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  3. 松谷嘉平さんのレビュー一覧

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先月(2017年6月)

松谷嘉平さんのレビュー一覧

投稿者:松谷嘉平

15 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本ある詩人への挽歌

2001/04/30 01:31

味わい深いスコッチ・ミステリ

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 かの乱歩が35年以降の世界ミステリ・ベストテン第五位に選んだことでも有名な、『ハムレット復讐せよ』に続く第三作。
▼スコットランドの片田舎キンケイグ村の人々は、エルカニー城の主ラナルド・ガスリーを狂気に近いさもしさの持主と嫌悪していた。クリスマス・イブの夜、彼が墜落死する。自殺か、他殺か、はたまた▲。
 前作を読んだときも思ったのですが、この作家は風景描写が好きなようで長く、しかも上手い。特に本作では、自身の故郷であるスコットランドの冬の情景を丹念に描いて、いい雰囲気を出しています。
 語りの構成は、コリンズの『月長石』に倣った、複数の人物の手記によるリレー方式。
 たぶん乱歩が読めなかったというスコットランド語で書かれいるのだろう、第一部のイーワン・ベルの手記は、まず、事件の周辺にいる人物たちを紹介していく部分で、ここはちょっと現在の読者からすればゆったりし過ぎているいると感じられるかもしれません。
 でも第二部、事件当夜、城に迷い込んだ男の語りによるパートでは、恋人にあてた手紙という形式からして、たぶんストーカーの『ドラキュラ』を模したものだろう思われる、ちょっとゴシックな感じの叙述で興味を引き付け、続く第三部では俄然、探偵小説らしくなるという寸法。
 更にシリーズ探偵アプルビイ警部が登場してからは、真相が二転三転、読者は首根っこをつかまれて、引っ張りまわされる。ちょっと、ここはE・C・ベントリー『トレント最後の事件』を想起してしまうほどなんですが、狙っている効果は全く別で、結末もシミジミとした感じを与えます。

 実に味わい深いスコッチ・ミステリ。傑作。

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紙の本裏ヴァージョン

2001/08/19 00:47

裏の裏は、やっぱり裏

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 こういう小説は、自分では語りにくいのです。ということで、だいぶ前に読み終わっていた友人、naubooクンに助けを求めました。以前もらっていたメールをそのまま使ってしまいます。
 私がここに書いている読書感想を自分のサイトで無断で使っているので、みかえりに。まあ本を貸してもらったりしてるんだけど。

-------

 naubooです。
 松浦理英子の『裏ヴァージョン』は、まだ読んでないみたいだね。
 長篇?、それとも連作短編集…何とも形容しにくい作品なんだけど、冒頭から短編と、それに対する読者の寸評が続く形式で進んでいく、最初の一編はホラー・タッチなんてところは、ぼく(そして恐らくは君)のような以前からの読者は、ちょっと吃驚しながらも、続く数編ではレズビアニズムやSMが取り上げられるようになると「いかにも」という感じになってくるんだ、と言っても、これまた舞台がUSAだっていうのは、ちょっと「裏芸」と言えば、そうかな。
 裏芸、裏ビデオ、『裏窓』(ピーピングの話だね)などなど、「裏」というと、ちょっと隠微な感じがするけども、本作には、そういうところはなくて、やっぱり松浦って作家は、性を主題に取り上げても、そういう扇情的なことは意図しない、「上品」な作家なんだな、などと印象を新たにする一方で、けれども、やっぱり「裏ヴァージョン」なんだ。
 しかも「表のない裏」、裏声が西欧音楽的な歌唱法では、全くの「表芸」であるあるように…なんて例えで納得してくれるかい?——そういうば裏声の反対は「オモテ声」じゃなくて、「地声」だね——、違う言い方をすれば、上下とか、二項対立っていうのは、どちらかを基準にして他方を上または下というわけだけど、その時には、必ず第三項というのが仮定されている、対して「裏表」というのは、ウラとオモテそれぞれだけで、もっと曖昧なんだ、つまり直ぐに引っくり返ってしまう、ってこと、これは作中にあるように、「虚実、皮膜の間」というのと同じだね。
 でも虚構は虚構なんだよ、と言うか、「書かれているもの」は全て虚構なんだな、「語ることは騙ること」、なんて駄洒落みたいだけど、本来的に「全てを語ることはできない」んだから、この小説でも途中から「書き手」が自分を「挫折した作家」と認めるようになって、私小説めいてくるんだけれども、私小説も、やっぱりフィクションなんだ、読者が登場人物の「私」を作家だと思っても(そう思うように書かれていても)、それは作者そのものではないし。
 とにもかくにも、小説と言うのは「表のない裏」だってことで、本作が「裏」だとすると、『ナチュラル・ウーマン』の裏ってことかな、肉体的な関係を持たない作中の「書き手」と「読み手」は、過去の作品の中の二人の女性の「裏ヴァージョン」、でも、この場合、「裏の裏」は表じゃなくて、やっぱり裏なんだ。
 別タイトルをつければ『君の友だちYou've Got A Friend』、という感じかな。

