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レビューアーランキング
先月(2017年8月)

OKさんのレビュー一覧

投稿者:OK

12 件中 1 件~ 12 件を表示

紙の本ポップ1280

2000/08/25 16:27

アンチ・ユートピア&アンチ・ヒーローの極北

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 伝説のパルプ系作家ジム・トンプスンのおそらく最高傑作。ブラック・コメディ風の軽妙な物語展開に乗せて、ねじくれてゆがんだ黒いユーモアが危険なほど冴えわたる。
 なんといっても、モラル皆無でつかみどころのない主人公像が最高。保安官らしい仕事なんて一切せず、世間をなめきった態度でひたすらみずからの欲望と衝動のままに行動する。とんでもない究極のエゴイスト。ふだんはのらりくらりと間抜けそうな態度を保ちながら、窮地には無敵の「天然」ぶりを発揮して巧妙に(でも行きあたりばったりに)周りの人を陥れ、ぬけぬけと切り抜けていく。このあたりの軽快でユーモラス、そしてアイロニカルな筆致はすばらしい。先読み不能の物語展開は、偶発の重なりのようでいてとんでもなく巧緻。終盤になると思わぬ荘厳ささえも感じさせてくれる。
 アンチ・ユートピア&アンチ・ヒーローの極北を提示する超絶の傑作。こういう系統を敬遠気味のかたもぜひ読んでみてほしい。リーダビリティも抜群だし。

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紙の本スコッチに涙を託して

2000/08/19 08:30

ブロック+ヴァクスの新世代私立探偵小説

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ボストンの私立探偵、パトリック・ケンジー(&アンジー・ジェナーロ)連作のひとつめ。ジェイムズ・エルロイらによる(実践的な)私立探偵批判の文脈を充分に踏まえたうえで、なおもレイモンド・チャンドラー流のひねくれた比喩やすかした台詞といった書法にこだわった、いわば「90年代型」の正統派私立探偵小説が登場してきたな、といったかんじ。黒人差別やスラム街の抗争、児童虐待なんかの社会的な問題をきっちりと物語に乗せて描き出し、主人公はただ事件を傍観するのではなくみずからもその渦中に当事者として巻き込まれ、行動や決断を問われることになる。総合的には、アンドリュー・ヴァクス+ローレンス・ブロックみたいな作風。
 作者の筆さばきは適度のバランス感覚を保っていて、物語は「社会」にも「個人」にも単純に還元されることはない。主筋となるふたりのブラック・ギャングの首領の抗争は、もちろん人種差別その他の社会的な問題を背負ってはいるけれども、歪んだ親子関係に端を発するきわめて個人的な対立でもある。主人公があえて事件に熱く深入りしていく事情も、亡き父親がらみとかの個人的動機ばかりではなく、かといってただ単に社会正義を代弁するためというわけでもない。そうやってさまざまな事情の絡み合った世界観のもとだからこそ、主人公の下すふたつの「決断」に読者は切実さや共感をおぼえることができるのだ。そういえば、主人公がそこそこ弱くて(女性の相棒アンジーのほうが撃ち合いで強かったりする)脇役にやたら強いやつが配されていたので少しいやな予感がしたのだけども、このあたりも結局無理のない具合に均衡を保って物語を進めている。
 文章もさすがになかなかのもの。クライマックスを演出する緊密な文体もいいし、それがなかば緩んだときの情感あふれる描写もすばらしい(「通りは、まるで文明そのもののように輝いていた。」(p.292)なんて、鳥肌ものじゃないだろうか)。原題の「闘いの前の一杯」(というかんじか)のとおり、「闘い」の緊迫感をきちんと描くからこそ「一杯」に込めたひとときの感傷がひきたつわけで、だから後者のほうばかりを強調するこの邦題はどうも物語の魅力を伝えきれていないよな、といまさら思う。
 主人公が事件のなかで「個人」として揺るがされるものの、けれどもそれが続編を成り立たさせないほど過剰にはならない、という点でも最後までバランスのとれたスタンス。

