子房さんのレビュー一覧
投稿者:子房
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紙の本カフカ短篇集
2000/12/25 06:34
真理をおびて始まるものは、しょせんは不可解なものとして終わらなくてはならないのだ
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オドラデク、我が将来の姿。誰もが目的を抱き死していくなか、いつまでも残りつづけかさこそと笑う。何という虚無であろうか、この生物は。ぼくがカフカの短篇で最も愛する作品「父の気がかり」。
絶対の探求、欲してやまない何か。カフカの小説はそればかり描いている。父権の絶対性を望む主人公の「判決」。傷を覆い和らげてくれるものを願った少年「田舎医者」。あるいは機械の冷徹さに不可侵な何かを求める「流刑地にて」。だが見いだしたと喜び掴むやいなや消えてしまう「こま」。下準備からはじめようとすればただ混乱するばかり「町の紋章」。結局分不相応な望みを持つことは滅びを意味する「橋」と「禿鷹」。それでも走りつづけて築きつづけていきたい「万里の長城」。そしてさまよう運命の定められた「狩人グラフス」——
「掟の門」は『審判』のなかにも引用されている。解説もしている。評論家による百頁以上もの論文もあるらしい。そんな内容。「雑種」は変な動物。「火夫」は『アメリカ』における第一章。「夢」はたぶんほんとうにみた夢なんだろう。「中年のひとり者ブルームフェルト」は謎の生物と遭遇した男の話。「夜に」は率直な感慨。「喩えについて」の理屈は分かりません。「バケツの騎士」となるともう何がなにやら。
その他にギリシャ神話へのひねくれた解釈ともいうべき作品「人魚の沈黙」と「プロメテウス」。こういうのは安部公房もたしかやっていたな。
結局、カフカの作品を解釈しようなんて無理な話なんだよ。
紙の本猫のゆりかご
2000/12/19 07:25
猫、いますか?ゆりかご、ありますか?
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ヴォネガットの出世作にして最高傑作(と思う)。これを読めば、あなたも今日からボコノン教の信者になれる! さあいますぐボコノンを称えるのだ——
はじめから説明すると、主人公の作家はある事情で故人の科学者について調べはじめて、あるきっかけで科学者の子供たちと知合い、ある事情で南の島国にでかけ、ある要因で世界の荒廃が起こる。というとても分かりやすいお話。
とにかく愉しい小説だ。細かい章立てによる皮肉と諷刺の数々。小話の羅列でありながら立派なひとつの物語が構成されている素晴らしさ。この手法を彼が本格的に使用しはじめたのはこの作品が最初だそうだが、最初でこれだけの上手さをみせているのだから凄い。
さらには登場人物の俗っぽく、だからこそ共感してしまう悲哀。アイス・ナインを利用して、自分たちの求めるものを得ようとする三人の兄弟。素朴な苦悩と、素朴で当たり前なことを語るボコノン教。ふたつの重なりは、いつしかしだいに厳粛な気持ちを読む者に及ぼす。最後まで笑いながらも、終わったあとしばし呆然としてしまう。宙空に猫を、ゆりかごを探してしまう……
紙の本木のぼり男爵
2000/12/19 07:16
自分自身でさえ説明しかねる理想のために生きています
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十八世紀後期の過渡期において生涯を樹上で過ごしつづけた男爵の物語。木の上にいたって恋もできるし読書もできる、海賊と戦うことだってできるのだ。
ホラ話というのは二通りに分けられると思う。一つは徹底して非現実的な出来事の巻き起こる話。もう一つは現実から外れることなくその範疇で語られる話。この作品は後者である。
だが現実から逸脱しないからといって想像力に乏しいと考えるなかれ。現実内に収めつついかにそこから跳躍するかが難しいのだ。この作品はそれに見事成功している。文体も軽やか、平明で読みやすい。
樹上生活者たる男爵は何を目指したのか。高いところからでなければ見えないものがある。距離をとってこそ把握できることもある。彼はそれを体現した存在と考えるべきか。それとも自由であることの解放感と孤独の象徴?