nauboo

PS.断りなしに、ぼくのメールでの読書感想をbk1に投稿してるだろう。一応、親しきなかにも礼儀あり、だと思うぞ。
 まあ、君から貸してもらった本ばかりだけど。

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紙の本死のようにロマンティック

2001/04/30 01:44

死にそうなくらいにロマンチックな男女の悲喜劇

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 現代イギリス・ミステリの実力派による、ひねりの効いた異色サスペンス・ノベル(1985年)

▼語学教師マデリーンは37歳にして、やっと「理想の男性」にめぐり合えた。一方、マデリーンの生徒で19歳のポールはマデリーンを「理想の女性」として密かに思いを抱いていたのだが、彼女が同僚のホプキンズと関係を持とうとしていると知ったとき、この奇妙な三角関係は一つの死をもって終わる運命へと動き出したのだった。▲

 原題は"Dead Romantic"。邦題はあんまり合っていないような…。'dead serious'「クソ真面目」という用法と同じように、'dead'は「否定的な強調」の意味で使われているのでは?だとしたら「死にたくなるほど〜」とか「死にそうなくらい〜」という方が良いのでは。
 というのも、登場人物たちはロマンティシズムに「毒された」人々ばかり。そして、彼らはみんな、自分自身のロマンスの主人公/ヒロインを演じるんですが、その「理想」と「セックス」との齟齬の間に嵌り込んでしまいます。
 オールドミスになりかけているマデリーンは自分が教えているイギリスロマン派の詩の世界にどっぷりと浸りきってロマンスを夢見ているし、ポールの頭のなかはセックスに対する観念的な妄想ばかりが渦巻いている。またホプキンスは妻が病床に伏していることを理由に影のある中年男の悲哀を演じている、といった具合。
 サスペンスには「ロマンティック」なものが含まれていることが多いですが、これはそれに対するパロディー的な感じ。
 一方、ミステリ的な仕掛けにも捻りが効いてます。まあ、いわゆる「クライム・クラブ」系ってやつ。これが全体の'dead romantic'な調子とあいまって小気味いい効果を上げています。
 しかも「二捻り」。一つは「流し読み」してると、ちょっと判らないものかもしれませんが。

 軽妙ではあるが軽くはない秀作。

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黒い霊気

2001/04/30 01:38

シャーロック、俺も名探偵だ!

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 先ごろ、物故したスラデックの長篇パズラー第一作。(といっても『見えないグリーン』とこれだけですが)

▼依頼が全くなく、退屈しきっていた素人探偵サッカレイ・フィンは、程度の低い謎だが、そこは妥協して、いんちき臭い降霊会に参加した。ところが、そこで起こる摩訶不思議な事件。「密トイレ」から人が消失。また男が空中浮遊したかと思えば、突如墜落死。しまいには「二人の男がタンゴを踊っていた」(!)という珍証言まで飛び出す始末。▲

 まったく人を食った展開を見せる本編の名探偵フィンも大層な人物。「シャーロック、俺も名探偵だ!」とばかりに、何かというとホームズにアイデンティファイしようとする、まあ変なやつ。
 全体的に探偵小説のパロディと言った雰囲気ながら、そこはしっかりとパズラーになってます。
 密室と空中浮遊のトリックのメカニズムはあまり面白くないんですが、「タンゴを踊る二人の男の謎」の真相がなかなか愉快な効果を出してます。
 その他、「名探偵を夢見る名探偵」フィンの「夢想」が所所にちりばめられていて、それが、ショートショートとして読んでも、かなりの出来。ラストの空想なんて、本業のSF作家としての資質を感じさせますね。
 幸い、復刊されたんで、『見えないグリーン』だけしか読んでない人は、手に取ってみては?