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紙の本闇よ、我が手を取りたまえ

2000/08/19 08:46

私立探偵小説版『IT』

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 『スコッチに涙を託して』の続編で、ボストンの私立探偵パトリック・ケンジーもの第二作。前作のローレンス・ブロックとアンドリュー・ヴァクスを合わせたような作風に加えて、今度はスティーヴン・キングの大作『IT』(文春文庫、全4巻)を思わせるような趣向がこらしてある。主人公たちは少年時代に邂逅していた邪悪な存在と、大人になってからふたたび対峙させられることになる。その背後にちらついて邪悪の種を伝播させつづけている黒幕の存在はほとんど、アメリカの悪意の根源「IT」そのもの。前作でも、探偵をいかに当事者として事件にかかわらせるか、という問題にかなり気を配っているのを感じさせたけれども、そこに『IT』の運命的な対決の構図を持ち込んできたということになるだろうか。
 前作でも冴えていた、社会的な要素を物語のなかで箱庭的に描きとりながら、動機をどこにも還元しない均衡のとれた筆さばきは健在。「邪悪」の伝播を物語の前面に据えながらも、そのしくみはあくまで解明しようとしないまま提示している。主人公の父親らの組織していた地元のろくでなし自警団の扱いなんかも結構ひねりがあって興味深い。

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ワン・オヴ・アス

2000/08/19 08:23

ハードボイルド探偵が喋る家電たちに出会う

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 いちおう近未来ハードボイルドになるのかな。過剰なくらいハードボイルド調でひねくれた語り口なのだけど、そこへいきなり目覚し時計がぺらぺらと喋りだし、銀行のATMが「口座は空っぽだよ、負け犬」なんて憎まれ口をたたき、家電製品たちが勝手に道端をうろうろするコミック的ナンセンス・ワールドが割り込んでくる。そんなとぼけた味の設定は、ジョナサン・レセムのお馬鹿アニマルSFハードボイルド『銃、ときどき音楽』(早川書房)なんかに近い。単なるおふざけで終わるのかと思っていたら、喋る時計(こいつが結構かわいい)が物語後半に再登場してくれる場面なんて、なぜかほとんど感動的。時計と家電たちを「妖精」とか「森の動植物たち」に置きかえれてみれば、これはまさにファンタジー物語の枠組みじゃないだろうか。そういえば主人公とこの時計のずれたやりとりには、漫画『ベルセルク』の剣士ガッツと妖精の関係を思い出さないでもない。
 そのお茶目な家電たちや、ヴァーチャル電脳世界の描写(ネット・サーフィンはもう古い、とか言って車で移動したりする)など、物語のいろんな断片はわりと切り貼りめいているのだけど、そういうつぎはぎ感が逆にとぼけた雰囲気をかもしだしていたりもして、うまいのかへたなのか判然としない不思議な小説。文章をみても、かなりセンスを感じる描写といまひとつ陳腐な言いまわしとが同居していたりする。
 主人公ハップ・トムスンの設定は意外にまともで、読者にとって好ましいくらいの知性や哲学(と、へなちょこさ)を備えた人物がどうして卑しい非合法ビジネスの世界なんかに足を突っ込んでいるのか、というこの種の物語でわりと避けて通れない問題に、妻の挿話なんかをていねいに絡めてかなりきちんと説得力を持たせている。レイモンド・チャンドラー流のひねくれた文章へのやけに熱心なこだわりをみても、ごちゃまぜの世界観のなかでハードボイルド・スタイルを自分なりに再現してみるのがいちばんの狙いなんじゃないか、という気もしてくる。

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まるで天使のような

2000/08/25 15:10

圧巻の傑作

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 米国のサスペンス作家マーガレット・ミラーの代表作のひとつで、たしかにこれはすばらしい傑作。
 山奥で質素な共同生活を営んでいた新興宗教団体と、田舎町の古い事件。ひょんなことから迷い込んできた私立探偵が、ふたつの謎めいたつながりをたどっていく。この時期(1961年の発表)から新興宗教をとりあげている先見性だけでも特筆に値するけれども、これがきちんと謎解きの展開にも結びついてくるので感心。謎の提示もなかなか魅力的のうえ、フィニッシュの一撃はすさまじく衝撃的で、そしてミラーならではのおそるべき深淵を提示する。圧巻。謎解きと物語の衝撃とがきっちりかみ合った作品、とはこういうのをいうのだろう。
 ただ、この翻訳でしか読めないのは少々惜しまれるところかな……。