終盤『戦争と平和』のアンドレイと出会った場面には唸らされた。ナポレオンは登場させる必要なかったかな。会話は上手いけどね。
2000/12/19 07:22
もしかしたら善い機械をつくることは人間の力を超えているのではないか
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大砲の弾でまっぷたつになった子爵は右半身が悪人、左半身が善人となってしまった。それら両者が巻き起こす騒動を描いた愉快な寓話。
とにかくおもしろい。皮肉も諷刺も単純で分かりやすく、笑いも素直である。文章は平易、くだらない風景描写などを連ねたりしないから読みやすい。彼はほんとに優れた作家だなあと思う。
脇役陣も愉しい。人魂収集に熱心な医者トレロニー、二人の半身に愛される不幸な少女パメーラ。彼らの活躍あるゆえに物語もまたふくよかなものとなっている。
皮肉でいちばん印象に残ったのは、善半(善人のほうの半身)とユグノー教徒の邂逅だろうか。善意とは何かということを考えさせられる挿話。
紙の本シティ・オヴ・グラス
2000/12/25 06:33
われわれは将来性のあるものだ。まだ達成されてないものの一例だ
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訳者あとがきによると、これは「形而上学ミステリ」なんだそうで。何とももっともらしい言葉である。実際はただの「推理作家は如何にして浮浪者に成り果てたか」物語でしかないと思うのだけど。
単純な印象を語るのならば、洒落た安部公房といったところか。都市という舞台で淡々と描かれる変わったお話。間違い電話からはじまって、私立探偵の真似事を行い、一人の男を尾行してまわる。そしていつしか自分を見失う。それだけの内容だ。何ら難しいことはなく、読みやすい。
いったい、この小説は何が言いたいのだろう。ということを考えるのは野暮だろうか。自分というものの曖昧さを示したかったのかもしれず、世界の曖昧さを表したかったのかもしれない。すぐそばに横たわる都会の冒険を愉しむべきか、それともすぐそばに潜む狂気への入口に怖れるべきか。いや、読み終わったあと、ただ「ふう」と溜息をつくしかない作品だ。
ところで、作中において説かれる新世界の「バベルの塔」とは、コンピュータ・ネットワークのことではないかとふと思った。1960年代といえば電子頭脳開発がはじまったころといえるし、ひとつの言語とは二進法を意味しているようにも思える。現代の「バベルの塔」は、神へと人類を辿りつかせるのか。なんてね。
紙の本魚籃観音記
2000/12/19 07:14
このひと、わたしに乗るのかなあ
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筒井康隆にしては随分と穏やかで平淡、読みやすい意味も分かりやすい結末も納得しやすい作品ばかりの短篇集。年老いて丸くなったか。
小学生でも愉しめる優良サイトを目指しているので表題作については語りません。現実と虚構の照応を描いた「市街戦」「作中の死」や、動物の擬人化作品「馬」「ジャズ犬たち」などは、筒井のよく使う主題ながらも新しい趣向を築けている。おもしろい。
「ラトラス」も抜群に上手い。このての話を書かせたら彼の右にでるものはいないだろうなあ。「分裂病による建築の諸相」や「建物の横の路地には」は次々と描写される事物の愉快さと珍奇さに感嘆してしまう。
「谷間の豪族」も結末はブラックではなかった。ほんとうにどうしたんだろう。死期が近いから、なんてことじゃなければいいのだが。
紙の本ぼっけえ、きょうてえ
2000/12/18 07:02
男は女や女の穴が好きなんじゃのうて、通じとる地獄が好きなんじゃろう
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まったく貧困ほど怖いものはない。平明な文章で書かれるその生活にはげんなりさせられる。いまの時代に生まれて幸せでしたと感謝の気持をしばし持った。
女性の淡々とした口調で語られる堕胎の話が恐ろしい表題作「ぼっけえ、きょうてえ」。おまけに最後は人面瘡に惚れられて「どうされます?」だもんなあ。そんなこと聞かれても困るよ。
表題作ほどではないが、他の三篇もなかなかの出来である。「密告函」は嫁の心境をまったく描かずに客観的な視点から書くことで不気味さを引き立てている。「あまぞわい」の二種類の挿話によって女性心理の複雑さを表現した趣向も上手い。「依って件の如し」は少女の目線で把握される事象の薄ら寒さが良かった。
