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先月(2017年2月)

愛・蔵太さんのレビュー一覧

投稿者:愛・蔵太

23 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本葬列 Dear loser

2001/01/21 14:07

泣かせとオタク趣味の入った大藪春彦

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 これは大当たり本。著者プロフィールの「横溝正史を敬愛する」というのがもう、笑ってしまう(あからさまなギャグとしか思えない)ほど非・本格推理な本です。大藪春彦をスラップスティックかつオタクにした本というのが実感に近いな。話の基本部分としては、『最悪』(奥田英朗・講談社)という、小市民3人が銀行強盗に絡んであれこれする話を思い出させるような展開ですが、ハチャメチャ・パワー度はこちらのほうが数倍すごいです。

 自殺未遂の後遺症で身体障害者になってしまった夫を持つヒロインと、拳銃の使いかただけはちゃんとボスに教わっていた気の弱いヤクザ(離婚して、娘を抱えている)。ダンナのために金を欲しがるヒロインは、幹部の指示で対立するヤクザのボスを殺しそこなったドジな殺し屋ヤクザと、ホテルのおしぼりが取り持つ仲で連携する。仲間にはマルチ商法くずれの人生終わっている主婦と、心に傷を持つオタク娘が加わる。

 イントロの地味で暗いメイン・キャラ二人のキャラ設定の説明が終わると、話はどんどんどんどんすごい方向に進んで、逃亡生活を始める殺し屋と、オタク娘の生態が明らかになっていくにつれ、この作家がこの物語で展開しようと思っている方向と高さは、私が小説家として許せるレベルを遙かに超えた、小説神の領域に達しているのではないかと思いはじめました。銃器の(大藪春彦的オタクな)説明から、人がバリバリ死ぬ大胆な展開(ラスト直前の大銃撃戦は、映画でしか許されることのなかったトンデモ度です)、ミステリとしての意外な真犯人と驚愕のラスト・シーンは、物語の盛り上げ度として完璧です。

 リアルな生活を放棄しているオタク娘・渚のすさまじい過去の体験と、「ヒカル」という仮想現実キャラに対しての思い入れを語るシーンでは、涙が滂沱。こんなことを語られるのは反則だよなぁ、と思いながらも、作者の手に乗るしかありません。

 はみ出し者の刑事とか、ヤクザには思えないセンスのボスとか、絵画教室の先生とかはどう使うのかと思ったら、最後の最後でこのような使いかたがされるとは。デビュー作にして、小説中の登場人物の容赦ない使い具合と、読者は小説に何をどう求めていて、その求めているレベルを遙かに越えているものを提示している、という点において、並のプロ作家を凌駕しています。これだけ血も涙もない話を、ここまで没入させ、笑わせ、泣かせるという、途方もない技の磨き具合。これには才能ではなくまぎれもない職人芸があります。キャラ萌えではない、ちゃんとした物語を読みたいかたは必読です。

 でも、映画化された場合は、この「渚」というキャラは菅野美穂以外には考えられないなぁ、と思って、最後のほうはもう完全に彼女のセリフは菅野美穂のしゃべくり具合で文章を読んでいた私は、やはりキャラ萌え読者の血が濃いようです。ちなみにドジな殺し屋は稲垣吾郎ですね。

(初出:「仮装日記」2000年8月30日)

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いやはや恐れ入りました

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 ハルキ・ホラー文庫の、創刊時の作品では、これが一番かな。

 山の中に埋められた死体(美人のピアニスト)が、霊として生き返って、自分を殺した人間とその動機について知ろうとする(ここらへんは幽霊もののお約束か?)。魂を乗り移らせる相手として、目が見えないプラネタリウムの案内人(地味な女性)をたまたま選んでしまうが、それがどんどん意外な方向に行く。目の不自由な女性はレイプされ、そのレイプ犯と殺された女性(幽霊)とは、「大正時代に不幸な一生を送ったある別のピアニスト(女性)」を通して繋がっていることが分かる。その後山奥で見つかった死体は、DNA鑑定によるととてもありえないような真実を示し、その意味を探る若手刑事が物語を動かすキャラとなる。