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死んだふり

2000/08/19 09:13

人を食った語り口が冴える、陽気なクライム・ノヴェル

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 やたら人を食った軽快で不敵な語り口のクライム・ノヴェルで、たしかに新感覚。ハワイはオアフ島の灼熱の空のもと、クールでポップ、饒舌で猥雑な語り口が炸裂する。
 いちおうの本筋は三人の男女の錯綜した騙し合い。抜け目ない曲者の富豪ジャック・ウルフ、その妻で男を蕩かす(ちょっぴり年増の)官能的な美女ノーラ、その年若い愛人でふたりの間を振りまわされるおつむ弱めの青年チャドと、どの人物もなかなか愉快に描けている。そしてひときわ独特なのが、その三つ巴に関わりそうで関わらない奇妙な立場の観察者で、語り手を務めるユダヤ人警官のやたらひねくれた叙述。伝聞としか思えない場面をまるで見てきたかのように平然と再構成して語り、民族ネタや下ネタをとめどなくぶちまけ、さらには連想ゲームみたいに気まぐれな回想をいきなり挿入して時系列をかきまわす。しまいには父親と母親のなれそめとか、中東戦争の思い出話まで語りはじめ……まさにやりたい放題の「信用できない」恣意的な語り手。なんじゃこいつは。
 そんな人を食ったアナーキーでカオス的な書法の果てに、わりと意外な(というか半ばやけくそ気味の)どんでん返しが待つ。このふざけた語り口にも意外に知的なオチがひとまずついて(でもやっぱり変だ)、とてもおもしろい。読者をある程度選ぶとは思うけれども。

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猿の証言

2000/08/19 08:15

「理系ミステリ」の新境地

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 脳神経科学の話題をとり入れた新たな「サイエンス・ミステリ」の領域を、ひとり開拓しつつある作者の野心作。いわゆる「サル学」系の話題がとりあげられる。
 チンパンジーの言語能力を研究していた異端の学者が、不審な失踪を遂げる——それが主たる事件なのは結構早くから明らかになる。あとは真相を詰めていくだけのはずなのだけど、これが一筋縄ではいかない。なにしろ唯一残された目撃者がチンパンジーなので、ここから証言を引き出せるのかがまず問題となるのだ。なんじゃそりゃ、な展開だけど実はこの問題がなかなか興味深い。結局チンパンジーの能力を知ることは、お隣の人類の臨界点を探ることにもなるのだ。作者の解説もなかなか明瞭で、とりわけ類人猿の言語実験を超能力パフォーマンスと対比させたのがうまい。主観や思い込みしだいでどちらにも解釈できそうな微妙さ。
 けれども事件の謎はさらにねじれ、チンパンジーとヒトの合いの子「チンパースン」をめぐる禁断の実験の存在をちらつかせつつ、人間とチンパンジーの境界へと踏み込んでいくことになる。そのあたりの路線もシビアで愉しいけれど、次々と新たな秘密が明かされてそのたびに真相の行方が二転三転する展開は、あくまでミステリの手法にこだわったやりかただ。サイエンスな題材をきちんとミステリの枠で消化して、新たな分野の可能性を示した注目の作品といえる。終始どろどろした展開ながら、背負い投げ的な幕切れは妙にさわやか。
 どうもこの作家は意外な展開にこだわりすぎるのか、強引すぎて自滅してしまうことが少なくないのだけれど、本作ではその点があまり目立たないのも評価できる。ただし、はっきり言って登場人物には魅力どころか人間味すら感じられないし、文章も無味乾燥。それでもおもしろいミステリはたしかに存在する、ということだ。

