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  3. 宇羅道彦さんのレビュー一覧

レビューアーランキング
先月(2017年2月)

宇羅道彦さんのレビュー一覧

投稿者:宇羅道彦

30 件中 1 件~ 15 件を表示

繰り返し時を越えて読まれるべき現代の古典

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

宗教を現代哲学の言葉で語る試みが成功することは滅多にない。
多くが特定宗教内部の宗教哲学になってしまうのが落ちである。
この著者は宗教を現象的所与として受け止めるところから分析を始める。

イラン革命に追われ日本に帰国することがなければ我々はこの著書に
出会うことはできなかっただろう。
生涯をかけたイスラムとの取り組みが、歴史の変転という偶然を経てこ
のすぐれた書籍を生んだ僥倖こ読者は大いに感謝するべきだろう。

特に注目すべきは禅についての著述である。
老師がたの語るところと全く矛盾のないところをこの著者は哲学と言語
学の先端の言葉で語っている。実に驚くべき境涯であるといえよう。

井筒俊彦氏は現代の日本人の一つの到達点である。
日本人のイスラム理解はここから始まるかないが、ここから先にゆくには
半世紀が必要だろう。

そして、イスラムを理解することが畢竟、総ての宗教を理解することに他
ならない姿勢で取り組んでいることに、井筒俊彦氏の学問的正統と、そ
の人間の誠実と偉大が見いだされよう。

繰り返し時を越えて読まれるべき現代の古典である。

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紙の本おカネの法則

2003/07/19 16:24

今後十年のデフレを前提として

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

目次と前書きを読めばおおよそ内容は想像がつくだろう。
想像のつかない人には何はさておき、ぜひ一読を勧めたい。

想像のつく人はいきなりこの本を読むよりも、まず目次を見ながら自分の頭でじ
っくりと考えてみることが、きっと為になるだろう。

大竹氏は大局的歴史観を持つ優れた日本人には数少ない国際的ファンドマネージャーである。その、歴史と経済への一貫した視点には学ぶべきところが少なくない。

ただ、今回の著作は今後十年のデフレを前提として構築されている。
この論理に与するかどうかは、まさに事業家それぞれの自己責任に属すことがらである。ギャンブルといえば、まさにこのことこそがギャンブルだろう。

現在の世界的デフレ傾向をさらに十年続くと見るべきか。
それとも、冷戦構造の終焉から始まった中国を巻き込んでの、世界経済の調整
は終わりを迎えつつあるのか。
この辺りの見極めが、戦略の分かれるところである。

私見では、やがて近い将来に人口問題や環境問題が世界的デフレ傾向の歯止
めとして働き出すのではないかと見ている。
全般的デフレ傾向の中にも、局所的インフレ状況が業界や地域により混在する
という、まだら模様の非常に流動的な状況の可能性に現実味があろう。

日本経済はその個別性において、バブル経済からその崩壊が世界の経済停滞
に先行したように、あるいは世界経済の将来のインフレをも、近い将来、数年に
亘り先取りするのではないか。

ともあれ、 「おカネの法則」という著作が群を抜いて勝れたものであろうことは、
この著作をまだ読んでいなくて、これから読もうとしている私が、その著者の人物において保証しておこう。

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幾ばくの経験がある人に

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

外貨預金から始まり、為替取引に参入する人々が急増しているという。
株式や商品先物取引などを経て、為替をやるようになった個人的経験
からいうと、あまりにも無謀な挑戦者の多さに驚かざるを得ない。

スワップ金利に惹かれ預金感覚取り組むというのもあるらしいが、金利
が高いということは、その通貨のインフレ率が高いわけで、いずれ調整
が入ることになる。

まあ、いずれにしろ人生がある種、博打であるように為替は当然のごと
く博打に他ならない。誰であれ経験から学ぶほかないものだが、それも
才能があってのことだ。

相場で損をし、損をした理由がはっきり分かり、かつ二度と同じ誤りを犯
さないことができるなら、それは才能があるということだ。
そして、そんな人間は滅多にいない。

幾ばくの経験がある人には、この書籍をお薦めする。
米国では相場にたずさわるものの必読書であるらしい。

経験を言葉に定着させることは経験から学ぶ大きな方法の一つである。
自らの経験に思い当たることがあって初めて、この種の書籍は読む意味
があると思うからだ。

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紙の本超帝国主義国家アメリカの内幕

2002/07/24 12:39

史上最大のペテン

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「われわれは史上最大のペテンをうまくやってのけたわけだ」。
ハーマン・カーンこう言葉をかけ、この本の著者マイケル・ハドソンを彼の
研究所のエコノミストとして雇うことになる。