 描かれている世界とかはまぎれもなくホラーだが(「死んだ人が、なぜ私には見えるの?」「きみが死んだ人間だからだよ」「あなたも?」「そうだ」と言った会話とか)、ホラーとしてのハッタリとか、読者を怖がらせようというようなあざとい仕掛けは恐ろしく欠如しており、個人的な印象としてはマーガレット・ミラーのような心理スリラー(ホラー)の妙を感じました。本文の間に入っている「現実に起きた事件の報告書」みたいなものの挟まれ具合とか。

 霊と合体したヒロインが、いきなりピアノの名手となってしまったりとか(ショパンなど平気で弾いてしまうのだ)、テレビドラマ的に「えー、そんなのよなー」と思えるような演出もあるのだが、これは実は裏の裏の真実に対する伏線でもあったりする。

 鎌田敏夫という作家に関する私のイメージは、テレビドラマ・映画の脚本家出身だとか、ミステリー系評論・時評で話題になっているのを見たことがない、とかで、正直言ってあまりいいものではなかったのですが、土下座してお詫びします。物語構成・キャラクター・物語のテーマ、という、作家として持っていなければならない能力を、この作品を読んだ限りでは見事に持ち合わせています。また文章力も人なみにあります(読んでいてちゃんと、シナリオではなくて小説を読んでいるという気分になります)。いやはや、恐れ入りました。

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紙の本ネバーランド

2000/08/19 11:46

高校生のトラウマ告白話だけどキャラ萌え

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 冬休みに学寮に残った4人の高校生(美国・寛司・光浩・統。正確には、統は残っている3人のところに遊びに来ている)が、朝食と夕食を食べながら各人のトラウマを話したりする話。死んだ高校生の幽霊が出るとか出ないとかで、主人公がその同級生の愛を受け入れられなかったことを後悔するところなどは、『トーマの心臓』(萩尾望都・小学館)がだいぶ入っていますね。パクリとか盗作ではなく、影響を受けて書いてみた青春小説でしょうか。

 これはなかなか良く出来ています、というより、いい話です。こんな高校生どもが実際にいるわけはないのですが、物語としてはこうでなくてはいけません。7日において語られる、登場人物の過去の話がどんどんすごくなっていって、怖いものの話が緑色の手、赤い爪、開いた扉と続くわけですが(これだけでは分からないと思うが、まぁ読めば分かります)、第5日目の、家を出たくてしょうがなかった光浩の話である「歪んだ扉」が、これはもう、とことん嫌な話で(←貶し言葉ではありません)、このあとさらに2日もあるのか、と思うと、かなりしんどい気持ちになります。ラストは一応感動する(最近の言葉づかいとしては、イコール「泣ける」です)エピソードが来ていて、ガツンとします。泣ける話の常套小道具としての「手紙」はあるし(おまけに2段がまえ)。

 これは、最近は作家に雑誌でそういうのばっかり書かせるところが多くなったせいか出版物としても目立つ、個々のエピソードがあまり絡まっていない連作短編集で(余談ですが、力量のある作家は書き下ろしの長編作品を読みたいです)、現在進行形で怖い話とかが展開している(どんどん登場人物が死んでいくとか)わけではないうえ、構成で読ませるようにもなっていないため、物語としてのチカラワザ的なところはあまり感じられませんが、各キャラに対して読後読者に様々な思いを抱かせる=キャラ萌え?なところがあって、物語のテーマを最近の普通の読者にも理解と解釈と共感が得られるようにしています。

 私の場合は、登場人物の十年〜○十年後、ということで、美国=作家、寛司=編集者(はありがちなので、弁護士かな)、光浩=会社経営者、統=学者もしくは研究者になっている、という設定を考えたのですが、いかがでしょうか。しかし美国が寛司の死亡記事を新聞で見る、というのは駄目か。メガネ君とデブと主人公とリバー・フェニックス。

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アメリカの刺客

2000/08/03 06:26

日本のアニメで映像が見たいような話

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 最近落ち目のイメージがある冒険小説ですが(その原因などについては少し真剣に考察したいところです。多分ちゃんと熱心に褒める若手の評論家・書評家が減って来ているせいでしょうね)、それでも海外にはなかなかいい書き手もいるみたいです。

