野ウサギさんのレビュー一覧
投稿者:野ウサギ
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紙の本魔弾
2000/11/11 23:59
『極大射程』の筆者の原点!!
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『極大射程』の著者による作品の最新訳。ただし、「訳者あとがき」によると、処女作で、1980年に出版されたものだそうだ。
『極大射程』で感じた思い、すなわち
1 銃に対する驚嘆すべき知識
2 ストーリー展開のうまさ
3 アッという結末
は本書でも、まったくそのままあてはまる。
主人公は、7時間で340人のロシア兵を射殺した戦歴をもつナチの伝説的スナイパー。敗戦必死の状況で、親衛隊は帝国崩壊後に備えた極秘任務を彼に託す。偶然、陰謀の存在に気づいた戦略事務局に勤めるアメリカ人大尉は、はたしてその陰謀を究明・阻止できるか——が、ストーリーの大略。
主人公がダーティー・ヒーローであり、また、そのような陰謀が成功したはずがないという思い(もし成功していたら、その後の歴史が変わっていたはず)もあり、話としてはよくできているが、全面的には感情移入できない。したがって『極大射程』ほどは楽しめないが、それでも読み始めたらやめられず、一気に読ませられる。当時のユダヤ人の苦しみについての具体的描写も興味深い。
ただ『極大射程』を読んでいたとき、後半のストーリー展開の鍵となった女性に色気がまったく感じられず、なんともしらけた感じがしたが、その思いは本書のほうがいっそう強い。著者(スティーブン・ハンター)は登場人物に存在感を与えることが苦手らしく、特に女性の描写がへたである。狂言回し的な役割を与えられているイギリス人少佐やアメリカ人副官の奥のなさにはじれったくなるが、それにも増して、主人公的な二人に用意されている美人女性のどちらからも、ゾクゾクした感じがまったく伝わってこないのにはあきれてしまう。処女作には作家の持つ資質がすべて現れるというが、この作家には上記1〜3の特徴に加えて、
4 人物造型、特に女性の造型がへたである
という項目を付け加える必要がありそうだ。
もっとも、デビュー13年後の『極大射程』で不満だったのは女性の扱いだけで、狂言回しをしたFBI捜査官にはそれなりの存在感があった。作家も確実に進歩しているということか。
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