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    体が硬い人のための柔軟講座 (NHKテキスト 趣味どきっ!)

    体が硬い人のための柔軟講座 (NHKテキスト 趣味どきっ!)

    中野 ジェームズ修一 (講師),日本放送協会 (編集),NHK出版 (編集)

    5つ星のうち 4.0 レビュー詳細を見る

キムチさんのレビュー一覧

投稿者:キムチ

20 件中 1 件~ 15 件を表示

終戦のローレライ 上

2003/03/17 12:38

ローレライの哀しみと流れ着いた椰子の実が象徴する戦争の重さと軽さ

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 圧倒的な物語の終焉に場違いなまでの『終章』。敢えて世に問う作者の世界観には戦後世代の『IF』が隠されているのだと思う。もしも、あの時点で敗けていなければ…日本のターニングポイントを温子の目を通して『敗けねばならなかった物語』を語り継がせる。終わり無き結末を見届けさせるべく用意したシナリオの薄っぺらさは、現実の持つ重みを支えきれずに腰砕けの部分がなきにしもあらずだけれど、高度経済成長が破綻した今になって見るとその薄っぺらさこそが現代であり、その対極にある太平洋戦争当時へ…読者は『序章』へと回帰する。終戦で終わらなかった物語。踏み込んでいく作者の視点は、そのまま戦争観を読者に押しつけはしないが、ある種強要する部分も…要らないよと言ったのに、テーブルに給仕されるデザートって感じか(^_^;)。ラストは寸止めがよろしいかと…。

 ガンダム世代。『シャアとララァではないか、これ』。かわぐちかいじの作品群。『死の泉』『ひかりごけ』やら。美味しいとこ取り。付き纏う既視感とある意味稚拙な設定も、それだけじゃ終わらないのが福井晴敏の作家的成熟度なんだな。組み合わせの妙。作者が昇華させたローレライの紡ぎ出す戦争と生のタペストリーの織りなす人間模様が胸を打つ。重厚長大な上下巻の重みそのままに軍部からはみ出した存在の伊507とはみ出し者が集まった乗組員たちの取るに足らないちっぽけな者たちが、戦争という時代の潮流の中でどう関わってどう責任を果たしたのか…帝都に原爆は落ちなかった歴史の重みがシンクロするのだ。1945年8月。片道だけの決死行。上巻の書き込みに裏打ちされた登場人物たちの人物造型の厚みが下巻に生きてくるのだな。椰子の実に託した日本再生への希望と、テニアン沖海戦に見た詩的なまでの滅びの美学がクロスオーバーする。豊穣な、見事に生き切って見せた男たちの生き様と死に様と。だからこそ『終章』とのアンバランスさが際立つのだが…。

 『Twelve Y.O.』から積み重ねた筆力の凄み。日本を代表する冒険小説作家として遙かなる地平に到達した著者に快哉を叫びたい。装幀装画ともにパーフェクト。折笠征人が、清永喜久雄が、パウラが、絹見艦長が、田口兵曹長までが、この海のこの空の下で…生きそして死んで行く。見守るのはただただ青い海と空だけ(読後に装画の素晴らしさとともに余韻に浸りませう)。国産海洋冒険小説の金字塔。敗け方を知らなかった日本が辿った道のり。ガンダムを知らない世代の読者ならストレートな感動があなたを包むであろう。折笠征人とともにテニアン沖の大海戦を追体験するもよし。ローレライの哀しみと流れ着いた椰子の実が象徴する戦争の重さと軽さをずっしりと体で受け止めて読んで欲しい作品である。

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五輪の薔薇 1

2003/04/11 10:19

世にも稀なる『大翻弄小説』

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 文庫版で4冊分。超弩級大作ゆえに読者に強いる労力も半端なモノじゃないってこと(~_~;)。これほどまでに難渋したのはキングの『IT』以来でしょうか。とは言っても辛く苦しい訳じゃなくて、読み手を鍛える厳しさを受け止める楽しさとでも言いましょうか。並の小説数冊分がゆうに飲み込まれてしまうほどの奥行きの深さに呆然としつつ、世にも稀なる『大翻弄小説』に身を任せる『もう、どうにでもしてっ!』という感覚を存分に味わい召されよ!

 メランフィー母子の辿る数奇なる運命。波乱万丈! 狂瀾怒涛! あなたは誰? ここは何処?状態が読者に情け容赦無く波状攻撃を仕掛けてくるのだ。幾層にも織り成された謎が立体ジグソーパズルとなって、何世代にも渡る英国貴族一族の血で血を洗う骨肉の争いに知的な要素を注入する。それに付けても複雑怪奇な血族構成。だからこそ面白い。 ハッファム荘園を巡る相続遺産の行方は、ラストまで誰にも分からない。複数の遺言書の存在。命を賭けて奪取した遺言書は、次の遺言書の存在であっさりひっくり返り、そして次なる謀略が密かに発動するのだ。絢爛たる19世紀英国貴族の世界に繰り広げられる暗闘。 暴かれる暗部。裏切りの街角ロンドン。いやはや興奮。下巻に入ってからの展開が、ほとんどジェットコースター状態。凄いぞ、これ。