われわれとは米国であり、うまくやるとは米国債本位制が金為替本位制に取
って代わったことをさしている。

アカデミズムがまだ理論化に及んでいない事実を読み解くこの本は既成の経
済学を学んだ人々と、いわゆる常識人にはトンデモ本と見なされるかも知れ
ない。

これは現在の世界をあるがままに見るとき、その国際経済的全体像を把握す
る最も合理的仮説のひとつを説く驚異の仕事である。

日本のプラザとルーブルにおける合意がバブル経済を膨れ上がらせ、やがて
破綻にいたる経済的自殺であったと語る。

つまり、巨大債務国がその債務ゆえに世界を支配する必然的構造。
米国が覇権国家であることの意味は、米国以外のあらゆる世界が、債権国か
債務国かに関わらずともに米国の部分になることであったようだ。

世界の経済と金融のすべてが米国一国の繁栄のために供されている現状への
善悪を超えた冷静な分析はまことに貴重なものである。

これは政治や外交に関わる当局者、あるいは経済や金融に関わる企業人こそ
が立場に関わらず目を通すべき本のひとつであろう。

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紙の本物語を生きる 今は昔、昔は今

2002/06/03 21:37

単なる事実としての虚無

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本当の納得は、知的な因果的把握を超えて、自分の存在が「そうだ」という
体験をしなくてはならないし、それは極めて個別的なものである。一般原則
に基づく説明は、本当の納得につながらない。
                         河合隼雄「物語を生きる」より

人はみな物語を生きている。
物語とは事実への解釈に他ならない。
だから単なる同じ事実を用いて様々の物語が果てしなく語られる。

人のアイデンティティはその人の生きている物語にかかわる。
しなやかに生きることは自在に物語を書き換えてゆくことを意味する。
特定の物語を生き続ければ、やがてかたくなな人格が出来上がる。

しかし、河合隼雄がいうように個人の物語は納得がいかなければ十分人を支
えることはない。つまり、強靭な物語は容易に書き換えが効かないのである。

物語の大きな基本の構図は維持しながら、その細部は時々の気分に任せる。
そんな心の技術が求められるところである。

家や企業や国家や民族も、つまりあらゆる人間の集団もまた物語を必要とす
る。存在理由がなければ存在できない。あるいは存在に安住できない。
これは自意識をもつ人間ならではの心の問題である。

宗教やある種の科学思想は世界についての物語を語る。
多くの社会思想や歴史も人間社会についての物語である。
人と人の対立は物語の対立という側面を有している。

あらゆる人に適合する物語は存在しない。
人はそれぞれ自分ならではの物語において、初めて個別的な価値を自らに見
出すものであるからだ。物語には正しいか正しくないかという問題はない。
問われているのは納得だけである。

どんなに不可解と見える宗教や思想も納得するに人がいる限り存在し続ける。
個別的体験に基づく納得はあらゆる合理性に優先するからである。

5000年前さながらの物語を生きているインドのベナレスの人々から、最新の
シャネルやエルメスを身にまとうニューヨークのセレブまで。
現代の人類世界はいまだかつてない重層的な物語によって構成されていると
いえよう。

この多様性を価値と見るか混乱と見るかで、世界に対する見方は大きく分かれ
ることになる。進歩思想に毒された近代知識人はそこに混迷を見出すだろう。
進歩思想自体がひとつの物語に過ぎないことへの無自覚のなせるわざである。

どんな物語も可能だということは、あらゆる物語の虚構性を意味している。
しかし、人は生きるために物語を必要とする。
高杉晋作の「面白きこともなき世を面白く」生きる工夫である。
単なる事実としての虚無を引き受けたその向こうに、現代人の人生はある。

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紙の本生命40億年全史

2003/04/28 00:37

生命の歴史的事実

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

様々なことを考えさせてくれる興味深い本である。

四十億年にわたる総ての地球生命の歴史的現在は、ただ一つの生命に発する
ことが知られている。今生きてあるあらゆる命は四十億年を生きてきたので
ある。そしてまた、あらゆる地球の命は一つの命を生きているわけでもある。