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紙の本時間の習俗 改版

2000/08/10 01:48

本格ファン必読!『点と線』以上にトリッキーな「アリバイ崩し」

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■極めてトリッキーな「アリバイ崩しもの」の本格推理小説。
▼神奈川県の相模湖畔で交通業界紙の社長が殺害される。三原警部補は容疑者としてタクシー会社の専務に注目するが、彼は殺害推定時刻の数時間後に九州の和布刈(めかり)神社で行われた神事を見物していたと主張、その写真を証拠として提出する。三原は「あさかぜ」の事件(『点と線』)時と同じように、福岡の鳥飼老刑事の協力を受けながらこの鉄壁と思われるアリバイを解明していく。
■『点と線』以上にトリック小説としては高度な作品。非常に手強いアリバイ・トリック(ちょっと物理的には時代遅れになってますが)を、幾多の試行錯誤を経て解明していく展開は、まさに推理小説。「これをパズラーと言わずして、何と言う」といった感じ。なんですが、あまり評価されないんですね。その理由は結構、単純なんじゃないかなって思います。
■まず、犯人があまりにも早くから一人に絞られてしまうこと。
つまりフーダニット性が皆無。『点と線』の方は同じように見えて実はそうではない作品で、しかも「動機の複雑さ」というのも用意していたりするんですが、そういうのは、まるでなし。動機も単純で掘り下げもなく、その点「社会派」とも言えないです。
■阿刀田高は『松本清張あらかると』で、本作について「刑事コロンボを想起した」というようなことを書いているんですが、確かに、倒叙物のスタイルでストレートに書かれていた方が面白く読めたかもしれません。
■このことを含めて、結局、本作の欠点を一言で言えば、小説としての叙述に魅力が乏しいということなんですね。
■特に推理の過程が単なる「説明」に流れてしまうところが問題。このことは『点と線』でも多少言える事で、もしかしたら清張の欠点なのかもしれませんが、それでも後者では推理している三原の「様子」を同時に描くことで上手くカヴァーできてるのに対して、本作の方は、そういう部分の描写が少なく、叙述と推理の説明の間の距離がゼロに近くなってしまってるところが多すぎて、何だか小説のシノプシスを読まされているような気分になってしまい、著しくサスペンスが減退するという悪い結果になってしまっています。
■このころは清張は完全な流行作家で忙しかったんでしょうし、本作がそうかは判りませんが、口述筆記もしていたようで、その点で小説としての表現に不備が出てしまったんでしょうね。そういう点がきちんとしていれば、かなりの傑作になったと思われるので、ちょっと残念。ただ、マニアな方は、絶対に抑えておくべき一編かと思います