 ボディスナッチャーにショアハンター。ロンドン・アンダーグラウンドの世界が、貴族社会から離れてディープに描かれる。こういう世界が小説で明らかにされるのは、なかなか得難い読書体験ではある。知らなかったもの、19世紀の英国階級社会の最下層の存在なんて。どんどん下へ下へと落ちて行くメランフィー母子の悲哀が、これでもかこれでもかと書き込まれた上巻の呪縛を解かれてから、物語は一気に佳境に入るのだ。だからこそ、読み始めた方は最後まで諦めないで欲しい。ここが辛抱のしどころなのだ。とにかく分かり辛い家系図。誰が誰の親で、誰の親戚だって? 詳しく表にして巻末に掲載されているのだけれど、ジェオフリー・ハッファムの遺産は、すべてこの家系の謎に包まれているのだから、読みながら確認するのを忘れないで欲しい。ああ、ジョンはこの人の子供なのかって、ね。そこまで確認しても実は…の世界がそこから延々と続くのだから。タイトルからしてオリンピックみたいなものだからして、読者として参加することに意義がある…と言っておこう(^_^;)。

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紙の本甦る男

2003/06/18 17:55

若造には分かるまい。人生の黄昏期に差し掛かってるオジさんオバさんにこそお勧めしたい。

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 若造には分かるまい。人生の黄昏期に差し掛かってるオジさんオバさんにこそお勧めしたい。人事異動の張り紙を人の背中越しに見る悲哀ってのを噛み締めてる中間管理職未満の窓際世代に共感の嵐を呼ぶ(^_^;)我らがヒーロー、ジョン・リーバスは相変わらずリーバスしてるし、シボーン・クラークがすっかり部長刑事らしく新人クンをしごきまくるのがよろしい。英国風オヤジギャルって雰囲気が妙にしっくり…なんせスコットランドのサッカーチームの立派なサポーターだもんね>シボーンってば。リーバスに薫陶され見事にミニ・リーバス化した刑事的手練の冴えは、今後、ランキンの頭の中のストーリーボードでさらに大きくなるのは確実。男女の関係ではなく確実に同士として機能してる二人の関係が実にデカしてるのよね〜(^_^;)。

 はみ出しオジさん刑事連中が施設に入れられて再教育されるなんてオモロ過ぎるじゃん。その裏に隠された混沌にリーバスを放り込むランキンの企み。その辺が仄見えてくる頃からヒートアップしてくるスコットランド犯罪ジグソーパズル。派手なアクションはないけれど、熾き火のようにじわじわと燃え上がり炙り出されるコアの部分が、英国風スルメ・ミステリって感じで(噛めば噛むほど味わい深い)、いつもながらランキン上手いよな〜と感心してしまう仕上がりのディープさ。英国では出版即ミステリ部門売り上げトップだってのが素直に頷けてしまう。ヤンキーどもには分かって貰わなくてもOKさってスタンスが心地よい。

 早川書房もこの作家大事にしてるなあと思うのは、変に色気出してハードカバーで売り出そうとしたことが一度もない点かな。ポケミスがこの作家の日本での原点。早川の原点もポケミス。昔っからのミステリファンの原点もまたポケミス。1953年スタートで今年が50周年だそうですが、P・D・ジェイムスやらポーラ・ゴズリング、スティーブ・グリーンリーフらポケミス作家の中核を成すランキンには地味に売れ続けて欲しいものであるなあ。あくまで地味に=作風を変えることなしに、遠くスコットランドの地からリーバス・ストーリーを発信し続けて欲しいと願わずにはいられない。

 ところで、クエンティン・ジャーディーンの『スキナー』シリーズはその後、一体どうなっておるのか。同じモジュラー型警察ミステリの傑作シリーズを遺棄したまま放置プレーしてる創元推理文庫の編集者諸君。サボってないでなんとか4作目以降を出してくれたまえ。心ある読者は待っておるのだよ。

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死都日本

2003/03/26 02:29

近く東海大地震も来るぞ…なんて妄想も止めどなく

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 『日本沈没』以来の超弩級スケールのクライシスノベルと言っていいでしょう。火山マニアの医師でもある作者のオタクっぽさが良い意味で炸裂してる科学的根拠の説得力。荒唐無稽に近いけれど、『絶対に来る東海大地震』的な潜在意識は誰でも持ってるわけで、どこか絶対大丈夫と信じ切れない火山大国日本列島の現状を認知している国民感情を不気味な大地の脈動を感じる日本人だからこそ描けた破局的いや破局噴火の列島破壊シュミレーションなのだ。火山噴火予知連あたりから国家的規模の裏作業として現実に起こりうる仮定としての富士山大噴火あたりのシュミレーションも実はすでに出来ていて、蠢く地底活動の予兆が静岡近辺でそこかしこに…なんて妄想を止めどなく想起してしまう超問題作。

 サイトで検索した講談社のメフィスト賞選考経過を読んでみると、なにやら火山オタクっぽいところを敬遠して「これじゃ売れない」とかご託を並べる部分に呆れましたが、無事出版されて何よりである(^_^;)。ポロッと出てくる作品の質に侮れない『メフィスト賞』。過去受賞作品もチェック致しましたが、そこはそれ…玉石混淆であるなあ、と。処女作品でここまで完成度高いと…おっと、完成度高いと誉めるのは火山噴火&パニック小説部分に限定しておきましょうか。留保付き★4つ。

