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先月(2017年8月)

neutreさんのレビュー一覧

投稿者:neutre

2 件中 1 件~ 2 件を表示

紙の本泉鏡花集 黒壁

2006/12/18 02:07

女と暗い静かな場所——『泉鏡花集黒壁』

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

怪談、といっても別に異形の化け物が出てくるわけではない。美しい女が夜半に誰もいない森閑
とした場所へ現れ、付属する物語が語られるだけで怪談になる。「映画の父」と呼ばれるD.W.
グリフィスはかつて「映画とは女と銃だ」と言い、それを受けてジャン=リュック・ゴダールは
「男と女と車があれば映画は撮れる」と述べたが、東雅夫氏によってまとめられた『泉鏡花集 黒壁』
所収の短篇・中篇群はあたかも「ふいに美しい女が真夜中暗く静かな場所に現れさえすれば怪談になる」
と示しているかのようだ。
実際、所収短篇のなかで最も古い作品「黒壁」で泉鏡花はこう書いている。
「しかれども敢えて、眼の唯一個なるもの、首の長さの六尺なるもの、鼻の高さの八寸なるもの等、
不具的仮装的の怪物を待たずとも、ここに最も簡単にして、しかも能く一見直ちに慄然たらしむるに
足る、いと凄まじき物体あり、他なし、深更人定まりて天に声無き時、道に如何なるか一人の女性に
行き逢いたる機会是なり。」
こうしたミニマルとも思われる設定を土台としながらも、鏡花はそこから複雑な物語を紡ぎ出していく。
生死を越えた美しさをもつ女の物語が語られ、その女に不意に邂逅して恐れを感じながらも魅了されて
しまう男の物語が語られる。そうして作品の時間が重層化され複雑さを増していく・・・
さらに、鏡花は視覚だけではなく、聴覚や触覚など他の五感を用いて恐怖や驚きを醸しだす。たとえば、
「浅茅生」の最後で団扇が突然屋根瓦を滑り落ちる凄まじい音、枕に流れた自分の長い黒髪を舌で吸い
寄せた時に感じた冷ややかに濡れた感触、「紫障子」では強烈に不快な匂いを発する黒い碁石、など
様々な感覚が登場人物と読者を刺激するのである。
『泉鏡花集 黒壁』に収められた短篇はどれもそれぞれ異なった感触をもっていて面白い。特に「高桟敷」
や「浅茅生」はコンパクトにまとまった怪奇小説の傑作短篇ではないだろうか? この二作品を読むため
だけでもこの本を買う価値があるだろう。(ちなみに『泉鏡花集 黒壁』に収められたすべての短篇・中篇
は文庫本未収録である。)鏡花作品にもっと近づきやすくするためにも少しでもいいから註釈を付けて
欲しかったという思いもないではないが、鏡花初心者にも楽しめる短篇集になっていると思う。

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石子順造入門に最適。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

府中市美術館で開催の「石子順造的世界」展の図録である。展覧会図録だと言っても、担当学芸員の成相肇氏による、石子のキャリア全体を適確にカバーした論文や、石子の著作からの抜粋、さらに石子順造入門として著作案内や石子順造小辞典など、とても読み応えがあり、実際に展覧会を観ていなくてもこの図録だけでかなりの部分を補うことができる。展覧会の一つの目玉である、つげ義春の『ねじ式』原画が大きな図版で再現されているのも嬉しい。このボリュームでこのお値段はかなりのお買い得だと思う。手っ取り早く石子順造の思想を理解するのには最適の書籍だろう。ここからこの本を手引きとして石子の著作に進んでいくのが望ましいと思う。

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