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ゆうりさんのレビュー一覧

投稿者:ゆうり

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アテネ市民の息遣いを感じる一冊

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 これは、ギリシア法制史研究者のための学術書でもなければ、西洋法思想史を学ぶ学生をターゲットにした概説書でもない。幅広い読者に向けられた教養書、否、物語といってもよい。
 この本には、アテネ民主政の起源から滅亡までが描かれてる。史実をもとに、決して学問的にではなく、いわば小説のようにアテネ市民達が生き生きと描かれている。難解ではなく、専門書のように知識の追究を第一義においたものではない。だが、私たちにとっては全く新しい発見が本書には散在する。
 皆さんは、アテネ民主政を世界史の授業でどのように教わったであろうか。おそらく、民衆参加の直接民主主義を貫徹したアテネ民主政は、無知な民衆が盲目的に国政を動かし、やがては自らを滅亡へと追いやったと習ったのではないだろうか。
 そして、アテネ市民は、歴史上名高い英雄や傑物たちを次々と弾劾裁判の場に引きずり出し、死という絶望の淵へと突き落としていったのも事実である。
 では、アテネ民主政とは愚かな市民が幼稚に、そして徒に与えられた主権を振りかざした衆愚政(オクロクラシー)だったのであろうか。その疑問を、本書はまったく新しい視点から氷解させてくれる。
 私たちが抱いているアテネ民主政への認識は、著しく偏向的な視座から形成された誤った認識に過ぎないことを、この本を読めば知ることになる。これまで研究者達が行ってきた努力は、アテネのシステムを現代のそれと比較することであった。だが、真に必要なのは、アテネ市民の価値観をそのまま眺めやることであって、現代の価値観から一方的にアテネを定義付けすることではないのである。本書はまず、この一見当たり前の、その実、見失いがちな真摯且つ謙虚な姿勢を私たちに思い起こさせてくれる。
 また、アテネの民衆は、高い政治的関心を持ち、進んで政治に参加し、政治に携わる者たちの責任を苛烈なまでに追及したという新しい側面も、本書は私たちに教えてくれる。彼らが生き生きと国を動かした姿が見えてくる。何よりも不正を憎み、公平な政治を理想とし、ひたすら突き進んだ彼らの鼓動と息遣いが聞こえて来る。
 果たして、現代の日本を生きる私たちはどうであろう、と立ち止まり振り返ってみる。民主主義の名のもとに、利権を貪るだけの腐敗した政治に慣らされた私たちには、古代を生きたアテネの民衆に学ぶべきものがあるのではないだろうか。読後、古代の息吹に高揚しながらも、現代の日本の民主主義に疑問と虚しさを覚え、苦笑する。
 アテネ市民の冷笑がいまにも聞こえてきそうである。

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