 『神の手作戦』の経済ラハールからの起死回生策が、そんなに上手く行くんかいと経済オンチの小生にはチト引っ掛かるのだけれど、そこはそれご愛敬ということで(^_^;)。地球規模のスパンで人間圏を俯瞰出来る作家的スケールは素晴らしい。SFマインドを前面に押し出さずにクライシスノベルに徹したのも成功してるかな。ハラハラドキドキ黒木&岩切の決死行とキャラの立ち方が日本映画的で黒木夫人には沢口靖子あたりがピッタリに思えちゃったりして。リーダビリティも二重丸。九州地方。特に霧島火山帯にお住まいの方には、あまりのリアルさにゾッとする喪失感を身近で感じられるかもしれませんねえ。ぜひとも東宝での映画化希望します(^_^;)。

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蛇神降臨記

2003/03/21 11:53

超古代史とオーパーツの謎はトンデモ系だった、かな

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 マヤ文明が残した古代暦は予言する…2012年12月21日、世界は滅亡する。それを阻止できる男はただひとり…お〜来てる来てる(^_^;)。こういうオーパーツものってのは結構ゾクゾク出来ちゃう体質なもんで、ピラミッド、ストーンヘンジ、ナスカの地上絵、チチェン・イツァやら写真入り世界遺跡の数々がリンクして物語の中核をなす構成に、何を隠そうワクワクして読んだ私であります。ハンコックの『神々の指紋』なんてのもその昔にちゃ〜んと上下巻購入済み(^_^;)。導入部の掴みはOKなんですが、終盤戦に『何や、これ』で目が点状態になっちゃう読者もいるでしょうなあ。SF系免疫の出来上がってる読者なら「お〜、どっからでもかかってらしゃい」的マインドで許しちゃうようなトンデモ展開ゆえ、読者を選ぶとここでは敢えて言っておきましょうか。

 中盤過ぎまでは勢いで突っ走りますので、この分厚さも何のその。スケールの大きさに、今後どう収束して行くのだろうと逆に心配になっちゃう大風呂敷なのよね。なんせ作者はあの『MEG』を書いたスティーヴ・オルテンゆえこういう大法螺話は大得意であろうことは容易に想像できますな。考古学者だった父親の遺した備忘録の効果的な挿入で立体的に超古代史の謎が浮き上がってきますが、そこにオルテンの暴走的とも言える新(珍)解釈が本作品のすべてなのよね〜(^_^;)。

 精神病院幽閉歴12年の主人公マイケルってインディ・ジョーンズみたいな冒険家でもありそこそこ見せ場もあるのですが、何たって凄いのは彼の受け継いでいた血の濃さでありますな(^_^;)。最後の落とし方も腰砕けで何だかなあってのもあって★★★だけど、レイダースっぽく古代遺跡を辿ってゆく事実と奇想がクロスオーバーする面白さは無視するのは勿体ない(え〜い、あと★一つおまけだぁ)。映像的には絶好の題材ゆえ映画化されたら『インデペンデンス・デイ』級の面白さになるはず。先行投資と思ってSF映画ファンは読んでおくと後々ためになったりするかも。映画化されなかったらごめんなさいだけど…(^_^;)。

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サイレント・ジョー

2003/03/15 12:34

MWA賞受賞も伊達じゃない…けど

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 MWA賞の最優秀長編賞を受賞し、今年度の各ミステリ・ランクでも確実に上位に入る力作ではあります。過去に硫酸ベビーであった無口な(サイレント)ジョー。主人公を襲った悲惨な事件は20年近くを経ても風化せずグズグズと燻る熾き火のように、軽く火花が散っただけで突然燃え上がる。事件の本流の裏側を細々と流れる支流を辿る気の遠くなるような作業。硫酸で荒れ果てたジョーの肌の裏側に流れる熱き血潮。ジョーのクールさは後天的に体得した仮面でもある。愛情に飢える心を押し隠し、溢れ出したときの爆発は、なんと一晩に30回も大噴火してしまう超絶ラブマシーンへと大変身。 この辺のギャップが凄いっす。それでも淡々と物語は進行するのであるが、あまりの絶倫ぶりに中年読者Kは一歩引いて読んでしまうのであった(^_^;)。

 最初はイカすラブ・シーンだなんて思っていたのですが…いやはや、アメリカ人ってのはパワー・オブ・ラブを地で行くのだな。新しくはジョンベネちゃん事件なんてのもありましたが、彼の国では幼児虐待にかけてもヘビー級の虐待者が列を作って裁判待ってるようなところがあるからねえ。桁が違う国の物差しはセンチじゃなくてインチなんだよね。ただ、本作品では性的幼児虐待ではなかったことが実はミソなんだな。