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紙の本噓でもいいから殺人事件

2000/08/10 01:36

本格物の「お約束」が大盤振る舞いのユーモア推理小説

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■クローズド・サークル、切断死体、密室などなど、数々の「お約束」が楽しい、軽妙なユーモアあふれる本格推理小説。
▼TV局ADの「ボク」隈能美堂巧は、「やらせの三太郎」の異名を持つ軽石ディレクタ率いるロケ班のスタッフとして東京湾に浮かぶ無人島、猿島へ乗り込んだのだが、台風上陸により本島との連絡は絶たれてしまう。そんな矢先、殺人事件が起こる。
密室、人間消失、死体切断……、数々の謎の真相は?
■フォーマットとしての「ユーモア・ミステリ」の中で、描かれるのは、TVの世界。というと、いかにも「軽い」作品のような印象を受けるかもしれませんが、「軽妙」であっても「軽薄」ではありません。
■文体も、「その手の作品」にありがちな「一文改行」のスカスカ文章ではなく、逆に前半部分などは、島田氏の他作に比べても、じっくりと話を進めているくらい。
■戯画化されたキャラクタと、適度な脱線をはさみながら進む展開が愉快なので、「いかにもパズラー」という要素が、気の抜けたものにならずに済んでいるという印象もあり。
■殺害動機が犯人の告白によってしか不明なところは、まあ玉にキズですが、タイトルからも予想できる趣向を早々と明かしてしまうところなど、流石に「安手は使わないぜ」と言った気概が感じられますし、トリックも、基本的なメカニズムの部分は、それほど難易度は高くないとしても、細部に渡って良く練られていて、「ユーモアものでも、しっかり本格推理を」という著者の信念が伝わってきます。
■最近の島田氏は、「御手洗もの」と「吉敷もの」に絞って作品を発表されているようですが、こういうノン・シリーズやユーモアものも書いてくれないものでしょうか。

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招かれざる客

2000/08/10 01:02

謎解きの醍醐味が楽しめる、著者の処女長篇

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■笹沢左保というと、サスペンスや、「木枯らし紋次郎シリーズ」を始めとする時代物の作家という印象が強いですが、特に初期には優れた本格推理物(パズラー)を多く著しています。本作は乱歩賞で次席に留まりながらも出版された著者の長編第一作。
▼労働組合内部で秘密漏洩が発覚。そのスパイと判明した鶴飼が殺害される。また、それに関係すると思われるもう一つの殺人事件が発生。捜査の末、一人の男が容疑者として浮かび上がるが、逮捕直前に、その男は不慮の死を遂げてしまう。事件は、そのまま終結したかにみえたが……。
■前半は、関係資料を通して事件を叙述していきます。この部分に無味乾燥なような印象を持ったり、読みづらく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、このような客観描写で、事件を徹底的に検証していくスタイルは、探偵役の手記として叙述される後半に生きてきます。前半では不可能と思われていたこと、いくつもの壁が乗り越え、あるいは破られていく様は客観的に今まで描かれていたために尚更、鮮やかなのです。
■犯人によって幾重にも仕掛けられたトリックも極めて巧妙。「ちょっと名犯人過ぎるかな」と感じる部分もありますが、一番のメインの部分には、もう感心するしかありませんでした。それは極めて深い根を持った殺害動機を巧に隠蔽するものです。
■思わず「あっ」と叫んで驚嘆する、そういう謎解きの醍醐味を味わうことができます。

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着想からして「技あり」の傑作サスペンス・ノヴェル

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■第28回日本推理作家協会賞を受賞した傑作サスペンス・ノヴェル。
▼発端は新幹線の水洗トイレの水が流れないという、些細な故障だった。その修理点検の際、汚物タンクから発火装置のない爆発物と脅迫状が発見される。内容は、開業10周年記念日までに新幹線による騒音と振動を是正しなければ、当日列車を転覆させるというものだった。続いて予告どおりに起こる人為的な事故。公害という「社会犯罪」を告発する「実行者」と、彼の「犯罪」を食い止めようとする捜査陣の闘いは、遂に開業記念日まで続いた。
■もう、最初の着想から「技あり」でしょう。所謂「社会派」的な題材を扱っているわけですが、それがただ単に「扱った」というレヴェルでなく、それ自体が物語全体を突き動かす原動力にまでなっています。
■作中で「実行者」はパレスチナ・ゲリラに喩えられますが、無関係な旅客機をハイジャックすることで主張を行う彼らに対して、本作での「実行者」は直接、告発の対象に照準を合わせた計画を立てます。しかも、最終の転覆計画までは、一人の血も流さずに次々に計画を成功させていく。
■彼が計画に至った動機や彼のパーソナリティを知るにつれて、読者は自然と彼に感情移入して読むようになります。実質的に、この小説の主人公=ヒーローは「実行者」なのです。
■この着想を生かし、中盤の展開も「実行者」と捜査側の責任者との息詰まる頭脳戦が繰り広げられ、クライマックスは読み応え十ニ分。終わり方もダラダラと流れずに、スキッリと収まるところに収まって「一本、勝負あり」という作品です。

