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書子司さんのレビュー一覧

投稿者:書子司

39 件中 1 件~ 15 件を表示

古き良き時代のゆったりとしたミステリー。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

貴族でありながらと言うか、貴族だからこそというべきか、無報酬で探偵を生業(趣味かも?)とするピーター卿を主人公にしたシリーズの第4弾。登場人物紹介に「貴族探偵」となっているところが、なんともノスタルジックな感じがする。
このピーター卿が会員となっているベローナ・クラブに夕食を摂りにやって来るところから物語は始まる。そのクラブで90歳になる老将軍が椅子に座ったまま死んでいるのに遭遇してしまう。その将軍には絶縁された妹がいたのだが、彼女もまた同じ朝に亡くなったのである。これだけなら、単なる二重の悲劇であったが、その妹が絶縁後資産家となり、さらに自分が先に亡くなったときには兄である将軍にばく大な遺産を残し、逆に兄が先に亡くなった時は後見している女性に遺産を残すと言う遺言を残したために、大きな問題が起こった。兄が先に亡くなったのか、妹の方が早かったのか……。この問題の解決をピーター卿が依頼される。調査を始めると、死亡時間に不審な点が現れてきた。さらに、埋葬された遺体を検視解剖し毒薬が検出されるにいたって、事件は一点殺人事件となってしまう。
ストーリーそのものもさることながら、第1次世界大戦後のイギリスの古き良き、ゆったりとした時代の空気が感じられることこそ、この作品の価値ではないだろうか。この空気感はやはり、ホームズやクリスティーを生み出したイギリスならでは。P.D.ジェイムズにもこの良さは受け継がれているが、やはり設定が現代ということで、殺害される人物とか事件の舞台に時代の殺伐さが漂っている。その点、本作にはゆとりというか、のどかさ(殺人事件でのどかも変ではあるが……)が漂い、時代の気分を味わえると言えるだろうか。

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ノンフィクションの力を見直す1冊。昭和ファンも星新一ファンも楽しめる大作。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日本の代表的ショートショート作家であり、SF作家である星新一の評伝、なのであるが、前半では、戦前から戦後、そして昭和の高度成長期の活気ある世相や、日本のSF界誕生の裏話や関係者の情熱が生き生きと伝わり、後半では星新一の内面やSF界の隆盛がわかるフィクションのように面白いノンフィクション。星新一やSFのことをあまり知らなくても、ウルトラマンの脚本家やTVアニメの原作者などよく知った事柄が出てくるので、500ページを超える大作なのに、一気に読ませられてしまった。作者は本文中で、星新一の【祖父・小金井良精の記】を「ショートショートから人間の感情や風俗、性を徹底して排除したように、私情を差し挟むこともなければ、これといった感動的なドラマを設定することもない。重視されているのは日記や文献といった事実であり、淡々と良精と一の周辺を記述して、祖父・小金井良精という人間を描く。その近くにそこはかとなく体温が感じられる程度に自分がいる。」と記しているが、まさに、この作品がそうであり、日記や文献と関係する人々の声を淡々と記述しているだけなのに、そこからは、昭和の香りや、日本にSFを根付かせることにかける情熱なども伝わってくる。しかも、星新一のショートショートに夢中になった読者には、発想のヒケツや知らなかった意外な一面、苦しみなど星新一の内面の一部部分を知ることもできる。500ページ以上と分厚いけれど、一冊で何度も楽しめる……。こんな面白いノンフィクションもあるのだ、と思ってしまった。

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紙の本愛おしい骨

2011/07/14 17:35

特異なキャラクターを持った登場人物達が、20年前の事件の真相を語り出す。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