 親と子。パーカーの永遠に近いテーマらしいが、秘められた過去が暴かれるに従って明らかになる過程がジョーのキャラと相まって静謐なる感動を呼ぶ。主要登場人物すべてが家族=親と子が複雑に絡み合って織りなす人間模様もまた本書の読みどころになるでありましょう。アメリカの崩壊して行く家族ってテーマなら、ロス・マクドナルドにお任せであるが、パーカーが絞ったテーマは単純にして奥が深い。探偵としてその場に居合わせるがその実傍観していたリュー・アーチャーとは違って、探偵役のジョーはその熱き渦中に自ら飛び込んで行く。ロスマク時代よりさらに崩壊しきった現代のアメリカ。こういう時代に逆行するキャラを立てたことでドライになりきった現代をクローズアップしているようでもあり、クリントン後のブッシュを代表する父権の復活=家族の再構築という作業に新しき良きアメリカを模索する国民意識を反映してるのかもしれない。

 成長小説としての側面も見逃せない。父親の言うことだけを忠実に守ってきた番犬でもあったジョーが自分で考え自分で行動し自分で結論を出す。子供が成長するってことは親からの独立ってことにもなるのだけれど、読者は読み進むにつれて、ウィル・トロナの本当の姿を求めて、世間の荒波に爛れた顔を真正面に向けて立ち向かうジョーの勇気に拍手を送りたくなるでしょう。ついでに言っとくと、下半身の学習能力もまた素晴らしいぞ>ジョー(^_^;)。恋人のレポーター役が良い子過ぎて鼻白むところもなきにしもあらずだけれど、ここは素直に二人の前途を祝福してあげましょうか。暴き出された驚愕の真相から導かれ、しみじみと心に染みいるラストでありました。

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紙の本魔術師

2004/10/22 22:19

幾筋ものミスディレクションが、読み手の五感を刺激し続けて止まないミステリの迷宮へ誘うメインテイストなのである

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 ミステリ自体が、ミスディレクションで読者を欺くことを語り部たる作者の愉悦であることは論を待たないけれど、究極のエンタテイナー作家=ディーヴァーのサービス精神たるや唖然呆然…幾筋ものミスディレクションが、読み手の五感を刺激し続けて止まないミステリの迷宮へ誘うメインテイストなのである。主役であるはずのリンカーン・ライムですら脇役でしかない。どんでん返しなんて生やさしいモノではなく、彼もしくは彼女が追う側で追われる側でその実、全く別の人物だったり裏の裏の裏を読むに読めない驚天動地の展開に、読者はジェットコースターに乗った観客でしかない状態に長いこと晒されるのである(これが快感なのよね)。

 いやはや。ここまで頭脳の限りを尽くした作家魂に脱帽である。回を重ねるごとにブラッシュアップした作品に仕立て上げなくてはならない売れ線作家の限界を突き破った力業に、一種、肉食獣の獣の臭いすら嗅いでしまう雑食性日本人の諦めに似た境地とでも言いましょうか(^_^;)。これでもかこれでもかの先にあるサムシングがアメリカンなストロングテイストっちゅ〜やっちゃね。ワールドシリーズで言う3連敗の後の強烈な粘り腰で一気に4連勝でヤンキースを打ち破ったレッドソックスって感じ。ま、こっちの舞台はニューヨークなんですけど、ね(いや〜、ボストン凄かったね〜)。

 むろん細部の味付けだって忘れちゃいない。脇役から主役へ。カーラの存在がサックスを超えた!? vs魔術師にはカウンター戦術でってなわけで、魔術師見習いのカーラが登場するのですが、彼女の成長物語もなかなか読ませるサイドストーリーになっていて、昇格試験でトンデモ状態に陥るサックスと並んでライムの手となり足となり頭となる。怪人二十面相vs小林少年ってとこでしょうか(^_^;)。犯罪的微細証拠鑑定団たるライム一座が初期の面白さに回帰した本作のナイスなところは、サイコな魔術師の造形の巧みさに尽きる。微細証拠の積み上げから徐々に見え出すイリュージョニストの本当の容貌とは…二十面相だってそのぐらいはやってたぞと思いきや…次から次へと暴き暴かれついに顔を出したタマネギの芯(^_^;)。料理の仕方はライム流にカーラのスパイスが少々。給仕はアメリアにお任せってね。

 世界の著名なイリュージョニストの一人にプリンセス・テンコーの名前が挙がってましたねえ。いまやディーヴァーに認知され金正日に北朝鮮にまで呼ばれる大御所なのですねえ(^_^;)。閑話休題。いじくりすぎてストーリーがやや破綻してしまう傾向があった最近の作品から一皮剥けたかというと、相変わらずいじくり回してひっくり返すプロ意識が、今回は仇とならず奏効したしたのは、一にも二にもイリュージョンの世界を選択した舞台設定なのでありますな。終盤戦、次回作のさわりをちゃっかり載せておりますので、ファンのお楽しみはこれからも続くのであります。

