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hideさんのレビュー一覧

投稿者:hide

3 件中 1 件~ 3 件を表示

紙の本樹縛

2001/03/16 00:49

テーマとストーリーの見事な交錯

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 氏のデビュー作『枯れ蔵』は、米作りをテーマにした珍しい農業ミステリとして話題を呼んだ。本作ではこれに引き続き、林業という分野に焦点をあてた作品である。だが、本作は珍しい世界を扱った小説という括りだけでは捕らえきれない力を秘めている。珍しさの部分だけでなく、作品世界に流れる雰囲気を堪能したい作品である。

 杉林で発見された二体の白骨死体。その片方は、12年前に失踪した姉だった。ショックを受ける坂本直里に舞い込んだシックハウス症候群の調査。秋田杉の内装のマンションで次々と起こる室内花粉症問題。起こるはずのない問題を調査するうちに、直里は姉の失踪事件との関連に気づく。両者が交錯するとき、浮かび上がる真実とは何か。

 秋田杉の家という欠陥住宅の問題がマスコミを騒がせたことは記憶に新しい。また、国産材をとりまく厳しい状況は周知の事実であろう。前作『枯れ蔵』でも厳しい日本の米作りの現状を踏まえ作品を創り上げていたが、本作でもこういった状況を背景にしている。また、シックハウス症候群という現代病とも言える新しい問題をうまく取り込むことで、非常に新鮮でまた現実的な状況を生みだしている。

 だが、そういった状況を背景にしつつも、本作はただの情報ミステリではなくその中核を担うのはあくまで人間ドラマである。林業や杉の問題、そして室内花粉症を媒介に、登場人物たちの関係が明かされ、つながりを得ることで、ストーリーは徐々に人間ドラマへとシフトしていく。この段階で粗の目立つ作品が多い中で本作は非常にスムーズにシフトが行われる。

 ここにこそ、氏の実力が証明されており、同時に氏の作品に対する方向性を伺い知ることができる。テーマとストーリーが交錯するその瞬間をきちんと見届けたい作品である。

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すぐ側にある心の歪み…

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 本作は、都心にそびえる28階建てのインテリジェンスビルを舞台に、そこで起こる様々な事件を描く9編の短編集である。「重すぎて」では、不倫の結果起こってしまった転落死と意外な真相を、「歪んだ月」では恋愛問題と殺人を絡め、「ドラッグ・ストア」ではOLの陥った横領と万引きを描き、「ブラックボックス」では、OL転落死を掃除婦の手紙形式で綴る。また「ダブル・オリーブ」では強盗事件の意外な真相を、「幻の味」では見たことのないキャンディの謎を取り扱う。

 それぞれの短編の結末は、非常に爽やかなものから、後味の悪いものまで様々である。爽やかなものには前作「ランチタイム・ブルー」に共通する非常に女性的で軽い雰囲気のある文章がマッチし、反対に文章力の高さが故に後味の悪さもまたずっしりと心に響く内容となっている。

 本作の題名『歪んだ匣』は、作品の内容を見事に表している。「匣」はぴたりとふたの閉まったはこを意味する。そんな匣を体現し、作品の舞台となった高機能ビルは、技術の粋を集め、歪みなどあるはずもない。にも関わらず、そのビルを使用する人間の心模様が、そのビルを歪んだものへと変貌させてしまう。

 しかし、本作に登場する人物たちが異常なわけではない。それぞれは普通の生活を送っており、我々とそう変わる部分はない。だが、ふとしたきっかけで、そしてふとした瞬間に本人すらも気づくことのない心の内の悪が表出したとき彼らは道を踏み外す。事故・殺人・盗難・ケンカ・横領。言葉にすればただの犯罪でしかないこれらの事件も、もしかしたら自分のすぐ側に、いや自分の中にも存在しているのかも知れない。

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紙の本ランチタイム・ブルー

2001/03/16 00:47

永井するみの転換点とも言える作品

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 本作を刊行するまでの永井するみ氏の作風には、重い雰囲気と綿密な取材をしているのだろうと思わせる展開から、真保裕一氏との共通性が見られた。だが、本作では一転非常に女性らしい柔らかな文体と、主人公のOLの周囲で起こる日常的な謎を扱い、作風としては加納朋子氏にも近い雰囲気が見られる。そういった意味では、本作は氏の実力の証明でもあり、同時に作家としての転換点ともいえる作品なのかも知れない。

 本作は、庄野千鶴を主人公に、表題作「ランチタイム・ブルー」の他「カラフル」「ハーネス」など8編の短編が収められている。話は、千鶴がインテリアコーディネーターとして再出発を図るところから始まる。それぞれのストーリーは、この仕事を続ける中で起こる様々な事件や出会いを中心に進み、千鶴の成長物語としても楽しめる構成になっている。

 それぞれの短編は、ミステリとしてはすべてを出し尽くす前に急転直下の結末といったアンフェアとも言える部分はある。だが、それでいて読者を引き込んでくれる力の根元は、ミステリの妙味である不思議さや謎をうまくトッピングし、結末の爽やかさや美しさを非常にうまく際だたせている点にある。

 また、雰囲気作りもまた結末を際だたせる上で重要な働きをしている。特に、「ハーネス」や「ウィークエンド・ハウス」では、展開が冷たさや鋭さを秘めている分、結末の瞬間それが一気に暖かく優しいものへと色を変える鮮やかさが見事である。本作にはこういった展開が随所に見られる。またこの傾向は、本作以降の作品でも見ることが出来る。重さと軽さの両面を持ち得た永井するみ氏は今後も注目の作家である。

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