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    体が硬い人のための柔軟講座 (NHKテキスト 趣味どきっ!)

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    中野 ジェームズ修一 (講師),日本放送協会 (編集),NHK出版 (編集)

    5つ星のうち 4.0 レビュー詳細を見る

春を愛する人さんのレビュー一覧

投稿者:春を愛する人

13 件中 1 件~ 13 件を表示

紙の本探偵映画

2001/03/30 15:00

その顔に似合わない美しさだよ武丸

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 突然の監督失踪による映画製作のドタバタと意外な結末。
 トリックに対しサプライズ以外の感情が付随することは、そのトリックが素晴らしければ多々あることで、例えば、どうにもやりきれなかったり、いたたまれなかったり、逆に壁に投げつけたくなったり…。
 しかし本書のごとく、その瞬間驚きと同時に「美しい」と感じたことは私の読書歴において初めてであり、その一回以外に以後同じことは起こらない。意識が飛んで頭の中には大スクリーンが現れ、そこから本当美しいとだけ思う真っ白な光があふれてくる。徐々に現実に帰ってきても綺麗な花畑(^^;を見ているような。
 彼の代表作『殺戮にいたる病』の対極にある作品。そちらを嫌った方にも是非読んでもらいたい。私としては本書こそ彼のベストなのにと今の世評には歯痒いし、密かには、麻耶雄嵩のオールタイム級大傑作『夏と冬の奏鳴曲』にも本書がインスピレーションを与えたのだと妄信している隠れた傑作なのです。

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本格の基礎研究

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 本格の巨匠エラリィ・クイーンの日本における後継者は、作品タイトルやペンネームにクイーンをひっぱった有栖川有栖や法月綸太郎とされていますが、その真価にもっとも忠実であるのは、麻耶雄嵩であると思います。前2者がともすれば文章あるいは湿っぽい情動の書きたがりであるのに対し、麻耶は悪文との批判なんのその、ロジックの構築に全身全霊を傾けます。
 本書に収められた7つの短編は、ですからどれも精巧なパズル作品であり、それ以外の何物でもありません。あまりにも真摯な7度の繰り返しが、作者のロジックを突き詰めていく姿勢の高まりを伝え、読了後、では探偵がメルカトルでなかったなら、仮に各短編に読者への挑戦が挿入されていたなら、と読者に考えこませます。それはロジックの揺らぎとともにクイーンの抱えた問題とも重なります。
 作者は本短編集によってその問題への挑戦権を得ました。そして実際、本書が97年に出版され、98年以降の2短編(2001年3月現在)にメルカトルは登場しないのです。

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紙の本双頭の悪魔

2001/03/31 11:07

あなたは挑戦受けますか?

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 作中大胆にも3度にわたり読者への挑戦をはさみ、そうして恥じないだけの優れた結構をもったパズラー作品です。
 それだけに前半部をもっと削れなかったかと悔やまれます(この点を解説の方もやんわりとですが非難されています)。700ページもあっては、挑戦を受けても容易に読み返せるものではありません。目を皿のようにした注意力が到底続くものでもありません。それに、それは殺人もいまだ発生していない、単なる登場人物の紹介シーンとしか考えられず、探偵としてのテンションがあがるはずもないです。そんなとこに山のように伏線張ってあったとしたら、あとで激怒するとこです。結局、挑戦が飾りにすぎないのが残念です。
 思うに、著者はトリックやロジックがなくても文章が書けるのですが、良いアイデアが浮かんでしまったがために、書きすぎて原液を薄めすぎてしまったようです。どうせなら最後まで本格に徹してほしかったところです。

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紙の本奇想、天を動かす

2001/03/30 15:36

【奇想】思いもよらない考え。

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 本格推理、社会派推理を理想的に融合したとされる作品。
 浅草で浮浪者風の老人が、消費税十二円を請求されたことに腹を立て、店の主婦をナイフで刺殺した、という市井の小さな発端から、社会・政治・国家を巻き込んでいく作家の想像力の広がりにはただ圧倒されるしかなく、まさしく奇想と呼ぶほかありません。さらに読了後振り返ると、小さな発端にみえていた冒頭の出来事に、国家スケール並みの奇想がこもっていることが実感されてきて、再び圧倒されるのです。

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掛布語録

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 特長ある声や言い回しで、物真似されるキャラクターばかり浸透しているような気がしますが、野球評論が本業であり、解説は的確です。「攻める守り」「意味のあるアウト」など、言葉が理想的すぎるきらいがあって、選手にすれば、言うは易しというところでしょうが、我々にとっては、なるほどと思え、また比喩が大変面白いものです。
 本書は矢島による掛布雅之インタビュー。掛布語録とでもいうべきものです。

