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沖 海明さんのレビュー一覧

投稿者:沖 海明

21 件中 1 件~ 15 件を表示

批判こそ知恵

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は著者の上杉氏が戦争論というマンガを絵をふくめて引用、批判したのにたいして
小林氏から著作権侵害で訴えられた裁判の記録である。

判決は上杉氏の勝訴となり、これにより活字だけでなく、絵もふくめて引用が認められた。

日本は世界最大のマンガ大国でサブカルチャーというよりメインカルチャーと言っても過言ではないだろう。 若者だけでなく中高年層にも愛読者は多い。 当然、その影響力も大きく中には「マンガだから」と無視できぬモノも多い。

しかし、そのマンガを批判しようとするとやっかいな問題が起こる、活字と絵を組み合わせて意味をもつマンガの性質上、両方を引用しなければ意味がない。 ところが絵の引用となると著作権を侵害すると言うのである。 著作権をもつマンガ家や出版社は、これを笠にきて批判をする者には自由な言論を封じてきた。 かくして巷にあふれるのはマンガ賛美の提灯記事ばかり、となる。

本書を読んで強く感じるのは、著作権のことより この問題を裁判にした小林氏の強引なやり方である。 批判には言論で対抗すればよいものを、拡大解釈した著作権をゴリ押しするなど不道徳である。

しかし、考えてみれば肝心のマンガの内容は古臭い右翼のデタラメ論の蒸し返しに過ぎない、事実に立脚したまともな議論もできず、突きつけられた真実に目をつむり、ひたすら空虚な精神論をわめきたてるのが小林氏の変わらぬスタイルである、裁判はそんな彼の最後のよりどころなのだろう。

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グレートジャーニーの生き証人

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本を翻訳した星川氏と同じく読後の感想はなんとも言えない不思議な感覚にとらわれる。本書はアメリカ先住民、ネイティブ・アメリカンのイロコイ族に世代をこえて語り継がれてきた口承史である。今の我々は文字文化のなかにいるがそれまでは言語文化だった
言葉で考え、意思を伝え、それを記憶し、人から人へ世代をこえて受け継いできた。著者のポーラ・アンダーウッド氏は一族の歴史をなんと数万年前に遡り語りはじめる、そこにはアフリカと思われる場所から旅立ち、中東からアジアをえて、当時陸橋だったベーリング海峡を渡り、北アメリカにたどりつく、人類史の壮大なグレートジャーニーがみてとれる。もちろん、脚色はあるだろうし、古気象学からみれば矛盾するところもあるが、それよりも様々な困難を一族が力を合わせて乗り越え、そこから「教訓」を「学び」、「知恵」とゆう武器にして生き延びてきたかがわかり面白かった。近年、先史時代の研究によると当時の人々は我々が考えるより遥かに知的で優れた人達だったと推察されている。彼らから我々が学ぶことは少なくないと思う。本書はイロコイ族の口承史であると同時にグレートジャーニーの証言でもある、また生きた教訓に満ちた一冊とも言える。

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紙の本ニュースキャスター

2002/06/28 14:23

筋金入りのリベラリスト

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あの立花隆氏が「筑紫さんは筋金入りのリベラリストだ、この人がいなかったら世の中はもう少し悪くなっていただろう」と言ったことがある。本書はそんな筑紫氏がキャスターを務めるTBSの報道番組「ニュース23」のウラ話がいろいろ書いてあり面白い。

他局のヘッドハンティングを警戒してアメリカに特別ポストまで作って筑紫氏を隔離した話。
音楽のパワーとポテンシャルを見据えたうえ、番組に導入する洞察。テレビに映る人を裸にしてしまうメディアの特性とインタビューテクニック。クリントンや中国首相との対話番組の顛末など、放送からは見えないジャーナリストとしての苦労や番組制作の紆余曲折がわかり面白い。著者の幅広い好奇心も健在のようだ。音楽、映画、美術など以前は「第二部」として放送していたが、今は「低俗バカ番組」に乗っ取られてしまった。