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シャッター・アイランド

2003/12/30 17:31

あんまりジャンル分けは気にしないで、すれっからしのミステリマニアも一緒に推理する楽しみを思い出して欲しい。

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 閉ざされた島って意味? 雷鳴の中、一瞬のシャッター・チャンスで撮った一枚の写真。浮かび上がる不気味な精神病患者収容病棟。そこから脱出する幽閉された患者が主人公?って読む前から勝手にストーリー予想してましたが、良い意味で裏切られました(^_^;)。袋綴じ到達前にさんざん伏線ばらまいてくれたおかげで、一気に物語をひっくり返す算段をルヘインが企てていることは誰にでも分かる仕組みになってますが、ワシの推理ってば…保安官一人がノーマルで彼以外の登場人物がすべて入院患者と入れ替わって彼を迎え入れたシャッター・アイランドはサイコ野郎の巣窟だった…てなこと考えて、一気に袋綴じ破ったのよね〜(^_^;)。早川書房がここまで遊び心を出してくれたことは素直に評価致しましょう。そうそう『孤島、密室、暗号』出てきますねえ。言ってみれば本格物なんでしょうが、ま、あんまりジャンル分けは気にしないで、すれっからしのミステリマニアも一緒に推理する楽しみを思い出して欲しい。

 破ってみて分かる驚天動地の真相…ってホントに驚天動地ですかぁ。サイコ系ミステリにありがちなパターンであれれのれ。そこからもう一回ひっくり返してくれるのかと期待して読み続けていたら、池上冬樹の解説にぶち当たっちまったぜぃ(^_^;)。気が付きゃミスリードのオンパレードに「てやんでぇ、べらぼうめぇ」って後になってブーイングの嵐小説なわけだ。ま、それを面白がれるかどうか。読者の度量が試されるルヘインの悪戯もしくは茶目っ気な部分もあるんだろうなあ。描いてみたかったんでしょ>こういう小説。『ミスティック・リバー』を期待して読むと火傷しちゃうかもしれませんぜ、お嬢さん(^_^;)。

 男女の屈折した愛の物語を書き綴ってきたルヘインだけに、きっちりこんなパズラー小説にも最後に浮かび上がらせてくれましたが、読者はそこまで求めてはいないと思うよ(^_^;)。ここまで騙ったお話の中で『やるせない哀しみとそこはかとない孤独感』なんてやっぱし刺身のつまだと思うのよね〜。騙りで引っ張るより袋綴じの中だけの物語をしっかり語った方が、一層心に深く食い込む感動作品に仕上がるとは思うのだけど…。新機軸を狙ったルヘインの実験は成功したかどうか。それは読み終わった方だけが知っている。

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紙の本死のように静かな冬

2003/12/30 17:28

黒い肌の警官と雪化粧した死のように静かな冬の世界。誰が『クロ』で誰が『シロ』か。

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 最近の版権の高騰で、早川書房みたいに新人作家やら売れ筋から少々脱線している中堅どころの作家の作品を、丹念にピックアップしていることは決して悪いことではないけれど、売れ線作家のシリーズが頻繁に出版社替えて出されるのには『もういい加減にして』と思っているファンも多いことでしょう。翻訳者が変わっちゃうと作品の味わい自体が微妙に変化しちゃうのが一番に大きな問題。あまりに酷かった翻訳を改訳して別の出版社で出してくれるのなら何ら問題はないのだけれど、翻訳家同士、文体を微妙に変えてみたり『バ』を『ヴァ』と表記し直したり…些細な変化で結構読み辛くなるものなのですよ。読書もリズムですから。

 んで、拾い上げられた方のクチであろう本作品。シリーズ初邦訳作品である。流浪の警官ルイス・キンケイドが主人公。黒人と白人の混血という生い立ちからして波乱含み。しかも白人ばかりの警官社会にポツンと一人のカラード。存在自体が宙ぶらりんで不安定さの象徴としてこの作品に見事に陰影を刻み込んでくれた。黒い肌の警官と雪化粧した死のように静かな冬の世界。誰が『クロ』で誰が『シロ』か。警官殺しの真相を追って深層に肉薄するキンケイド。暴き出された真相は、まあ、ありがち(^_^;)ではありますが、設定の緊張感とは裏腹に、主人公キンケイドの優柔不断さや未熟さが些か興趣を削ぐ部分がなきにしもあらず。作者はシリーズとしてキンケイドの成長譜を描きたいというロングスパンでこの作品を構成しているのであれば、揺れ動く不安定さは致し方ないところか。ハードボイルドしてない部分に物足りなさを大いに感じる600頁を超える分厚さも、この作者のハードなハーレクインっぽい雰囲気で読ませる魅力が引っ張る。こなれた文章力が二人の女性ライターの合筆だってのに驚く。読んでて感じるある種の緩さも作者が女性だと聞いて納得しちゃった部分でもありますが…(^_^;)。

 ハッキリ言ってタイトルにやられました(^_^;)。琴線に触れるええ邦題やねん。タイトルと違って湖畔のリゾート地はさほど死のように静かではないけれど、市民たちは『警官殺し』には無関心。『市民殺し』じゃなければどうでもいい上流階級の別荘族と労働階級の市民同士の血の通い合わないミシガン州ルーンレイクの静かさが、ミシシッピの熱い血が半分は流れているであろうキンケイドとの対比が掘り起こす真相。チェスマニアで引用好きの署長が支配するルーンレイク警察。警官たち。伴う不安感=正義の者が果たして本当の正義を行使する者たりえているのかという足元がぐらつくような根元的な不安。犯人側の不安と絡み合って縺れ込む哀しき結末に訪れる死のように静かな冬。次の職場へ旅立つキンケイドの続きは果たしてハヤカワ文庫で読むことが出来るかは、この本の売れ行きに懸かってる。

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コウノトリの道

2003/12/30 17:26

撓めに撓めた後半戦弾け飛ぶ序破急の妙…読まなきゃ損するぜ!

