、独特の幻想譚だけを取り出して味わって楽しめるはず。

こんな素晴らしい作品を、二年近く積読山に埋もれさせていた不覚!
もっと早く読めばよかった、と後悔しているところだったり。

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新国立歌劇場の合唱指揮者が語る様々なエピソードが強烈に楽しい!

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作者は新国立歌劇場の合唱指揮者。1955年生まれ。
現在は日々各国から来日する指揮者と劇場の合唱団を繋ぐ役割を果たしている。
静かに相手を立てながら、ここは譲れないとなると強烈な議論も辞さない。そうしたエピソードの数々が描かれたエッセイ集だ。

大工の息子に生まれ、近所のオッサンたちのジャズバンド『モウモウバンド』に員数合わせで入り込んだ中学時代。
そこで音楽の面白さに目覚めて、音楽で身を立てていく決意をする経緯。

音楽家になって以降のエピソードは、対象が有名であろうと無名であろうと、非常にニッチなところに突っ込んだものだと思う。ネタとして珍奇と言ってよいレベルなので、当然それだけで面白いわけなのだが、この人の筆致には独特の熱がある。

例えばブリテンの『ピーター・グライムズ』を日本で演じるまでの様々なエピソード。
英語の発音についての諸々、ほぼ心理劇と言ってよい複雑なストーリーの解説が非常にわかりやすい。そして当日に至るのだが、非常に視覚的な描写のおかげで舞台が見えるような気がする。でも哲学的でもややこしくもなく、スッキリと素直な語り口だ。
右往左往する人々の姿も、面白おかしく、しかしプロの仕事の真剣さを感じさせるものだ。

他にも、各国の指揮者との交流、バイロイト祝祭劇場のスタッフだった時のエピソード、スカラ座での研修など、各国各地での経験談も面白い。そしてそれ以上に、この人の軽いけれど熱い語り口に、いつの間にか身を任せてしまう感覚が楽しい。

この本の面白さは、作家の独特な熱なのだ、と思う。
また何か出たらぜひ読みたいな、と思う音楽家が出てきてとても嬉しい。
オペラが好きな人ならば、必ず面白く読めると思う。

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