サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. hontoトップ
  2. レビュー
  3. 上六次郎さんのレビュー一覧

上六次郎さんのレビュー一覧

投稿者:上六次郎

37 件中 1 件~ 15 件を表示

犯罪はパフォーマンス

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 何かの本で、物語や演劇で人々が面白く感じる筋書きは数パターンしかないような意見を読んだ覚えがある。現在ベストセラーになっている小説であっても過去に受け入れられた例のリメイクであったり、二次創作にすぎないというものであった。

 これは我々がもつオリジナル信仰に対する皮肉である。オリジナルな発想や創造こそが一番価値のあるもので考えながらも、実際の評価は違ったものになってしまっている場合もあるのではないだろうか。しかしながら作家や芸術家はオリジナリティを追求していく。そして、現代では犯罪もマスコミを通じて発表される創作物になってしまった。

 公園のごみ箱から切断された女性の右腕が発見される。それは連続殺人事件の一端に過ぎなかった。犯人は被害者の家族や警察、マスコミを振りまわしていく。第一部では主に被害者の家族や警察側から、第二部では犯人のサイドから語られ、結末の第三章へとつながっていく。

 犯人対警察、加害者対被害者といった単純な構造になることなく、人間関係が第一部、第二部と丁寧に描きこまれている。細部にわたって書かれていることが第三部での展開をいっそう効果的にしている。決して冗長になることなく、これだけの長編を書く作者の構成力には感嘆してしまう。

 さらに、「ピース」と呼ばれる男の造形が秀逸である。今までの作品で少年や老人の描き方に定評のあった宮部ではあったが、「現代的」な悪党も見事に表現されている(もちろん本作品でも有馬老人の存在感は抜群である)。

 二段組・上下巻という長い話ではあるが途中で飽きることなく、それどころか次はどうなるのかわくわくしながらページをめくっていける超長編である。本書は「イッキ読み」できる「現代犯罪劇」である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本カリスマ 上

2001/03/24 17:50

人は神になれない

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 人間とはなんと欲深く、汚い生き物なのか。そして何かに頼らなければ生きていけない弱い存在なのか。本書は人間の暗部を情け容赦なく描写し、暴いていく。

 新興宗教集団「神の郷」は解脱会を通じて教徒の数を増やしていく。教祖の神郷は自分をメシアと呼ばせ、弱みを抱えた人々を次々と洗脳していく。これに対して教徒の洗脳を解き、家族のもとへ返そうとする「覚醒会」も活発に活動を進めていく。ここだけを見ると善玉「覚醒会」対カルト集団「神の郷」が対決する勧善懲悪もののように思われるかもしれない。

 しかし、作者はここから登場人物たちの欲望を徹底的にあらわにしていく。欲望に忠実に生きる人間を悪人だとするなら、この小説に出てくる人間に善人はいない。教祖の神郷はもちろんのこと、「覚醒会」側の人間も決して一筋縄ではいかない人間たちの集まりである。そして「神の郷」の教徒たちもまた、健康問題や子供の受験合格などの欲をかかえていた人たちであり、洗脳後は神と一体化し神の国へ行くことを欲する人たちの集まりである。

 そのほかに、話の展開の中でキーパーソンとなる人物の一人に城山信康という、しがないサラリーマンが出てくる。彼は妻を洗脳されて、家庭崩壊の危機に直面する。彼もここでは同情される被害者、あるいは妻の洗脳を解くために戦うヒーローとして描かれていない。気が小さく、行動力もないくせに世間体や他人の目ばかりを気にする人間として書かれている。城山もまた世間が期待する父親や職場の上司を演じたいという欲望をかかえている。しかしながら、現実とのギャップの大きさに卑屈になっている。城山ほどではないにしても、多くの人が似たような事を経験し、感じているのではないだろうか。

 欲望を実現できる人とできない人がいる。欲望を持つことに罪悪感を持つ人と持たない人がいる。だが、誰だって金がほしい、権力がほしい、優越感に浸りたいなどの欲望を持ちながら、その思いを押し隠して生きている。本書は心の中の暗部を心地よく逆なでしてくれる。

 登場人物の造形、スピード感ある展開、洗脳のやり方などの綿密な描写、驚愕の結末などどれをとっても一級品である。最高級のエンターテイメント小説の誕生である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本冤罪者