20年前、森へ行きそのまま消えてしまった弟のものらしい骨が、夜明け前に順にポーチに置かれていく。一体誰が何の目的で?そして、家政婦の連絡を受けて20年ぶりに帰郷した兄である主人公オーレンが戻ってくる。彼は、元陸軍犯罪捜査部下級准将、つまり軍における犯罪を調べるプロ、それもトップクラスの実績をもつ優秀な捜査官であった……。
ミステリーとして何とワクワクさせる物語の始まりかたであろうか。そして謎を解く主人公として何とワクワクさせる職業を選んだことか。通常の警察関係者でないところがいい。しかも舞台は、アメリカ・カリフォルニア州北西部。携帯電話さえ通じない小さな田舎町。もうこれだけで、主人公が関係者から話を聞いてゆく過程で真相が徐々に姿を現していくという物語の骨格が見えてくる。
しかも、そこに登場する町の人々が特異なキャラクターばかり。

魔法使いみたいな何でも知っている、何でもできる妖精のように不思議な家政婦。
誰も行かない図書館で身体作りに励む、怪物と呼ばれる女性司書。
両親との心理的葛藤を抱き、主人公オーレンを思い続けている女性鳥類学者。
その継父で、異常なハイテンションを持ち続ける敏腕弁護士。
アルコール依存症で弁護士である夫に常に監視され、精神的に虐待されているその母親。
14歳で大学に入学するほどの高いIQをもちながら、警察官となり、パトロール中の事件で大怪我を負い、その事件の際の補償金で大邸宅に暮らす男。
作家として有望視されながら、今はゴシップライターとして有名になってしまった男。
元判事であった父は、夢遊病となって眠りの中で歩きまわる。
町の誰もが一度は参加したことがある山中のキャビンで行われる占いの会と、それを主催する霊媒師。
オーレンを捜査官として係わらせようと画策する、無能な保安官。
これらの人物が捜査を進める中で、次々と登場して、物語をふくらませ奥行を持たせてゆく。

もちろん、弟ジョシュは殺されたのか?犯人は誰なのか?という、ミステリーとしての謎解きも楽しみなのだが、もっと興味をそそられたは、これらの特異なキャラクター達はどんな秘密を持っているのか、と言う点であった。しかも、読み進めるにつれ、彼らはそれぞれにつながりがあり、しかもそのような特異なキャラクターを持つ原因がそれぞれ関連していることがわかってくる。もちろん、それは主人公であるオーレンも例外ではない。彼が20年も町に帰らなかった理由も、弟との確執も明らかにされてゆく。すべての結構が無理なく整い、終章に至る。これこそ、物語の醍醐味。長編ながら読みやすく、アキさせない。
あとになって、この作品は『このミステリーがすごい!2011年版』で海外編第1位だったとか。知りませんでした。いわゆる本格派の謎解きではないけれど、謎が解き明かされるという物語の面白さは思いきり満喫できた。

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紙の本小川洋子の「言葉の標本」

2011/12/13 19:01

どこから読んでも楽しい、どのページも眺めているだけで愉しい。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

今までにこのような本のあり方を寡読?!(寡聞)にして知りませんでした。と言うか、作家や作品世界を紹介するのに、こういう方法があるなんて、本当にうれしい驚きです。小川洋子の24作品を紹介しているのだが、各作品ごとに文章の一部を紹介し———つまりは「言葉を採集して標本にしている」のだが、それに加えてそれぞれの作品世界を象徴する写真やイラストを配して、作品をビジュアルでも楽しめるようにしている。クラフト・エヴィング商會の「じつは、わたくしこういうものです」や「クラウド・コレクター」のようなつくりで、本好きのこころをときめかすようにできている。さらに、作品の舞台となった場所や作家の書斎も紹介されているのだが、これが、通常のムックなどに見られる書斎紹介とはひと味違っていて、実際の書斎をロケ場所として作り込んだような撮影となっていて、これもまた小川洋子の作品世界となっている。
読み応えとか、次々とページを繰って物語性を満喫するという1冊ではないが、「書物/本」そのものが読書の愉悦を伝えてくれる。本当に、見ているだけでうれしくなる良くできた1冊。長く手元に置いておきたいと思えた。