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理論的には優れた評論だが、実践的には不親切

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 センス・オブ・ワンダーの概念を中心にして「SFの原理・歴史・主題」を考察した長篇評論。

 〈センス・オブ・ワンダー〉、日本語にすれば〈驚異の感覚〉は文字どおり「感覚」であるので、このジャンルで広く使われている割には、これまで理論的に語られることは少なかったようだけれども、本書は現代の認知科学の成果を援用しながら、明確に分析を行っている。
 人が何かを理解するには、「知識を表現するための枠組」である「フレーム」が必要であるという、マーヴィン・ミンスキーの理論に基づき、著者は

 [センス・オブ・ワンダーとは新しい世界のフレームを手にした時の心の躍動である](p36)

と定義する。

 さて、このように「SFの原理」を詳細に語っていく第一部だけれども、「詳細さ」が科学的な仮説に基づく説明に力点が置かれている分、個々のSF作品が証例として奥に引っ込んでしまっている点は、私のようなこのジャンルに疎い入門者にとっては不満が残るところだ。
 例えば、ここでもフレドリック・ブラウンの短編「天使ミミズ」について、先の原理を敷衍しつつ分析して、ファンタジーとSFの違いについて語る部分などは、非常に興味深く読むことができるので、このようなかたちで、もっと作品を前面に置きながら、理論を語るほうが良いように感じる。
 ここらへんは演繹法的なものよりも帰納法的な方が私の好みだから、ということかもしれないけど。
 この不満は「SFの歴史」について書かれた第二部でも同じくで、その意味では、作品論的な要素の強い第三部「SFの主題」が一番、面白かった。

 門外漢の勝手な思い込みを書くと、SFが近年、ムーブメントとして低迷している理由には、それを語る力の衰弱があるのではないかと思う。
 本書は、確かに「SFとは何か」ということに関して明確な答えを用意してくれはする、のではあるけれど、「この作品を読まなきゃ!」という衝動を駆り立てるようなスリリングなところが乏しい(まあ、いくつかは、そういう作品を見つけましたが)。
 蓮実重彦風にいうなら、今SF評論に必要なのは、そのような「煽動機能」だと思うのだけれど、どうだろうか?
 なぜなら、本書自体が明らかにしてるように、重要なのは〈センス・オブ・ワンダー〉を読者自身が「発見」することなのだから。

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新車の中の女

2000/11/05 00:04

訳文は読みづらいけど、面白いフランス・ミステリ

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■「一人四役」という空前のトリックを用いた『シンデレラの罠』で有名なフランス・ミステリの奇才による第三作(1966年)。昨年、復刊されたとき新たに付された連城三紀彦による解説が、非常に力のこもった良いものだったので読んでみました。
▼夫婦で旅行に出かけた雇い主に回送を頼まれた新車サンダーバード。それを勝手に拝借してしまったダニー・ロンゴは未だ見たことない海へと向かって、一路南仏へ。途上、何者かに襲われ利腕の左手を負傷した彼女に、更に事件が降りかかる。何と、車のトランクには見知らぬ男の死体が入っていたのだ。そして、行く先々で出会うのは、自分としか思えない女と出会った人々。自分は気が違ってしまったのか?そして殺人者なのか?
■正直言って訳文が読みづらい。こう言うニューロティックな話は「わけがわからない」という状態自体を「分かりやすく」伝えなければならないと思うのですが、本当に何が起こってるか判然としないんです。これは同じ訳者の『シンデレラ』の訳文にも多分に言えることだと思いますね。フランス・ミステリが、あまり日本で読まれないっていうのには、そういうところが一因になってるってことはないでしょうかね。原文自体、かなりテクニカルでひねった文章でしょうから、訳すのが大変なんでしょうけど。
■と言っても結末は本作の方が腑に落ちます。極めて異様で、不可解な謎が、ヒロインに不安をもたらしていく展開自体は魅力的ですし、真相も見事に物語を反転させて、合理的な解決に至るという非常にパズラーとしても優れたもの。
■翻訳でのマイナス面があって多少読むのに苦労しても、そういう味を楽しみたい方は読んでみてはいかがでしょうか。まあ、「連城作品を読んでればOK」っていうことも言えないではないですが。

