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  3. 浅知 恵さんのレビュー一覧

レビューアーランキング
先月(2017年6月)

浅知 恵さんのレビュー一覧

投稿者:浅知 恵

26 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本凍てついた七月

2002/07/22 12:39

軟弱な世に父権のあり方を問う、ウェスタン風サスペンス

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南部の片田舎で額縁屋を営むデイン家に強盗が押し入り、一家の長リチャードはこの強盗を射殺してしまう。正当防衛が認められながらも、人を殺したという事実に苦しむリチャード。だがそんな彼の前に、強盗の父親で監獄から出所してきたばかりのベン・ラッセルが現れる。ベンは息子を殺された復讐に、今度はリチャードの幼い息子を狙ってくるのだが、失敗。ベンは逮捕され、平穏が戻ったかに見えた。だがその直後リチャードは一枚の写真を見つけ、警察が事実を隠していることを確信するのだった。

父権と銃、というアメリカではよくあるモチーフを、南部の不穏な雰囲気とからませながら、陳腐にならずに描いている。特に、なんでもない平凡な男が、まるでウェスタン小説ばりの展開に乗せられていく姿と、それを激しくぶつかりながらも見守る家族の存在には、あざといと思いながらも感情移入してしまう。男にとって父親というのは圧倒的な影響をもつ存在であるし、そのことを恥じたり恐れたりしてはならないということを、真っ向から描いた傑作である。

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日本ミステリ史に残る傑作

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明治2年、いまだ暗中模索をつづける政府の中、太政官弾正台(官吏の汚職を糾弾する機関)の大巡察・香月経四郎と川路利良は政府のあり方について議論する。弾正台はあくまで正義を貫き政府の最高機関となるべきだと主張する香月と、司法として政府を支え人民を守れば良いと考える川路。ふたりはある事情から数々の怪事件において推理合戦をくりひろげることになるのだが……。

山田風太郎の明治ものの中でも特に推理小説として評価の高い本書。連作形式をとっているが、最後の最後でなかなか壮大な仕掛けがあり、『妖異金瓶梅』と双壁をなす傑作といえるだろう(まあ、勘のいい人なら気づく仕掛けではあるが、テンションの保ち方が尋常ではない)。あちこちに顔を出す実在の人物(川路をはじめとして福沢諭吉、内村鑑三、西郷隆盛、大久保利通など)も楽しく、気軽に読めてしかもミステリの真髄に触れられる一級の娯楽作だ。ラストも秀逸。

読まないと損します。

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妖異金瓶梅

2002/07/22 12:31

とにかく読め!の一言に尽きる大傑作

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中国四大奇書『金瓶梅』『水滸伝』に登場する好色漢・西門慶。彼と八人の妻の間では嫉妬とプライドがぶつかりあい、次々と怪事件が巻き起こる。西門慶の友人のたいこもち・応伯爵は常に事件の真相を探り当てるが、決してその犯人を明かそうとしない……。

傑作である。あまり語るとネタバレになるのでどうして本書が傑作なのかは、読んで確かめてもらいたい。堂々たる本格ミステリでありながら武侠小説の面白さも兼ねそろえており(あるいは逆か)、文句なしに一級の娯楽作。いとも軽々とこんな離れわざをやってのける風太郎は、とにかくすごい。もちろん『金瓶梅』の淫靡でいびつな雰囲気も充分堪能でき、最初から最後までテンションは上がりっぱなし。

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憎悪という名の柱で組み上げられた、恐るべき現代アメリカ史

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HATE——憎悪。たったひとつのその言葉で、エルロイはアメリカの輝かしい歴史を切り裂く。「アメリカが清らかだったことはかつて一度もない」。本書は、そういう物語だ。

1963年11月22日。ケネディ大統領暗殺の日。カジノのディーラーを刺した黒人ウェンデルを殺すため、ラスヴェガス市警のウェイン・テッドロー・ジュニアは6000ドルを手にダラスに降り立つ。狂気の物語はそこから始まる。