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紙の本陋巷に在り 13 魯の巻

2010/03/04 11:12

物語の面白さを満喫できる全13巻

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

孔子とその弟子・顔回、そして彼らと係わる多くの家族や知古、敵の物語である。なんと、全13巻。でも、語られるのは孔子が宰に取り立てられ、三都毀壊に失敗し、魯の国を出て放浪するまでのわずか数年の顛末を綴ったにすぎないのに、本当に読者を飽きさせない。それも、ジェフリー・ディーヴァーのようにどんでん返しが次々と起こってページを次へ次へと繰らせるような事件がたて続きに起こるようなものではないのに、である。毎日読んでいると、顔回や敵であり同時にもう一人の主人公である子蓉などが、だんだんと親しい人となっていって、自身が陋巷に在るような気になってくる。孔子という偉人と儒教を語るというような堅苦しい話ではなく、儒という古代中国の一種の呪術合戦や、礼とは鬼神とはなどの蘊蓄も語られる、「帝都物語」のように東洋的なサイキック・アクションとしても楽しめるし、古代中国の歴史小説としても面白い、物語として第一級の作品になっている。あとがきに作者が顔回の亡くなる場面を書くために始めた、と述べているが、そこまで書き続けて欲しいと思わせる、読み終わるのが残念な作品であった。

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紙の本塗仏の宴 2 宴の始末

2004/08/06 18:39

分厚いのがお好きな方には本当にお奨めです。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

新書判全2巻、1冊でこの分厚さなのに、それが2冊も。まず小説は長くないと読む気がしないという方(実は私なんですが)にはお奨め度満点の作品です。
昭和28年、関口巽が伊豆山中の住民ごと忽然と消えた村を探すよう依頼されることから話が始まり、あれよあれよという間に話は大風呂敷を広げるように拡大というか、一見関連のなさそうな新興宗教や催眠術、占い師などの六つの話、つまり六つの妖怪の話が説き起こされていく。そして「宴の始末」(下巻ですね)で、その六つの話がすべて連関し、1人の黒幕による実験であることが京極堂によって解き明かされる。今回は、実は京極堂は話の筋を知っている、なのに関わろうとはしないのです。その理由は、京極堂の戦時中の兵役と関係している、ということなのですが、そのあたりのことは読んでもらうとして…。まぁ、この6つの独立していると思える話をつなぐその力技の見事さ、妖怪に関する蘊蓄の広がり、思考に関する思索の深さ……。こんなに良く書けるものだと感心しつつ、ページを捲る手を止めることができませんでした。あっという間の2冊読了。
で、読み終わってちょっと思いました。この作品の建て方、浦賀和宏の「頭蓋骨の中の楽園」と同じではないだろうかと。読んだことの無い方のために、この作品のあらすじをちょっと述べると……。
首無し死体となって発見された美人女子大生、その殺害された女子大生の友人が、笑わない男、安藤直樹とともに犯人を探そうというものです。さらに、二人目の女子大生の首無し死体が見つかり、首が見つからぬままに、異常なる連続殺人の背後には、密室の中で首を切断して自殺した作家の存在があるという話がからんできます。さらに、殺害された女子大生の婚約者である刑事や、2番目に殺害された女性の夫であるミステリー作家などが関係し、話は混とんを極めていきます。そしてラストになって、探偵役である安藤直樹が解決するわけですが、それは推理とか伏線とかではなくて、単純にその一連の事件の発端となった記憶操作を行った人物、萩原を知っていたという理由で解決してしますのです。しかも、一見バラバラに見えた様々な出来事がすべて関連し、それらをすべて萩原がコントロールし、すべてが彼の実験だったというのです。
塗仏の宴とよく似ているといえませんか。京極堂に対する安藤、堂島大佐に対する萩原、催眠術や暗示に対する記憶の消去と刷り込み、6つの関係ないように見えた話が実はすべてひとつの連鎖であったことに対する、4つの首無し連続殺人事件が実はひとつの殺人事件が発端となって行われた関連する事件であったこと、探偵役が事件そのものと関わり、しかも黒幕を知っていることなど、建て方がよく似ていると思われます。もちろん話は全く違うものだし、文章のうまさ、読みやすさ、小説としての面白さなどはるかに本作の方が上と思いましたが……。その点ちょっと気になりました。一度そちらの方も読んでみてください。

