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先月(2017年6月)

茉莉さんのレビュー一覧

投稿者:茉莉

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紙の本ゆっくりさよならをとなえる

2002/01/22 11:48

「もののあわれ」−川上文学のキーワード

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 川上弘美を、少し毛色は変わっているけれども、読者の心を癒してくれるような作品を書く作家だと見なすひとは多いと思います。『センセイの鞄』を読んだ私の感想も、そうしたものでした。しかし『ゆっくりさよならをとなえる』に収められた「わからないことなど」を読んだとき、そういう川上弘美観が覆されるのを感じました。川上弘美は、そんな生易しい「癒し系」作家ではないのです。

 この文章で、川上弘美は、自分を大女であるという「標準からはずれた」存在いわばフリークスとして捉えています。世間の標準から、ちょっとズレていることの居心地の悪さ、それは川上作品につきもののテーマだと言っていいでしょう。例えば、同書所収の「海の記憶」の中でも「焦燥感」という言葉で言い表されています。
 けれども、「わからないことなど」が衝撃的なのは、そうしたズレの意識を「存在することのあわれ」と断言していることです。
 この文章は、一見すると自分が大女であることのコンプレックスを表明しているように見えます。しかし、この「あわれ」という言葉は自分に対する「あわれみ」ではなく、「存在することのあわれ」なのです。そして、話はさらに大きくなります。どの人も多かれ少なかれ「奇形性」を抱えた存在だとさらりと述べるのです。さらに、人はみな「存在することのあわれ」を感ずるのだろうかどうかは「わからない」と締めくくります。読者の前に問題が放り出されて終わるのです。

 川上弘美は、単なる綺譚を語る作家ではありません。根底には「存在することのあわれ」があります。それが彼女の文学に深みを与えているのだと思います。

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