ただ未熟な部分もある。特にクライマックスの描写は妙にまわりくどくて驚きを半減させている。例えば盆の灰の足跡を見る場面など。こうした点に磨きがかかれば、もっと優れた作品を書くことができように。
紙の本スローターハウス5
2000/12/19 07:24
ここに登場する人びとの大部分が病んでおり、また得体の知れぬ巨大な力に翻弄される無気力な人形にすぎないからである
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と作者が言っているように、登場人物はしっかりとした個性を付加されていず、物語も自身が体験した「ドレスデン爆撃」へと到るまでは飄々とした挿話と科白で展開されていくのだが、事件に筆が近づくにつれて機知は消える。結局、体験したままを記述し、書き終わったあとは早々と話を閉じるしかなかったようだ。これでは感想という安易な文章は書けない。評論をするほどの技量はないし、したいとも思わない。そういうものだ。
一個の作品として完成されているとは言い難いものの、随所にわたる言葉の愉悦、皮肉は充分に楽しい。ぼくがこの小説に不服を感じてしまうのは、『猫のゆりかご』と比較してしまうからだろうな。よくない評価の仕方だ。
「いやな時を無視し、楽しい時に心を集中するのだ」
そういうものだ。ああこの一言のもとにすべてを割り切ることができたらどんなにいいだろうか。実際はそうはいかない。それはヴォネガットも分かっているはず。だからこそ、幾度も幾度も繰り返すのだろう。「ドレスデン爆撃」を振りきるために。
そういうものだそういうものだそういうものだそういうものだそういうも
紙の本果しなき旅路
2000/12/19 07:20
去年の自分はいつでもばかに思えるものよ
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恩田陸『光の帝国』が影響を受けたSF小説。超能力を持つ異星人が漂着した地球でほそぼそと暮らす姿を描いた連作短編。といっても何ら大袈裟な事件が描かれるわけではなく、ほとんどが異質な子供と教師の触れ合いのお話だったりする。
教師もじつは同胞だったという結末は安直だけどほのぼのとしていて愉しい「アララテの山」。地球人とのハーフたる兄妹の同胞の受け入れてもらえなければどうしようという不安が痛い「ギレアデ」。子供がケガしたのは教師のせいだよなあとも思う「ヤコブのあつもの」。
知恵遅れの子供を半端な精神感応能力で回復させようとし、逆に凶暴性を助長してしまうのが皮肉な「荒野」。いちばん分かりやすくまた愉しめたのは「囚われびと」。そして結末風味な「ヨルダン」。
どれも筆致は明るく楽観的である。まるでいつか人間が異質なものをただ疎外するだけでなく理解し受け入れるときがくると信じているかのように。しかしそんなときはきやしない。特異な存在はいつまでも排除されつづけるのだ。ぼくはそう思う——
紙の本狂気の王国
2000/12/25 06:36
すべての人間の根底に孤独がうずくまっている
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ミステリとしては、出来が悪い。主人公はいきなり事件へと引き込まれ、状況説明もろくにされず、何が謎なのかよく分からず、事件に興味も抱けないまま、話は進んでいく。それゆえ、結末の解決篇を読んでも感興は湧かないし、腑に落ちた気分もしない。
この小説は、二十世紀初期の精神病院の様子を語ることが本筋だそうで、作者自身の体験したという治療法や患者や医師が描きこまれている。そうした点では価値ある作品なのかもしれない。
だが、小奇麗な病院、軽度の患者、普通の看護士と医師。どぎつく酷薄な描写もなければ、狂人が幸福そうな様子もない。甚だ、平凡な精神病院。つまらない。もっと暗部を書いてくれればよかったのに。
紙の本Puzzle
2000/12/19 07:18
ここも、相当歪んでるよな
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駄作だな。こんな作品を書き捨てるとは、情けない。
まずミステリとしての出来が悪い。不可解な死因と謎の文書という大風呂敷を広げておきながら、その答えは…怒りだしたくなるような出鱈目さ。ふざけるなと怒鳴りたくなる。
物語としても拙い。たとえば解決編の「人の死を見ようの会」からして現実味がなさすぎる。契機がメールだとはね。インターネットを介せば何でも現実味がでるとでも思っているのか。
ああもう粗をあげればきりがないほどに不愉快。何が「息詰まる攻防を描く驚愕のミステリー」だ!
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