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先月(2017年8月)

katuさんのレビュー一覧

投稿者:katu

209 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本棋神 中野英伴写真集

2007/12/12 23:28

将棋界の至宝

12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

表紙に続いて冒頭は羽生だ。現在の羽生そして若かりし頃の羽生。様々な表情を見せている。特に印象深いのは、屏風を背にして一人で写っている一葉だ。相手は席を外しているみえ、写真の中には羽生しかいない。大きな窓の外には広い庭が広がっている。羽生は前傾姿勢になってこんこんと読みふけっている。問題が難しければ難しいほど、解くのが楽しいといった風情だ。羽生は全くカメラマンを意識していない。完全に盤上没我の境地に至っている。この写真を見ると、この部屋には羽生以外には誰もいないのではないかという錯覚に陥りそうになる(では誰が写真を撮ったのか?)。それくらいカメラマンの中野英伴は自らの気配を消し去っている。

佐藤、森内とタイトルホルダーが続く。郷田もいるし、森下もいる。スーツで竜王戦に臨んだ島がいる。天を仰いで考えている丸山がいる(棋士はよくこのポーズをとる)。笑みを浮かべている藤井がいる(感想戦でのひとコマか)。もちろん、オールドファンに嬉しい写真もある。若い頃の中原対米長の盤側に升田幸三がいる写真は貴重だろう。頭をかきむしる米長がいる。「棋界の太陽」と呼ばれた頃の中原がいる。「神武以来の天才」加藤一二三のネクタイは相変わらず長い。その加藤を破って史上最年少名人になった谷川がいる。剃髪の森がいる。名人戦で中原をあと一歩まで追いつめた大内がいる。「端然」という表現がピッタリの桐山。老いてなお元気な有吉。眼光鋭き田中(寅)、南、青野。「受ける青春」中村修。昼食休憩中か、誰もいない対局室で指に煙草を挟んで立ち、相手側から盤を見つめる石田。盤の前で迷子の少年のような顔をしている村山聖。相手をにらみつける日浦。般若の形相の佐藤紳哉。深夜にまで及ぶ対局のせいか髭の伸びた先崎。対局室で羽生を待つ渡辺明。そして最後は巨人大山康晴。

色を抑えたモノクロ写真だからこそ、棋士の思考が写真からにじみ出てくるようだ。主役はもちろん中野英伴の写真だが、脇へ回った大崎善生の文章も味わい深い。その大崎の文章によれば、勝浦修九段は弟子を励ます時に「中野英伴に撮られるような棋士になれ」と言ったという。「中野英伴に撮られる」ということは、即ちタイトル戦に出場することを意味している。この写真集には巻末にその写真がどの対局のものであるかの詳しいリストがある。それによればここに収められている写真の全てがタイトル戦というわけではない。よって、かなりの若手の写真も収録されている。写真が掲載された棋士はみな嬉しいと思うが、若手棋士は特に嬉しいだろう。

1ページ目から一枚、一枚じっくりと堪能した。全て見終わった後は何やら陶然とした心持ちになった。それから今度は大崎善生の文章を読み、巻末のリストと照らし合わせて往時を偲んだ。この写真集は将棋界にとって、棋士にとって、そしてファンにとって「至宝」と言ってもいい一冊になるだろう。


k@tu hatena blog

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紙の本赤めだか

2008/04/22 02:45

文句なしに面白い。今年の出版界の収穫と言ってもいいだろう。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

目黒考二が帯にこう書いている。

「立川談春のエッセイというか自伝というか青春記というか、あのページが早く単行本にならないだろうか。あらゆる雑誌の中でいまいちばん面白い」

ずいぶん大袈裟だなと思うでしょ。ところがこれが大袈裟じゃないんだな。開口一番の「本当は競艇選手になりたかった」に続く一節を読んだだけで一気に引き込まれた。落語が上手いのは知っていたが、ここまで文才があるとは思わなかった。
17歳で高校を中退して談志に弟子入りしてからの修行時代が実に色鮮やかに描かれている。先日の「談志特番」を見ていたのでネタが割れちゃってる話もあったが、あれを見ておいたおかげで随分と情景が頭に浮かぶ箇所もあった(談志が料理するところや、二ツ目昇進試験のところなど)。
落語ファンなら200%楽しめるし、そうでない人も必ずや楽しめると思う。笑えて、泣けて、いい話もタップリ。この本は今年の出版界の収穫と言ってもいいだろう。

k@tu hatena blog

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旅行けば駿河の道に茶の香り♪

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

その昔、ってほど昔じゃないけど、私の父親はヤクルトの広沢が打席に立つたびに「いよっ虎造、しっかりしろよ」と声を掛けていた。私の父親(昭和12年生まれ)よりも上の世代の人たちにとっては、「山」と言えば「川」のごとく「広沢」と言えば「虎造」だったのだろう。そんな広沢虎造の一代記である。