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五番目のコード

2001/06/17 03:14

騙し方は弱いけど、面白いミッシング・リンクもの

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 60年代にトラディショナルな・フーダニットの健在振りを示した作家による1967年の作品。

▼とある高校周辺のコミュニティでおこる連続殺人。犯人が、その都度現場に残していったと思われる棺の絵が描かれたカード。容疑者と疑われた新聞記者ジェレミーは、かつての恋人で教師のヘレンとともに事件の謎に迫る。

 クリスティの『ABC殺人事件』などを初めとするミッシング・リンク・テーマの系譜につらなる作品。五部構成でそれぞれの冒頭には「殺人者の日記」が付される。

 以前読んだ『兄の殺人者』もそうだけれど、形式的には「巻き込まれがたサスペンス」。人生における問題を抱えたジェレミーがヘレンとのロマンスを通して「変化」していくという教養小説的な部分は、基本的にハッピーエンドに終わるということでは、〈逆さまのパトリック・クエンティン〉とも言うべきでしょうか。
 同時に「連続殺人」という事件の性質上、必然的にサスペンスが醸し出され、読み応えのあるストーリーを織り成す。
 そして、その奥に犯人の意外性を仕掛けたパズラーが骨格としてあるところが、この作家の特質。この点はトリッキーというよりも、ミスディレクションを中心にしたモダン・ディテクティブ。

 ただ、訳出当時の「このミス」で法月綸太郎が世評の高かった本作よりも『兄の殺人者』を推していた理由は両作を読んでみると良く判りますね。
 本作での誤導のしかたというのは、ある意味で良くあるパターン。私も前者には騙されましたが、今回は犯人を早いうちに指摘できました。とは言っても、犯人を特定する物証をきちんと置いているので、その点は技術的に高い。

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結婚って何さ

2001/06/10 04:18

序盤はユーモア・ミステリ調で…

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 『招かれざる客』、『霧に溶ける』に続き、『人喰い』と同じ月に発表された初期本格推理小説の一作(1960年)。

▼理不尽な上司の嫌がらせに会社を自ら辞めた真弓と三枝子は、退社の日、自棄酒を飲みにいった先で見知らぬの男と意気投合する。泥酔した彼女たちと男はひょんなことから旅館で一夜を共に過ごしたのだったが、朝目覚めてみると…。

 短めで、ちょっとスッキリした仕上がりの作品。風俗などの部分で多少古さを感じさせる部分はありますが、話の展開はモダン。
 元OLのコンビが、事件に巻き込まれるまでの序盤は、著者には珍しく、コミカルなタッチで進みます。でも、その後は、真弓の一本気なキャラクタはそのままではありながらも、直ぐに何時ものような著者独自のロマンティックで、サスペンスフルなものへ。そのままユーモア・ミステリ的な方向に行ってもらえたほうが個人的には嬉しいんですが。
 その後明らかになる幾つかの「死」をめぐる謎は、またまた密室にアリバイ。密室の方は、あまり派手ではないながらも、もう一つのトリックと結びついて面白い展開を見せます。
 アリバイは真相は予想しやすいものですが、これも、もう一捻りして錯綜したものにしています。それらがピッタっと一つの構図がはまるところは「パズラーの醍醐味」。
 細かく見れば論理的なミスに近い部分もありますが、きっちりと水準をクリア。ラストの盛り上がりも見事ですし、またまたタイトルが最後に鮮やかにストーリー全体を意味づけるとこは、やっぱり上手いです。