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セメント・ガーデン

2000/08/17 23:17

解放された子供たちの過ごす、奇妙な時間

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 英国の人気純文学作家の第一長編。相当にひねくれた話なのかと思いきや、意外とまっとうな物語だった。
 子供のころ、旅行かなにかで親が家を留守にしたときの解放感。なにをしてもかまわない。でもそんなひとときの自由が、いつまでも終わらなかったらどうなるのだろうか。この小説はそんな、親のいなくなった家に訪れた「解放のあと」のどこか弛緩した奇妙な日々を描いてみせる。時間がぼんやりと過ぎていき、少し過激な出来事もあくまで淡々とした静かな筆致で語られるのは、きっともう自由が飽和しきっているから。これは書かれた1970年代後半の気分を反映した構図だったろうし、いまでもそれなりに通用するイメージではなかろうかと思う。そんな子供の楽園が、無論かりそめのものでしかないのは、題名にもあらかじめ暗示されているのだけれども。
 これはごく序盤のことなので書いてしまうと、主人公「ぼく」が便所で精通の瞬間を迎えていたそのときに、父親がセメントに顔を突っ込んで事故死する、なんて無意味すれすれのずれた展開も、英国の作家らしいひねくれたユーモアを感じさせて好ましい。

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紙の本キラー・オン・ザ・ロード

2000/08/17 12:11

シリアルキラーの視点による戦慄の一人称小説

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 連続殺人犯マーティン・プランケットの獄中回想録、という書式で語られるシリアル・キラーの一人称小説。ロイド・ホプキンズ連作の三作目『自殺の丘』(1986)の直後に出されている。追いつめる警察がわの視点を介してではなく、真正面からサイコキラーを描いてみたくなったというかんじだろうか。

 さすがに迫真の筆致で、とりわけ前半で語られる殺人者の孤独で歪んだ視野には惹き込まれる。その生い立ちや青春時代の疎外感は、作者エルロイ自身の心の遍歴をいわば身を削って投影させた私小説的な趣きもあり。シリアル・キラーの回想記をこうして切実な青春小説として書くことのできる作家なんて、彼くらいのものではないだろうか。また殺人者が少なくともレクター博士みたいな超人的存在ではなくて、覗きや窃盗を繰り返したりと結構卑しい行動からはじまるのも妙に説得力がある(まあ、彼の描く殺人犯はだいたいそんなかんじなんだけど)。最初の殺人場面なんて、読んでいて思わず顔を歪めてしまった。たとえばジム・トンプスンとくらべると、エルロイの描く殺人場面はほんとに血の匂いがたちこめていると思う。しかしなんだか、妙に「透明な存在」という言葉を強調するので、ついあの事件を思い出してしまった。

 そのまま進むのかと思いきや後半はやけに意外な展開で、ある意味びっくりさせられた。いきなりそっちの方向へ行ってしまうとは。それから終盤になって事件に介入してくるFBI捜査官の視点は、この異様な物語をひもとく「読者」の立場にほぼ重ね合わせてあるようで、皮肉な結末と合わせてなかなか興味深い。ただ、捜査官の手記が何度も挿入されてくる手法は、どうも一人称では構成を支えきれなくなったのかな、とも思えたけど。

 ちなみに、エルロイといえば殺伐とした作風とばかり思われがちかもしれないけど、実は随所に毒気たっぷりの独特のユーモアが仕込まれていて、そのあたりを結構好きだったりする。ついでに、実在の有名人を登場させたうえ思いきり小馬鹿にする、というお得意の手法も健在。誰が出てくるかは書かないけど。