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記念樹

2001/04/04 17:52

センス開花を待つ

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 インタビューから察する(反則?)に作者は器用貧乏というか、何でも水準以上にやり遂げることができるのでしょう。公務員としての本職をもち、手品や詰め将棋とならべて、ミステリー書きが趣味の一つ、というようなことをいわれるのは、作家のファンとしては残念です。
 依井のデビュー作である本作から、これまでのところ共通しているのはそういうことで、センスの片鱗だけは見せるのですが、それで飽きてしまったように作品の完成は今一歩に終わることです。長編終盤の長い論証部が常に退屈をもよおさすという、必ずしも文章力のせいだけでないプレゼンテーションのまずさは、(作者は反論するかもしれませんが)幾らなんでももう少し推敲・改良できただろうと、素人目には思います。悪文でも構いませんが、見せかたには、とことん突き詰めた姿勢、麻耶雄嵩のように完成度の高い長編をのぞみたいのです。
 こうした期待を寄せてしまうのも、センスの片鱗が目をひくからで、本書のメインプロットから浮いた、ある事件の解決の手際の鮮やかさ、『歳時記(ダイアリイ)』に入って唐突な印象のある短編のシュールなロジックの出来が(麻耶の短編以上に)印象深いからです。

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紙の本盤上の敵

2001/03/31 10:34

苦痛のミステリー

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 クイーン作品を思わせるタイトルと、穏やかだった従来と一変した作風とで、本格原理主義者とも、言うか言われるかしている著者が、ついに本格を書いてくれたのかとジャンルファンとしては期待します。
 北村ファンや、特に偏狭でもない本読みにとってこの作品は、とても直視できないような人間の暗部を抉り出す生々しい描写やサスペンス、意外な展開にかなりの衝撃を受けることと思います。痛みや息苦しさに本書を読み進められないという方がいても不思議とは思いません。
 しかし私のような期待をもって読む方がいるとすれば、それは失敗するでしょう。本書には本格としてのトリックがなく、そのトリックめいた仕掛けのセンスに困惑を誘われることが間違いないからです。これは同じ「日常の謎派」の方々がお決まりの連作短編集の一編に、男と女を誤認させる叙述トリック(思うに叙述トリックは新しくともその中にあって性別誤認は密室トリックでいえば針と糸の解法です)を使って真面目にサプライズをとりにいくというセンスで、引っ掛かりはしても決して気持ちよくはありません。
 作者はトリックを仕掛けると同時に、トリックの人工性とは対極の、殺人を納得させるだけの十分な人物描写を並立させようと試み、結果広範な支持を得るだけの作品と思われますが、少なくとも私一人にはその仕掛けに脱力した途端、登場人物たちはうそ臭くなり、北村に本格は書けないのだと確信して涙が出ました。

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時鐘館の殺人

2001/03/30 14:02

さくらももこの本格推理

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 短編集。表題作がお勧めです。
 飄々としてこたつの似合いそうな、身だしなみに無頓着で、妹的なちゃっかりした性格をもっていそうな女性が出てくるのですが、それが「ちびまるこちゃん」の作者さくらももこをぴったりと連想させます。本短編は彼女のエッセイ集を読んでいる感覚でもあり、つまり読ませるだけの自虐的なユーモア感も漂い、それでいて推理小説でもあるのです(本当にいいとこどりで割る必要がありません)。
 殺人事件のトリックも優れていますが、なんといっても読み所は結末にあります。いかにもさくらももこ的なオチに、推理小説としてのトリックが融合して、驚くと同時に笑えます。しばらく思い出してはニヤケられそうな結末です。

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紙の本生存者、一名

2001/03/29 15:03

傑作への予感

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 デビュー以来文章ばかり上手くなり、比して肝心のトリックがたびたび不発している印象の歌野晶午ですが、本作によってようやく両者が高レベルで融合したように思います。
 孤島に閉じ込められた数名のサバイバル生活・殺人事件を迫真をもって追体験させつつ、同時に至る所に伏線を張り巡らし、それがラストになって次から次と明かされます。本書は実に伏線の隠し方が自然であり巧みでもあり、真相ひとつひとつに唸らされます。
 歌野には、大掛かりでしかも気付かれやすい物理トリックよりも、こうした描写のなかに小さな伏線を混ぜていく方向、ロジカルな方向に良いものを書けそうな期待がもてる、佳作です。