広沢虎造の名前こそ知っていたが、浪曲には全く興味のなかった私がなぜこの本を読むに至ったのか。それは文庫版の解説を町田康が書いていたからである。『正直じゃいけん』に収録されていたその解説を読んで、すぐにこの本が読みたくなった。

「例えば浪花節というものがどういう芸なのか、なんてことについては、まだ素人で浪曲好きの少年である虎造と、その兄貴分であるところの白井善次郎との会話・掛合を楽しんで読むうちに自然に頭に入ってくるし、現代を生きる者にとってよくわからない当時の時代・風俗についても銀ブラをする虎造、円タクに乗る虎造、地下鉄に乗る虎造、国民酒場に入る虎造を読むことによって読者もまた当時の時代・風俗にごく自然に没入しうるのである。
そしてなんとか次郎長伝を完成させたい虎造が、講釈師・神田ろ山と出逢うくだりは実に小説的であり、また、噺家・司馬龍生と三人でアイデアを出し合い、見るもの聞くものすべてを芸に結びつけ、それが、次郎長伝、とりわけ『石松三十石船』に結実、「馬鹿は死ななきゃなおらない」という節が誕生するさまは真に迫り、また感動的である。
読者は、本書を読むと虎造節が聴きたくなり、虎造節を聴くと、また本書を読み返したくなるだろう。」

本書の良さがこの解説に十二分に表れているが、虎造の破天荒ぶりもこの本の読みどころだ。「女遊びも芸のうち」なんてことを言うが、虎造には二号さん、三号さんがいて、本妻との間に子どもが6人、二号さんに4人、三号さんに3人、都合13人の子どもがいたって云うんだからすごい。他にも様々なエピソードが紹介されており、まるで見てきたかのように活写されている。

読んでいると虎造節が聴きたくなるのは理の当然で、すぐにCDも購入した。『石松三十石船』は実に面白かった。虎造の節とタンカは本当に素晴らしく、何遍聴いても飽きが来ない。ラジオで虎造の浪曲が放送されるとパチンコ屋が空になったというのも頷ける(ちなみに「君の名は」が放送されると銭湯の女湯が空になったらしい)。

この本の面白さと虎造節の良さを誰かと共有したいのだが、私の周りには浪曲を聴いている人なんていない。そこで実家の父親に電話して、当時の虎造のことを訊いてみた。すると、やはり虎造はすごい人気だったらしい。ただ、父親の家は貧乏でラジオがなく、ラジオで聴いた覚えはなかったようだ。色々話してくれたなかで、一つ面白いことを教えてくれた。父親の父親(つまり私のおじいさん)は浅草で下駄屋をやっていたのだが、虎造はそのおじいさんのお店の下駄を履いていたらしい。本当か嘘かは定かではないが、もし本当だったらこんなに嬉しいことはないね。
話が逸れてしまったが、とにかくこの本は面白かった。ただ、残念なことに品切れになっている。図書館でもいいし、古本でもいいので、是非読んでみてほしい。そして虎造節も是非聴いてみてほしい。

k@tu hatena blog

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紙の本翻訳教室

2006/05/18 14:38

東大文学部の翻訳演習を臨場感たっぷりに再現—こんな授業受けてみたかった!

