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レビューアーランキング
先月(2017年2月)

toshさんのレビュー一覧

投稿者:tosh

6 件中 1 件~ 6 件を表示

すべての謎は解き明かされた?

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 数あるホームズ・パロディの中でも飛びぬけてすばらしい作品です。著者は、ワトソン博士の未発表手記の形をとりながら、「最後の事件」におけるホームズの死から「空家の冒険」における突然の復活の間にあるギャップを、奇想天外なエピソードを散りばめながら埋めていきます。

 ホームズの死と復活の真相とは?モリアーティ教授とは本当は誰なのか?なぜワトソンはホームズが死んだというデマをでっち上げなければならなかったのか?著者はこれらの謎に説得力あるストーリーで答えていきます。

 ストーリーは、悪化したホームズのコカイン中毒をなんとか治療しようとワトソン博士が試みるところから始まります。しかし、余りにもひどい症状にワトソン博士はウィーン在住の著名な精神科医、フロイト博士に助けをもとめるべくオーストリアに向かいます。果たしてホームズはコカイン中毒から立ち直れるのでしょうか?そして、ウィーンで起こった怪事件に、ホームズとフロイト、この2つの偉大な頭脳がどんな活躍を見せてくれるのか?著者は、偉大な頭脳とホームズの対決という格好をとりながら、読者を興ざめさせることなく、これをすばらしいドラマに仕立て上げています。

 本当にこれがホームズの「死」の真相だったのか、と説得させられてしまうような作品です。

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フランドルの呪画

2000/12/16 19:56

チェス・ファンは大満足

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 若い女性絵画修復師フリアのもとに「チェスの勝負」と題するチェス対局をテーマにした15世紀絵画が持ち込まれるが、その絵に「誰が騎士を殺したか」という隠し文字がみつかる。そして、15世紀の騎士暗殺の真相が絵に描かれた盤面におけるナイト取りに見立てられていることが明らかになる。さらに、現代において、まさに絵に描かれた盤面に見立てた殺人事件が起こっていく…というストーリーです。

 全編にわたって、1つのチェスの問題が効果的に用いられます。大変な傑作だと思います。ただ、Amazon.comの書評にあるように、チェスを知らないと(楽しめないと)、これを読むのはかなり苦痛でしょう。逆にいえば、チェスが非常に深くストーリーにからんでいる、ということです。チェス・ファンに自信をもってお勧めします。

 最初に出される謎が、問題の盤面になるまでに、盤上にない白のナイトが黒のどの駒に取られたかを推理する、いわゆる逆向き解析(レトロ)です。つぎに、問題の局面を普通に指していくに従い、見立て殺人が行われます。

 いまのところ、ここで取り上げられているチェスの問題の作者はわかりません。引用されているように、著者はレイモンド・スマリヤンの『シャーロック・ホームズのチェスミステリ』(毎日コミュニケーションズ)や『アラビアン・ナイトのチェス・ミステリ』(未邦訳)を大いに参考にしたようですが、ここには上記の問題は載っていません。著者の創作かも知れません。いずれにしてもすばらしい作品です。

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紙の本算聖伝 関孝和の生涯

2001/02/14 10:28

和算とキリシタン数学者との出会い

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 鎖国で諸外国の先端的な数学の情報が入らない中、独自の発展をとげた日本の数学。その中で孤高の光を放つ天才関孝和の生涯を、本書はフィクションとノンフィクションを織り交ぜて巧みに描く。割り算書の冒頭分と聖書のアダムとイブの楽園追放話とのアナロジーを軸に、和算とキリシタンがもたらした西洋数学との邂逅のドラマへと連想を広げていく著者の構想力は見事である。
 天体の運動方程式からさらに一般の方程式、そして無限級数へと関独自の研究が発展していく様を、碁師にして天文学者の安井算哲との改暦をめぐる争いを基点に描くところもなかなかである。同じキリシタン孤児であるアプリルとのかなうことのない永遠の恋物語は、もちろんフィクションであるが、関の人間的深みを増すように巧みに挿入されている。本書によって、先人の出した難問に答えかつ新たな難問を提示していく遺題という形で芸を競いながら独自の発展をみせた和算に対する西洋数学の影響について改めて考えさせられた。

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数学とチェスを愛好する人に

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 どんな偶数も2つの素数の和で表される。中学生でも理解できるこの命題こそ、数学上もっとも有名な未解決問題ゴールドバッハ予想である。本書は、この難問に立ち向かい数奇な運命をたどった叔父を甥の観点から描く数学小説である。

