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  3. APRICOTさんのレビュー一覧

レビューアーランキング
先月(2017年5月)

APRICOTさんのレビュー一覧

投稿者:APRICOT

363 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本チャイルド44 上

2008/12/14 13:58

犯罪が存在しない国での犯罪

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ニューズウィーク日本版5.28号の書評で紹介されていて、ずっとそそられていたが、個人的な事情により今まで読めなかった小説である。
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舞台は1953年、スターリン恐怖政治下のソ連。”疑わしきは罰すべし”の論理により、多くの人間がささいな、あるいは全くいわれのない罪で弾圧されている。主人公のレオ・デミドフは、弾圧の先鋒を担う国家保安局(KGBの前進)の捜査官だが、自らも”疑わしきは罰すべし”の陥弄に捕らわれて左遷される。レオは左遷先で、連続殺人と思われる事件に遭遇する。だが、”凶悪犯罪は退廃した資本主義社会の病気であり、理想の共産主義国家ソ連に犯罪は存在しない”という絶対不可侵の建前の下、連続殺人犯の存在を指摘する事は国家への反逆に等しい。果たしてレオはどうするのか?
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犯罪は存在しないという建前に固執するあまり、犯罪が起きた事を頑として認めまいとする…その気持ちはわからなくもない。だがそれでも、良心的に犯罪を捜査しようとする人間を反逆者扱いするなんて、いくら何でもひどすぎると思う。スパイや反逆者は”疑わしきは罰すべし”の論理をふりかざして、行き過ぎた弾圧をする一方で、一般の犯罪は存在すら認めず、実質的に野放しにするのも、完全にバランスを欠いている。本書の連続殺人犯もかなりのサイコだが、スターリン時代のソ連という国家の方がはるかにサイコだと思った。
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だが、楽しいとはほど遠い話にもかかわらず、グイグイと話に引き込まれていった。終盤になると、強引な展開やご都合主義が目に付くのだが、それらを打ち消して余りある圧倒的な迫力があった。特に、自分はどうなろうとも、連続殺人犯の凶行だけは食い止めようと苦闘するレオを、手放しで応援してしまった。

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紙の本ヒットラーのカナリヤ

2009/02/28 09:21

ヤング・アダルト向けなのがもったいない

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

第2次世界大戦中、ナチス・ドイツに占領された国の中ではおとなしかったデンマークは、”ヒットラーのカナリヤ”と揶揄されていた。だがそのデンマークで、非ユダヤ系の市民たちが、ユダヤ系市民をナチスの魔手から守ろうと立ち上がり、最終的に7220人のユダヤ人を国外に脱出させた事は、あまり知られていない。著者の父親も、当時は10代初めの子供だったが、家族と共にユダヤ人救出作戦に関わった。本書は、著者が父親から聞いた話をもとにつづった、ノンフィクション・ノヴェルである。
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本書がヤング・アダルト向けなのが残念である。大人の鑑賞にも充分耐えうる、いやそれどころか、ぜひ大勢の人に読んでもらいたい、すばらしい作品だと思う。だが、ヤング・アダルト向けという体裁で発行されている以上、読者の範囲が限定されてしまうだろう。実にもったいないと思う。
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ストーリーもスリリングでおもしろいが、何よりも主人公の少年バムスを取り巻く大人たちが、生き生きとした存在感をもって描かれているのがすばらしい。事なかれ主義に見えるパパは、内心では家族の事をせつないほど案じている。浮世離れした感のある女優のママは、思わぬ離れ業であっと言わせてくれる。ママの専属スタイリストのトーマスは、ちょっとゲイっぽいが、とてもチャーミングなキャラクター。差別意識が強いが、必ずしも悪い人間とは言えないヨハン伯父さんも、一筋縄のキャラではない。これらの登場人物が、誰も彼もハッピーエンドを迎えられるわけではないのが悲しい。話が多少子供っぽくなっても、八方めでたしめでたしにしてほしかったとも思ってしまう。
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登場人物に厚みがあるからこそ、『人それぞれの違いをきちんと認めて、その違いを大切にしなければならない。さもないと、いつか自分が、人と違うという理由でのけ者にされる日が来る』という本書の訴えが、観念ではなく実感として響いてくるのだと思う。

