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先月(2017年8月)

川名さんのレビュー一覧

投稿者:川名

1 件中 1 件~ 1 件を表示

痛みを催す羞恥心、そこから伸べられる救い

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 姫野カオルコは、恋愛にはびこる通説に風穴を開ける作家である。「自然体」と呼ばれるカジュアルな恋愛術を指し、「男が望む通りの軽さをお膳立てする媚」だと論駁した、恋愛に纏わるエッセイ『禁欲のススメ』など、辛辣で清冽な作品をものしている。そして、著者が言うところの「ふつう」の恋愛にしっくりできない読者は、「つきあうってなに」と喝破する、姫野カオルコの著作を渇望する。
 そんな筆者が、結婚をテーマにエッセイを著した。本書『みんな、どうして結婚してゆくのだろう』は、「女は結婚したいものだ」という、いつの間にか根付いていた「前提」、そこに漂う違和感を掬う作品となった。すべての女が結婚のことばかり考えているわけではない、キュートでメルヘンチックな夢を誰もが抱くわけではない、それを唱えたのは、やはり、「ふつう」の恋愛の違和感を紡いできた、姫野カオルコだった。結婚の「前提」になじめなかった者達は、ここで再び彼女の著作に救われることになる。

 しかし、姫野カオルコの作品は、もれなく痛い。そこに綴られた羞恥の知が、読む者の疚しさを疼かせる。なぜ、彼女の描く羞恥心は、痛みを発するのか。おそらく所以は、それが真実であることだ。
 本作『みんな、どうして結婚してゆくのだろう』を以ても、それは納得する。
 著者は、本書で、「清潔感のある色気」という表現について、「アホか」と恥を知る。こざっぱりした恰好に色気効果があると知って、清潔そうな身なりを装うことは不潔だと明言する。「清潔感と色気は相入れぬ」それは、まさに真実である。よって、赤い口紅を嫌うことで小心の言いわけをしていた男性、木綿のワンピースという小賢しい色気を以て迫っていた女性、そして、そこにそぐわないながらも、ちらりと羨望を抱いていた者、皆が痛みを自覚するのである。

 だが、それでも私達は姫野カオルコの本を求める。なぜならそこには、痛みを湛えた姫野作品にしか成し得ない、救いがあるからだ。本作最終章でも、著者は、所謂、恋のかけひきに「たまらない苦痛」を唱えるが、しかしそれでも、自分の足場さえあれば「ご縁」にあえると語る。「自分が今の仕事を、できる限りの力でやっていって、それでだれにもめぐりあわなかったとしても悔いはない、それがマイペースということだ。自分に責任を持つということに微笑めることだ」痛みの末に出会った、このフレーズを胸に留め、読み手は、本書を抱きしめる。そしてようやく、結婚の「前提」から、解放されるのである。

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