マフィアの弁護士であり、FBI長官フーヴァーにも仕える盗聴のスペシャリスト、ウォード・リテル。マフィアに首根っこをつかまれながら、キューバの大義のために奔走する殺し屋、ピート・ボンデュラント。二人は『アメリカン・タブロイド』を生き抜いた者たちであり、ケネディ暗殺の裏にひそむ陰謀の一翼を担っている。そしてウェインはウォードとピートに出会い、アメリカの闇の歴史に溺れていく。

キューバ、ダラス、ラスヴェガス、ヴェトナム、そして再びキューバ。ジャックとボブのケネディ兄弟。マーティン・ルーサー・キング・ジュニア。エドガー・フーヴァー。ハワード・ヒューズ。ジミー・ホッファ。マルチェロ、ジアンカーナ、トラフィカンテ。オズワルドとジャック・ルビー。白人と黒人、善人と悪党、戦争と平和、公平と差別。

アメリカの歴史が血を流す/咆哮する/生贄を求める。長い長い死の旅の末、物語はひとつの死によって幕を閉じる。それはちっぽけだが、憎悪の歴史を封じ込めたような死だ。憎悪を教えたものは、憎悪によって殺される。

それにしても、いくら読んでも飽くことのないこのエルロイの魅力とはなんなのだろう。物語が終わった後も、まだまだ続きが読みたいと思わせるその魔力。それが現在に綿々と繋がる歴史だからだろうか。それとも、どこから来て、どこへいくともしれぬ絶望的な男たちの物語だからか。

『アメリカン・デス・トリップ』を読んだ後、私たちはそれまでと同じではいられない。私たちは『アメリカン・デス・トリップ』から憎悪を学ぶ——ウェイン・テッドロー・ジュニアと同じように。憎しみは何も生み出さない——そんなものは真っ赤な嘘だ。いんちき伝道師のたわごとだ。憎悪はすべてを生み出す。憎悪によって私たちは富み、安住し、自分自身を守る。エルロイはそんな現実を突きつける。エルロイは容赦ない。だからこそ、私はエルロイを愛し、憎むのかもしれない。そこに含まれる一片の希望もまた、真実だと信じさせてくれるから。

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闇の楽園

2002/06/15 14:17

ポップなジェットコースター・ノヴェル

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戸梶圭太のデビュー作となる、新潮ミステリー倶楽部賞受賞作。

長野県の坂巻町で町おこし企画<坂巻ダークランド>が採用されたことから、同地に道場建設をもくろんでいたカルト教団との対立がエスカレートしていくというのが大筋。ろくでなしたちの利権と思惑がテンポよく次々と描き出されるのが痛快で、厚さを感じずに読み切れた。

カルト教団は明らかに<オウム真理教>をモチーフにしているが、特に大始祖・丸尾の造形は、舞城王太郎の『煙か土か食い物』などに登場する奈津川二郎と近いものを感じる。ポップなジェットコースター・ノヴェルという点では、両者は近い位置にあるのかもしれない。

単行本版は未読なのだが、文庫版は加筆・再編集されているようなので、かなり作品の完成度は高い。文庫版で入れられた写真カットも楽しいし、未読の方はこちらを読まれるのがよいかと。

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紙の本武器と女たち

2002/06/15 14:07

ダルジールもたじたじの女たちの物語

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ダルジール警視シリーズ最新刊。今回は副題が<エリー遍歴記(エリアッド)>とあるように、パスコーの妻エリーを中心にした女たちの物語が展開していく。ちなみに題名はウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』の冒頭、「いくさ(アームズ)と男(マン)をわたしはうたう」からとっているし、<エリアッド>はホメロスの『イリアス(英語読みでイリアッド)』のもじりという念のいりようだ。

物語は小説家を目指すエリーが、二人連れの男女に誘拐されそうになったことから始まる。当初はパスコー主任警部に恨みをもつものの犯行ではないかと疑われるが、反体制運動を続けてきたエリーを狙った可能性も捨てきれず、事件は混迷の一途をたどっていく。

