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菊池由美さんのレビュー一覧

投稿者:菊池由美

ひかりの国のタッシンダ

2001/10/04 13:12

タッシンダ、ずっと捜していたよ!

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 子どものころの愛読書でした。美しい挿絵、どきどきするストーリー。異世界の不思議な言葉や習慣、道具、動物たちが強く印象に残り、うすっぺらな夢物語じゃない実感がありました。
 なのに長く絶版、図書館を捜してもなかなかお目にかかれない本となっていたのです。アメリカでも、オリジナルの挿絵のものはすでに絶版です。それが日本で版元を変えての再刊! 即座に予約して手に入れました。子どものころの印象をくつがえさない、よく練られた文章と緻密で幻想的な絵。作者や画家が、ほかにも邦訳作品のある有名な人であったことも初めて知りました。ストーリーもちっとも古びず、今の子どもたちを楽しませてくれるはず。(私事ですが、わたしのムスメも夢中で読了しました)
「もや」に囲まれた平和な国に住むタトラン人は、戦いというものの存在を知りません。よそからやってきた、目や髪の色の違うタッシンダをちょっと冷たい目で見る人はいましたが、ともに災難から国を守ることで、そんな偏見も消えてしまいます。差別や暴力を否定し、平和を愛することの大切さが、声高なメッセージではなく、じんわりと伝わってきます。まあ、そんなことは今だから考えることで、子どもにとっては、やさしく明るいタッシンダと素敵な王子の恋の顛末が一番気になることかもしれません(そして期待は裏切られない)。
 昨今はファンタジー・ブームが起きていますが、小学校低学年から読める上質なファンタジーはなかなかありません。復刊してくださった関係者のかたがたに、心からお礼申し上げます。ありがとうございました!

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紙の本巷説百物語 続

2001/09/18 19:37

京極本のなかでも金星

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 遅れ馳せながら読んだこの本。起こる事件は無残ながらも、最近の小説にありがちな、これみよがしのむきつけな描写はない。(どうも現実の事件が想像を超えて陰惨なせいか、昨今の小説はむきになって残虐を追求するようである)。「人を殺してはなぜいけないか」を見失った人々、「幼少期のトラウマ」に歪んだ者などに対して、作中人物が吐く台詞が真っ当で気持ちいい。気持ちよすぎて困るくらい。もとより、この効果も作者の計算のうちなのだろうが、安んじて浸りたい。
 怪異を智で読み解いて明らかにし、「憑き物を落とす」京極堂シリーズに対し、本書では、妖怪をカモフラージュに用いて闇のうちに悪が断罪される。背景となる時代の違いもあぶりだされてくるようだ。ぜひ次のシリーズでは、現代を舞台にした作品をものしてほしい。
 池波正太郎の「鬼平犯科帳」を思わせる、魅力的でけれん味たっぷりの登場人物。短編のひとつひとつに「必殺」シリーズのように型のきまった爽快な決着があり、謎とその解決法は胸のすくほど鮮やかだ。内容は非常にわかりやすいのに、周到な伏線による深読みの楽しみもあり、全編の統一感があり、見事なものである。頁に並ぶ文字の、その配列法にまで工夫がされて、目に心地よい。とにかく傑作。

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紙の本伊藤ふきげん製作所

2001/02/01 19:53

思春期の子どもといっしょに暮らすこと

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 伊藤さんはここ10年以上、育児雑誌にエッセイを連載し、単行本も何冊か出している。育児のなまなましさを、きれいごとに包まず書き綴ったのはこの人の作品が嚆矢ではないだろうか。そして、育児エッセイ大はやりの現在でも、その肉体的なまでの表現に迫ったものは、いまだに現れていないような気がする。
 その伊藤さんが、今度は思春期になった娘たちを書いた。新聞連載時には目にしていなかったため、あの「カノコ」ちゃん、「サラ子」ちゃんはどうしているのだろう、と再会を楽しむつもりで本を開くと、そこにはさらにパワーを増したバトルが展開されていた。身体と心が大きく変化する時期を、幼い部分と成熟した部分のアンバランスに苦しみながら通っていく娘たち。母と娘は、ぶつかりあい、泣き、迷い、諦めながら、怒涛のようなときを過ごす。
 正直、いささか読むのに苦痛をともなうまでのリアルな記録ではあるが、著者の生身の生き方、率直さは心に残った。

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紙の本チチンプイプイ

2001/02/01 19:54

あたたかく楽しいおしゃべりの世界

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 あれ、面白いとりあわせの対談集だな、と手に取った。著者たちは同年(1960年)の生まれ。人気作家と個性派女優のお二人の会話から見て取れるのは、意外と(失礼!)まっとうで堅実、親しみやすい人柄だ。庶民に人気のあるのもそのせいか。だが、二人ともフツーじゃないタクシーの運転手に巡り合う確率がとっても高いあたり、やはりただものではない。対談を繰り返すうちに仲良しの度を深めていく彼女たちが、次から次へとくりだす、面白いエピソードと美味しい食べ物のかずかず。室井さんの挑戦した(やはりタクシーを舞台にした!)短編ミステリに、宮部さんが実に的確な批評を加えるあたりには、ミステリの文法を垣間見る思いがし、なるほどとうなずける。
 肩の凝らない、でも馬鹿馬鹿しくはないちょっとした読み物をお探しのかたに、ぜひお勧め。宮部ファン、室井ファンならずとも、読んで楽しい時を過ごし、ほっこり後味のよさが残ることは、間違いなし。

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