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

知的興奮を味わえる書物というものが稀にある。私にとっては、『俳句という愉しみ』(小林恭二)とか『乱視読者の新冒険』(若島正)とかがそれに当たる。『翻訳教室』もそういった種類の本だ。

本書は東大文学部の翻訳演習が完全収録されている。扱われている題材は、スチュアート・ダイベック「故郷」からレベッカ・ブラウン「天国」までの9篇。中にはジェイ・ルービンが英訳した「かえるくん、東京を救う」(訳題は”Super-Frog Saves Tokyo”)を和訳するという捻った回もある。

とにかく、よくぞ文字に起こしたねと感心したくなるほど、臨場感たっぷりに授業内容が再現されている。そしてまたみんな細かいことにこだわるんだな(いい意味でね)。まあ、先生である柴田元幸が一番こだわってるんだけど。

「それから、これは僕個人が病的にこだわることなんだけど、語尾ね。翻訳をしてゲラを読んで、もう一度ゲラを読んで——要するにもうすぐ印刷ってとき——最後の手直しをしますね。そのときになっても語尾ばかりさんざんいじってます。「行き」にするか、「行って」にするか、とか。」

実践的なテクニックも沢山出てくるので、翻訳家を志望している人や既に翻訳をしている人にもかなり参考になるんじゃないかな。

・「hurt」は「傷つける」ではなく、自動詞なら「痛い」、他動詞なら「痛くさせる」が基本。
・「and」は「しかし」と訳すとしっくりいくことが多い。
・「never」を「決して」と訳すことは実はほとんどない。

「かえるくん、東京を救う」の回では英訳をしたジェイ・ルービンがゲストで授業に参加してこう言っている。

「とにかく、翻訳とは科学的なものじゃない。どうしても主観が入る。それが入らないと、人間のやる作業じゃない。客観的に、何の感情も入れないで訳しても、ある言葉の文法をもう一つの言葉の文法に移すだけで、無茶苦茶になってしまう。個人の解釈が入らないことには、何も伝わってこないと思います。」

そしてなんとその次の回には村上春樹本人が登場し、学生たちの質問に答えてくれている(羨ましい)。村上春樹ファンであれば、この章を読むためだけでもこの本を買う価値があるかもしれない。村上春樹がデビュー作の『風の歌を聴け』を最初に英語で書いてから日本語に訳したというのは有名な話だ。今までは、既成の文体を脱するためというふうに説明されていたが、実はそうではなくて別の理由があるのだ。その衝撃の事実(?)が本書では明らかにされている。これは読んでのお楽しみ。

かなりマニアックな本なので、単に英米文学が好きだからという人にはちょっと辛いかもしれない。逆に、翻訳が好きな人にとってはこんなに面白い本はない。あー、大学時代にこんな授業を受けたかった!

k@tu hatena blog

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紙の本解錠師

2012/01/31 16:51

ミステリーだと思って敬遠している人がいるとしたらもったいない

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本は当たりだ。個人的には今年のベスト10入りは間違いないな。ベスト5と言ってもいいかもしれない。
見かけはミステリーだが、実際には少年の成長物語であり、恋愛物語でもある。
現在刑務所にいる主人公が過去を振り返る体裁を取っている。それ自体はありふれているが、2つの地点から過去を振り返っているのが珍しい。まずはAという近い過去の話から始めて、次にBというAから更に10年くらい前の過去の話がそれに続き、AとBが交互に語られ、段々お互いが近接してくるにしたがって話が盛り上がってくる。なかなか凝った構成だ。
主人公のマイクは8歳の時のある事件をきっかけに言葉を失った。その事件が何だったのかはなかなか明らかにされない。途中で薄々は分かってくるのだが、そのことが物語を牽引する1つの力になっている。そして、金庫破りのサスペンスと恋人アメリアとのやりとりが実に読ませる。絵を介してアメリアと心を通わせるところは詩的ですらある。ラストも素晴らしかったな。
同じポケミスの『二流小説家』が「このミス」で1位になったりして話題になったが、個人的には『解錠師』の方が断然面白いね。これは超オススメですよ。

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紙の本幻影の書

2008/11/24 14:40

物語を紡ぐ力

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

飛行機事故で家族を失ったデイヴィッド・ジンマー。彼を失意の底から救ったのは一編の無声映画だった。その映画の監督であり、脚本家であり、主演であるヘクター・マンなる人物は謎の失踪を遂げ、既に死んだと思われていた。デイヴィッドはヘクターの足跡を追ううちに彼の数奇なる人生を知ることになる。そして、デイヴィッド自身がヘクターの運命に関わることになる。