エリーをはじめ、その友人のダフネや市民運動組織<リベラータ>の主催者フィーニ—・マッカラム、パスコーの同僚ノヴェロなど女たちの冒険譚の前では、さすがのダルジール警視も影が薄い。混沌とした物語が見事に収束する手腕は、ヒルのお家芸と言えるだろう。

さらに、物語の背後でエリーが書き進めていく「安心毛布」なる小説が今回は重要な役割を果しており、ラストの感動をいやがおうにも高めてくれる。文芸的な遊戯性が高いため決して入りやすい小説ではないが、その分かなりの充実感をもたらしてくれる傑作ミステリだ。

ちなみに、本書でダルジール警視が<オデュッセウス>にたとえられているのは、ポアロ=<ヘラクレス>を意識した遊びなのかもしれないとふと思った。

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孔雀狂想曲

2002/06/14 16:04

虚々実々の骨董業界を、洗練された筆致とユーモアで描く傑作連作集

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下北沢の古道具屋<雅蘭堂>店主・越名集治が出会った、8つの品々にまつわる短編集。ちなみに登場する品は「ジッポー」「ジャンクカメラ」「古九谷焼」「孔雀石」「切子」「風景画」「根付け」「ビスクドール」となる。

骨董業界の壮絶な内幕を描いた傑作『狐罠』と同じく、モノに魅せられた人々の因業が次々と明らかになっていくのだが、各短編とも読後感はとても心地よい。これは主人公である越名集治の、どこか人懐っこい造形が大きく影響しているのだろう。押しかけアルバイターの女子高生・長坂安積との夫婦漫才のような会話も、暗くなりがちな騙しあいの物語を救っている。

どの短編も甲乙つけがたいほど洗練されており、個人的には北森鴻のベストに挙げてもいいくらいツボにはまった1冊。中でも「古九谷焼幻化」の、二重三重に仕掛けられた罠とスピーディな展開、そして洒落たオチには脱帽だ。

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紙の本白昼艶夢

2002/06/15 14:13

不思議な味わいの異色短編集

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SMやボンデージ色の強い奇妙な作品を残した異色作家の傑作集。
処女作「くびられた隠者」や代表作「白昼艶夢」「巫女」など16編を収録する。

リドル・ストーリーの傑作「巫女」をはじめとして、歪んだ性愛を描きながらもどこか端正な作風が印象的。ゴムに身を包み全身を縮ませていくという筋書きの「掌にのる女」などは、江戸川乱歩の「鏡地獄」のようでもあり、京極夏彦『魍魎の匣』にもつながっていく不思議な味わいを残している。

また、たびたび現れる<コルセットの女>というモチーフは、間違いなく著者自身が秘めていた嗜好だろうし、「人形はなぜ作られる」に見られるオナニズムへの執着も、いかにも小説家的な感じがする。そういう意味では、大江健三郎などとも通底する部分があるのかもしれない。それでいて露悪的でないところが、この作家のバランス感覚と限界を垣間見せているような気もするが。

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炎の翼

2002/07/22 23:26

ひそやかな開放感のある秀作

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ウォリックシャーでの事件を解決したラトリッジ警部が次に与えられた仕事は、コーンウォールの名家で立て続けに起きた自殺と事故死の事件の再捜査だった。しかも自殺者のひとりオリヴィアは、高名な詩人O・A・マニングだったのだ。ラトリッジはいまだなお癒されぬ戦争の後遺症に悩まされながらも、一族の死に隠された真相に近づいていく。

前作『出口なき荒野』に続き、ラトリッジ警部が難事件に挑むシリーズ第2作。

物語の中心となるのが、小児マヒを患い不自由な身体を抱えながら、愛や戦争の詩を発表してきたO・A・マニングことオリヴィアである。ラトリッジ自身、戦場で彼女の詩を読み胸を震わせたという経験を持ち、どうしても捜査に私情が絡んできてしまうのも読みどころのひとつ。オリヴィアの実像を求め、読者も知らず知らずのうちにページをめくってしまうに違いない。