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紙の本暁英 贋説・鹿鳴館

2010/10/25 16:38

こんな明治物が読みたかった。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

北森鴻の遺作である。これまで、この作者の作品は登場人物が好きになれなかった。「蓮丈那智」シリーズにしろ、「旗師・冬狐堂」シリーズにしろ、「香菜里屋」シリーズにしろ、いずれの作品も主人公はそうでもないのだが、他の登場人物の性格づけが馴染めない、読後感があまりに悪かった。それは、デビュー作の「狂乱廿四孝」でも同じ印象だった。が、 ストーリーは面白く、文章は闊達で読みやすく、物語としては満足していたのだが、どうしても人物設定が好きになれず、手に取らずに来てしまったが、遺作でもあり、明治維新後の歴史上の人物が登場人物なので、人物の描き方や性格付けもまた違っているかも、と思い読み出した。これが、面白い!!!これまでの登場人物の性格の嫌さもなく、自然と物語の中に入り込んで、登場人物たちといっしょに動き、感じられた。
物語は、鹿鳴館を設計した英国人建築家コンドルが来日し、工部大学校の教授として後に日本を代表する建築家である辰野金吾たちを教育しながら、鹿鳴館を設計するまでを描いているのだが、単なる歴史小説ではなく、実はコンドルは英国の商社から密命を帯びていた……という、歴史の裏面を描く歴史ミステリーとなっている。井上馨や岩崎弥太郎など明治維新の立役者から浮世絵師河鍋暁斎、市井の無名の人々までが交錯し、銀座煉瓦街誕生や西南戦争などが描かれながら、「明治」の意味と裏面が虚実をとり混ぜて、巧みに描き出されている。歴史ミステリーの常として、登場人物たちが描かれている通りの性格であるのか、主人公のコンドルが本当に商社の密命を帯びていたのか、あるいは西南戦争の真の意味などは、北森鴻の解釈であり(もちろんそれが真実なのかもしれないが)物語なのだが、「いかにもその通り」と思わせて抜群に面白い物語になっていた。しかも、政権交代が行われた今の時代と重ね合わせて読んでみると、権力の持つ光と闇、現在報道されていることは真実なのか、などいろいろと考えさせられ、興味は尽きなかった。
ただ、ただただ残念でならないので物語途中で絶筆となってしまったこと。歴史ミステリーとしてはかなりの部分は描かれているのだが、どうして鹿鳴館の設計図は残っていないのか?また、現在の作家が鹿鳴館の謎である設計図が残っていない、評価が意外と低いなどの謎を描くという、作中作の形式を取っているのだが、それをどのようにして整合させるのか等々、いくつかの伏線がそのままで残ってしまった。とはいえ、明治を描いた幾多の小説の中でも群を抜いて面白く、明治という時代を斬新にとらえている、北森鴻の代表作だと感じた。

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紙の本サラの鍵

2011/01/19 15:13

物語としての面白さと、戦争の罪悪さと一般人を巻き込む悲惨さを伝える。こんな困難なことをこの1冊は見事に成し遂げている。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ナチス占領下のパリで、ホロコーストの一環として、フランスで行われたユダヤ人の検挙と、その事件を取材するうちに夫の家族との関わりに気づいてしまったアメリカ人女性ジャーナリストジュリア。ナチスに連れ去られた少女サラを描く60年前のストーリーと、現代のパリでその事件を取材する女性ジャーナリストの取材活動が交互に描かれ、それが、彼女の夫の家族が暮らしてきた「家」で交錯する。
女性記者の一人称で描かれているので、もっと感傷的なものかと考えながら読み始めたが、意外と骨太で物語としての構成がしっかりとしていて、重いテーマを扱いながら、ストーリーづくりの巧みさにページを次々と繰ってしまった。
60年前、サラは収容された施設から逃げ出したあとどうなったのか?その弟は?ジュリアの取材はそのまま、読者の知りたいことと重なり、現代と過去が交互に語られることで、より興味を深め、飽きさせない。
アウシュビッツの悲惨さやナチスの非道よりは、ナチス占領下でのフランス政府のナチスへの協力・ユダヤ人収容に力点が置かれているようで、ナチスの問題は単にナチスだけに帰されるのではなく、協力した当時の政府などにも責任がある、という強いメッセージを感じた。
表紙の見返しに、「国家の恥、家族の秘密、自分と夫の心の傷に同時に触れてしまったひとりの女性が、真実を、そして自分自身の新たな生きかたを見つけようともがく闘いの記録。」とある。そういう見方もあるのだろうが、この作品はそのタイトル通り「サラ」が中心にあり、戦後も決して癒されることのなかったサラを描くことで、戦争の愚かさを伝える、深い余韻を残す1冊であった。

