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片住一理さんのレビュー一覧

投稿者:片住一理

2 件中 1 件~ 2 件を表示

親しかりし団欒は散けぬ。そのかみ聞きえし反響も、あわれ、聞こえずなりぬ。

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「伯母や母のお友達」として、「ものごころもつかぬうちから目のまえに存在していてくれた」なァちゃん小母さんこと野溝七生子さんにあてた、矢川澄子さんからのお手紙(一部はノート)。
野溝さんの死後二カ月あまり(1987年)から、1989年にかけて書かれている。
繙くまでは、ホテル暮らしをしていたということ以外は野溝さんについて何も知らずにいた。立風書房の『野溝七生子作品集』の解説・栞を読んでも、野溝さんの実際の生活については得るものはなく、神秘のヴェールに包まれたひとといった印象であった。
しかし、小母であると同時に友人であり子どもでもあった野溝さんを知る「半母さん」こと矢川さんは、野溝さんの生前の様子が「原寸大で正しく理解されること」を願って、「史実に忠実たる」この書物を世に送った。
そうしてヴェールが剥ぎとられ、私たちの目のまえにしっかりとした輪郭を持つ野溝さんが姿を現した。
そのあまりのくっきりとした細部は、生前野溝さん自身が語らなかったことをここまで語ってしまった矢川さんに対して、本当にここまで書いてよかったのですか、と疑問を禁じ得ない。
――――――
[目次]
マズハ鎮魂ノタメニ
孝行の経済学
光ト、闇ト。
”と”の効用について
NOW OR NEVER! もしくは別れの美学
救われない子供たち

詩と真実
内なる家
失われた兄たち
短歌とラグビー
新風のゆくえ
ある結婚否定論の結末

散けし団欒

野溝七生子・鎌田敬止略年譜
あとがき
―――――
目次は以上のとおりであるが、私のように『アルスのノート』には未だ触れずに野溝さんの作品のみを知っている読者は「救われない子供たち」「内なる家」「失われた兄たち」に関しては頷ける部分があると思われるが、「短歌とラグビー」や略年譜の「鎌田敬止」という名前には疑問符を浮かべることだろう、「Genie und Geschlecht 第一課」でそれとなく匂わせていたとはいえ。
阿字子や征矢たちから遠く隔たった世界を生きていたというわけでは到底なかった野溝さんであるが、彼女の生活には男性の姿もあったのである。
鎌田さんについて結構なページが割かれており、「京都の旧制三高時代の消息から」死の様子まで書かれている。

矢川さんの文章に触れられるだけでとてもうれしいので星5とさせて頂きたかったのだが、どうしてもどうしても、ここまで書かねばならなかったのかという疑問が消えてくれないので、星は4つに。

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紙の本トーマの心臓

2017/04/09 16:32

それなら永遠に トーマには二度めの死はないのだ

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物語は、少年トーマの死で幕を開ける。
彼はおとなしく素直で容姿もかわいらしく、フロイライン(お嬢さん)と呼ばれている少年だった。死の土曜の朝、彼は一学年上のユーリへあてて最後の手紙を出していた。その手紙の内容に関する解釈に悩み、手紙を破棄した直後に、ユーリはトーマにそっくりの転入生エーリクと出会う。

(以下、少しネタバレにつき注意)

子どもの世界というものは、家庭と学校、ほとんどそれで全てだ。
彼らのような寄宿生なら、なおさら。
ユーリも、エーリクも、オスカーも、彼らは父または母のいずれかを亡くしている。
そして学校に対しても彼らはそれぞれ悩みを抱えている――ユーリはヤコブ館の二階のはしの部屋とトーマに、エーリクは亡きトーマと重ね合わされることに、オスカーは校長先生に。
エーリクとオスカーが家庭に対する葛藤を、愛に関する葛藤を乗り越えたとき、ユーリもまた明るい世界と神と愛を取り戻す。
逃げ続けていたトーマからの愛を受け入れ、他者を愛している自分を受け入れるのである。

人間が「自分」であり続けるために必要なものは、名前でも血筋でも肉体でもない。
他者との間の記憶と、記憶してくれる他者である。
(トーマが死を選択したことを礼賛するつもりではないが)現実にいる己に対する様々な愛の欠乏によって命を絶つ多くの自殺者と異なり、他者が未だ気付かぬその人に対する様々な愛をその人に気付かせるために命を絶った彼のことを、ユーリは一生記憶し続けるだろう。
トーマの心臓の音が止むことは、決してない。

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