食物連鎖の頂点に位置する人類は、他の命を食らうことで命をつないでいる。
太陽の恵みを葉緑素(クロロフィル)によって光合成でエネルギーに転換で
きる植物以外の生き物は、すべて他の命を頂くことで自らの命をつないでい
る。それは、地球の命の総体の結果的意志あるとみなされよう。

個体を生きる命はその命に至る果てしない世代の、自らの命を未来につなご
うとする意志の累積として現在を生きつつ、自らをもまた未来への命の橋で
あらしめようする存在である。

ただ、自己対象化能力という意識を獲得した人間だけは生物学的遺伝子のみ
ならず、観念に属する文化の遺伝子をも心として未来につなごうとする。
総体としての人間に貢献することを、心を持った個体生物としての人間が選
択した結果である。

命が生きることを意志する存在である限り、単に生きること自体がすでに意
志の実現として基本的喜びを構成する。
人の死は生物学的あるいは文化的遺伝子の後継世代における命の実現におい
ては一つの人の自然として、またそうでない場合にも、好むと好まざるに関
わらず、事実として受容せざるを得ないものとしてある。

以上は鳥瞰的な視点からの、生命の歴史的事実への認識である。
つまり、以上の文脈に矛盾する思想や哲学や宗教は、すべて事実に背理する空
想的虚妄であると見るべきだろう。
もちろん、この認識自体も一つの観念に過ぎないのは当然であるが。

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ぬかりない塩野女史のことなのだから

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

このシリーズで、買ってから三日間以内に読み上げなかった
初めての本である。

著者も言うように、前例のない貴重な仕事であるが、同時に
まことに読みにくい一巻ではある。

あらゆる出来事を物語として読み解く著者にしてなお、イン
フラストラクチャーばかりは緻密なデーターの積み上げ以外
に方法がなかったと見える。

本気で十全なるローマ史に取り組むならさけようのないテー
マだっただろう。
完璧をめざす仕事は、時にこういうものを生むわけだ。

だから心ある読者には、この一巻を倦むことなく読む努力が
求められている。

今後の楽しみがいっそう深まることがきっと約束されている
はずである。何といってもぬかりない塩野女史のことなのだ
から。

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他人の気持ちを傷つけるには…

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    他人の気持ちを傷つけるには、
    真実を語ることがいつでも、
    もっとも効果的な手段だ。

        「バッドラック・ムーン」(講談社文庫)
           ミイクル・コナリー/木村二郎 訳

高校時代以来の盟友、ミステリー作家・木村君の翻訳新刊書で上記の言葉を見つけた。
木村君の翻訳は原作を大切にし日本語の翻訳にありがちな解釈をしない訳文である。
あるいは解釈をしていないように感じさせる硬質の文章である。
翻訳小説をどう読むかはは読者により様々な嗜好があるだろうが、
原作者の言葉を大切にするといわゆる翻訳調になりやすい。
米国の現在を熟知しつつ日本語の修練を積む以外、
原作を大切にしつつ日本語に翻訳するという作業は容易なことではなかろう。
木村君は日本語らしさよりもあえて米国のミステリーらしさを選んでいると思える。
このポリシーが彼の翻訳のオリジナリティであろう。

休暇のひとときを楽しませてくれた木村君に感謝。

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夜はわが友

2002/06/03 21:46

英語のミステリーらしさ

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 「それはさびしい曲で、午後の影が長くなり始めると、
   いつも曲に秘めている雰囲気を伝えてくれる。」

        「夜は我が友」(創元推理文庫)
           エドワード・D・ホック/木村二郎 訳

素敵な一行だと思う。
盟友、ミステリー作家・木村君の手になる翻訳である。
日本語にこなすと、例えば次のような文になるだろう。

「それはさびしい曲で、いつも午後の影が長くなり始めるころ、
 その秘めた雰囲気を伝えてくる。」

しかし、こう書くと英語のミステリーらしさは損なわれる。
原作の英語による思考の流れを大切にするなら木村君のように訳すしかない。
木村君の訳を日本語らしい表現に置き換えてみる試みも、
最近の読書の一つの楽しみである。