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 『クリムゾン・リバー』で日本のミステリ・シーンにも衝撃を与えた著者のデビュー作品がついに日の目を見ました。こういう作品を探し出してくる東京創元社の編集者の目利きには素直に評価致しましょう。ま、ホントのところ、『クリムゾン…』が映画化されたから「それっ」って出版権に飛びついたってところかも知れないけれど、途中はどうあれ、ちゃんと読者に提供されたのだから文句を言う筋合いもなく、ワシらは美味しい部分をただ黙々と味わうだけ(^O^)。ストーリーテリングの鬼才・グランジェの突出した才能の一端が、本作品でも十二分に味わえるゆえ、フランス・ミステリは生理的にダメって方(昔はワシもそうでした(^_^;)でも本書を手に取って欲しい。

 なんじゃ、これ。コウノトリ? 自然保護小説? な〜んて感じで読み始めましたが、やっぱし凄いぞ、これ。一筋縄ではいかぬグランジェ節(^_^;)。すっとぼけた主人公の影の薄さが実はある伏線となり、撓めに撓めた後半戦弾け飛ぶ序破急の妙。悪夢のような地獄絵図が…うっひゃ〜(^_^;)。フランス人の描く小説やら映画って鋭利な刃物が肉に食い込んでくる感じで妙に生々しくてハマった時の快感って凄いもんね。好き嫌いは別にして。いやはや、コウノトリからここまでやるかの真相&深層。巧緻なまでの伏線の張り方から導き出されるびっくり箱はこの人の特徴とも言ってもいいか。次回作の『狼の帝国』もこのゾクゾク感は引き続き背中を這いずり回ってくれるらしいので、乞うご期待。

 『クリムゾン・リバー2』の映画化が進行中なのだそうであるが、こっちは原作は無くてリュック・ベッソンのオリジナル・シナリオらしいので、グランジェがそのうちノベライズしてくれるかもしれませんなあ。ジャン・レノのニエマンス警視はこれ以上ないといくらいのハマリ役だったので、公開されれば必ずや見ることになるでしょう。閑話休題。

 登場人物の誰もが皆ハードに生きてる様が、一歩前に出てくるキャラクター作り込み。グロック愛好家のサラなんてその典型。感心するほど血が濃い連中による呆れるほど血腥い愛憎劇を内包する物語を、処女作ゆえの生硬さで一直線に突き進むグランジェの力業には目も眩むほどである。同じフランス系。マンシェット系暗黒小説の血が少しばかり輸血されて出来上がってるような気がしなくもない。主人公のルイ・アンティオッシュにニエマンス警視ばりの破天荒なアクの強さがあったなら、と言うのは欲張りな感想でしょうか。

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龍時 01−02

2003/10/29 16:29

脛を削り合う音が聞こえてきそうなほどのリアルさがたまらんぞ

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 昨年のW杯で熱病に浮かされたにわかサッカー・ファン必読かも(^_^;)。裏側はこういう積み重ねで表舞台へ出てくるのだよ、と教えてくれます。いつの間にかテニスから鞍替えして今やでっかい顔してサッカー通気取ってる某大作家さんよりは、意外や意外、『破線のマリス』等ミステリ畑の野沢尚の方がサッカー好き好き人間の琴線に触れる作品をしっかり提供してくれました(某大作家さんもドーピングネタで描いてるようですが…暇があったら読んでみましょうか(^_^;)。中田や川口やらちょっと名が売れたサッカー小僧との交流を売り物にしてしゃしゃり出てくるのもいい加減にしたらとご忠告モードで…さて本書。帯で稲本のコメント引っ張ってますが、内容はサッカーミーハーとは一線を画すハードな本格サッカー小説! ハードボイルドしてるよな>志野リュウジ。

 ストーリー自体は、漫画にも出てきそうな在り来たりな展開丸出しなのですが、サッカー小僧の息遣いがグラウンドレベルで感じ取れる臨場感。脛を削り合う音が聞こえてきそうなほどのリアルさがたまらんぞ。リュウジの疎外感が個人主義の巣窟ヨーロッパでさらに磨きが掛かり研ぎ澄まされた孤独感へと、サッカーベースで話は進んでいきますが、スペインでの人間模様とともに少年の成長譜としてもかなり読ませます。

 ただ、『ナンバー・プラス』連載当時の作品と、間に合わせに書き足した最後の数章との出来不出来の差が軽みとなって画竜点睛を欠くきらいはあるけれど瑕疵にまでは至らず、リュウジが高校生ゆえに主戦場はユース…それでも結構手に汗握っちゃう試合の描写。本人はまだまだ浅いサッカー観戦歴と謙遜しておりますが、サッカーのコアな部分をしっかり掴んで読者にフィードバックする良質なサッカーライター(創作部門)であると個人的に認定致します。読後『ああ、生試合見たいっ!』って来る欧州シーズン開幕に思いを馳せること請け合い。本作品の続編=その後のリュウジを読みたかったのであるが、出ましたね『02-03』。『03-04』構想も既に練っているらしく期待してしまうのではないか。

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反米同盟 上巻

2003/07/31 16:39

饒舌な主人公のどこが悪いっ!