 これは、第二次世界大戦の欧州戦線末期も末期に、ヒトラーの暗殺を命じられた男の話です。主人公のアメリカ人、ジャック・クレイというキャラが無敵。魔法のナイフを使って不可能を可能にする男。戦車を含む一連隊に取り囲まれても、隠れ家を丸焼きにされても全然平気で逃げまくり、目的にどんどん近づいていく。それに対するドイツ側のキャラは、ベルリン警察の辣腕警視(世が世なら警視総監にまでなれた男)・オットー・ディートリヒ。

 落城間近のベルリン風景とかを舞台に、歴史上有名な人物なども配置して、登場人物の皆さまが、逃げる、追う、殺す、壊す。漫画のルパン三世みたいな脳天気ぶりで、いかにもアメリカ人な主人公は、暗さとか悲壮感が本来感じられていい話を妙に痛快にしています。これ、金をかけてハリウッド的映画にするのも悪くないと思うんですが、日本の宮崎駿的アニメで映像として見たいような話ですね。ラストの「しゃべるのは苦手でね」ってセリフは、いいなぁ。あのシーンでこのセリフが出てくるセンス。これこれ、これですよ。

 ただ、敵役としてのキャラの、悪役としての魅力はどうも弱いので(ヒトラーに絶対の忠誠を誓い、恩を感じている、冷徹で頭脳明晰な、殺されてしまう悪役、というのがお約束でしょう)、たとえばジョン・バカン『緑のマント』(創元推理文庫・品切れ)という古典的名作と比べると、オーラスのアクション・シーンが物足りなく感じます。いや、この終わりかたもなかなか、ディートリヒ警視のモラルを感じさせて、それはそれでいいんですけどね。

 しかし、このキャラを使った続編などが読みたいです。田舎に帰ってヒロインと一緒にリンゴ園を経営する予定だったのが、その才能を見込まれて冷戦時代のエージェントになるんですね。でも、普段はカリフォルニアでへらず口を叩いているさえない私立探偵。1950年代テイストで、ここはひとついかがでしょうか。

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紙の本闇の貴族

2000/07/11 08:32

ピカレスクな暗黒小説

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 なんか、とんでもないものが人知れず出版されていたなぁ、という本。といっても、私の買ったのは1999年6月刊行の、2000年5月で3刷モノ。知っている人は知っている、ということですか。第7回メフィスト賞受賞者の、要するにメフィスト者ではありますが、本格系ミステリ読んで小説書き始めたんだろう、というようなメフィスト者に対する既成概念を持って読むと全然違うので驚きます。本格・新本格のコードではなくて、大藪春彦・馳星周、あるいは初期のウェストレイクを思わせる暴力小説。さらに言うと内容紹介には「悪漢小説(ピカレスク・ロマン)」と書いてありますが、ワタシ的には暗黒小説です。

 経営がうまく行かなくなった安売り家電店のオーナー・倉持が、冒頭で人生の残りの全てを競馬に賭けてそれを失う。家に帰ると極悪なヤクザ系借金取りが待っていて、厳しい言で彼を責める、という、もうはじめの数ページを読んで、読書の姿勢を改めました。世間知らずの新本格とは、明らかに違う種類の小説(ミステリー)です。

 この倉持をどういう人物がどういう目に会わして、どう喰い潰すか、が物語の始めの部分なんですが、その中心にいる主人公の「加賀篤」という人物がこれまたすごい。ヤクザのために父を失い、たかだか数千円の金で身を売る母に育てられる、という極貧の環境の中で、金だけを信じ、それ以外のすべてを金のために利用する、というスーパー・ピカレスクなキャラで、政界の大物、銀行の頭取、対立するヤクザ系のボス、子分のチンピラだが迫力あるワキ役の面々、いろいろな女性、殺し屋、などなど、どのキャラも青年劇画的にキャラは立ってはおりますが、この主人公にはかなわない。