とにかくヘクター・マンの人生があまりにも波乱に富んでいて実に読ませる。全ての物語は巧妙な入れ子構造になっており、デイヴィッドはヘクターの人生を生き、我々読者はヘクターのそしてデイヴィッドの人生を生きることになる。

ポール・オースターの物語を紡ぐ才能は本当に素晴らしい。そこら辺に転がっていそうな話を「あるよね〜、そういう話」という風に仕立て上げているのとは訳が違う。「無」から「有」を紡ぎ出し、あり得そうもない話に息吹を吹き込み、登場人物たちに存在感を与え、読者の胸を打つ「おとぎ話」を作りあげる。

柴田元幸の解説を読むと、嬉しいことにこのあとに発表された作品も本書と同等以上の水準を保っているらしい。今から読むのが楽しみだな。

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全てのラグビーファンに、そしてラグビーファン予備軍の人にオススメ!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ラグビー・ジャーナリストの村上晃一氏の人気ブログ「ラグビー愛好日記」から飛び出したトークライブ企画を一冊にまとめたものである。残念ながら私はトークライブに参加する機会はなかったが、この本からでも十分に熱気は伝わってくる。

それにしてもゲストがみんな熱いねえ。スポーツライターの藤島大氏、ラグビー博士の小林深緑郎氏、ラグビーマガジン編集者の森本優子氏、スポーツジャーナリストの生島淳氏、東芝ブレイブルーパスの冨岡鉄平氏、四日市農芸高校ラグビー部監督の下村大介氏、そしておまけの安田紘三郎氏。皆さんのラグビーに対する情熱がひしひと伝わってくる。

特に、四日市農芸高校のラグビー部をゼロから花園出場校まで育て上げた下村監督のエピソードには笑ったし、泣いた。世の中にはこんな熱血監督がいるんだねえ。日本ラグビーの両巨頭である大西鐵之祐と北島忠治の両氏を取材した経験のある森本優子氏のエピソードも実に興味深かった。

そして何といっても編著者の村上晃一氏のラグビーへの愛が溢れた本となっている。「ラグビーってよく分からないけど何となく面白そう」って思っている人がいたら是非本書を手に取って欲しい。読み終わる頃にはきっとラグビーを好きになっていると思うから。

k@tu hatena blog

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紙の本夜のフロスト

2001/07/20 17:24

理想の上司?

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 『クリスマスのフロスト』『フロスト日和』に続くジャック・フロスト警部シリーズの第3弾である。

 設定は前2作と寸分違わず同じである。新任の部長刑事ギルモアはフロストの下に付くことになる。デントン警察署は流感でダウンした人間が多く、人出不足。陰惨な事件が立て続けに起こり、昼も夜もない捜査が続く。そんな中でもフロストの下品なジョークは絶好調。マレット署長は相変わらずいけ好かない…。

 フロストほど二律背反した性格の人間も珍しい。捜査は行き当たりばったりだが、昼夜を問わず勤勉に働く。下品なジョークを連発するが、思いやりがある。部下をさんざんこき使うが、いつも部下にはタバコを配っている。とにかくフロストの魅力イコール本書の魅力であることは間違いない。

 フロストは部下をこき使うが、必ず自分が率先して働いている。そして必ず自分が全責任を負う覚悟で働いている。例えばこんな描写。

 ウェルズ巡査部長は即答を避けた。「ジャック、もし妙なことになったら、そのときにはちゃんとあんたが泥を引っかぶってくれるのか?」
 「かぶらなかったことがあるか?」とフロストは言った。

 また、こんなところにもフロストの人間味が溢れている。
 深刻な事件の最中にフロストが下劣なジョークを連発することに対して、下に付く部長刑事のギルモアが怒りを爆発させたときの描写。

 フロストは悪びれた様子もなく、軽く肩をすくめて、ギルモアの非難を甘受した。「この仕事をしてると、胸くその悪くなるようなことを、それこそ山のように眼にするんだよ、坊や。(中略)だから、おれは冗談を言う。冗談を言ってりゃ、因果な仕事の因果な部分を引き受けるのが、いくらかは楽になる。けど、気に障ったんなら謝るよ」

 フロストのような上司の下で働きたいと思うのは私だけだろうか。

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著者の高い“志”