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紙の本A型の女

2000/10/19 02:25

そんなに固ゆでじゃないけどユーモアとプロットの巧みさが楽しい秀作PI小説

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■リューインの処女作にして、アルバート・サムスン・シリーズ第一作にあたるパズラー的PI小説。
▼サムスンの元を訪れたのは16歳の少女。彼女の依頼は自分の生物学上の父親探して欲しい、というもの。最近になって、母親がO型、父親がB型であることが判ったのだという。それが確かであれば、A型である彼女は彼ら二人の子供であるはずはない。
■中心の謎は、勘の良い人だったら解けると思う。上手く騙されれば、もちろん存分に誤誘導されて、真相にアっと驚くでしょうし、判ったとしても副次的な謎や、巧みに張りめぐらされた伏線といった、緻密な構成、またストーリー転回の妙を楽しむことができるでしょう。
■何よりもサムスンのキャラクタが魅力的。彼の一人称は結構、心情を素直に吐露していて、あんまり固ゆでではありません。警句めいた表現が頻出するのは、典型的なPI小説の叙述ではありますが、変な気取りや飾り気がないし、ウィットに富んでいてユーモラス。

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紙の本五弁の椿 改版

2000/09/20 07:40

ミステリ・ファンも読んでおくべきサスペンス時代劇

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■サスペンスの形式で法と人間の掟の相克を描いた異色時代小説(1959年)。
▼油屋「むさし屋」の主人喜兵衛の妻「おその」は、婿養子である彼を疎み、数々の不倫を重ね、夫の危篤の際にも若い役者との逢瀬を楽しんでいた。その娘「おしの」は父の死んだ夜、母から自分が喜兵衛の子ではなく、不義の子であることを知らされる。彼女は、その時決意した。父のため、そして「人間の掟」を守るため、母とその男たちが犯した「法では罰することのできない罪」を、自らの手で償わせることを。彼女は次々に彼らの胸に銀のかんざしが打ちこみ、その側に山椿の花びらを残こしていく。
■構成は、序章と終章の間に6話が挟み込まれていて、それぞれが独立した短編のようなエピソードになっています。
■このことと、内容を読んで、気つく方もいらっしゃるでしょうが、これはコーネル・ウールリッチのサスペンス小説『黒衣の花嫁』のプロットにかなり直接的な影響を受けている作品なんです。名を偽って男たちに近づくところなんかも、そうですし、途中で刑事ならぬ与力に尻尾をつかまれて、更にサスペンスフルになるところなんかも「そのまんま」って感じもあったり。
■そうは言ってもウールリッチに比べて、殺人者の内面描写も多いですし、そこで描かれるのは「個人的な復讐」ということよりも、若い「おしの」の潔癖さに由来する観念的な動機が前面に出ているところは、かなり大きな違いだと思います。『黒衣〜』とは違って、復讐される側が読者の情けの受けようがない本当の「下司野郎」で、「必殺シリーズ」のような勧善懲悪の物語に近いところにも、そういう日本的といえばいえるかな。
■また殺害の理由がミッシング・リンクではなくて、最初から明らかになっている点では、『喪服のランデヴー』に近くて、より純粋なサスペンス。
■ちょっと結末のつけ方が弱い部分もありますが(やっぱり××をヒロインが殺すのはショッキングすぎると判断したのかな)、全編通して弛緩するところがなくて、なかなか面白い作品でした。

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霧に溶ける

2000/09/19 00:03

ちょっとマニアックな「はなれわざ」

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■『招かれざる客』に続く、著者の第二長篇(1960年初版)。
▼OLを対象にしたミスコンテストの最終選考に残った5人が、優勝者発表を前にして、次々に「謎の事故」の犠牲に。果たして、これらは何ものかによる事故に偽装した殺人なのか?捜査の前に密室とアリバイの壁が幾重にも立ちふさがる。
■『招かれざる客』と同じく「大盤振る舞い」とも言えるトリックの数々(しかし、「あれ」から死体が出てくるというのは、想像するだけで怖いなあ)。
■その解決に乗り出すのも、前作と同じく倉田警部補なんですが、今回は彼が完全な探偵役ではありません。誰がなるかは読んでのお楽しみ。
■全てのトリックは絡み合って、一つの織物のような様相を呈することになります。逆に、ちょっとマニアック、「はなれわざ」であるがゆえの「危さ」も秘めていているような気もしますが。
■このような「いかにもパズラー」な真相の中に、またもや人間臭い情念と欲望のドラマを用意したところは、はやり作者の作風でしょう。

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