 総じてLAカルテットのような緻密さは感じないけれども、これはこれで魅力的。もうエルロイはこういう路線では書かないのだろうな。

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過去/現在の交錯するおなじみの構成ながら、新味あり

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 警官たちを除けばノンケの登場人物を探すほうが難しい、というくらい本格的な男色ミステリ……なんて書くといかにも色物みたいだなあ。ひと昔まえのマンチェスターのゲイ社会やダンスクラブなどの都会の風俗を背景にしたノワール風味の物語。現在/過去のエピソードを交錯させながらだんだんと事件の核心に迫っていく書法は、トマス・H・クック風(というより『永遠の仔』に近いスタイルだろうか)。で、本筋はロレンゾ・カルカテラの『スリーパーズ』(1996)に少しデニス・レヘインの『闇よ、我が手を取りたまえ』(1996)を足したようなかんじ、といえば近いだろうか。
 この手の構成を採る小説は結局、過去の挿話のほうに意外な展開を仕掛けてあることのほうが多い。本作でもたしかにその驚きはあるのだけど、実は現在の時制のほうで主人公ジェイクの行動の動機がずっとぼやけたままになっていて、最後のほうで判明するその意図がこれまでの陰惨な物語を一瞬さわやかな光で照らし出す。そのあたりになかなか新味があって感心した。ただし視点の処理とか解明の演出なんかは少し粗削りで、いまひとつ洗練されてないような気もしたけれど。

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紙の本朗読者

2000/08/17 19:00

静かな真摯さが好ましい「個人的」な物語

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 なぜかずいぶん売れているらしいドイツ産の小説。少年と年上の女性の織りなす少し奇妙な恋愛物語からはじまって、ナチス時代の罪悪といかにして向き合うか、という問題に踏み込みながら意外な展開をみせていく。途中、かなり伏線の効いた秘密の暴露があって、個人的にはあらかじめ見当がついてしまい驚きはしなかったのだけれども、その時点までに語られた物語の「意味の読みかえ」をおこないながら後につながる巧みな構造になっている。仕掛けが物語ときれいに重なって効果をあげている、ということ。作者はミステリも書いている人らしいけれども、それも納得の出来。ふたりの「少し奇妙」な関係の扱いもなかなか巧妙で、それが序盤で読み手をひきつける推進力になり、また多少の不審点にも目をつぶらせるカモフラージュとしても機能している。

 書きようによっては押しつけがましくなりそうな「公」的な題材を、終始「私」的な恋愛の観点から語りとおすことで、説教くさくなるのを免れている。歴史の責任なんてものはきわめて私的な「物語」のなかでしか伝えられないものだし、そうした要素を無視した言論はどこか嘘くさい、ということだろう。題名にも反映されているとおり、とてもまっすぐな意味で「物語を伝えること」についての物語、でもある。後半はお涙系の展開になりそうなのだけど、これもわりと素直に読めて嫌らしさを感じさせない。

 そう騒ぐほどではないような気もするけれど、静かな文体で繊細かつ真摯に語られる佳作。

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事件当夜は雨

2000/08/17 12:29

地味ながら堅実な「ディスカッション推理」

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 米国の田舎町で起きた農夫殺しを、地元の署長が地道に捜査していく。舞台も人物も事件もやたら地味なミステリなのだけど、書法がなかなか独特。物語はおもに、主人公フェローズ署長と部下のウィルクス刑事との事件をめぐるディスカッションを軸にして展開する。もちろん家捜しなど実際の捜査活動も描かれるのだけど、それは「捜査」のさまを写しとりたいというよりも、討議の流れのなかで生じる手続き的な色合いが濃いような気がする。

 フェローズ署長らの推論はいつもそういった討議のなかで示されるので、作中で誰にも突っ込まれない特権的な「名探偵」の推理みたいな飛躍したあざやかさはないかわり、地に足のついた堅実で妥当な論理が展開されている。その仮説をひとつひとつ実験で検証してみたりする過程もなかなか興味深い。

 また、『夜明けの睡魔』の瀬戸川猛資さんも指摘しているけれども、地味な道具立てながら「謎」のつくりかたが実に巧妙。冒頭で紹介される殺人場面のつかみどころのなさもそうだし、調べが進むほど逆にわからないことが増えてしまったりもする。当初は自明に思われた「声の主」の性別、だとか。さらにこの作品では、犯人が結構あっさりと判明してしまうにもかかわらず、さらに新たな謎が生まれてしまいなかなか真相が見えてこない、という重層的な展開になっている。このあたりの緊迫感はさすが。ただし残念ながら、解決じたいはやや腰砕け気味で惜しい。せめてもうひとひねりくらいはあるのじゃないかと思っていた。

 総じて派手さはないけれど、限られた道具立てを活かしきった練達の筋運びを愉しめる佳作。

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