2001/05/23 15:41

立場が違えば見方も変わる

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 過去には冤罪事件が起こり、そのことをテーマとして書かれた小説もある。自白の任意性や代用監獄の問題といったことを扱っていたことが多いように思う。本書は冤罪についてやや違った側面から描きだされている。

 ノンフィクション作家の五十嵐友也のところへ連続婦女暴行魔として裁判中の河原輝男から冤罪を主張する手紙を受け取る。五十嵐は自分の婚約者を連続婦女暴行魔に殺されている。河原は本当に犯人ではないのか。真犯人は別にいるのか。物語は錯綜していく。

 本書は五十嵐や河原、連続殺人事件の被害者の家族、河原の冤罪を支援する会の人々、河原を取り調べた刑事、河原と獄中結婚する女など事件にかかわる様々な人たちの視点で描かれている。あたりまえのことながら立場が違えば同じ出来事に対する見方も変わってくる。ただ、このあたりまえのことを利用して伏線が次々と仕掛けられていく。

 それに加えて登場人物たちが曲者ぞろいである。河原は濡れ衣をきせられたかわいそうな人でもなければ、支援する会も冤罪事件に憤りを感じている人たちとは単純には描かれていない。一方、刑事も正義の味方ではないし、被害者の会は無罪判決を受けた河原をしつこくつけまわすいやらしさを発揮する。

 冤罪イコール善良な市民が警察権力によって罪に陥れられるという構図を捨てることにより、物語は先の読めないミステリーに仕上がっている。折原氏が得意とするトリックの世界を堪能できる一冊である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

素晴らしい一日

2001/05/23 15:14

本を開いて幸せになろう!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「生きていくのは楽じゃない。世の中イヤなヤツばっかりだし、夢や希望は北極星みたいに遠くで光っているだけ。」著者のあとがきの中に出てくる言葉である。

 そんな現実のなかを飄々と生きている人たちを描いた短編集である。出てくる男たちは常識からちょっとはずれた生き方をしていながら、なんとなく周りをハッピーな気分にさせてしまうのである。

 「素晴らしい一日」に出てくる友朗は金にだらしない男である。借金のために頭を下げることや借用証を書くことなど何とも思っていない。しかしそんな男だからこそ悲壮感がない。いや、それどころかお金の問題など取るに足らないことに思えてくる。

 「誰かが誰かを愛してる」に登場する健太は彼女のことを一途に信じるお人好しである。おにいちゃんと慕う智明のアドバイスにも耳を貸さない。でも、健太の明るさは周りの人たちを変えていく。

 「商店街のかぐや姫」の努は浮気はするは商売に身は入らないはのどうしようもない亭主である。義理の妹の結納の席でも失敗をやらかす。一見何も考えていない極楽トンボのように見える努だが、それは彼流の人との接し方なのである。

 「ページを開いている間はハッピーにしてあげましょうぞ。」著者のあとがきに同じく出てくるフレーズである。先に書いた男たちや他の作品に出てくる登場人物たちは確かにどこかヘンで笑える人たちである。しかし同時に皆自分の気持に忠実な純粋な人たちである。だからこそこの作品集を読むことによって読者は幸せな気持ちになれるのであろう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

女について 傑作小説

2001/04/22 16:43

ちょっとした「思い」が捨てられない。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書は短編集であり、それぞれの作品で様々な女が描かれている。しかし作者は女を書くことによって、その女に関わる男の心情をあぶり出していく。だからこの本に出てくる男と女の関係はハッピーな恋愛でもなければどろどろとした愛憎劇でもない。ちょっと心を揺さぶられた男の思いの集まりである。

 「走る女」では光子という女性が出てくる。「ぼく」の思い出の中では彼女はいつも走っているのである。出会いから別れまでの話が書かれているのではあるが、そのすべてのやりとりは「ぼく」にとってはもはや幻なのかもしれない。しかし走る女は光子を思い出させ、光子が走る姿は「ぼく」にとってはまぎれもない現実の一コマなのである。

 「クロスワード・パズル」では香水が、「イアリング」ではイアリングをはずす動作が昔のことを思い出させることになる。

 過去のことだといって忘れてしまうこともできず、かといっていい思い出として大切に保管しているわけでない出来事がある。私たちはそんな思いを日常は胸の内にしまい込んでいる。作者は決して大騒ぎをするのではなく、読者の心の奥に眠っているものに対して小さな波風を立てる。そして私たちは読後に心地よい余韻に浸ることができる。そんな短編集である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本定年ゴジラ