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カイト・ランナー

2007/02/09 10:04

アフガニスタンの歴史を軸にした、裏切りと償いの人間ドラマ

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アフガニスタンの裕福な家に生まれたアミールと、召使いの息子ハッサンは、幼い頃からの親友同士。だがアミールが12歳の冬、凧合戦の時に起きた事件をきっかけに、2人の友情は暗転する。その後アミールは、ソ連の侵攻によりアメリカに亡命、平穏な生活を送るが…38歳になった2001年の夏、思わぬ運命の転機を迎える。ハッサンを裏切った償いを決意し、タリバン支配下のアフガニスタンに戻るアミールだが…。

屈折した友情、ファーザー・コンプレックス、秘密と裏切り、良心の呵責と償いが複雑に織りなされた人間ドラマが、アフガニスタンの激動の歴史(1960〜70年代前半の平和な時代、王制転覆クーデター、ソ連の侵攻、内戦、タリバンの圧政)を軸に描かれる。

読むのが辛い箇所もあったが、とても良い話で、読んで良かったと思う。たとえ取り返しのつかない過ちを犯したとしても、人生は決して終わりではない…と勇気づけてくれる。過ちを償うのに遅きに失した感があろうとも、永遠に償わないよりはずっと良い。良心を持たない人間は苦しんだりはしない、自分で自分を許す事が大切だ…というフレーズにはジーンと来た。

また、著者はアフガニスタンで生まれ、アメリカに亡命した人物で、だからこそ描けるディテールが興味深かった。特に、アメリカではネタばらしは”犯罪”だが、アフガニスタンでは誰もが物語の結末を知りたがる…というカルチャー・ギャップがおもしろかった。

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身近な野鳥でバード・ウォッチング

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

タイトルは、読者の関心を引くために、わざと扇情的にした感がある(もっとも、私もタイトルに釣られたクチなので、偉そうな事は言えないが)。内容は、タイトルから想像されるよりもずっと穏健なもので、スズメとカラスを中心に身近な野鳥をネタにした、いわばバード・ウォッチング入門である。
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本書を読むと、バード・ウォッチングはわざわざ遠くの野山に行かなくとも、自分の身の回りだけで充分楽しめる事がわかる。スズメとカラスは、野鳥を見分ける際に大きさの比較の基準になる等、観察のコツを教えてくれる。また、身近な野鳥のおもしろい話をいろいろ紹介してくれる。スズメの求愛と子育ての話が特におもしろく、スズメが愛情深い鳥だと改めて知った。
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本書を読んで、スズメやカラス、ドバトやヒヨドリ等々を、どこにでもいる鳥だと軽んじず、もっと興味と愛情をもって接したくなった。この書評を書いている今も窓外で鳥がさえずっているが、あれはヒヨドリかしら、何を鳴いているのだろう…と考えをめぐらしている。