また、戦時中に命令違反の罪で自らの手で射殺したヘイミッシュに憑依され、心の中で会話してしまうラトリッジの描写も素晴らしい。戦場で失ったものを再確認するかのように、事件に没頭していく彼の姿が胸を打つ。

地味だがひそやかな開放感のある作品だ。

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転落の道標

2002/07/22 23:24

人間の弱さを容赦なく突きつけるノワール

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保険代理店のしがない外交員として生計を立てているジミー・ロジャーズ。市長として権勢を振るった父親を持ち、かつてはフットボールとバスケットボールのスター選手だったジミーも今は落ちぶれてしまっている。そんな彼の欲望のはけ口は、代理店経営者フィルの妻イヴとのSMセックスだった。そしてジミーはイヴにそそのかされ、フィルの殺害へと動き出す。

閉塞した状況を打破すべく殺人を繰り返していくジミーは、はっきり言ってどうしようもないくらい弱い男だ。彼はどんなにひどい状況に陥っても、周囲が救いの手を差し伸べてくれると考えるタイプの男である。確かに友人たちはジミーをかばっているかのように見えるのだが、実はそれは損得勘定をした上での行動であることに彼は気づかない。

本書の読後感の悪さというのは、人間が抱える悪を見せつけられるからではなく、人間の弱さを容赦なく暴かれるからである。常に自己正当化しつづけるジミーの姿の中に、私自身がもつ弱さを見出すことは容易なことだ。嘘を重ねることで状況を打破しようとしながら、次第に泥沼に入り込んでいくジミーを私は笑うことが出来ない。

久しぶりに嫌な本を読んだなあ、という1冊。

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恐るべき言葉の魔力

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ブルックリンで無免許の探偵事務所を経営するフランク・ミナが殺された。フランクに孤児院から連れ出され、彼のために働いていた4人の母なき青年たちは、求心力を失いそれぞれ別の行動をとりはじめる。チック症を患い周囲から<フリーク>の名で呼ばれるライオネルは、フランクを殺した犯人を探し出すためひとり街をさまようのだが……。

トゥーレット症候群という重度のチック症に悩まされるライオネル。発作的に意味のない言葉を発し、相手の方を叩くなどの行動をとってしまう彼は、ボスであり人生の師でもあるフランクを殺した犯人を探す中で、自分自身と向き合っていく。ライオネルは決して頭が鈍いわけではないのだが、トゥーレットによって他人とのコミュニケーションに不都合を生じている。これは会話によって事件の真相を探り出していく私立探偵にとって、致命的なハンデといえるだろう。本書がハードボイルドとして優れているのは、このハンデを抱えながらも清廉な探偵として生きていくことを志向するライオネルのその姿勢に寄るところが大きい。彼の真っ直ぐな生き方の前では、汚れきった悪党どもこそがフリークなのだ。

言葉の魔力を信じる人なら間違いなく楽しめる、誠実な傑作。

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鼠たちの戦争 上巻

2002/07/22 23:17

逆説的な美しさに満ちた戦争小説

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1942年、スターリングラードではナチス・ドイツ軍とソ連軍が激しい戦闘を繰り広げていた。そんな中、ソ連軍の狙撃手ザイツェフは戦争の英雄として新聞に書き立てられ、狙撃手養成の任務を与えられる。一方、この情報をつかんだナチスは、ドイツ軍の中でも最高の狙撃手トルヴァルト大佐をスターリングラードに送り込み、ザイツェフの暗殺に着手した。酸鼻を極める戦場で、二人の天才狙撃手は互いの力を探りあい対決するのだが……。

ドイツ軍歩兵たちによって<ラッテンクリーク(=鼠たちの戦争)>と呼ばれたスターリングラードの攻防戦は、ヨーロッパ戦線の中でも過酷な戦場として名高い。その戦場で対峙する二人の狙撃手は、育ちも性格も異なり、当然狙撃に対する考え方も対照的。だが戦場の非情さは万人に平等に訪れるのだ。