2001/02/25 12:47

サラリーマンは定年後もつらい

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 定年などまだまだ先のことであり、自分の定年後などとても想像できない。ただ、定年とは退職するということだけではなく、家庭や住んでいる地域に帰ることなのであろう。そして、家庭や地域での新しいポジションを再構築しないといけないということなのであろう。

 銀行を定年になった山崎さんに町内会長をはじめとする散歩仲間ができる。山崎さんたちはそれぞれの会社では第一線で活躍してきた。しかしながら、定年後はそれぞれの居場所を探し、悩むことになる。二世代住宅内での嫁姑の確執、子供たちとの関係、定年離婚、濡れ落ち葉亭主など定年後も決して安穏とはしていられない。

 本書では題名でもあげられている「定年」ということに加えて、「ニュータウン」の問題も取り上げられている。「ニュータウン」については次の二つの場面が印象に残っている。

 一つは、電鉄会社の沿線開発課ではニュータウンなどのプロジェクトが終了すると、その模型を壊して更地にしてしまうという伝統がある。その理由は「模型は理想」であるからというところである。計画を立てたときにはベストだと考えていたことが、実際に作り上げた後にいろいろと問題点がでてくる。年齢も違えば,今までの生活習慣も違う住人たち全員に満足してもらうことは不可能である。模型を破壊するということは、これからは理想ではなくて現実に目を向けていかなければならないことを意味しているのであろう。

 もう一つは,雑誌のニュータウンのランク付け企画で批評を行う助教授に対する、開発担当者だった藤田さんの言葉である。助教授はじゃんけんの後出しをやっているようなものだ。ただ、普通のじゃんけんなら後出しはルール違反だが、このじゃんけんはジャンケン・ポンの「ン」の余韻がずっと続いているので後だししてもルール違反にならない。開発の時点では最善と思っていたことが、時代が進むにつれてズレてくる。開発の規模が大きいだけに、すぐに修正も出来ず、かといって今日でニュータウンは終わりですというわけにもいかないのである。

 ニュータウンや新興住宅地が抱える問題も根深いものがある。

 最初に書いたが定年は家庭や地域に帰ってくることかもしれない。逆に言うと、現役のサラリーマンは家族や自分たちが住む社会から離れたところにいるということなのだろう。定年退職になって初めて家族の中の自分の位置を認識したり、住んでいるニュータウンの問題点を知るというのではあまりにも寂しいのではないか。

 全編にわたり、登場人物たちの暖かい気持ちが伝わってくる作品である。それと同時に「定年」や「ニュータウン」といったキーワードから見えてくる課題も見逃してはいけないであろう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

僕も古本屋になりたくなった。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本の好きな人間にとって「古本屋のおやじ」はなってみたい職業の一つではないだろうか。好きな本に囲まれて、客と本の話に花をさかせる。こんな1日を過ごせたらさぞかし楽しいであろう、などと考えてしまう。
 しかしながら現実に古本屋を開くとしたら果たして商売とした成り立つのであろうか。店舗を開くとしたらいくらかかるのか。仕入れはどうしたらいいのか。いろいろな疑問や不安がわきあがってくる。
 この本は作者が営業するオンライン古本屋の創業から現在までのお話である。サイト作り、仕入れの実践、売上金の回収、本の梱包・発送方法、そしてメールマガジンの発行と素人が古本屋へと変わっていく奮戦の模様が書かれている。これは古本屋ビジネスのノウハウ本というだけではなく、古本屋あるいは本のまわりに集まって来る人達の記録としても楽しく読める1冊である。
 オンラインでの商売というと人間同志のつながりが希薄なのではという印象を私は持っていた。だが、実際にはオンラインを通じて広がる人の輪もあり、インターネットの世界の魅力を再発見できる本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本三月は深き紅の淵を

2001/07/29 15:20

本にまつわる不思議な、フシギな物語

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 読書好きの人にとっておもしろい本があるという噂を聞けば、是非読んでみたいと思うのではないだろうか。まして、その本が幻の名作と呼ばれているようなものであれば、なんとかして手に入れたいと思うのではないだろうか。書店や古本屋を探し歩き、最近ならネットを使っての検索などの努力を惜しまないのではないだろうか。マニアとか○○中毒とか呼ばれている人たちの行動は一般人の常識を超えた、はた迷惑なものであることが多い。