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書には「歌合二十四番勝負」という副題が付いてるのだが、「歌合(うたあわせ)」とは短歌と短歌が一対一で勝負し優劣を決める古式ゆかしい遊びである。それぞれチームに分かれており、自分のチームの歌を誉め相手チームの歌をけなす人間(「念人(おもいびと)」)がおり、念人同士が議論を戦わせ、最終的に判者が判決理由とともに判を下すのである。
 岡井 隆、道浦母都子、永田和宏、俵 万智、穂村 弘らベテランから若手まで当代きっての歌よみ20人が伊豆の旅館に集まり一泊二日がかりでこの歌合を行ったのである。面白くないはずがない。

 この企画を立てた著者の小林恭二の“志”も高い。ちょっと長いが引用する。
 「私が『俳句という遊び』『俳句という愉しみ』そして本書『短歌パラダイス』と、句会録、歌会録にこだわるのも、「作る」とともに「読む」ということにもスポットライトをあてたいからなのだ。
 それは単に一短歌、一俳句のためだけではない。きちんと味わい、きちんと批評し、きちんと評価するという意識があって、はじめて日本的な文芸はまっとうに機能しうると思うからなのだ。」

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紙の本その名にちなんで

2004/09/17 02:26

この本を読まずして2004年の文学シーンを語るなかれ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『停電の夜に』でのピュリツァー賞受賞は決してフロックではなかった!
ジュンパ・ラヒリは、そのことを軽々と証明して見せくれた。出来映えから言えば本作の方が上だろう。ジュンパ・ラヒリ恐るべし、である。

主人公の名前は「ゴーゴリ・ガングリー」。ベンガル人の両親がアメリカで生んだ子どもである。ロシアの文豪と同じであるその風変わりなファーストネームは、彼の父親が列車事故の際にゴーゴリの『外套』を読んでいたおかけで一命を取りとめたことに由来する。そんな経緯を知らないゴーゴリ少年は自分の名前が嫌で嫌で仕方がない。そこで、18歳になったときに「ニキル」と改名してしまう。こうして、二つの名前、二つの祖国を持った青年ができあがる。そんなニキル/ゴーゴリの成長の過程を追った物語である。

本筋はニキル/ゴーゴリの話であるが、その視点はあるときは母親のアシマの視点に、またある時はニキル/ゴーゴリのガールフレンドの視点へと自在に移り変わり、ニキル/ゴーゴリとその家族にまつわる話やニキル/ゴーゴリとそのガールフレンドたちとの話が淡々と語られていく。ニキル/ゴーゴリがインド生まれのベンガル系移民の子であり、二つの名前を持つということを除けば、誰にでも起こりうる事柄が述べられる。しかし、その誰にでも起こりうる何でもないような日常の出来事を掬い上げる見事さには、私は作家でもなんでもないのに、激しい嫉妬心さえ感じる。

例えば、アシマがアメリカで初めてアドレス帳を買った時のことを思い出しているこんな一節。

アパートに帰ってから、真新しいブルーのページに実家の住所を書き入れた。カルカッタのアマースト街。それからアリポールの婚家の住所。その次に現住所としてセントラル・スクエアのアパートも、忘れないように書いておいた。マサチューセッツ工科大でアショケが使う内線番号も書いた。夫の名前を文字にするのは初めてだと思いつつ、ちゃんと姓まで書いた。アシマにとっての世界はそんなものだった。

また、全編現在形で書き進めているのも本作の独特のリズムを生み出している。訳者後書きで翻訳者がその苦労を吐露していたが、翻訳者の苦労は十分に実を結んでいると言えるだろう。

こういう淡々とした話の場合、ラストをどのように締めくくるのかが気になるところだが、実に心憎いラストをジュンパ・ラヒリは用意している。伏線が最後に活きるこのラストシーンの見事さは是非実際に読んで味わって欲しい。ちなみに、私のあとで読んだ妻もこのラストには感嘆しきりだった。