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ゆっくり読んでも、一気読みしても楽しめるファンタジーSF

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「バス=ラグ」と呼ばれる架空の世界。この世界には様々な国や都市があり、その一つの都市国家、
ニュー・クロブゾンが舞台。
この世界では、蒸気機関と魔術学が一体となっていて、生息しているのはいわゆる人類だけでなく、鳥人や両生類人、昆虫人間や植物型(サボテン人)の知的生命体など、様々な形態の生物が共棲している。ファンタジーとスチームパンクSFの融合したイメージだが、印象は、ブレードランナーのダークなタッチと、ハリー・ポッターの魔術世界と、テレビ番組のアンドロメダを混ぜ合わせたというのが馴染み深いかも……。
600ページもの物語を乱暴にまとめると、独自に研究を行う魔術学の科学者アイザックが、罰として羽根を切り取られた鳥人のもう一度空を飛びたいという頼みを実現すべく、研究材料として様々な非行生物を集め、その中に一匹のイモムシがいたことが発端となる。実はこのイモムシ、スレイク・モスという名の夢蛾の幼虫で、この蛾は知的生物の意識/精神を餌として(実際には脳をも食い尽くすわけだが)食い尽くしてしまう恐るべき生物。その幼虫を孵化させてしまったことから、アイザックと仲間は政府や犯罪組織から追われることになる。と、ここまでが全ページの約三分の一から半分近くを費やしている。バス=ラグの世界観や、昆虫人など知的生物の描写、登場人物の描き込みなど詳細を極め、交通手段のひとつであるタクシーさえも、生物タクシーにするなどアイデア横溢、それはそれは想像力を刺激する描写に溢れているから、多くの枚数を費やすのは当然かもしれない。
そして、後半は一転、孵化した夢蛾が捕獲されていた仲間4匹を解放。ニュー・クロブゾンの住民を襲い恐怖の的となるモンスターとアイザックとの闘いが中心になる。知性/意識を持った機械プログラムであるコンストラクト・カウンシルや、次元を自由自在に移動できる大蜘蛛“ウィーバー”や寄生生物が入り乱れ、さらにアイザックは“危機エンジン”なる究極兵器を創りだし、夢蛾を倒すハイパーバトル。600ページ2段組の大長編を飽きさせず、一気に読ませてくれる。しかも、キャラクターのつくりこみや、「バス=ラグ」世界の描き込みが詳細なので、部分部分を読んでいても想像力が刺激された面白い。
作者であるミエヴィルの世界を想像しながら楽しんでゆっくりと読むのもいいし、後半部分をノンストップアクションSF映画を見るようにページをハイスピードで繰って読むのもいい。分厚いけれど、その分楽しみがいがある一冊だった。

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紙の本青銅の悲劇 瀕死の王

2009/02/05 16:53

必ず保存しておきたい1冊。「矢吹駆」シリーズと、名探偵推理小説への決別の宣言作品ではないのだろうか。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