 第一章の「待っている人々」では読書が趣味であるということで鮫島が会社の会長の別宅に招かれることになる。そこで読書好きの会長とその友人たちから十年以上探しても見つからない本「三月は深き紅の淵を」の話を聞かされる。そして別宅の中からその本を探し出すことを依頼される。

 本書は「三月は深き紅の淵を」にまつわる話が他に三編収められており、それぞれは独立していながらも「三月は深き紅の淵を」という本によって結び付けられている。それぞれの話は直線的に繋がっているのではない。螺旋階段を登るように、もとの位置に戻ってきているようではあるが、実は違う空間へと連れていかれたんだという印象を与えてくれる。

 作者は第二章で書いている「物語が物語自身のために存在する」、そして「本に作者がいることに気付かない」ような本を捜し求めているのかもしれない。本書はその実験の一つなのかもしれない。

 なんとも不思議な感覚が残る一冊である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本リミット

2001/07/29 14:48

「リミット」を越えた世界

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 一線を越えたときに初めて見える世界がある。
 
 人は自らの意思とはかかわりなく、一線を越えることを要求される事態に遭遇ことがある。「リミット」を越えないことを後悔するか、超えてしまって失敗したと思うかはそれぞれであろう。ただ、別の世界への第一歩を踏み出してしまった者には突き進んでいくしか道は残っていない。

 警視庁捜査一課・特殊犯捜査係の有働公子は楢崎正一の娘である「あゆみちゃん誘拐事件」の捜査に従事していた。膠着状態が続くなかで公子の息子の貴之が犯人グループに誘拐された。公子は犯人グループに警察の尾行を振り切って身代金を運んでくることを要求される。公子は息子を取り戻すために、警察を欺き金を届け、犯人と対決することを決断する。それは警察組織を敵にまわすことでもあった。

 話は誘拐犯グループ対警察から公子対警察、公子対犯人グループへと展開していく。

 物語の主題としては親子の愛情の深さ、絆の強さといったことがメインとなっている。しかしながら、作者がもう一つ言いたかったこととして、「リミット」を越えた人間の異常性があるのではないだろうか。公子は自分の息子が誘拐されたことで、本来は誘拐事件の取り扱いのプロであることを忘れ、ただの錯乱した母親になってしまっている。誘拐犯グループの主犯格である澤松智永も不本意な人生を歩んできた末に犯罪という「リミット」を越えてしまい、残虐な女になってしまっている。

 狂気と狂気がぶつかる。神経をすり減らし、体をはって戦う。そんな中に一線を越えた者どうしだから見えるものがある。繋がるものがある。そういったことがしっかりと描かれているために、この小説は単なる警察小説でもなければアクション小説でもない厚みを持った作品に出来上がっている。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本血塗られた神話

2001/07/29 14:13

新堂作品の原点

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 最初に街金融での顧客とのやりとりの場面が出てくる。顧客の申し出は必ずしも本当のこととは限らない。顧客の態度や提出書類から嘘を見抜く。どんなに繕っても、人間性を丸裸にしてしまう。街金融では取り立てが厳しいことはもちろんのことながら、借りるときにも自分をさらけ出す事を要求されるのである。

 街金融「野田商事」の社長野田秋人は取り立ての厳しさから、悪魔のような男と呼ばれていた。ある日、野田商事の顧客の一人が殺害され、死体の一部が送りつけられてくる。これを機に野田は様々な事件へとまきこまれていく。犯人の目的は何か、過去の事件と繋がりがあるのか。物語は次々に展開していく。

 「無間地獄」や「カリスマ」を先に読んでしまった私は、悪魔と呼ばれる残忍さを持つ野田が、同時に金貸し業の辛さや悲しさに悩む姿を隠すことなく描いていることに意外な感じを持ってしまった。人間の持つ醜さをこれでもか、これでもかと書いてくる作風とは違うのである。
 この小説ではむしろ人間の持つ「弱さ」が主題となっている。金は人間の本性をあらわにする。それは強欲さとか意地汚さといったことを思い出しがちである。しかし人間の本質はそれだけではない。誰かに癒されたい、優しくされたい、といった感情もあるのである。