この小説を支えるのは、圧倒的な現実感、説得力なのだろう。それは単に実在の人物をもとに描かれているという点に負っているのではない。戦場の兵士ひとりひとりの背後に横たわる物語、いつ消えうせるともしれぬ魂の輝き、それらが至る所から湧き出し作品中に充満している。それゆえにこの物語は逆説的な美しさに満ちているのだ。

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紙の本第4の神話

2002/07/22 12:23

陳腐化の陥穽をまぬがれた結晶度の高い物語

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流行作家として絶頂を極めながら、42歳という若さで病死した夏木柚香。その華麗な生活や不倫関係で神話となりつつある彼女の評伝の執筆を、フリーライターの小山田万智子は出版社から依頼される。もうすぐ40歳を迎えつつあり、仕事を選ぶことの出来ない万智子は出版社の用意した「家庭に尽くした女性」という第2の神話に沿った記事を書き上げるが、万智子は柚香の取材をすればするほど、大きな疑問を抱くようになっていた。一体柚香はなぜあれだけの膨大な著作を書かなくてはならなかったのか? 万智子のライター生命を賭けた取材が始まった。

取材によって集められた断片が次第に姿を持ち、終盤においてようやく血肉を持って読者の前に現れる柚香の真の姿はあまりにも切ない。マスコミによって作り上げられたカリスマと、その皮をはいでいくフリーライターという一つ間違えれば陳腐になりかねない物語をここまで結晶させた篠田の筆力はさすがだ。

特に能楽師と舞踏家による「セックス」を演じるシーンは秀逸。芸術家の鬼気迫る姿は圧巻の一言だ。『変身』のラスト以来、久々に鳥肌がたつほど昇華された描写を読ませてもらった。

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壊れゆく青春群像

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<鏡家サーガ>第3弾。
携帯電話のバッテリー裏にシールを貼りつづけるバイトと、Eメールでの擬似恋愛に生活のほとんどを費やす暗い青年。<奴>の悪意から少女を護ろうとする少年。密室状況の屋敷の中で進行する、贖罪のための惨殺劇。三つのゆがんだ物語の末、鏡創士は水没したすべてのものをひきもどす企てを試みる。

舞城王太郎にも共通するのだが、この作家の登場人物たちは「病んでいく」のではなく、目に見えて「壊れていく」。ネジが次々に外れ落ち、ブリキの空洞の中でからからと音を立てる、そんな感じ。当然人間のように「回復」するはずもなく、部品ごと「取り替え」なければ、完全な修復など望むべくもない。また、情念のためではなく、条件反射的に人を殺していくのだから、そこに人間性などを持ち込む余地もありえない。

本書の中には、無遠慮な暴力——もっとも、暴力とは本来無遠慮なものだが——が散在している。そして暴力以外の手段によっては、覚醒されえない人間の無神経さが暴露されていく。これは本当に居心地が悪い——吐き気がするくらいに。しかし、それから目をそむけることも許されないのだ。そむけてしまっては、自分の尊厳が保てないから。それが敗北を、逃避を意味するとわかっているから。
つまり、ここに描かれているのは極端な自分自身、あり得るかもしれない自分自身なのだと思う。だからこそ、無性に居心地が悪い。

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紙の本どぶどろ

2002/06/15 14:21

世間の底を這い回る庶民の心の叫び

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宮部みゆき『ぼんくら』の先行作品として再注目された時代ミステリ。

構成としては、冒頭に7編の短編があって、それが中編「どぶどろ」に抱合されていく形になっている。

7つ短編についてはミステリ色はほとんどないが、人情の機微がよく描かれていて、珠玉の時代小説として安心して読めるし、現代のサラリーマンとしても共感できる部分が多い。
一方、「どぶどろ」では一転して「庶民」対「お上」の構図が明確に作られており、陰謀小説としてのスリルが楽しめる。
中でも陰謀に巻き込まれる山東京伝の従者・平吉の造形が見事で、世間の底(=どぶどろ)を這い回る庶民の心の叫びの代弁者として、終盤は鬼気迫る行動をみせる。このあたりの筆力は鳥肌もの。

割り切れないながらも、その割り切れないところが何ともいとおしく感じられる、そんな作品だ。

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