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次回作は論理で世界がつくられるような…

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 毎回毎回宗教や芸術思想を持ち込んだ特異な作品世界を創造し、精密・堅固に造られたその世界を破壊することで読者に尋常ならないカタストロフィーを与えてくれる作家。
 世界作りに意欲的で、初期にはキリスト教や本格の形式、キュビスムといった既存の伝統・権威をもったものを用いていましたが、第3長編『痾』以降独自の思想作り、信仰作りに乗り出しています。
 しかし、その試みは必ずしも成功していないように思います。不満を一言でいうと、彼の作ったリテラアートやら宗教の教義が胡散臭くて説得力をもたないのです。我々が新興宗教に対して通常感じる胡散臭さを意識させないほどに、彼の悪筆が紡ぐ教義は説得的でないのです。確かに書くべきことは書かれているため、設計図としてはとてつもない世界が完成しています。再読をすればするほどに、図面はかみ砕かれ、読者の中にも構造が立ち上がることでしょう。けれども世界の崩壊感覚こそ彼の取り付かれているものであり、その再現を狙うのである以上、本作もまた失敗作であると思います。

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最後から二番めの真実

2001/04/02 18:41

捜査情報漏洩問題

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 小説と評論をすりあわせたような作品。事件としての始まりと、最近実在の法月綸太郎の論文を引用しての始まりとが、主人公であり、探偵役の氷川に重なり、最後、解を与えて収束します。
 評論にとりあげられるゲーデル問題は、幾つか推理小説を読んでいさえすれば、説明がやさしいために興味深いものが得られると思います。
 肝心の解答についてですが、評論には問題提起と異なって易しい説明があるわけでなく、何か察せよ、という形なので何ともいえません。読者への挑戦もついたパズラーとしての出来は論理展開が複雑・煩雑な印象で、それが作者の狙いでもあるのですが、疲労をしのぐ吸引力がないことが残念です。
 一番目立ったのは、テーマを語るための物語の要請といえ、警察官が当初から積極的に氷川に捜査情報を漏らし、また氷川が別の人物に情報を漏らし、舞台である大学に極端な監視システムがあったりする等にみられるご都合的展開です。こうした本ではそれらを見逃すことがお約束ではありますが、それでも…。
 発端であるクイーンから数十年かを経てゲーデル問題とやらに挑むことで進歩をうたうつもりでしたら、それしきのことは軽くクリアしていてほしいように思うのですが。

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紙の本「Y」の悲劇

2001/03/29 15:31

確かに「Yの悲劇」は傑作だが・・・

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 人気作家4人が推理小説の傑作「Yの悲劇」に捧げるとするアンソロジー。
 ここでは、最もテーマに対し真面目に接近しているうえ、出来もよいと思われる法月綸太郎作品について述べます。
 殺人事件が発生し、探偵法月綸太郎が登場します。関係者は著しく限定されますが、そのすべてを疑わせようという相変わらずの錯綜したプロットです。著者の頭の中では筋を組み立てながら、容疑者を(論理的らしく)指摘するたびにサプライズが生じているのだと思うのですが、それはどうも文章化されると無理矢理感が漂います。結局犯人は××していた、しかも偶然も絡んでいるといういつものパターンは、リアリティーを欠き、ロジックも美しくありません。
 著者は目的に対して手段が誤っているような気がします。

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記憶の果て

2001/03/29 14:38

ジェネレーションギャップ

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 若い作者の虚無感覚が全開した作品で、読む者は次第にテンションを下げられます。ダウナーと言う言葉があるらしく、日頃落ち込むことに嗜好をもっているとか、逆療法を試みたい方にはうってつけです。
 とにかく主人公が友人を殴ろうがセックスをしようが、すべて作者の虚無感に回収されるだけで、読者には行為の実感は湧きません。ただただ500ページ近くぼんやりしたイメージだけで、飛ぶように読書はすすみます。しかし着実に虚無感だけは積み重なっていくようで、それが最後、真相めいた一行の台詞に突如重量をもってのしかかってくるため、一読忘れ得ない印象となります。
 しかし私には、このトリックに創意工夫は見出せませんでした。冗長感、退屈さに警戒感をダウンさせられていたことが引っかかった理由に思え自己嫌悪を誘われましたし、そもそもダウンをもたらした虚無感という「手段」が、作者の醒めた視線にあまり説得力がないため、読み物になっていないことが不満です。単に中身がないこと(失礼)がその言葉で結果オーライしているという気持ちが強いので低評価します。

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