 話の基本部分は、主人公がどのように様々な人物を利用し、その策のために破滅するか、というものですが、主人公に対立する、というか、やおい的関係にある(私感)「柴崎」という若者が、実にもう、とてつもなくいい味を出している。加賀を信じ、柴崎が憎悪する相手を殺させた、その全てが…という、暗黒小説の基本キャラのような、暗い目をしたプロの殺し屋として、日本で殺戮の限りをつくすラスト部分のアクションは、この小説中の白眉で、文章のテンポ・アクション描写(ちょっと北方謙三ライク?)などなど、「どうしようオレ、こんな面白い小説途中でやめられないよ」と、困った状況に読者を追い込むこと必須です。個人的には、○○を○に○○させた○○の○○が、コンビニの弁当とゴムボールで○○○させられる、というシーンが、ちょっと残酷性とギャグの入り混じった部分としていい感じでした。

 そして、デパートの屋上でむかえる、映画『マトリックス』を思わせるような、もう、ここで終わっていて欲しいと私が思った通りのラスト。余韻と感涙、驚喜絶賛。これを褒めずにいられましょうか。傑作。いやいや、大傑作。

 ただ、話が日本を舞台に、それなりに実相が感じられるような部分(本当のヤクザがどうなのか、はともかくとして)はいいんですが、外国の「世界統一をたくらむ(悪の)組織」とか、そのための殺し屋養成所なんてところは、石ノ森章太郎の漫画かい、とツッコミを入れたくなるぐらいリアリティがありません。今後の物語作りに若干の不安を感じさせる要因ではありますが、今のところまだ大丈夫みたいです。

 しかし、本格と泣かせのミステリーには、それぞれ毎年の「ベスト」本があるんですが、またネット内にも何人か、信用するに足りる本読みなかたはいらっしゃるんですが、結局自分にとって面白い本に出会うためには、市場に出ている本を手当たり次第読んでみることしかなさそうな気がするということが分かる(確認できる)ような経験ばかりをしています。私がどういった話を好きなのか、もう少しくわしく自己分析してみたくなりました。

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紙の本写楽殺人事件

2001/01/29 09:37

少し古さも感じさせますが…

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 浮世絵と蔦屋に関係した人物の関係を語り、分析している手腕は見事で、特に「過去に写楽は誰であると言われていたか」という説明と、その反証は息を呑まんばかりの美しさ。ここの部分の解釈は、トンデモ系を出すでもなく、最新の研究によって裏付けされた「写楽学」の変遷を丁寧に語っていて、完成度が高すぎです。

 出てきた古文書(古書)は、誰がどういう理由で仕掛けたのか、さらに浮世絵学界を巡る各人物の思惑など、小さい器で権力闘争をしている部分の、キャラクター的ディティールも、ありふれていると言えなくもないけれども、面白さ抜群で、収まるところに収まっている快感はけっこう楽しい。ラストの「文章」の出どころで、真実の底までが明かされる手腕も文句のいいようがない。と、褒める言葉しか思いつかないのだけれど、現実世界での殺人トリック(○○と△△をゴマかしてアリバイを作る方法)は、昭和30年代なみの古さで、古いけれども忠実に過去のミステリーをなぞっている以上の評価はしにくいところ。

 歴史ミステリーとしては、『猿丸幻視行』(井沢元彦・講談社)と同じような手触りを感じるのですが、ミステリーの部分では井沢元彦のほうが若干手際のよさがあるみたいです。でもこれなら及第点を楽勝でクリアしてるな。満足できました。

(初出:「仮装日記」2000年12月14日)

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紙の本うつくしい子ども

2001/01/27 13:43

小説書くのがうまい人

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 頭のいいけど異端な子どもが、子どもの犯罪事件を解決する。女装の子どもは本当にいとおしい。子どもを書くのがうまいなぁ。話の基本部分はなんか、『トーマの心臓』(萩尾望都)みたいです。でも、どこか暗くなくて救いがあってあたたかい。小説を書くのがうまい人。ミステリーとかを狙って書かなくても、普通にいい話が書ける人、というか、ミステリ・マニア的な体臭・体質を感じさせないのだな。藤原伊織のように、昔はそういううまい人はハードボイルド的泣かせを書いたものなんですが、今は乾いていることは乾いていても、暗くない。なんでこんな人が、ミステリーなんて書いてなければならないのか、と思ってしまうぐらいうまい。でもまぁ、その分ミステリーとしては物足りないですね。悲劇に巻き込まれてしまった家庭とか、クラスメートとか、各キャラの描写。事件の出し具合とその後の展開。普通のことを普通にやっていて、裏筋も伏線もこれといったものがないにもかかわらず引きつけられる。なぜみんなこのように書かないのか、ミステリ・ゲットーの人間の作品が不思議に思えてくる。裏ではものすごい文章修行をしてきたんだろうな、と思うんですが、それがすごさに感じられない。いいです。