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 親の七光りなんて必要ない。この作家、誰より熟れて弾けて誠実そのものの作品をストレートに我々読者に届けるデリバリー意識の固まり。期待を裏切らない第二作目。二作目がハズレでないってことは、そりゃあもう、売れ筋作家へ一直線だとワシは個人的には思ってますが、巷の評判はというと、これがまた、見事に沈静化しておるのだわ(^_^;)。今回は近未来設定ながら、韓国と北のお国の裏側を見事に掬い上げて料理し直す手腕と国際情勢観察眼はさすがと言っておきましょう。ま、読んでる途中でネタは割れちゃうんですがね(^_^;)。

 饒舌な主人公のどこが悪いっ! ショーン・ドラモンド。陸軍法務部法務官少佐。休暇中、不平タラタラでいきなり異国の地=韓国の糞溜めに放り込まれた絶体絶命破れかぶれの結界。呼び出したのは終生のライバルかぐや姫ことキャサリン・カールソン。一触即発の雰囲気横溢ながら、その実、密かに惹かれるものを感じるドラモンド(本人が分かってないから始末が悪いんだけど(^_^;)。キャラ立ちまくりの冒頭人物紹介編。しっかも、その中でゲイかゲイでないか。味方同士で対立してどうするのって突っ込みたくなるようなてんやわんや(^_^;)。いやはやドラモンドの未来や如何に! 後半戦の展開ってよ〜く考えると分かってくるはずなのに、気が付かずにダラダラ読んでて急に腑に落ちたッス(^_^;)。ホモ愛の煙幕に隠された裏側の真実をしっかり見極めよう。相変わらずこの人上手いです。そこから仄見える真相にドラモンドが肉薄する過程が冒険小説してるから、そっち方面読者にはお勧めしておきましょう。ただし、口数だけは相変わらず減らないけど…(^_^;)。このキャラにウンザリして本書を投げ出したら、大いなる損失だと声を大にして叫びたい!最後まで読むべし!

 読めば読むほど、ドラモンドってば釈迦の手のひらで踊る孫悟空だわね(^_^;)。最後の最後で凄腕キャサリンのどんでん返し。おおっ、これは!ってな熱烈ディープキッスですらキャサリンの本心かどうかは分からず仕舞い。彼女の真の動機が明らかにされると腑に落ちるのだが、それでも結局彼女がゲイだったかどうかは読んでのお楽しみってことで、二人の関係の進展は次回作に持ち越しってことか。きっと、このキャラ、ヘイグのお気に入りキャラとなったゆえ、再度登場するのは確実と見ているのだが…さて。

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紙の本病棟封鎖72時間

2003/04/28 01:47

ノンストップGOGO!拾いもの医学サスペンス

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 医学ミステリ界では、ロビン・クックという一大巨塔が聳え立ってるために、「ああ、マイケル・パーマーね」って誰でも名前は知ってるけれど本のタイトルとなると「さて?」となっちゃう訳だ(^_^;)。最近の洋ものTVドラマ事情が『ER』やら『シカゴ・ホープ』なんて医療最前線ドラマに人気が集まり始めて、当然の如く読書界にもそりゃ波及しますわな。特にネタにしやすいミステリには題材からして事欠かないものねえ。

 もともとパーマー作品を手に取ることさえ初めてであったからして、比較検討なんて出来るはずもないのだが、ここまでやるかのノンストップ・サスペンス。ヴィレッジブックスなんて地味めな出版社じゃなきゃタイトルももっと格好良くして楽々ヒットしてたはず。医学的知識に裏付けられた手術室の迫真の臨場感。冷酷非情な脳腫瘍持ち殺人犯は誰だというフーダニット的要因もプラスされて、怒濤のスピードで『ER+ダイ・ハード』は最終決着地点へと突進して行きます。医学ミステリってジャンルを飛び越えたエンタメ小説! これを読み逃す手はないと思うぞ。

 幾つか瑕疵を論えば、占拠された病院を何度もスイスイ出入りするアレックス・ビショップ君ですかね。最初はダクトを這って潜入とか言っておきながら二度目以降は??? ちょいとご都合主義って感じもなきにしもあらず、かな。簡単に手術メンバーにも潜り込めちゃうし、水も漏らさぬテロリスト連中相手にしては緩すぎないか。

 文字通り主人公は、ラストでも女医のジェシーだった訳ですが、映画と違ってダイ・ハードな奴って2人いたってのがミソだな(^_^;)。女ならではの視点が最後の賭けに勝ったってとこも時流に乗るフェミニンな部分を逆手に取ってちょっとアイロニカル。近未来医療マシンのプロトタイプみたいなアーティの存在も医学界に精通したパーマーならではの小道具ではありますねえ。例によってハリウッドで映画化するとして勝手にキャスト。ジェシーはデミ・ムーアで、マローチェはマイケル・ケインって配役は如何?

