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和泉智さんのレビュー一覧

投稿者:和泉智

2 件中 1 件~ 2 件を表示

紙の本ヒカルの碁 16 中国棋院

2003/01/17 15:20

神の一手への「まわり道」

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これまでとうって変わって地味な展開の16巻ですが、「ヒカルの碁」という作品のひとつの転換点であったのは確かです。
この物語のテーマのひとつに「神の一手」という言葉があります。物語は一貫して「神の一手」を極めようとする佐為とそれを受け継ぐヒカルを描き続けていると言っていいでしょう。けれど、神の一手を追い求めるのは主人公たちだけではありません。この巻で停滞するヒカルを横目に、たくさんの人々がそれぞれのやり方で「神の一手」を追っているのです。
この巻では、佐為を失ったヒカルが「もう打たない」と決意することにより、こうしたそれまでの物語で置き去りにされた人々が否応なくクローズアップされます。
ヒカルとケンカして囲碁部をやめた三谷が中学最後の大会に全力で挑み、その姿が囲碁部のみんなやあかり、そして当のヒカルにも何らかの影響を与えるシーンは象徴的です。また、ヒカルを心配するアキラや和谷や越智、院生たち、椿や河合さん、碁会所の人々もまた、それぞれの碁を追い続けています。
そして、一見話の本筋とはまったく関係ないように見える伊角の中国修行が、そうした無数の人々の「碁」を受け止め溶かし込んで、ヒカルの前にさらけ出す結果を生み出したのは、予期せぬことではあったかもしれませんが決して不自然ではありませんでした。
私はこの巻で登場する中国棋院の雰囲気が好きです。中国囲碁界の若きエリート集団で、決して馴れ合っているわけでもないけれど、どこか家庭的でお気楽。そして囲碁に傾ける情熱は、肩書きも言語も無視して、伊角の心の中に飛び込んでくるのです。
この中にあって、伊角はプロになりたいという気持ちを強くします。『オレもこの道を歩きたいと思ったよ』。『みんな戦いあってるが同じ方向に歩いてるんだ トップ棋士もおまえ達も』。ヒカルに語りかける言葉は、伊角本人に向けられた言葉でもあります。ひとつの道がある。みんなが歩いている。その先にある、共通の理想……それを自分も求めていきたい。
実はこの情熱こそが、この物語の重要な鍵なのではないかと思うのです。この物語では実にたくさんの人が碁を打ちます。一人一人がそれぞれのレベルで碁を愛し、もっといい碁を打ちたい、見たいと望んでいます。その小さな積み重ねが「神の一手」につながってゆくのではないでしょうか。ひとりの天才ではなく、たくさんの「ヘボ」(作者はこの言葉を好んで使います)が、盤上でじゃれ合いながらゆっくりと、それに近づいていくのではないでしょうか。
ひとりのヒーローが超人的な活躍をするのが王道の少年漫画にあって、脇役である伊角にこの台詞を言わせるのは冒険だったと思います。伊角のこの台詞によって、『ヒカルの碁』はある意味で、少年漫画の域を超えてしまったのです。
佐為の消滅から始まった英雄譚の崩壊は、「ヒカルの碁」を青春群像物語に脱皮させてしまいました。それは奇しくもヒカルにとっての「少年期の終わり」と重なっています。読者は佐為編のようなカタルシスを、それ以降の物語に求めることはできないでしょう。けれどヒカルと共に、失われたヒーローを探し続けることはできます。たくさんの、たくさんの仲間たちと一緒に。

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想像力をはたらかせて

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 老人問題を「心理学」の面からとらえていて、かなり面白かった。
 著者は精神科のクリニックを開いている開業医。そういう人がお年寄りの本を書くとき、たいていは痴呆症とか、老人性うつ病とかの方へ興味がいくんじゃないかとしろうとは思うんだが、このセンセイはそうではなかった。
 むしろ、年を取って自然に衰えてゆく脳の力が精神状態におよぼす影響や、死に臨む「心の旅」、そしてそんなお年寄りと付き合う人々の心のケアの問題、そういったところに焦点をあてている。
 いろいろあるんだけど、けっきょく「思いやり」っていうのは「想像力」なんだろうな。闇雲な善意じゃなくて。
 バイブルにはならないけど、一読の価値はある本。なるべく多くの人に読んでもらいたいと思う。

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