(初出:「仮装日記」2000年12月1日)

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竹馬男の犯罪

2001/01/24 08:29

寺山修司的怪作

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 あまり知られていない名作、というよりは傑作。文章は我慢できるかできないか、ぐらいのレベルなんですが、話の幻想性と、殺人事件の謎に関する合理的な解決とが、不思議にマッチしている、とても奇妙な小説です。寺山修司が生きていたら劇団・天井桟敷のネタになっていてもいいくらいの幻想性ですか。でも、ちゃんとミステリになっています。怪盗まで出てきます。「呪われた家系」などもあります。うー、これは紹介するのが難しいぞ。

 文学系の作家が、趣味としてのミステリとしてこのような話を書いたとしたなら分からなくもありませんが(坂口安吾とか寺山修司とか)、ミステリ、というか、娯楽小説作家プロパーの小説としては、物語的破綻のからめ具合が芸術的すぎます。1980年代小劇場ブームのダシモノとして、下北沢あたりの芝居で見たいような話、という説明だと余計分からないよなぁ。

 しかし、井上雅彦がこのような作家的気質の持ち主だとは全然知りませんでした。この路線で長編を、年に1冊というのは難しいでしょうが、数年に1冊は書いていただきたいと思います。こんな話は毎年は書けないでしょう、多分。

(初出:「仮装日記」2000年11月18日)

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紙の本二の悲劇

2001/01/23 10:40

青春時代と中年時代の中間でないと書けない話

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 法月綸太郎の小説は、実は私的には毎度泣かされはするのですが(出来のひどさではなく話のテーマに。もちろん感動の涙です)、今回のこの話は、特に痛い話でありました。法月氏と「卒業写真」をデュエットしたい気分です。こういう話は、中年になりかかっている、というか、青春時代と中年時代の、うすぼんやりとした特定の時期にしか書けないような、回顧的青春小説です。メイン登場人物の二人に増して、背後に立っている「真犯人(というのかな)」の業の重さときたら、これはもう。最初の章の最後のフレーズと、最後の章のあれ。こんないい話を、ただの本格バカが書いていいものでしょうか(法月はただの本格バカではない、という意味を込めての修辞的疑問)。

 もちろん、本格ミステリの基本とも言える「ありがちな推理とそれがたやすく崩されるけれどもまた別の謎が生じる」という仕掛けも豊富で、推理の楽しみもこの話にはあります。冒頭の、ものすごくダメ感が漂う二人称とか、堪忍してよ、とココロの中で叫びたくなる「女子高生なみのヘタクソな日記」(「なんだかすごく乙女チックな書き方。仕事ではこんなセンチな文章はきっとボツにしてしまうのに。」云々はないだろう)もある種すごいものがありますが、実はこれは巧妙に仕掛けられた叙述トリック(みたいなもの)です。我慢して読んでみてください。この「きみ」の正体は、ちょっと想像がつかないぐらいびっくりするモノなので、覚悟しておくことも必要です。

(初出:「仮装日記」2000年11月16日)

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紙の本猿丸幻視行

2001/01/22 08:24

折口信夫もホモ・キャラですか

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 これはなかなか面白かったです。暗号の解読と、それによって導かれる「古代の謎」(猿丸太夫とは誰で、いったいどのような遺産を残していったのか)が実に合理的に解決されているのはミステリーとしてはかなりポイント高いです。暗号と特定固有の土地が氏の創作であることは明らかなのですが、その背後に隠された伝奇的趣向は、新本格とはまたひと味違ったいい味を出しています。半村良とかのようにスケールの大きい話が、大衆娯楽小説として安定した需要と供給のあった時代の良さを感じさせます。「なんでタイムトラベルで、折口信夫を主人公にしなければならないのか」という疑問は、ラストの大どんでん返しがあったとしても感じざるを得ないのですが、悲恋青春小説としての甘さと苦さが、映画「タイタニック」のように残っています。過去と現在とのつながりに、ブルー・ダイヤモンドみたいなのがあるといいのにね。

