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藤崎康さんのレビュー一覧

投稿者:藤崎康

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西武池袋線・新宿線沿線の見どころを紹介する

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 あらゆるモノの情報化、カタログ化は、1980年代以後の日本をすっかり覆いつくしてしまった。現代ではそもそも、多くの商品は機能の進化よりも、めまぐるしいモデル・チェンジによって商品たりえているが、新しい商品がおびただしく生まれる異様なスピードのせいで、私たちは、いま、何がどこにあるかを、情報誌やカタログなしには、なかなか探せなくなってしまった。もちろん、自分が特に執着しているモノなら、実際に店に行き、何を買うか自分で決めることが出来るし、ほんらい買物の楽しさというのは、自分で当たりをつけた商品を店に探しに行き、にもかかわらず意外なモノに出くわしそれを買ってしまう、という凸凹感にあった。蓮實重彦流にいえば「事件と荒唐無稽な遭遇」である。しかしいまや、そんな悠長なことも言っていられなくなった。一例をあげれば、テニスのラケット・メーカーは現在、三ヵ月に一回くらい新機種を発売し、そのつど新たな機能が加わったかのような宣伝をくり返している。むろんこれは一種の「誇大広告」で、ラケットの性能は数年来、ほとんど何も変化していない。けれども私たちは、ついつい新種のラケットを性凝りもなく購入してしまう…。

 さて、前置きが長くなったが、本書は題名のごとく、ふつう「見どころ」を見つけにくい、西武線(池袋線と新宿線)沿線の「魅力」を、なにがなんでも強引に見つけだし情報化しようという、すぐれて21世紀的な(?)カタログ本である。この、「東京・横浜ベイエリア」ガイドなどにはない、本書の多少「無理やりな感じ」や、「あらかじめお洒落を断念するB級の気風」を、いわば珍味として積極的に味わわねばならない。もっといえば、「通勤電車」だからこそ、ふだんはいちいち下車などしていられない。「知られざる駅」に、暇を見つけてそっと降りてみようという、控えめにして果敢なる冒険心が、本書の各ページをいぶし銀のように輝かせているのである。

 そういえば、本書の前口上もなかなか振るっている。…「2大デパートがしのぎを削る巨大ターミナルを出発していくつもの静かな住宅街を抜け、ついには奥武蔵の山ふところに飛び込む池袋線。日本一の大繁華街をスタート、武蔵野の面影を残す町々を結んで走り、やがては小江戸・川越に至る新宿線」

 この、遠近法を大胆に欠落させた記述は、線的持続を描くことなく、点から点へと脈絡なしに飛躍するシュルレアリスムの詩さえ彷彿とさせる。しかし、本書にはちょっと理不尽な記述もある。たとえば、私の家の最寄り駅である東伏見の紹介には、西武柳沢と武蔵関とまとめて1ページしか割かれていないうえ、「ブラックコーヒー」、「加付絵(かふえ)」、「ベートーベン」という知る人ぞ知る(?)3軒の喫茶店が減ってないし、花小金井の珈琲店「つのぶえ」も載ってないのである。むろん店側が掲載をことわったのかもしれないが、なにかアンバランスさを感じさせる。

 ところで、変なことを言うようだが、地元のエリアがスポット化されて情報誌に写真付きで載ったりすると、フロイトのいう「不気味なもの」を感じてしまう。フロイトは「不気味なもの」について、馴じみ深いものがいったん遠ざけられ、抑圧され、その後に「変なもの=不気味なもの」として回帰してくると、ほとんど直観的に言った。「猥雑なもの」や「ふるさと」、そして「幽霊=復活した死者(帰ってきた者)」などが、その例である。 また他方、カタログ化しえない吹きっさらしの西武線沿線一体は、70年代以降の風景の均質化をさらに加速させながら、のっぺりした自身の身体を私たちの目にさらし続けていることも、ちょっと真面目っぽく言っておこう。 (bk1ブックナビゲーター:藤崎康/現代文化論・映画批評)

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