 新堂作品の別の一面を見せてくれる作品である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

夜啼きの森

2001/07/22 15:04

いつの時代でも人間は深い闇を抱えている。あなたは闇を覗く勇気がありますか。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 最近はそうではないかもしれないが、やはり田舎に行くと時間の流れが都会に比べてゆっくりのような気がする。まして昭和初期のころの山村での時間の流れは遅いどころか淀んでいたかもしれない。地縁、血縁を基にする濃密な人間関係は薄まることはなく、日常生活の重しとなっていく。人々は互いに監視しあい、自分より弱いもの、村の風習に馴染めないものを除け者にし、不満のはけ口にする。村の枠からはみ出たものにとっては村は敵であり、復讐の対象へと変化していく。

 優等生だった辰夫は肺病を病み、徴兵検査にも落ちてしまう。村の行事にも参加しない辰夫はやがて除け者になっていく。一方、村人たちも資産家の砂子夫婦やよそから流れ着いたみち子、傲慢なやよいなどお互いが中傷しあいながらも、辰夫を除け者にすることで村の枠に留まっていた。辰夫は村人への怒りをつのらせ、やがて凶行へと突き進んで行く。

 本書は、昭和13年に起こった岡山・津山の三十三人殺傷事件をモチーフに描かれた作品である。因習や人間の欲望、虚栄心といったものが村という出口のない空間をさまよい、人を狂わせていく。
 全体としては抑えた調子で書かれている。人間の持ついやらしさや狂気ををたんたんと描くことにより、人が持つ闇の深さを強調する効果を上げている。

 21世紀になり、閉鎖的な村はなくなったかもしれない。しかし、新しい「村」が出来上がってきている。それは「会社」とか「学校」とかいう名前のものではないだろうか。「会社」とか「学校」という村は、現代の人間の欲や妬み、怒り、見栄といったものを蓄積していっている閉塞的な世界になり、そこに息苦しさを感じている人もいるであろう。今の時代を生きる私たちも、この小説にリアリティを感じられるはずである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

怪しいお仕事!

2001/07/22 14:22

怪しい仕事の怪しい人たち

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 世の中にはこんな仕事が成り立つのだろうかといった職業がある。或いはその手口は詐欺じゃないかと言いたくなるものもある。でも、みんな本当にそんなことで稼げるのならやってみたいなあ、と一度は考えたことがあるのではないだろうか。そんな怪しい仕事に関するレポートである。

 「カギ師」の話が出てくる。筆者が書いているように、普通カギ屋のお世話になるのはカギをなくしたときや、合鍵を作るときぐらいである。ところが、カギ屋の需要は他にもいろいろとある。家賃滞納者のカギを留守の間に取り替えたり、遺産相続の絡みで他の相続人が来るまでに金庫を開けることを依頼されたりなど様々である。
 私たちは日常、金銭などの貴重品や自分の身を守るためにカギを利用している。カギをかけることにより自分が他人の目にさらされることを防いでいるのである。カギ師たちはその一線を自分たちのもつ技術で超えてくるのである。カギ師にとって一番ゾクゾクするのはカギが開いた瞬間ではなく、開けることで「秘密」が目の前に現れるときだという。私たちのプライバシーなど「カギ」という頼りないものに守られているにすぎないのである。

 街でよく看板を見かける「車で融資」の金融業者の話も出てくる。利息が高いのは予想通りだとしても、「乗ったままOK」というのが金融業者の都合だとは知らなかった。でも、車の場合は事故で廃車になってしまう可能性もあり、そのあたりのリスクはどう考えているのだろうかと、余計な事まで考えてしまった。

 とにかく、仕事の内容は法律スレスレ、あるいは法律違反と思われるようなものである。頼れるのは自分の才覚だけといった世界である。それだけに登場する人物たちは一癖も二癖もある人たちである。しかし、そのアウトローな雰囲気にしがないサラリーマンとしてはすこし憧れてしまう。

 世の中にはまだまだ不思議な仕事がいっぱいあるのであろう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

青空のルーレット

2001/07/22 13:46

戦う男たちの絆

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「男の友情」というと何かうそ臭いような印象を持ってしまう。ところが、「戦う仲間同士の絆」という言い方であると少しは違った感じになるのではないだろうか。戦うのはスポーツやギャンブルの世界だけではない。自分たちの夢や理想を実現することも戦いなのである。