 しかし、折口信夫もホモ・キャラですか。裏設定はやおい。猿丸太夫と太古の天皇(になれたかも知れない人)との関係も、やおい繋がりを妄想させるところがあって、やおいな読者にも意外とムフフです。現在、というか、折口信夫の時代に起きた「飛び降り自殺をしたように見せかける殺人」という仕掛け(トリック)も、単純ながら効果的で、犯罪者とその殺人の動機も、思わず「あんぎゃー」と叫んでしまうほど、そこそこすごいです。文章も新本格以前のちゃんとした作家の文体になっていて(ちょっと私的には先に『逆説の日本史』シリーズを読んでいたのでノンフィクション風を感じてしまいましたが)、読み手に抵抗感を感じさせません。江戸川乱歩賞受賞作の本格系作品としては、いわゆる「小説」としてはいろいろなものを切り捨て気味ではありますが、かなり質が高いものだと思います。本格ミステリを読みたい人は必読と言ってもいいのではないでしょうか。

(初出:「仮装日記」2000年11月15日)

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脳男

2001/01/21 14:17

ストレンジャー・テーマのキャラクター小説

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 一言で言ってしまうと、鈴木一郎という脳男を主役にしたフランケンシュタイン、というかストレンジャー・テーマのキャラクター小説で、SFだったら『異星の客』(ロバート・A.ハインライン、東京創元社)とか『異星の人』(田中光二、今だとどこから出てるんだろう? 私は早川書房ので読みました)、ミステリーなら『夜の熱気の中で』(ジョン・ボール、早川書房、在庫状況は不明。映画名『夜の大捜査線』のほうが有名か)とか『よそ者たちの荒野』(ビル・プロンジーニ、早川ポケミス。あまり知られていない佳作)といった話を私は思い浮かべたのだが、普通に考えると驚異的ベストセラー『羊たちの沈黙』(トマス・ハリス、新潮文庫)以降一般的になった、頭のおかしくなった人を扱った犯罪小説、でしょうか。脳男は究極の犯罪者か…さぁねえ。それはこの話のキモなので言えない。

 後半の、病院を舞台にした派手な(映画的)アクション・シーンの入れ具合と、脳男の大活躍は、内容の割には淡々としていて(それを言えば全体の文章がそうなんですけど)、こういう疑似ミステリーでアクション小説に近い展開の話にありがちな無駄な盛り上がりを感じさせません。これがセンスというものでしょうか。しかし「なぜこれ、メフィスト賞じゃなくて乱歩賞?」という疑問はあります。読んでる最中にはメフィスト賞受賞作を読んでるような、普通のミステリでありながら意図的にタガを外している作品に思えてしまうんですね。

 作家的力量は十分納得ができるものだったので、脳男の後日談はまた数年後に書いていただくとして、次回作はある種タガの外れた本格系ミステリーでも期待してみたいと思います。

(初出:「仮装日記」2000年9月19日)

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慚愧の淵に眠れ

2000/08/17 07:28

これはけっこうな拾い物

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 キャリア的にはもう数年の実績があるのだけれども、安原顯以外の人間にはあまり認知されていない作家ですね(というか、彼がデビューさせたのか)。しかしもっと注目されてもいい作家のような気がする。私自身としてはけっこうな拾い物的作品でした。よく知らなかったけど、デビュー作『墓碑銘に接吻を』(学習研究社)と同じキャラクター、墓堀り人夫である原島(かつては警視庁の辣腕刑事で、行きすぎた仕事のため職務を離れてからはあれこれヤバい仕事をしたりした過去のある人物)という人物が主人公。