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紙の本三屋清左衛門残日録

2002/06/03 21:31

命よりも大事なものを

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「衰えて死がおとずれるそのときは、おのれをそれまで生かしめたすべてのもの
に感謝をささげて生を終わればよい。しかしいよいよ死ぬるそのときまでは、人間
はあたえられた命をいとおしみ、力を尽くして生き抜かねばならぬ。」
                        藤沢周平「三屋清左衛門残日録」より

藤沢周平は「三屋清左衛門残日録」において、ひとつの自画像を描いていると私
は思う。先の引用は命が何よりも大事なものだといっているのでは決してない。

当たり前のことだが、武士も商人も命よりも大事なものを見出して生きるところに
彼の作品のドラマがある。

巧まずして生き残ってしまった感慨は、同年輩の友人が鬼籍に入りはじめた年代
の人間にとって共通のものだろう。そんな一人の男の、美しい覚悟がこの一節に
はある。

道のためには命を惜しむな、そして道のために命を惜しめ。つまり、道のためにこ
そ死ね。多くの道人が様々に言葉を尽くして同じ意味のことを語っている。

藤沢周平はその作品において、道を語ってついに飽きなかった現代の道人ともい
うべき作家の一人であった。

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紙の本サム・ホーソーンの事件簿 1

2002/06/03 21:23

昔はよかった

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木村二郎氏翻訳のエドワード・D・ホックの「サム・ホーソーンの事件簿」が、
先に出たホックの短編集「夜は我が友」と並んで、広く長くミステリーファンに
愛されることを祈りたい。

私見だが、木村二郎氏がその訳文の一番フイットする作品に出会ったように
思っている。

「昔はよかった、といつもいろいろ聞かされているだろう。」という文章か
ら始まる事件の謎解きの物語は、1920年代という米国の時代設定と相ま
って読者の心を和ませるものがある。
友人の仕事とはいえ、それはさておいてもこれはお奨めである。

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最高の推理小説のように

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 ほぼ二日ほどで読んでしまった。十年をかけた作品だそうだが一気に読む誘惑からは逃れられなかった。そう、まるで最高の推理小説のように読んでしまったのだ。

 やはり、数少ない世界水準の日本有数の知性である。やがて時間が経てばこの著書はしばらくの間、ソ連崩壊以降の最高の哲学的考察と称されることになるだろう。

 デカルトからカントを経てマルクスまで。そこにまっすぐな脈略を読みとる柄谷の視点と彼自身の存在、その明確な自己主張。これは<コミュニスト>柄谷行人、一代の対抗運動と名付けた革命宣言の書である。

 この本だけはとにかく読んでいただくことを薦めたい。だから内容説明は控え、いささかの感想だけを添えておく。

 彼はこの著書の中で資本の運動が貨幣のフェチシズムによって来ることを論証し、人類が「国家と資本とネーション」を同時に揚棄する道筋を語っている。

 敢えて言うなら、さらなる問題は人間がフェチシズムを克服できるかということである。柄谷はフェチシズムを単に倒錯と見なし、当然正常があることを前提している。果たしてそうか。

 人間のあらゆる欲望は、つまり本能のプログラムを逸脱した何ものかが、そのことによって人間となって以来、総てフェチシズムとしてしか発現しないのではないか。

 動物には正常はあってもフェチシズムはあり得ない。人間にはフェチシズムはあっても正常がない。正常と見るものは毀損した本能をなぞっているに過ぎないのではないか。そして、それ自体もまた人間にとってはある種のフェチシズムではないのか。

 「能力に応じて働き、必要に応じて取る。」このコミュニズムの夢が本当に人間にとって理想なのか。「欲望に応じて働き、かつ取る。」そのことを楽しむことが人間の真実ではないのか。

 人間は必要、つまり欲求ではなく、際限のない欲望を生きる存在ではないのか。そして、際限のない欲望とはフェチシズム以外ではない。

 資本の運動が貨幣のフェチシズムであるにしろ、人間にこれを克服する方法が存在するとは思えない。私はここで明らかにコミュニズムの絶望について語っている。

 動物の視点を仮構してみればわかりやすいだろう、彼等から見れば人間存在自体がフェチシズムそのものであるのだから。

 ともあれ、柄谷行人の今回のこの著作における考察は思想的にも現実的にも現代世界を読み解く最高水準のものであることに間違いないと断言しておく。

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わが生涯 上

2002/06/08 17:39

<ひっそりと>のひと言が効いている。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

              
  生まれた順番から言えば、私は五番目の子供であった。四人の子供た
  ちは、幼くしてジフテリアやしょう紅熱で死んだ。生き残った子供たちが
  ひっそりと生きたように、ほとんどひっそりと死んでいった。
           