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紙の本二進法の犬

2003/04/10 12:08

思索する主人公とともに読者も萬月も思索する

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 こいつらみんな内臓をさらけ出して土足で踏みにじってくれって叫んでいるんじゃないのか。そんな身悶えするほどに切ない萬月節をイヤと言うほど味わい尽くしました。禁忌を超越した文字通りスーパーナチュラルな登場人物たち。世紀末の混沌を真正面から斬り裂く硬く反り返った刃。首の皮一枚で正気の世界に止まった、まさに入魂の1600枚。芥川賞取っても萬月は萬月であると、以前からの読者はホッと安堵のため息を吐いたのではないか。

 怯懦に怯えつつ怯懦の快楽に溺れる男、鷲津兵輔。こいつの心の奥底に抱える暗黒こそがアウトローの証なのだ。二進法で律された犬たちの心根は竹のように真っ直ぐである。例え血腥くとも世間が糾弾しようとも、我が道を行くだけ。鷲津はだけは違った。だから倫子が惹かれた。乾が受け入れた。利用するだけの心づもりが二進法の世界にカオスを取り込んだのである。静かな水面に浮かんだ波紋がこれまで心の奥底に潜んでいた倫子の愛憎の門を押し開く。坂道を転げ落ちるように物語は白熱する。行く手には白刃と熱き鉛の玉。心が震える愛の形。暗黒が愛すらも飲み込んでしまうのか。逃げ道を残しながら、徐々に退路を断って行く鷲津の思考回路はゆるやかにショートしてゆく。愛が怯懦を押さえ付け暗黒を飲み込んだのか。目の前に開けた新たなる倫理感は、鷲津をどこへ連れて行くのか。倫子の『倫』は鷲津の暗黒を押し開くためのキーワードだったのか。萬月が用意した読者への招待状。

 思索する主人公とともに読者も萬月も思索する。白か黒か。1と0。コンピュータの原理が好きなヤクザを持ってきた萬月も尋常じゃないけれど、それに納得して読んじゃう読者も尋常じゃない世界に足を踏み入れているのだ。柔らかくしかも無理矢理に物語が読者の脳内に侵入する。このヌルリとした感覚がまさに萬月の真骨頂なのではないか。萬月を律する『恥と意地』の感覚は我々の世代では『是』です。だからこそ、新たなる『倫理』をも受け入れる余地が1600枚の彼方に広がるのであります。若い世代の読者に感想を聞いてみたい気がします。

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血に問えば

2004/11/15 02:52

おいおい。ランキンがハードカバーかよ

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 おいおい。ランキンがハードカバーかよ>早川書房。そりゃあ値段的には分厚いポケミスよりたった200円程度お高めってとこだけど、お馴染みさんを見捨てて新装開店したどっかのバーみたいだぜ。いやはやカバーのイラストがまたそぐわないったらありゃしない(^_^;)。オヤジ系読者層と完全に乖離した新路線を敷こうとした編集者を偏執者とでも呼んでやろうか。返せ戻せ俺らのポケミスってね。帯の惹句も奇を衒いすぎ。ファンなら誰でも知ってるランキン節を、渋い抽象画の表紙でちょっと分厚めのポケミスで茶店で濃いめの珈琲(リーバスならパブでラフロイグってか)啜りながら、少々年取ってがたが来つつあるオフビートなリーバスの破天荒さを存分に味わう楽しみを奪うのは、欲に眩んだ出版社の罪である。

 二人が微妙に接近!? 本作でも即かず離れずのシボーンとリーバスの関係が夫婦漫才でも見ているようでシリーズ読者なら微苦笑が溢れ出る最新作に仕上がっているけれど、一見さんならどう思う? 助走期間が短い分、リーバスを巡る人間模様を背景に馴染ませる努力をしなければいけない分、取っ付きの悪い主人公に感情移入出来ないまま地味なスコットランドの灰色の風景に染まった読書に冬を感じてしまう陰鬱さなのでしょうか。固定読者層にしか訴えないであろうランキン作品をお初の読者になんとか手に取って貰おうという算段も奏効するかどうか。本屋の書棚で埋没するポケミスか。もしかして一瞬でも平積みされて一見さんが手に取って見る可能性が残る単行本か。早川書房、究極の選択ってか(^_^;)。

 果たしてリーバスの両手の火傷ってのは本人の供述通りだったのか。ふむふむ。リストラ寸前…毎度お馴染み警察内部の暗闘ともいうべき、すべてに楯突くリーバスの面目躍如な部分が読ませどころであり、お約束のロック談義やらを織り交ぜて事件未満だったはずの事件を深層=真相まで掘り当てて白日の下に晒し出す大仕事だったわけですが…影の薄いリーバスが少々気懸かりでもあるなあ。ま、五十代後半の円熟味っていうか、その実円熟しきってないから衝突を繰り返してる大たわけ者リーバスの社会性に富んだエジンバラ犯罪模様を重層的に描き切った問題作=地味だけど滋味に溢れた作品と申し上げておきましょう。

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