 二十年ぶりに何やら話に来たらしい、原島の名古屋時代の仕事仲間・関川が、櫃まぶしではない鰻を原島と食べたその後名古屋港で死体となる。あれこれ原島が調べるともなく調べているうちに、死因が不明瞭な死体がいささか関川の周りに多すぎることがわかる。そして名古屋で金髪の若者に蹴りを入れられたり、裏商売のプロに部屋を荒らされてこの件は忘れろと言われたり(ここらへんはハードボイルドのお約束ですね)、愛知県警の定年間近の刑事と熱い絆で結ばれたりする(ホモ・テイストはマインド的にアリ。ジジイですが)。事件のキーワードは○○と△△△△の犯罪。

 中年と初老と若者の中日ドラゴンズ・ファンによって事件が解決される、センスと物語を語るにおいて節度のあるハードボイルド(あんまり泣かせなし)、という評価です。暗黒小説系ハードボイルドに慣れている昨今では、ラストのアンチ・クライマックス的結末は拍子抜けですが(真犯人との銃撃戦ぐらいやってくれよ。主人公は病院のベッドというシーンで終わるのもまたよし)、物語展開におけるキャラの絡ませ具合は絶妙で、しかもチョイ役であっても忘れられない印象を残す書きかたをしている(原島を罵倒する喫茶店の小男とか、老刑事を尾行しながら差し入れをする「射撃の名手」とか)のが、とてもいい感じで心に滲みます。ここまでやってくれるかぁ、というハリウッド映画的スケールのアクションはないかわり、ほどほどによく出来たシナリオと名俳優による、日本映画のきわめてまっとうな作品、という印象があります。こういう形で忘れがたい話を書く作家が、最近は減りつつある(というより、大量の新刊に押されて目立たなくなっている)ような気がするのは、とてももったいないことのように思えます。

 しかし、あの「石原裕次郎の墓へ行くには、どう行ったらいいんでしょうか?」というのは名セリフですね。あのシーンであのセリフ。映画館だったら爆笑&拍手モノでしょう。過去に対するしつこいこだわりがあまりないところも、実は個人的には気にいってます。「昔の中日は…」なんて、主人公が若者に説教したりしないで、今のドラゴンズを好きなところ、とかね。どうでもいいと言えばいいかも知れませんが、生きかたに関するこだわりが歪んでいるハードボイルドの主人公はともかく、歪みすぎてしまうとやはりつらいものがありますんで。

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真っ暗な夜明け

2000/08/02 01:58

「ミステリ原理主義者」は喘ぎまくらんばかりの傑作

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 なんか、ひさびさに「ミステリ」としての、謎とその合理的な解決が楽しめた小説でした。大学時代(東京大学、ってことなんだけど、キャラ的にちょっと無理があるなぁ)にやっていたジャズ・バンドの仲間数人が大学卒業後に同窓会的に会って、帰りの電車のホームで一人が駅のトイレで、密室状態で殺される、というのが話の発端。限られた人数の中、なぜ被害者は駅の「あの道具」で殺されたのか、という、すごい謎とその合理的なすごい解決が語られるんですが、この解決編にはもう、私を含めた「ミステリ原理主義者」は多分喘ぎまくらんばかりの傑作。

 真相はこうだ、と思うだろう、いやそうではなくて本当はこれだ、とまでは思えるよな、ところが…と、探偵役の一人が延々と、起きた事件に関しての謎ときを数十ページにわたって語りつくす。この、なぜ犯人は「この道具」ではなくて「あの道具」で人を殺したのか、どうやって「密室」が作られたのか、犯行の動機は何か、という、本当に、実にたいしたことがないっちゃたいしたことがない話を、延々とやる、というのが広義の「小説」としては破綻してるんですが、これこれ、これだよミステリって、ともう内心拍手喝采。さらに、ラストのラストには、「青春小説としての苦み」までが語られていて、びっくりして腰が抜けました。犯行の動機となったあの人の、最後のあのセリフもすごいし…。

 いやはや、世の中にはすごい新人がまだまだいるものです。これ、はっきり言ってメフィスト賞だけじゃなくて、鮎川哲也賞でも江戸川乱歩賞でも楽勝で取れます(乱歩賞のためには、ちょっと「青春小説」部分の比重を強くしないといけないかも知れませんが…)。あちこちのwebページでも、ほとんど話題になっているのは見かけないので、ちょっと積極的に煽ることにします。