 主人公の「俺」はビルの窓拭き会社のバイト従業員であり、ミュージシャン志望である。バイト従業員の仲間は皆、漫画を描きたい奴や芝居をやりたい奴、小説を書きたい奴など夢を持っている連中である。こういった夢を持つ人々を理解できない小物の上司との対立や仲間の事故などを絡めて話は進んでいく。

 「俺」を含めたバイト従業員たちは「窓拭き」という仕事にまじめに取り組んでいる。本文に以下のようなフレーズが出てくる。
 俺達が窓を拭いているのは、メシを喰うためだ。
 俺達が窓を拭いているのは、家賃を払うためだ。
 しかし俺達が窓を拭いているのは、夢を見続けるためだ。

 彼らにとって「窓拭き」は夢を見続けるためには必要不可欠なことであり、夢を実現するための戦いなのである。だから、「窓拭き」という仕事と真剣に向かいあわなければならないのである。そこから共に戦う仲間という連帯感が生まれてくるのであろう。

 高層ビルの窓拭きという文字通り命がけの仕事に携わりながら、命を賭けてでも夢を実現したいという男たちの絆は、読後に爽快感を与えてくれる。夢の実現のために戦う男たちは美しく、かっこいいのである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

風に桜の舞う道で

2001/07/08 14:59

10年前の自分は何を考えていただろう。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 大学入試を終えてもう何年も経つのに、いまだに試験の夢を見ることがある。それもマークシートをずれたまま塗ってしまっていたり、、最初の一問目を間違えたために後の答えが全部違っていたりというよな悪夢である。受験というのはやはり人生の一大イベントなのかもしれない。

 本書は、主人公の小島晶と予備校の寮で一年間を共に過ごした仲間たちの浪人時代と現在を交互に記していく形式となっている。リュータの消息を調べる中で昔の仲間たちと再会し、寮生活を思い出していく。

 浪人のころの話と現在の状況しか書かれていないが、10年前の一年間が今の生き方に影響を与えていることは間違いない。受験のプレッシャーや自分の夢と親の期待のギャップに悩んだりしながらの浪人時代は決して無駄にはなっていない。

 浪人というのは所属もなければ将来も決まっていない不安定な立場である。しかしながら不安定であるということは、これから先には無限の可能性があるというこであり、夢を見れるということである。自分の進路を自らの力で選択した第一歩がこの時期なのかもしれない。

 そんな貴重な一年間を過ごすことができた幸せな男たちの話である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本黄金の島

2001/07/08 14:34

「黄金の島」はどこにある?

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 日本は本当に「黄金の島」なのだろうか。現在の日本を考えるなら、長引く不況に苦しむ国としか思えない。倒産、失業、不良債権の問題などを抱えた重病人である。自家用車を所有し、携帯電話を持ち歩く姿は物質的には豊かであるかもしれないが、果たして暮らしやすい国なのであろうか。大いに疑問を感じてしまう。
 しかしながら、ベトナムから見る日本は「黄金の島」なのかもしれない。ベトナムでどんなに働いてもたかが知れている。共産党にコネもない一般のベトナム人にとっては海外で一旗上げることが豊かな生活を手に入れる唯一の手段なのであろう。

 坂口修司は日本を追われ、命を狙われこととなり、ベトナムへと逃げ込む。そこで豊かな生活にあこがれるベトナムの若者たちと出会うことになる。彼らは冷蔵庫やテレビのある生活を夢見て、日本へ密航することを計画していた。坂口も密かに日本へ戻ることを考えていた。そして、坂口とベトナムの若者たちは日本へ向けて荒波の海へ出港していくことになる。

 こう書いてくると、ベトナムの若者と日本人が協力し、困難を克服しながら日本へたどり着くまでの海洋アドベンチャーもののように聞こえるかも知れない。ところが実際にはベトナム人と坂口の間にはズレが存在するし、ベトナム人の間でもお互いを疑いの目で見るような状態が生じてくる。船という閉塞した空間が不信感を助長させることになる。そこに濃密な人間ドラマが展開されることになる。

 ベトナムの若者たちは自らの命を賭けて、そして仲間を失うかもしれないリスクを冒してでも日本を目指す。彼らにとって日本が本当に「黄金の島」であるかどうかはどうでもいいことなのかもしれない。「黄金の島」があり、そこへ行くことで幸せになれるんだという希望こそが大事なのかもしれない。たとえそれがどんなに危険で非合法なものであっても。同じアジアの国が抱える悲しい現実である。
 

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

37 件中 1 件~ 15 件を表示