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岸本真澄さんのレビュー一覧

投稿者:岸本真澄

1 件中 1 件~ 1 件を表示

生きる

2002/09/04 20:32

支えになるもの

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 順調だった人生が崩れ、不幸の波が押し寄せる。けれども最後に救いがあり、味わい深い。久しぶりに読後の余韻に浸った。

 第127回直木賞に選ばれた乙川優三郎(おとかわ・ゆうざぶろう)氏の「生きる」(文芸春秋刊)。3つの時代小説が収められているが、その表題作を紹介したい。

 藩主の恩に報いるために「追腹(おいばら)」(=殉死)をせねばと覚悟していた男が、家老と密約を結んだために思いとどまる。事情を知らない人々にさげすまれ、その影響は家族にも及び、息子や娘の夫が自殺してしまう。体が弱かった妻も苦労の果てに亡くなる。娘は夫を失ったショックで気が触れてしまい、行方不明になる。

 男は愚直なまでに密約を守るが、一方で次々に見舞われる不幸や周囲からの誹謗(ひぼう)中傷におののく。強く生きてゆく自信や気概が失せ、ついには病に伏せる。

 〈どうせ恥辱に塗れたまま死ぬのだから、恨みつらみを吐き出してやろう〉。男は密約を迫った家老に宛てて手紙を書き始める。が、そうするうちに見えてきたのは自分の弱さだった。〈何もせず、ただ恐れ立ち尽くし、嵐が去るのを待っていただけではないか〉。男は尊厳を取り戻し、胸を張って生きるようになる。しかしその後も、男に対する中傷はやまなかった…。

 物語は感動的な結末を迎える。その始まりと終わりを菖蒲(あやめ)が暗示する。

 菖蒲は男の家で、幸運をもたらす花とされていた。その生育が例年になく遅れていることに、男は不吉な予感を持つ。果たして悲劇が始まる。結末近くでは、雨上がりの庭で、男が菖蒲を眺める。

 メリハリに満ちているわけではない。1人の男の生きざまが淡々と描かれている。決して格好良くはない。それがかえって、さもありなんと思わせる。

 現代に追腹はないけれど、理不尽と思えることに耐えなければならない局面はある。そんなとき、人は何を支えに生きてゆけばよいのか。示唆に富む秀作である。

※レビュー筆者のメールマガジンがあります。関心を持った方はバックナンバーをご覧ください↓
http://www.melma.com/mag/74/m00044374

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