 ちなみに、この小説中には登場人物によるインターネットの個人webページ(作中では「ホームページ」)の日記が出て来まして、ワタシ的に言うとそのページは「普通の音好きのオタク系大学生による、普通の日記ページです。誰かを殺してしまいそうな予感はありますが、気のせいですか」というレビューになるかな。しかし「この日記はこの部分が偽造だ!」という、その判断の理由も、単純ながら合理的かつ専門的な知識を必要としないで読者を納得させるだけのものがある点においてけっこうすごかったりします。

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わらの女

2000/08/01 05:46

作家という名の神の技法を感じさせる逸品

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 一応彼女の代表作でもあり、古典的名作ということになっている作品。ハンブルクに住む(この市の特殊性が、後になって重要な意味を持ってきます)一女性が、結婚相手を探している金持ち、との新聞広告につられて、ヒドい目に会う話。サスペンス・スリラー的な展開は最後のほうまで微妙に持続し、ラストの展開はまぁ、普通のミステリー読みならたいていびっくりします(←ううむ、ネタバレにはならないとは思うが…)。

 創元推理文庫の解説では、「悪女書き」ということになっているらしいアルレーは、どうも馬鹿な女があまり好きではないのではないか、としか思えない物語展開が得意みたいです。植草甚一はこの話を『O嬢の物語』(ポーリーヌ・レアージュ、今だと河出文庫が一番入手が容易みたいです)と比較して語っているらしいのですが、それは非常にまっとうなやりかただと思います。

 ヒロインはまんまとわがままな金持ちを自分の虜にして、結婚することに成功しますが、そのこと事態が実に巧妙な罠だったとは…ええい、こんな話、ネタバレしないで紹介するのは不可能に近いぞ。誰が、どのように罠を張り、どういう風に物語の構成をその罠が支えているか、は、作家という名の神の技法を感じさせます。よくもまぁ、こんな筋立てを考えられるよ。

 カトリーヌ・アルレーの小説の中に出てくる会話やモノローグは、極めて単純な物語であるこの本ですが、読者の緊張感をほどほどに持続させながら読ませるだけの技術を感じさせます。サスペンスの演出が非日常と結びついたらモダン・ホラー、というよりスティーヴン・キングになる、という意味で、アルレーはキング的小説の先駆者かも知れません。いや、キングがアルレー的小説の正統的後継者、と言うべきなのでしょうか。

しかし、アルレー、面白いです。

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0と1の間

2000/07/25 01:02

2000年上半期ハードボイルドの一つの収穫

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 「0と1の闇」と誤読してしまったほど、暗い話。暗いというより重たい、か。沖縄県警の刑事(複数)が、連続殺人事件を探る。それと関連するような形で、病院内の犯罪についても語られる。

 登場人物のほとんどが、壊れた家庭(家族が死んだりしている)を持っていて、最後のほうでは登場人物の数すらどんどん減っている、という、すざましくも破壊的な闇を描いた物語で、犯罪者の憎悪とか怒りが黒い溶岩のように流れまくる、とても沖縄を舞台にしているとは思えなくなってくる、都会的な小説。これならロス・アンジェルスを舞台にしてもいいよなぁ、と思ったら、かなり『L.A.コンフィデンシャル』(ジェイムズ・エルロイ、文芸春秋)にインスパイア・リスペクトされたりしたりしている話だ、ということに気がつきました。いろいろなディテール部分、『L.A.…』にもあったのもあるような気がします。

 しかしこの小説、文章は基本的にはかなりうまいんですが、登場人物がその背後に持っている黒い気持ちが似ているので、登場人物の区別が今イチはっきりしないです。語尾に「ズラ」とか「だっちゃ」とかつけるといいかも(←冗談です)。沖縄という土地にある「自然」の描写とか、けっこういい感じなのに、暑くてたまらねぇ、といった感性的表現もあまりないし…小説書くのにいささか不器用さを感じますが、処女作・デビュー作にしては異常な今後の可能性を感じます。沖縄という地域的特性を生かした作品を書き続けるか、またそのことが作家にとっていいかどうか、は2作目以降を見てみたいと思います。

 とりあえず、今年上半期に出たハードボイルドな話としては、一つの収穫と言っていいんじゃないでしょうか。

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