『停電の夜に』を読んだ人にも、そうでない人にもとにかく読んで欲しい。“力を込めて”お薦めします。

以下は余談。
一昔前に「村上春樹を読むとビールが飲みたくなる」なんてフレーズが流行ったけど、『その名にちなんで』を読むとゴーゴリの『外套』が読みたくなるね。実際わたしはすぐに岩波文庫の『外套・鼻』を買って読みました。

k@tu

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極大射程 下巻

2002/07/25 14:25

最高品質のエンターテイメント作品

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2人の男を軸に話は進む。
「ボブ・リー・スワガー」:ベトナム戦争で数々の成果を挙げた伝説の名狙撃手。退役後は山奥でライフルだけが生き甲斐の生活を愛犬とともに送っている。その彼が「ある組織」から大統領暗殺を阻止すべく引っぱり出される。
「ニック・メンフィス」:FBIニューオリンズ支局員。銃の腕を買われて、人質を取って車で逃走する犯人の狙撃を担当したが、誤って人質の女性の方を撃ってしまう。のちに彼は重度障害に陥ってしまったその女性と結婚し、罪の意識に苛まれながらその妻が亡くなるまで看護し続けた。
この2人が奇妙な偶然から関わっていくことになる。

あらすじは敢えてこれ以上書かないが、最高に面白いということだけは保証する。
ボブ・リー・スワガー畏るべし、である。ボブ・リーに比べたら『ランボー』のシルベスター・スタローンも『ダイ・ハード』のブルース・ウィリスもまるで“ひよっこ”である。

戦いの決着がついた後の裁判シーンにも唸らされた。最高品質のエンターテイメント作品と言っていいだろう。

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村上作品のベスト

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「ハードボイルド・ワンダーランド」の主人公「私」は「組織(システム)」に所属する計算士と呼ばれる特殊情報処理技術者である。ひょんなことから敵対する「工場(ファクトリー)」に付け狙われることになる。
「世界の終り」の主人公「僕」は高い壁で周囲を囲まれた不思議な街に住んでいる。そこで「僕」は一角獣の頭蓋骨から夢を紡ぎ出す「夢読み」という仕事を与えられている。
この「動」と「静」の物語が交互に進んでいく。2つの話は密接にリンクしており、「私」と「僕」が実は同一人物であるということがしだいに分かってくる。

極端なことを言えば、全ての文学作品の命題は「自分とは何か」そして「人生とは何か」である。本書はこの命題に真っ向から取り組みつつ、エンターテイメントとしても仕上がっている希有な作品である。

「世界の終り」の「僕」は物語の最後で、切り離されてしまった「影」と一緒に“南のたまり”に行く。「世界の終り」からの脱出口である“たまり”に辿り着いた「僕」は、“たまり”に飛び込んだのだろうか、それとも「世界の終り」に留まることを選択したのだろうか。

全集版の装幀は和田誠。フォントは精興社のもので非常に読みやすい。全集のお楽しみ「自作を語る」には、「書き終えた時は本当にほっとした。書き終えたのはちょうど僕の三十六回めの誕生日の夕方で、これはもう嬉しくてしかたなかった。それを女房に読ませたら、後半の方は全部書き直したほうがいいんじゃないと言われた。頭に来てしばらく口もきけなかったことを記憶している。」なんてことも書かれており、笑わせてくれる。
また、どこを直したのか分からなかったが、「なお、本全集収録に際していくつかの部分に手を入れた。」とも書かれている。

私にとっては本作が村上春樹作品の中でのダントツのベストである。

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紙の本ピンポン 1

2002/04/03 10:17

マンガの枠を超えた傑作

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 とにかくキャラクターが立っている。片瀬高校1年の「ペコ」こと星野裕。彼は小さい頃から卓球が強く、みんなのヒーローだった。ペコとは幼馴じみの同じく片瀬高校1年の「スマイル」こと月本誠。いじめられっ子だったスマイルはペコに卓球を教わることで自分の殻を破って行く。
 敵役には、常勝海王学園の2年生エース「ドラゴン」こと風間竜一、同じく海王学園1年でペコやスマイルとは同じ卓球クラブ出身の「アクマ」こと佐久間学、そして辻堂学院が打倒海王のために中国から呼び寄せた「チャイナ」こと孔文革(コン・ウェンガ)。

 この5人を中心に話は回っていくわけだが、駅前の卓球道場のオババや英語教師にして片瀬高校卓球部顧問の小泉などの脇役陣も実に個性的だ。

 全国大会への出場をかけたインターハイの個人予選の試合がメインであり、次々に強豪と試合をしていく過程はスポーツマンガでは特に珍しくはない。ただ、その試合シーンの臨場感は、かの「スラムダンク」をも軽く凌いでおり迫力満点である。独特の画風(人によって好みは分かれると思う)、斬新なカット割やアングル、ややデフォルメされた人物描写、どれを取っても類書とは一線を画している。

