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越川芳明さんのレビュー一覧

投稿者:越川芳明

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紙の本スーパー・カンヌ

2002/12/03 12:14

きみは、テクノ・ディストピアの悪夢を見たか?

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 前作『コカイン・ナイト』にちょっとがっかりさせられたので、あまり期待しないで読みすすめていったが、こんどの作品はすごく読みごたえがあった。
 『スーパー・カンヌ』の舞台は、過剰な労働とセックスレスな生活に特徴づけられる高級ビジネス街でありながら、「楽園」という皮肉な名称をもつ未来都市エデン=オリンピアだ。映画祭で有名な観光地を見晴らす高台にあるこの人工都市は、ハイテク産業のメッカとして、ヨーロッパの「シリコンバレー」として描かれる。
 確かに、地中海に面した南欧のスーパー・リゾート地を舞台に、無数の監視カメラと強力なセキュリティ・サーヴィスに守られた閉鎖的なニュー・エリートたちの暗黒面がサスペンスタッチで語られる点は、『コカイン・ナイト』と何ら変わらない。だが、ひそかに犯罪とドラッグを生きる糧にしなければならないような危うい生活でも、『コカイン・ナイト』の金持ち特権階級の悪夢とはちがい、ひたすら仕事に明け暮れるこちらのパワー・エリートたちの病理は、ビンボー暇なしのワーカホリックの日本人には、より切実なものとして迫ってくるはずだ。
こちらの小説のほうが読みごたえのある理由は、それだけではない。語り手ポール・シンクレア(航空雑誌の編集にたずさわる中年のイギリス人)の中に、ヨーロッパのエリート階級にいまも根強く残るレイシズム(人種差別)に魅了される危ない傾向や、倒錯的な少女愛を認め、と同時にそうした誘惑の危険性を見出してゆくという、ある意味で綱渡り的な語りの冒険をバラードが自らに課したことが高く評価できるのだ。たとえば、エデン=オリンピアを牛耳る一握りの高級エリートの中でも、ワイルダー・ペンローズなる精神科医は、管理された少量の狂気は人間が正気を保つために必要であるとの、ユニークな考えに立ち、革のボーリングスーツで偽装した企業エリート集団が「楽園」の外の貧民・移民社会を襲撃する犯罪行為をたくみに正当化する。人間の中のひそかな暴力衝動を引き出す、あがらいがたい魅力をもった「悪」の権化である。
 そうした「悪」のカリスマへの両義的なスタンスが、この小説全体にサスペンスを張りめぐらし、読者は最後まで語り手ポールがどっちに転ぶのか、わからない。ぼくが『スーパー・カンヌ』を面白いと思うのは、この小説はヨーロッパを舞台にした近未来小説でありながら、二〇世紀型のファシズムに対する現代日本人のノスタルジックで倒錯的な欲望のメタファーとしても読めると思ったからだ。つまり、エデン=オリンピアのエリートたちと同様、「移民」を極端に排斥しつづける日本社会は、結局まだ「悪」のカリスマに操られる古いファシズムの危険性を宿しているのではないか、と。(bk1ブックナビゲーター:越川芳明/ノマド翻訳家)

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