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先月(2017年6月)

國岡克知子さんのレビュー一覧

投稿者:國岡克知子

1 件中 1 件~ 1 件を表示

古人の風貌

2004/11/04 10:23

詩心をうちにひめた人

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 今、この古人について記しておかなければ、この人たちの生きざまは永久に忘れ去られてしまうのではないか、という危機感が著者に本書を書かせたようだ。私たちにとっては、ほんの一部の人を除くと、ほとんど馴染みもなく過去の人たちである江戸時代、明治時代の人物にスポットをあてたエッセイである。とっつきやすい書物ではないが、読みはじめると一編一編の文章がまるで真珠のように鈍く輝きだすことに気がつく。

 あとがきには「三部からなるこの本の一では、明治以降に生涯を終えた八人の人物が、三では、遠い江戸の世に生まれた九人の人物が、そしてやや趣をことにする二では、永代橋落橋という大惨事にかかわった、馬琴をはじめとするさまざまな人々がそれぞれに独自の面影をかいま見せる」とあるように、第一部と第三部は「広義の詩心をうちにひめた人物が、時代の現実をいかに生きたか」がテーマになっている。どの人も幸せとは縁のない、非凡に生きた隠れた才人ばかり。何事かを目指してこの人生を生ききる、ということは小市民的な幸福とは無縁のことなのかもしれない、と思う。このなかで特に印象深い一編が「不射之射 阿波研造」。日本の弓道を切り開いた阿波研造について記しているが、ここを読むと、禅問答を聞いているような、何ともいえない不思議な思いに捉われた。
 異色の第二部は文化四年(1807年)、江戸の深川八幡宮の大祭に起きた悲劇、永代橋の落橋が取り上げられる。永代橋の惨事をめぐるこのエッセイは、上質の小説のように圧倒的に面白い。滝沢馬琴の老獪さや江戸の財政逼迫事情(橋の寿命が尽きているのに補修できなかった金にまつわる話)、一瞬の判断から命拾いした人々や逆に水死した人々の悲劇など、悲喜こもごもの様子が窺えて興味深い。

 さっと読める書物ではない。巻末の詳細な索引を見ると著者がこの本にかけた膨大な時間が感じ取れる。著者自身、詩心をうちにひめた人である。ゆっくり読んでゆっくり味わってほしい。難しい漢字や言葉が多いので、本書を読む前に辞書を用意することも忘れずに。

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