 「ぼくの血は鉄の味がする」「ピンチの時には必ずヒーローが現われる」などの繰り返し出現するキーワード、本筋とは直接関係のないカット、ただの書き捨てとは思えない作中の落書きなど、マンガというよりは細部にまでこだわったフランス映画やイギリス映画を連想させる。

 才能のあるものとないものとの冷酷なまでの対比など、人物の内面にまで踏み込んだストーリーは文学作品と言っても過言ではない。とにかく「マンガ」という枠を完全に超えているのは間違いない。それでいて「マンガ」でしか表現できないものがここにはある。

 読むしかない。

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紙の本コフィン・ダンサー

2001/06/24 22:15

『ボーン・コレクター』を超えた?

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 あのリンカーン・ライムとアメリア・サックスが帰ってきた。しかも数段パワーアップして。
 物語は殺し屋“コフィン・ダンサー”対“ライム・チーム”の対決である。ある大物武器密売人に不利な証言をする予定の証人3人を消そうとするダンサー、それを阻止しようとするリンカーン・ライム。白熱の知恵比べである。
 二転三転するストーリー、『ダイハード』や『スピード』ばりのアクション・シーン、伏線が最後に収束する緻密な構成、そしてロマンス。すべてのミステリー・ファンを満足させるようなてんこ盛りの内容である。
 個人的には『ボーン・コレクター』を超えたと思う。『ボーン・コレクター』を読まずに読んでも面白いが、『ボーン・コレクター』を読んでから読んだ方が面白さは倍増する。

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紙の本ガープの世界 下巻

2001/06/10 19:52

実に多くの示唆に富む作品

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 ジョン・アーヴィングの名を一躍有名にした世界的ベストセラー。

 主人公「T・S・ガープ」の産まれる前から死んだ後までを綴る、著者ジョン・アーヴィングの自伝的要素の強い物語である。

 「私が関心を寄せるのは、人生がいかにして始まり、どんな方向に進んで、どんなふうに状況が悪くなり、どんな人々と遭遇するか — 言うなれば、旅のような人生の姿だ。」(『海外作家の文章読本』)と著者自身が語るように、作家を目指し、作家となるガープの母ジェニー・フィールズ、妻ヘレン、そして子どもたちがさまざまな困難に遭遇しそれをどう乗り越えていくのかが、おもに描かれている。
 あまりにも多くの事柄が扱われており、要約するのは非常に困難なので、示唆に富む一節を抜き出してみよう。

曰く、「ガープの表現によれば、「人間はなにかを最後までやり、また別のことを始めることによってしか成長しない」ということだ。そのいわゆる「最後」とか「始める」というのがたとえ幻想であるにせよ、である。」

曰く、「立派な素材を使って、手抜きをしさえしなければ、だいたいなにかうまい料理を作ることができる。ときとして、自分の食べるものが、その日一日のなかで自分の産み出した唯一の価値あるものであることもある。創作の場合は、わたしの経験からしても、じゅうぶんな素材とたっぷりの時間、気配りをかけてなおかつ、なにも産み出せないことがある。それは恋愛もまたしかりである。それゆえ、懸命に努力する人が正気でいられる場は台所である。」

 最後にはガープは死んでしまうわけであるが、その最後の日を振り返って妻のヘレンは、「キスができなかったことを、彼女は死ぬまで(それは永い時間だった)忘れることができなかった。」と回想している。
 アーヴィングに大きな影響を受けていると公言する村上春樹も『ダンス・ダンス・ダンス』の中でこう書いている。
 「人というものはあっけなく死んでしまうものだ。人の生命というものは君が考えているよりもずっと脆いものなんだ。だから、人は悔いの残らないように人と接するべきなんだ。公平に、できることなら誠実に。」
 昨日と同じ今日が明日も続くような毎日であるが、世の中何が起こるか分からない。今この一瞬一瞬を大切に生きる必要をこの作品は教えてくれる。

 「ガープの考える世界にあっては、人はみんな不治の病人」なわけであるが、T・S・ガープは『ガープの世界』を読んだ人の心の中にいつまでも生き続けるだろう。

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