巻頭、扉ページに「私は日本へ戻ってきた。矢吹駆を殺すために。  N.M.の日記より」とあるのは、字句通りの意味なのではないだろうか。
この作品では、頼拓市の旧家に起こる連続殺人事件に意味はない。というか、殺人とその解明に意味はないのではないだろうか。解明の過程で探偵役をする作家宗像や、ナディア・モガールの論理的な推論に意味があるのだと思う。これは、今までにない事件の解明であり、ミステリーの形だと思う。終章でナディア・モガールは、推測と推論に差異、名探偵による解決のいい加減さ、さらには矢吹駆の本質直感もまた、誰かが耳元で本質を囁いていたのだろう、と言い切っている。(、それは当然の話で、作者が神となって囁いているのだから……。でも、ある意味読者はそうと知りながらも、名探偵の鮮やかに推理を楽しんでいたのだ。)名探偵の推理は、今の時代性とはあわないのだという宣言のように思える。そして、推論を積み重ねることによって謎の真相に迫る、これまでにない作品になっているように思える。
まさに、矢吹駆——名探偵を殺すために書かれた一作。しかし、その価値は大きく、21世紀の新しい本格の嚆矢となる一作、ずっと手元に置いておきたい歴史的な作品とも思えた。これから、もしも矢吹駆シリーズが日本編として書き継がれるとしても、それはこれまでのシリーズとはまったく違った形になるように思える。それは、それできっと魅力ある、21世紀にあった本格のような気がする。そういう意味でも、必ず保存しておきたい1冊だと思う。

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紙の本炎の翼

2005/09/15 15:27

現代の作品なのに、時代設定は第1次世界大戦直後。イギリスでもやはり、懐古風潮があるのだろうか。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日本でも大正から昭和初期に掛けての時代設定で、多くのミステリーが書かれている。あの時代には何か、作家の創作意欲を刺激する雰囲気があるのだろうか。それとも、現代の設定で純粋に探偵を活躍させようとすると、警察のDNA鑑定や微細証拠鑑定などをどうするかなど、多々の制約があるので、時代設定を過去にしているのかもしれない。リンカーン・ライムシリーズのように緻密な資料をもとに科学捜査の蘊蓄とサスペンスの醍醐味を追求するのでないかぎり、純粋に探偵役のキャラクターを楽しんだり、ミステリーの楽しさを味わうのには現代の設定よりは、少し過去の時代の方がいいのかもしれない。
話は、コーンウォールの旧家で2人が自殺し、その後残された邸宅の処分に訪れていた兄弟が事故死する。再調査の依頼を受けた内務省の命令で、ラトリッジが捜査に赴くことになる。自殺した2人の内のひとりが著名な詩人であり、その家族構成が複雑を極め、さらには過去の義理の兄弟の失踪や事故死にまで疑惑の目が向けられていくことになる。
解決への手法は極めてオーソドックス。証人への聞き込み、というよりもお話を聞かせてもらうと言うスタンスから外れない。そして現場を少し調べての若干の証拠(と言うよりは手がかりと呼ぶべきささやかな品々)の発見。そう、そのスタイルはクリスティーのポワロ物などと同じ。
当初はただの自殺と事故としか見えなかった事件が、徐々に殺人の様相を見せ始める。2人の自殺はどちらが相手を殺してからの自殺なのか?ではどちらがどちらを殺したのか?あるいは誰か他に殺人者がいて、2人を自殺に見せて殺したのか?話を重ねることで、徐々に謎が見え、推理し、また話を聞き、推測し、確認する。そして、解決。
ちょっと残念に感じたのは、犯人へのてがりが伏線としてあるわけでなく、ある証人の証言だけであり、しかもはるか過去の殺人の時から知っていたという点である。もう少し、伏線が張られ、証拠が示されていれば唐突な感を受けなかったのに、と思われる。
がしかし、古き良きイギリスの風景や住まいの描写とともに、探偵役であるラトリッジと証人との会話を通じて徐々に明らかになっている事件の様相などがじっくりと楽しめる。スピーディーな展開、携帯とパソコンとカーチェイスなどに飽きてきた人には、秋の夜長にじっくり読むのに最適の1冊である。

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文春のミステリーベスト10で第3位に偽りなし!

