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先月(2017年6月)

カノーさんのレビュー一覧

投稿者:カノー

4 件中 1 件~ 4 件を表示

紙の本うらおもて人生録

2001/05/17 14:04

生きていく力

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 『麻雀放浪記』とはまた違う色川武大名義でのエッセイ集。著者がばくちの世界から得た、ちょっと心の隅っこにとどめておきたいことばが並ぶ。
 乾いた勝負事を淡々と描いた小説の面影はあるものの、少しはにかんだ少年のような、いろんな人に愛された阿佐田哲也の姿がそこにはある(しかしまた、そんな感想さえも彼の策略じゃあないだろうか、と思わせるところがまた、阿佐田流)。

 いつも勝てるわけじゃない。
 だから…
 「人を好きになること」
 人を好きになっていって、その思いが貯金みたいに貯まっていく。そうすればピンチのときに、まるで手持ちのカードみたいにそんな人たちのことを思い出されてくる。自分が好きな人は、自分の力になる。
 「黒星の算えかた」
 全勝なんて出来ないし、したくもない。目標は九勝六敗だ。

 上手くいかないことがあったりして、負けが込んできたような気分になったとき、手にとって読み返す本です。

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死を恐れずに病とともに

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 著者は産経新聞の「人生応援団」の回答もしていた精神科医。この方の文章を読んでいるとほんとに患者さんにこんなこといってたのかしら?? と悩んでしまうほど、他の精神科医とはまったく違う方向からの示唆に富んでいる。インド哲学や仏教にも造詣が深く、「人は必ず死ぬ」というところからアプローチする著者だった。

 『ココロとカラダを超えて』(ちくま文庫)では、自殺したいんですけど、という架空の患者との問答で、首吊りも飛びこみもいやだし…どんな死に方がいいだろうと悩む相手に、そのうち寿命が来て自殺しそこなっちゃいますよ、とツッコムような著者で、わたしは大好きでした。

 この人が常日頃いっていたのは、何かを恐れるのも悩むのも、すべては自分という存在のため。なにかを恐れているから知ろうとしない、知らないからいっそう恐れる。

 そんな著者がガンを患った。手術はしたが、既に転移してしまっていた。死を恐れず忌み嫌わず、残された自分の命をよりよいものにしようと、副作用が強い抗がん剤での治療は拒否する。その日々のなかで、医者の目で医療・病院を、ガンの治療を、死を語っていく。
 実際に目の前に死が迫ってもなお、これまで語ってきたとおりの生きかた・考え方を貫く頼藤氏。タイトルにしても、「闘病記」でなく「耐病気」であるのが著者らしい。
 2001年4月に亡くなられた氏のご冥福を心よりお祈りする(死んじゃったらはい、それまでよ、と言いそうな方だが…)。

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紙の本機会不平等

2001/05/17 14:08

グローバル・スタンダードの欺瞞をあばく

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「日本は貧富の差が少ないから」「日本は総中流社会」そんなことばで、見てみない振りをされる、弱い立場の人たちのことを、著者は丁寧に取材し、光を当てていく。
 そうして、経済合理化、教育の正常化をお題目に、彼らを切り捨てようとするやりかたを、それはおかしい、と書き上げていく。

 もちろん、弱い人間のことを第一に手厚くもてなせ、なんてことは著者は考えていない。では、何を言いたいのか。

 教育改革や経済自由化をすすめようとする社会的地位の高い人たちが、どれだけ自由化だ合理化だなんて言ったって、それは、自分たちがすでに恵まれた地位にいて、それを維持するための道を強化するやり方を残した(それは決して自由化しようとはしない)うえでの話。それでいて、「自己責任」だの「自由化」だのなんて、そりゃないだろう、ということを著者は繰り返し語る。

 著者はこう記す。
 「現代の指導者層に最も不足しているのは、数多の提言が唱えるような創造力でも独創性でもない。他者の心や境遇に対するごく常識的な創造力と、人間としての最低限の優しさである」

 自分の体験をさりげなくおりまぜながら、冷静に、客観的に、現代社会の病巣を明らかにする手腕には感嘆する。

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目撃証言

2001/05/14 09:50

記憶と現実との間で

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 著者はワシントン大学の心理学の教授で、人間の記憶…どうやって物事が脳にインプットされ、さらにはそれをどうやってアウトプットしてくるか…を研究している。人は誰も「記憶」の当事者であり、わかっているつもりの「記憶」のありようが、こうして、実際に本になりデータも添えられて、実際の事件をもとに語られているのを読むと、改めて真剣に考えさせられる。

 著者は研究と同時に、100件以上の刑事裁判で「目撃証言というのが基本的には誤りやすいこと」…記憶は現実そのものではないということを証言してきている。そうした著者の行動は、その専門家証言を行う事件が残酷であればあるほど、可愛そうな被害者を傷つける行為として、一般の人からは冷たい視線を注がれる。友人からも。
それでも著者は、公平な裁判が行われるために、科学者としての責任感から証言を続ける。

 著者はガリガリの科学至上主義者ではない。テッド・バンディー(30人以上を殺害を自供したと言われる連続殺人犯)の一連の裁判の始まりに、著者はバンディーの弁護士に請われて専門家証言を行っている。バンティーの有罪が確定されたあと、著者は自分のした行為について考えつづける。科学的信念と正義、そして良心の間で考えつづける。また、ユダヤ人である著者は、1990年にイスラエルで行われたナチ戦犯裁判への証言については、苦悩した挙句それを辞退する。

 被疑者に対する警察の取り調べ、法廷の様子、司法制度の本来の理念と実際、被害者とその家族、被疑者とその家族、それらの様子が共著のノンフィクション作家・ケッチャムの手により、サスペンス小説さながらの迫力でつづられる。

 犯罪という非日常の世界だけでなく、生活しているうえで考えるべきテーマかもしれない。

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