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自由への気の遠くなるような脱出行

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

第2次世界大戦が勃発すると、ポーランドはドイツとソ連の双方から侵略を受けた。著者スラヴォミール・ラウィッツは、ポーランド軍の若い将校だが、事実無根のスパイ容疑でソ連に捕らえられ、25年の刑を宣告されてシベリアの強制収容所に送られる。だが、6人の仲間と共に収容所を脱出し、シベリアからゴビ砂漠、そしてヒマラヤを徒歩でひたすら歩き抜き、途中で犠牲者は出すものの、ついにインドに到達して自由を得る…という壮絶なノンフィクション。
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尋問と拷問、そして収容所までの非人間的な移送が描かれる序盤は、読んでいて辛かった。脱出の行程では、著者と仲間たちの超人的ながんばりと意志の強さにとにかく圧倒された…という月並みな感慨しか感じなかった。むしろ脱出後の短い記述の方が心に残った。だが、これはもちろん、気の遠くなるような脱出行あっての事だと思う。
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著者は脱出に成功したものの、戦後ポーランドがソ連の衛星国になったため、故国へ戻る事もかなわず、家族とも生き別れのままになってしまったのは、実に気の毒だと思う。著者がイギリスで結婚して、子供や孫ができても、イギリスには帰化しなかったという記述から、著者の望郷の思いと無念さが伝わってくるようだ。著者が2004年まで長生きして、ポーランドとソ連の共産主義の崩壊を見届けられたのが、せめてもの救いかもしれない。
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また脱出成功後に、著者がこれほどの苦労を共にした仲間たちとあっさり別れて、その後音信不通になってしまったのも、実に惜しいと思う。著者も仲間たちも上ずって平常心を失ってしまい、今後の連絡方法にまで気が回らなかったのは致し方なかったのかもしれない。それでも、他人事ながらとても寂しく感じられた。

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プリオンの迷宮

2005/12/05 09:24

タイトルに釣られて

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

珍しいスイス産のミステリー。新聞記者のファビオ・ロッシは頭を負傷し、負傷に至るまでの50日間の記憶を失う。その50日の間に、彼の人生を劇的に変える何かが起きたらしい。恋人との仲は破綻し、かわりに全く見知らぬ女が新しい恋人の座に居座っている。ファビオは空白の50日間の出来事を調べ始めるが、同僚記者で親友のルーカスに対する、恐ろしい疑いが頭をもたげてくる。

邦題が若干ネタバレだが、非常に今日的でホットなテーマを示唆する、この邦題に釣られたのも事実。記憶喪失をめぐるサスペンスというだけでは、ありきたりすぎて、わざわざ読む気にならなかっただろう。致し方ないところである。

いずれにせよ、読んで良かったと思う。ホットなネタもさることながら、人間心理の恐ろしい側面を、軽い筆致でシャープに描き出した、なかなかの傑作である。最後の最後でズバリ納得がいく構成もお見事。

なお原題は”Ein Perfekter Freund(非の打ちどころのない友人)”。このタイトルでは釣られなかっただろうが、読み終わった今、とても意味深なタイトルだと思う。

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紙の本氷の帝国

2007/11/19 23:59

南極を舞台にした、スケールの大きなホラ話

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

第2次世界大戦前夜の1938年。アメリカ人飛行士のオーエン・ハートは、南極飛行に失敗して失意の日々を送っていたが、初めての南極探検を試みるナチス・ドイツに、アドバイザーとして雇われる。オーエン一行の探検船は、南極で出会ったノルウェーの捕鯨船と、つまらない意地の張り合いから流血沙汰になる。破損した探検船は、未踏の火山島にたどり着くが、そこには難破船と死体の山が。未知の伝染病にやられたらしい。探検隊の実質的な責任者であるナチス政府高官のユルゲン・ドレクスラーは、この病原菌を生物兵器に利用しようとたくらみ、オーエンと対決する事になる。
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南極という極寒の地に病原菌がいるなんて…と最初思ったが、それほどナンセンスな設定ではないらしい。実際に南極には火山島があり、そこである種のバクテリアの棲息が確認されたという。また1938~39年に、南極探検で諸外国に後れを取っていたナチス・ドイツが、本書に描かれたような水上機搭載船を南極に派遣して、探検を実施したのも史実だそうだ。いわば小さな真実に立脚した、スケールの大きなホラ話として、わくわくドキドキ楽しめる。さらに、ペンギンのオスからメスへの小石のプレゼントなど、南極ならではの小道具の使われ方も気が利いている。ヒョウアザラシというおっかない動物が南極にいる事も、本書で初めて知った。
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南極という珍しい舞台、突拍子もない話の展開の他に、本書で印象的なのは、敵役ユルゲンのキャラクターだと思う。傲慢な野心家で、狂信的な愛国者で、人好きのする人物ではないが、基本的に悪意はなく、オーエンに対する態度も比較的フェアである。生物兵器なんぞをいじくり回すにしては、それほど悪い人間とは思えず、時には同情を覚える事すらあった。