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本の紹介に「作家生活40年のキャリアを誇る著者の集大成にして新境地!」とあったが、その通りで、今までの作品とはかなり違っていた。ミステリーとしての仕立ても見事なら、18世紀ロンドンに生きる人々も生き生き!文春の「2011年ミステリーベスト10」の第3位に選ばれたのも当然かもしれない。
実際、これまでこの作者の作品は“面白そう”と読み出すのだが、なんとなく読み通せず、途中でおいてそのまま積ん読になっていたのが多かったのだが、この作品は最後まで飽きさせず、今までの皆川作品になかった物語的な面白さに魅了されて、一気に読み終えてしまった。
舞台は18世紀のロンドン。一方に解剖教室を開く外科医ダニエルとその弟子たち、他方に「グッドホープ邸の殺人」にも描かれた実在の判事サー・ジョン・フィールディングとその姪である助手のアン・シャーリー・モア。中心に四肢を切断された少年の死体、さらに顔をつぶされた男の死体も現れる。
自分たちの無罪を証明するためにも、判事からの捜査協力の要請に応えて謎の解明に奔走するダニエルの弟子たち。それと平行して、自作の詩と稀覯書を持ってロンドンにやってきたネイサンのストーリーが語られる。少し話が逸れるが、ネイサンのストーリーの始まりが読み進めていて一瞬わからなかった。装丁の関係だろうか……行が空くこともなく、章を変えることもなく時系列が変わってしまっていたからだ。エッ?と一瞬わからなくなってしまった。とは言え、物語の面白さを損なうほどのこともなく、慣れてしまえば苦になることは無かった。
18世紀イギリスの風景も、人物も生き生きとして、ミステリーの面白さもヒストリーの魅力もある本当に読むのが愉しい1冊。実在の人物や歴史的事実を活かした虚実とり混ぜての展開は、歴史ミステリーならではの醍醐味。
特に物語後半の展開は、これまでのこの作者にはないスピード感で、特にラストのどんでん返しはジェフリー・ディーバーもびっくりの仕掛け!これだけでも読む価値はあるかとも思えた。

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紙の本郭公の盤

2011/02/24 17:22

神狩りや幻詩狩りに続く、伝奇ノベルの快作、予想を大きく超える傑作。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「郭公の盤」とは何なのか?どんな力を持っているのか?どういう起源を持っているものなのか?世界を支配する力を持つといわれる「郭公の盤」。
一見関係のないいくつかのストーリーが並列で語られ、徐々にその実態が見えてくるという伝奇ノベルのお約束通りの展開で、その姿はゆっくりとわかってくる。
一つは、アムネジアとい音楽療法から生まれたグループの作品展を企画する美術館員が失われたソノシートを探す過程で怪しい動きに巻き込まれていく。しかも、その美術館員も美術館館長も「郭公の盤」に大きな関わりを持つ組織の一員であったという、伝奇ノベルならではの伏線が張られている。
もう一つは、稀少な楽譜や失われたレコードなどを探す音楽探偵と呼ばれる主人公が郭公の盤の謎に巻き込まれていく。しかも、この音楽探偵が、やはり、「郭公の盤」を守る古代から続く「守宮」という一族の長という伏線。
さらに、奈良時代、平安時代、終戦間際など時代の節目で、起死回生のため郭公の盤を使おうとするエピソードが差し込まれていく。
そしてこれらがどんどんと収束し、カタストロフィーへと向かうのである。伝奇ノベルの約束満載で、これでもかこれでもかと風呂敷を広げ、伏線を張って、しかも、順に解決をつけていく。あまりに破綻もなく、その面白さにはページを繰る手を止められないほど。感心してしまう。後半、「郭公の盤」を蘇らせた闇の力と「守宮」の戦いがあっという間にカタストロフィーへと向かい、やや早足で、物語を終わらせてしまったのはちょっと物足りない思いであったが、全体のページ数を考えれば、これも納得。
牧野修と田中啓文という、それぞれに高い評価を得ている2人の共作だけに、面白くないわけがないのだが、各章を交互に書いているということで、その違和感はどうか?と、気になったのだが、心配無用。若干、章ごとでトーンの違いはあるが、読んでいく上では気になるほどのこともなく、逆に一方が風呂敷を思いきり広げ、一方がその解決を付けて首尾一貫させる、という好結果になっている。
これを機会に、2人の共作で、続編や「守宮」一族を巡る物語など、「郭公の盤」の世界がもっと深化していってくれるとうれしいのだが……。

