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先月(2017年6月)

中村夫人wさんのレビュー一覧

投稿者:中村夫人w

1 件中 1 件~ 1 件を表示

「○○夫人」とつく題名の文芸作品はいくつかあるけれど、これはまた高雅な雰囲気とそこはかとない幻想性をまとった、エキセントリックな夫人のおでまし。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『ボヴァリー夫人』『チャタレー夫人』『ダロウェイ夫人』『エマニュエル夫人』『武蔵野夫人』『サド侯爵夫人』『饗応夫人』『真珠夫人』……と、並べるだけでも楽しくなってくる東西の「夫人づくし」だが、幻想ミステリの魅惑的な登場人物として、ここにまたひとり「シャルビューク夫人」が加わる。
本を紹介しようという、ここにおわします夫人は小腹がすいたので、小ぶりで中身のチョコが苦めの紀ノ国屋(食料品店ね)のチョココロネ(これ、本当においしいのだわ)をものの5口ほどで食べてしまったばかり。そんなんで、ごめんね。
ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』は別として、ここに揃えてみた夫人たちは、「夫人」と称するだけでどことなく官能的な香りを発する。「夫人」という日本語の敬称独特のニュアンスなのだろうか。ファーストネームを伏せる匿名性、よその男性のものだという、少し前の時代までの社会的身分のなごり(チョココロネを一気呵成に食べていても、代理で人様に礼状をしたためる際は、夫の名の横に「内」と添えてみる私)、そして極めつけは既婚者であるがゆえに官能の扉を充分に開いたであろうという妄想が手伝って、「夫人」は男性にとって絶対的な位置を占める。ただし優美で魚心あるような夫人に限って……。
本書は、そういった「夫人」の特性を目いっぱい上手に活かした作品であり、シャルビューク夫人はそそる、そそる。そそることこの上ない。
そそる夫人の餌食となるは、19世紀末ニューヨークに暮らす肖像画家ピアンボで、彼の一族は芸術の宝庫イタリアからの移民。活況に沸く街の富裕層に重宝がられ、そこそこの仕事にありついているが、ある日、使者を介してシャルビューク夫人という富豪の肖像画の依頼が舞い込む。
ところが屋敷を訪ねて行けば、当のモデルは屏風の向うに隠れ、姿を見せようとしない。屏風越しに会話をする、その状態で姿形を想像して描けというのだ。その会話とて日に1時間の制限、それで絵の納期は1ヶ月という、酷い制作条件である。しかしながら、法外なまでに高額の謝礼を提示されたため、ピアンボは仕事を引き受けることにする。
物語最大の魅力は、何といってもこのエキセントリックな夫人が、語りを通して益々そのエキセントリックな人となりを開帳していく様子である。そして、その夫人とともに小説自体がまとう高雅な古い時代の雰囲気であり、さらには、屏風の向こうに隠れているのは絶世の美女なのか、異形の者なのかということに関する幻想味だ。
設定だけでもお膳立て充分といった感のあり、どういう展開になるのか楽しみに読み進められる小説なのであるが、「見せない姿」と「語り」というものが、隠しテーマのようにして作者のなかにあったのではないかとも考えさせられる。
自分の数奇な体験を「わたし」と語り明かして行く地の文。カギカッコのなかに収められたシャルビューク夫人の自分語り。それは、父親という保護者がいた娘時代のことと、父親が亡くなり天涯孤独となってからの奇妙な職業人生のことに主に分かれる。それぞれの時代に象徴的な「雪の結晶が語る物語」を解き明かす研究という父の仕事、父の遺産から得たものに授けられるインスピレーションを利用した屏風越しの「予言」講演。そのいずれも「言葉」に関わる要素であり、「見えないもの」を「(想像の力で)見えるようにするための語り」に一貫したこだわりが見られる。
ネットワークを現代の「ついたて」とし、その陰に隠れながら、固定ハンドルや捨てハン、ニックネームなどを活用して行き交う今の社会。そのような社会の表と裏もまた、作者の書く対象として射程にあったのかも……。

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