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脅迫された継娘

2007/09/08 10:01

メイスン対恐喝者

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ペリー・メイスン・シリーズの1963年の第70作。叩き上げの大実業家バンクロフトがメイスンに助けを求める。彼自身の過去の秘密をネタに、結婚を間近に控えた継娘のロージーナに脅迫状が届いた。この秘密がおおやけになれば、スキャンダルで継娘の結婚話はご破算になるかも…と心を痛めるバンクロフト。即座に行動を開始したメイスンは、大胆な作戦で恐喝者に痛烈な一撃を加えるが、事件の背景は予想外に複雑で…。
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序盤のメイスン対恐喝者の戦いが、スリリングでとてもおもしろかった。恐喝事件の背景に意外なひねりがあるのも読ませる。後半の殺人事件は、推理物としてはさほどではないが、真犯人を罠にかけるメイスンの鮮やかなお手並みは、いつもながら爽快である。
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余談だが、裏表紙のあらすじ紹介は、小説の内容と合っていない。紹介文の筆者は、第1章だけ読んで、後は想像で書いたようだ。まあ、ネタバレよりはましだけど…紹介より実際の方がおもしろかったのは何よりである。

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叫ぶ女

2006/12/09 14:16

気の利いた手がかり

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ペリー・メイスン・シリーズの1957年の第53作。
カービー夫人という女性が、夫の事でメイスンに相談する。昨夜遅く帰宅した夫は、困っていた若い女性を助けたと主張しているが、いかにも話が嘘っぽく、本当は何か面倒に巻き込まれたのではと心配だというのだ。果たして、カービー氏が女性を助けたと主張する時間と場所の近辺で、殺人事件が起きていた事が判明する。

スピーディでスリリングで、とてもおもしろかった。今回は、依頼人の無実を証明する事よりも、依頼人の秘密を守る事に重点が置かれ、そのためにメイスンは非常に危ない橋を渡らざるを得なくなり、ハラハラドキドキ楽しめた。法廷でのメイスンのいちかばちかの大バクチには脱帽。
また、謎解きとしても、細かいところまでカッチリと組み立てられていて、とてもおもしろかった。犯人の正体そのものは別に意外ではなかったが、犯人を示す手がかりがとても気が利いている。

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NHKも罪だと思うが、チャングム・ファンは是非!

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「チャングム」がものすごくおもしろくて、夢中になっている。だが、なじみのない朝鮮王朝の歴史ドラマなので、わかったようでわからない事が多い。本書のおかげで、いろいろな事がよくわかり、ドラマがますますおもしろくなった。

特に、第1話は何が何だかチンプンカンプンだったのが、すっきりわかっただけでも大収穫。また、三枚目の酒売りのカン・ドックがなぜ”宮廷の料理人”を名乗るのか等、細かい疑問の答えがわかったのもうれしい。さらに悪逆非道(笑)のチェ一族が、当時の身分制度では最上級の身分ではない(だからこそ、せっかくつかんだ権力の維持にあれほど血眼になるのだろう)等、TVでは充分描ききれない背景が明らかになったのも収穫。

だが困るのは、現時点ではまだ第21話までしか放映されていないのに、第27話までのあらすじがしっかり載っていて、完全にネタバレな事。誘惑に負けないためには、不撓不屈(笑)の自制心が必要である。それにしても、前半の放映が終わる前にこんな本を出すなんて、NHKも罪だなあ。