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紙の本オーディンの鴉

2011/01/25 14:41

いともたやすく個人情報が悪用される、現代社会の恐ろしさがホラー小説のようにじわじわと伝わってくる

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

自殺した政治家の詳細な行動の記録や、防犯カメラに移ったおぼしい写真や動画などがネット上に溢れることから、どうしてそのような情報をてにできたのか?2人の検事がその真相を調べ始めることが、この物語は始まる。
すぐに、個人のアドレスから資産まで個人のあらゆる情報を把握し、しかも偽造できる犯罪者をテーマにしたJ.ディーバーの「ソウル・コレクター」を思い浮かべてしまった。しかし、この作品は、どうもちょっと様子が違う。「ソウル・コレクター」では情報を操る見えない犯罪者をどう突き止め捕まえるか、というサスペンスに物語の主眼が置かれていたように感じたが、この作品の主眼は、ある意図をもてば個人の情報など簡単に手に入り、それをインターネットなど使えばいとも簡単に流布でき、さらにそれに簡単に踊らされ、付和雷同し瞬く間に増幅させてゆくことの恐ろしさにあるような気がした。ツイッターで有名人のお泊まりをばらしてしまった女性のプロフィールなどがあっという間に暴かれて、ネット上に公開され、自身のブログなども炎上したことつい最近のことである。安易に情報を漏らし、しかもその人間の情報が簡単に突き止められる公開される。巨大な組織がそのようなひとりひとりの情報や企業のデータを自在にできれば、どんなことでもできてしまう恐ろしさ。それがこの作品がひしひしと伝わってきた。

後半、主人公である検事は自身の冤罪を晴らすことができたが、組織の実態は明らかにされず事件は終焉を迎える。組織の規模も、構成メンバーの実態もまったく闇のまま幕を閉じる。中途半端とも構成の破綻とも、作者の力量不足ともとれるが、逆にそうすることによって、ストレートな社会派エンターテイメント情報小説の範疇を超えて、ホラー小説のようなじわっとした怖さが残った。作者の狙いもそんなところにあったのでは……。

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紙の本豪華客船エリス号の大冒険

2009/04/21 17:11

ワクワクとして、懐かしく、続編を読みたくなる1冊。

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久しぶりに、読み終わって「なんか良かったなぁ、続編読みたいな」と思ってしまった。時代は戦後も少しした、昭和28年頃でしょうか。登場するのは白のスーツに紫のシャツという美形の探偵‘荒城咲之助’と、学生服姿の義手の探偵‘真野原玄志郎’。ワトソン役が弁護士・殿島という3人組です。というと、京極夏彦の京極堂、榎木津探偵が活躍するシリーズを思い浮かべてしまいます。でも、真野原の義手には茶こしや、鳥もち発射機が取り付けられるなど、ちょっと荒唐無稽で、時代考証はかなり杜撰だと思います。トリックもけっこう大雑把で、「本格ミステリー」からすると無茶苦茶かもしれないし、京極堂シリーズほど重くはないです。でもでも、これが面白い。「雲上都市の大冒険」に続く第2弾で、今回は、‘夜叉姫’という大犯罪者も登場します。死体が氷漬けされたり爆発で身体が千切れたりと、けっこう残虐な描写も多いのですが、それほどおどろおどろしい感じは無く、言わば大人版の「少年探偵団と怪人二十面相」。昭和初期の探偵活劇のようで、読みやすく、けっこうワクワクとして楽しめる1冊でした。

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