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先月(2017年8月)

Jizoさんのレビュー一覧

投稿者:Jizo

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「他者」理解の好例として

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 本書における日本が体験した敗北の叙述は、ある農家の妻の記憶からはじまる。天皇の玉音放送を聴きつつ彼女が感じたのは、はりつめていたものが消えていく脱力感と、出征した夫が帰ってくるかもしれないという一縷の希望だった。この女性の姿が、敗戦をむかえた日本の現状とその後の進路を暗示し、本書に通じるテーマを象徴している。敗北という半ば予期していたとはいえ、突然の解放の後にくる虚脱。そして困難な行程の先にみえるほのかな希望。戦争による経済的困窮と政治的抑圧に苦しむ日本の人々が欲していたのは、「平和と民主主義」だったと筆者はいう。

 しかし、このアメリカ有数の歴史家は、日本人たちの敗北の受けとめ方と対応が単純であったとはいわない。敗北を恥じ、皇居の前で天皇にひざまずく民衆の姿がみられれば、同じく皇居の間近で終戦(敗戦)に歓喜した人々の歓声があがっていた。各章では具体的に、占領軍が行った統治、日本のエリートの思惑、民衆の対抗文化やカストリ文化、知識人の退廃主義やデカダンスを通して、日本人たちが敗北をどうみて、どう感じたのか、多様で複雑なその姿を、膨大な資料にもとづいて、慎重に、ヒューマニスティックに語っていく。日本人、アメリカ人、女性・男性それぞれの視点から、社会の上層から下層まで、行き届いた筆者の博識と熱意には、幾度も驚かされる。

 戦後占領下の日本社会は、文化、人種、民族、性差、階級などによって、さまざまな「我々」と「他者」に分割され、それらの間の交渉と相互の影響のなかで成り立っていた。筆者はつねにそれを意識し、複数の視点から、できる限り包括的に「敗北を抱きしめて」生きようとした人々の姿を描き出している。

 また、「平和と民主主義」という改革の柱も、決して抽象的な理念にとどめない。ほとんどの民衆が求めていたとはいえ、それは占領軍の統治政策によって上から与えられた出来過ぎの理念だった。そして、敗戦を境に日本社会の思想・雰囲気が「劇的に」変化したという見解をやんわりと否定する。

 日本人たちは、上から与えられた政策に力強く応じ、受けとった理念に適合して生きねばならなかった。日本のエリートたちは変革も民主主義も拒否しようとしたし、GHQは日本人と直に接しようとはしなかった。民衆も知識人も、理想的な改革の理念と現実とのギャップに疑問を挟まずにはいられなかった。そのなかで、変化は「着実に」進んでいった。

 鉄兜は鍋に、刀剣は包丁に作りかえられ、闇市に並んだ。民衆の集まる闇市では、必ずしも取引は平和的に行われなかったが、必死な彼らの活気にあふれていた。言論界では「新しさ」や「文化国家建設」といった言葉がもてはやされ、改革を受け入れる準備が整ったことを告げた。じつは、これらの言葉は戦争中には「新体制」や「大東亜共栄圏建設」などのスローガンに用いられていたのだが。戦争遂行のための言葉は「空っぽの旅行カバン」のように戦後社会の思想を詰め込まれ、新たな役割を果たした。急速と思われる変化の中には、つねに過去の遺産・連続があった。

 ここにも、エリートや知識人から民衆にいたる多数の史料を詳細に読み解いていった筆者の努力と誠意がかいまみえる。戦後生まれの私たちはもちろん、きっと戦後を生きた人々も気づかなかった、「敗北」からたちあがろうとした人々への鋭い洞察が展開されている。

 いささか褒めすぎた観があるが、これには理由がある。本書を読みながら、「私たち日本人は「アメリカ」をダワーにおける「日本」のように理解できるだろうか」と思わずにはいられなかった。本書は、グローバル化が声高に叫ばれる現代において、ますます必要になる「他者」理解の方法を示してもくれるだろう。少なくとも、敗戦を「終戦」と呼び代えなければならない私たちに、斬新で深みのある理解を提供してくれることは間違いない。

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