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紙の本イリアス 上

2002/06/06 23:52

今読んでも生き生きとしていて感動的

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

読んだ事はなくても、名前を知らない人はいないだろう。ギリシア神話のトロイア戦争をテーマにした、約3000年前の大昔の叙事詩で、西洋文学の原点。話のタネ程度にしか期待していなかったのだが、読んでみて驚いた。とてもおもしろいのだ。確かに読みやすいとは言えないし、欠点を挙げればきりがない。それでも、今読んでも生き生きとしていて、感動的である。
ホメーロスはギリシアの詩人で、物語は当然ギリシア寄り。にもかかわらず、敵方のトロイアを“悪の枢軸”とは描いていない。それどころか、ギリシアの英雄たちが若干ステロタイプなのに対して、トロイア側の人々(第1王子で総大将のヘクトール、その妻アンドロマケー、戦争の原因を作った王子パリスと絶世の美女ヘレネー、老王プリアモス等)の方が、生き生きとしていて人間的に感じられる。だからこそ本書は、滅び行くものを悼む悲劇として心に響き、はるかなる時と場所を越えて読み継がれているのだと思う。

なお本書は、トロイア戦争の最初から最後までを描いたものではない。ギリシア側の主役の英雄アキレウスと総大将アガメムノンとの、戦争の途中での仲違いという、中途半端と思える箇所から始まっている。また、戦争の遠因である3人の女神の美しさ比べ(パリスの審判)や、直接の原因であるパリスとヘレネーの駆け落ちは、当然知っているものとされているので、それらの予備知識がないと辛いかもしれない。何らかの予習をお勧めする。私が使ったのは、ブルフィンチの「ギリシア・ローマ神話」だが、トロイア戦争の全容に加えて、「イーリアス」はここから始まると、アキレウスとアガメムノンの仲違いの背景の説明もあり、おかげで非常にわかりやすくなった。
本書には、戦争の終結部分(アキレウスの死、トロイアの木馬、トロイアの陥落)も描かれていない。読む前は正直なところ不満に感じた。だが、クライマックスのアキレウスとヘクトールの対決は最高に盛り上がったし、またフィナーレのヘクトールの葬送には、トロイアの滅亡を暗示する、しんみりとした味わいがあった。だまし討ちという盛り上がりに欠けるアキレウスの死や、陥落の血なまぐさい殺戮よりも、本書の終わらせ方の方がずっと良い、と今では思っている。

なお、木馬のエピソードが詳しく書かれているのは、トロイアの戦士アイネイアースの戦後の冒険を描いた、ウェルギリウスの「アエネーイス」である。また、トロイア戦争の全容を簡単に知りたければ、サトクリフの「トロイアの黒い船団」も役に立つ。ご参考までに。

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紙の本極北の犬トヨン

2009/07/25 09:21

このうえなく寒い土地を舞台にした、このうえなく暖かい物語

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

舞台は帝政末期のロシア、シベリア北東部。流刑になった若い政治犯(おそらく作者自身)は、護送途中のツンドラ地域で、裕福な猟師グランの家に泊めてもらう。そこでは年老いた犬トヨンが、一家の守り神として大切にされていた。興味を覚える作者に、グランは一家とトヨンとの固い絆について語り始める。
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極北のツンドラ地域という、このうえなく寒い土地が舞台なのに、このうえなく暖かい物語だと思った。いや、生きていくだけでも大変な厳しい土地だからこそ、生きていくための戦いを共に戦う同志として、人は他の人間にも動物にも手放しに優しくなれるのかもしれない。『ツンドラは寒々として無情な土地だというが、わしらの心はこんなにも暖かい』との登場人物の1人が言っているが、まさにその通りだと思う。
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グラン一家とトヨンとの結び付きはすばらしいが、一家に多大な恩恵をもたらしてくれた名犬トヨンを、限りない愛情をもって慈しみ、働けなくなっても大切にするのは、ある意味当たり前だと思う。むしろ、トヨンの前から飼っていた、<なまけもの>という不名誉な名前の役立たず犬に対しても、グランが優しい態度を取っているのが、本当にすばらしいと思った。
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流刑に気落ちしていた作者が『こんなに素朴で、こんなに親切な人々の住んでいる土地が、悪い土地なはずはない』と元気づけられるエンディングが、しみじみと心に残る。