         --------------*---------------
           
トロッキーの「わが生涯」の一節。
こういう文章に出会うと私は訳もなく感動してしまう。
       
どうということのないように見える一文だが、
抑制に満ちた、余韻のあるほとんど詩とも言える一節である。
その人格も含め、それなりの人物にしか書けないものがここにはある。
       
事実を坦々と書く中で<ひっそりと>のひと言が効いている。
訳文であるが、トロッキーが一流の文章家であったことを紛れもなく明かしている。
優れた思想家は間違いなく優れた表現者である。
明晰な思考は明確な言葉によってのみ可能だからだ。

このあたりにトロッキーを読む価値があると思っている。
勿論、マルクス主義の実現されなかった可能性の中に、
人類社会の未来の希望を探ることが主たる関心事だが。

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戦時経済体制

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

構造改革か景気回復か。                        
この問題で日本は十年の歳月を過ごしてきた。              

この問題に答えているとも言うべき一冊の書籍がリチャード・A.ヴェルナー著の
「円の支配者」である。          

日本が最近まで戦時経済体制であったことを構造的に論証する挑戦的論文で 
あり、このメールマガジンがテーマとしてきた歴史認識に極めて共通する問 
題意識に貫かれた立論である。                     

その中央銀行の果たす役割への注目は未だかつてない新鮮な視点を孕んでい 
る。いや、むしろ彼は通貨の動きを追う過程で日本における戦時経済体制の 
継続を発見したようだ。                        

表舞台のスターである大蔵省に引き替え日銀はまことに盲点であったといえ 
る。バブルを創ったのも、今日の不況を長引かせているのも実に日銀の意図 
に他ならないことが隠れもなく論証されてゆく文脈は見事といえるだろう。 

構造改革が進展しなければ日銀は決して信用創造を拡大しない。      
畢竟、信用の拡大が実質経済成長に結びつく見極めがつけば日銀は一気に信 
用創造の拡大に打って出るだろう。                   

政治家も経営者もひいては一般国民も通貨を通じて中央銀行に実質的に支配 
されていることをそろそろ気づいても良い頃だろう。           
米国のグリーンスパン氏がいかなる力を国家と国民にふるっているかに、我 
々はもっと早く思い至るべきであった。                 

今後の政治的混乱にも関わらず、どのタイミングで景気回復と経済の拡大が 
始まることになるのか。あるいはどこまで低迷するのか。         
見えるものにはほぼ見えてくることだろう。               

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紙の本市場

2002/06/08 02:01

経済のグローバル化を理解するための一冊。

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経済のグローバル化を理解するための一冊。
優れた分析ですが、問題の解決が容易でないことも教えてくれます。

盛んにテレビ出演などで活躍している著者だが、アダムスミス以来の経済学を
鳥瞰する中で、現代を説明する独自の視点は十分な説得力に満ちている。

共同体と共同体の間の交換から成立した市場が、やがて共同体自体を侵食しつ
つ、ついにはそれを解体に導く。
「都市は人を自由にする。」とかつては希望を持って語られた都市生活者の共
同体の束縛からの解放は、市場原理の貫徹によりいまや耐え難い孤立まで人々
を追い込んできた。

一方で市場はさまざまな位相の共同体を侵食する過程においてのみ成立する。
資本は差異を利益機会として運動する存在であるからだ。

著者は市場と共同体の共存を政策的妥協により夢見ているが、それを担う具体
の政治勢力を見出せてはいない。
もちろん原理的な解決を提示する経済思想は今のところ世界のどこにもない。

市場と共同体に引き裂かれた近代人は、市場社会のきわみで共同体の再建に赴
くことが予想される。
経済のグローバル化が世界のナショナリズムに火をつけてしまった様相がすで
に見え始めているではないか。

思えば市場は経済学の不可能性を日々主張してきたと考えることもできよう。
この著者がいうように矛盾が人間自身にあるとき、歴史はその悲惨の規模を科
学技術の進歩に従って拡大しつつ繰り返すばかりだろう。

「神は死んだ」とするなら永劫回帰があるばかりだ。

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