 数学を学んだ著者だけに、本文にはさまざまな数学の巨人、数学用語が現れる。ある部分では、数学に素養がないと理解できない部分もあるようである。その意味では、数学ファン向けといえよう。しかし、ひとつの人間ドラマとして、数学に素養がない読者にも楽しめる。

 ストーリーは、一族に忌み嫌われる叔父の生涯に関心をもった甥が、その生涯を追いかけているうちに、叔父が稀代の数学の天才であること、ゴールドバッハ予想の解決という偉業を成し遂げるために同僚や友人との交流を絶ち研究に埋没した挙句、予想を解決する手がかりとなる立派な研究業績を他人に先に発表されてしまい、名声を得る機会を失ってからはチェスに没頭し、最後には隠遁者なってしまったことを知る、というものである。

 そんな叔父に影響されて数学者を目指そうとする甥は、叔父が出した課題に結局答えられず、自分の才能に幻滅して実業家の道を選ぶのだが、叔父が最終的に数学をあきらめた理由に疑いを持ち始める。叔父は、ゲーデルの有名な不完全性定理を知り、ゴールドバッハ予想も数学では証明できないのだと考えたというが、実は叔父は解決の一歩手前まで到達しており、最後の一歩を踏み出すことが怖くなり、数学を投げ出したことが明らかになる。甥に真相を究明された叔父は、いよいよその最後の一歩を踏み出すのだが…。

 天才であるがゆえの不幸な生涯を正確な数学の知識に支えながら描き出した本書は、現代版バルザックの『絶対の探求』のようである。数学への愛、チェスへの愛、これらに共感できる読者に推薦します。

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紙の本算学奇人伝

2001/02/14 10:49

数学ミステリの新境地

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 ミステリに登場する探偵といえば、類まれなる推理力と観察力を駆使するのが常道。ところが、類まれなる数学の才能をもった探偵が得意の数学を駆使したらどうなるか。江戸時代の和算家を主人公に、現代的な数学パラドックスを織り交ぜながら巧みなミステリに仕立て上げたのが本書である。
 負ければ負けるほど儲けが大きくなるサイコロ賭博。しかし、実際にトライしてみれば結局損をする。聖ペテルスブルクのパラドックスと呼ばれる有名な話題から本書ははじまる。数学は苦手でもギャンブルと聞けばとっつきやすい。そんな計算もあったかも知れない。また、盗まれた大金のありかは、江戸市中に掲げられた算額に記された幾何の問題に託されていたりと、数学三昧なのであるが、あきさせない。
 ただ、不幸にも、冒頭のサイコロ賭博に関する著者による解説は間違っている。期待値は無限大だから、賭け金がどんなに高くても期待値では損はしない。でも実際には人はそれほど高い賭け金を払おうとしない。これがパラドックスである。このパラドックスの考察から限界効用逓減の効用関数の理論が発展したことは、経済学者なら誰でも知っていることだ。
 こうした誤りを差し引いても読み応えある本書は、ミステリの新境地を開いたものとして強く推薦したい。

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紙の本ブラインド・フォールド

2000/12/07 10:52

チェス・ファンにはがっかり

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 本書の内容説明をみたとき、実はイヤな予感がした。本格ミステリということだが、あまりにSF的な内容説明だからだ。ハズレかも知れない。しかし、チェスを題材にした本格ミステリといえばヴァン・ダインの『僧正殺人事件』くらいしか思い浮かばない。チェス・ファンとして、この希少な分野に踏み込んだ著者の勇気に敬意を表して、そして、ひょっとして世紀の大傑作かも知れないという期待をもって読み進めた。
 しかし、期待はみごとに裏切られた。それはトリックがたわいもないものだからではない。問題なのは、トリックがはじめの方で完全にわかってしまうことである。あるいは、このトリックは読者に誠実に情報を提供したら必然的にわかってしまう運命のものであったかもしれない。早々と読者への挑戦状を出しているところを見ると、著者はトリックが早々と読者に解かれてしまうことを予想していたのかもしれない。そのため、量子コンピュータやDNAコンピュータといったSF的なギミックは全然生きてこない。
 しかし、それならそれで、プロットにもう少しヒネリを加えて欲しかった。シシリアン防御とフランス防御を取り違えていることはご愛嬌として、掲載された棋譜はまぎれもなくグランド・マスターによるものである。それだけ熱心にチェスについて調べながら、作品の完成度が低いことに、読者として欲求不満を感じるのである。

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