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ホロコーストから大勢のユダヤ人を救った、知られざるスウェーデンの外交官

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

先日読んだ大河スパイ小説「影の兄弟」は、ドラマとしてはいまひとつ(いまふたつ?)だったが、”歴史の教科書”としては、知られざるトピックスをいくつも紹介してくれて、なかなかおもしろかった。その1つがラウール・ヴァレンベリ。大勢のハンガリーのユダヤ人をナチスのホロコーストから救ったが、ソ連に捕らえられて十中八九殺された、スウェーデンの外交官だという。

ホロコーストからユダヤ人を救った非ユダヤ人は、オスカー・シンドラーと杉原千畝はよく知っているが、ヴァレンベリなる人物は恥ずかしながら全くの初耳。そこで興味を抱いて調べてみたところ、本書の存在を知り、読んでみた次第である。なお、”ヴァレンベリ”は”Wallenberg”のスウェーデン語読みで、英語読みにすると”ワレンバーグ”になる。

本書は児童書だが、児童書としては非常にレベルが高い。ホロコースト全般、ハンガリーでのホロコーストの状況、そしてワレンバーグの活躍について、きっちりと要点を押さえて、わかりやすくまとめている。特にワレンバーグの活躍は、小説顔負けのスリルとアクションに満ちていて、ハラハラドキドキ楽しめた。大人でも、ワレンバーグについてほとんど、あるいは全く知らない人間なら、十二分以上の読み応えがある。

たとえば、コラム的に紹介されている、ホロコーストの生存者ロン・ベイカー教授のコメント『人間というのは、人をにくみたがるものです。そうすることで自分は正しいと思い、気分がよくなるんですね…そして、自分たちの怒りや敵意をあらわにするためには、身代わりとなる犠牲者が必要となります…』には、児童書だからとあなどれない深みがある。

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紙の本オウエンとムゼイ

2006/12/28 00:03

”シンジラレナーイ!”友情の実話

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

先日、NHKのニュースで驚くべき話を耳にした。インド洋大津波でひとりぼっちになったカバの子が、国立公園に送られたが、そこでゾウガメと友達になって、いっしょに仲良く暮らしているという。カバとゾウガメ??? まさに”シンジラレナーイ!”。

本書は、このカバのオウエンとゾウガメのムゼイの友情の実話を、絵本にしたものである。絵本と言っても、プロのカメラマンの手になる、オウエンとムゼイの珍妙な、だがとても心温まるツーショットがたくさん載せられており、これらの写真だけでも十二分に買う価値がある。

珍奇だろうと、あるいはたとえ一時的なものに終わろうとも(本書によると、今でもいっしょだそうだが)、オウエンとムゼイにとって、お互いに知り合えた事は、とても良い事だったと思う。

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信じられぬ旅

2006/10/13 23:30

もっと読んでいたい、犬猫トリオの旅

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

飼い主が長期出張の間、はるか遠く離れた友人の家に預けられた犬と猫のトリオ(ラブラドル犬のルーア、ブルテリア犬のボジャー、シャム猫のテーオ)が、もとの飼い主の家をめざして、カナダ奥地の荒野に旅に出る。

淡々とした描写だが、犬猫が生き生きと描かれていて、実にかわいらしい。1匹1匹の個性が際立っていて、みんな素敵だが、特に老ブルテリア犬のボジャーがチャーミング。セリフをしゃべる等の擬人化がないのがとても良い。3匹が無事旅を終えて良かったと心から思うと同時に、読み終えてしまったのが寂しく、彼らがもっと旅を続けてくれたらいいのにとも思った。

なお、本書は「三匹荒野を行く」のタイトルで映画化されている。原作がほとんどそのまま再現されている。犬猫はとても生き生きとしていてかわいいし、晩秋のカナダ奥地の自然も美しい。こちらも是非どうぞ。

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