偉大な教養人の素顔が垣間見える一冊だと思う。

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統計数字の読み方のマニュアル

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「少年犯罪は増えてもいないし、凶悪化もしていない」などとしたり顔で論評する人が結構いる。そのほとんどの人が統計グラフの読めない人である。本書はグラフを読むときの注意点やバックグラウンドクロニクルなどやさしく解説されていて、それを読めば「少年犯罪は増加し、かつ凶悪化、故に事態は深刻」という我々が肌で感じている現実に危機感をもつだろう。特にここ10年における殺人罪の増加は異常だろう、また動機もはっきりしない場合も多く、想像以上に子供達の心が病んでいるのがわかる。

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オウムと向き合うすべての人々に必読の書

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書はオウムとそれを生んだ社会との関係を深く考えさせられる本である。
 私はタイトルに「オウムと向き合う」人へと書いたがそれは世のすべての人と言ってもよい なぜならオウムが話題になったとき私たちは彼らを「異なる者」として切り捨て、嘲笑し、思考の外へと追いやり 悪しき習慣(文化)の前例に従ってフタをしてしまったのである。社会から隔離されたオウムは本書にあるとうり「信者の事故死」→「隠蔽」→「死の正当化」へと誤謬の狂気に向かって暴走する。その結果オウムはモンスターとなって「異なる者」のフタを突き破ってしまう。 人々は混乱し「何故?」を連呼しつつ次なるレッテルと張子のフタを探して混迷を続けているように見える。 しかし考えてみると私たちは昔から異なる者に対して切り捨ての論理を平然と使ってきたのではないだろうか 切り捨ての論理が大衆レベルまで広がれば習慣になり、見方によっては文化レベルとも言えるくらい長く続いているのではないか? その対象が「出身地」や「人種」「病気」であり、「宗教」オウムへと続いているのではないか?
 オウムに多くの若者が惹かれ入信しつつあると聞いたとき 私たちがやるべきことは異なる者のフタをすることではなく、彼らと正面から向き合い批判的であると同時に創造的な関係という建設的な対決をすべきだったのではないか? オウムとその若者たちを包み込む社会、正面から受け止める社会をどうすれば作れるのか 何よりも「切り捨ての文化」を認識し、改め、対象となる問題を破壊的とも言える利息つきですぐそこにある未来に持ち越さないようにすることが緊急課題と言える。

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軍政の内幕を暴いた不屈の精神

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ソウルオリンピックやサッカーワールドカップの開催など今の自由で豊かな韓国から想像もできないが、この国はつい最近まで軍政だった。 朴正照、全斗煥、盧秦愚、とゆう3つの軍政時代のウラで暗躍していたのが秘密結社「ハナフェ」である。

ハナフェは政治将校により構成され強い同期意識と忠誠心で韓国の権力中枢に君臨していたが過去と決別をはかる金泳三大統領により粛清される。 軍政権下の韓国は報道管制が厳しく今もってわからないことが多い。 しかし、著者の金在洪氏は軍政権内部の権力闘争を赤裸々に描いてゆく。 政治将校たちが繰り広げるドラマは韓国の歴史そのものである。

韓国の今を知るためにも過去を知る必要がある、それがわからなければ未来もわからない。 隣国の日本は何故か関心が薄いが、金氏のように優れたジャーナリストの多くいる韓国では面白い本がたくさんあるので翻訳を望むのは私だけではないだろう。

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紙の本宇宙の風 50歳からの再挑戦

2003/03/13 11:22

静かなる偉人

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今年2月、任務を終えて帰還途中のスペースシャトル・コロンビアが大気圏突入時に空中分解を起こし、宇宙飛行士7人全員が死亡するとゆう痛ましい事故が起きた。 毛利氏はすぐに会見に応じ、考えうる事故原因や今後の宇宙開発にあたえる影響などを真摯に答えていた。 亡くなった宇宙飛行士は毛利氏とは家族ぐるみのつきあいがあり、現役のとき共に宇宙を目指した親友だとゆう。

毛利氏の悲しみは想像するにあまりある、しかし その悲しみと闘いながら真摯に質問に答える姿を見て尊敬の念を覚えずにいられなかった。 「亡くなった7人の死を乗り越えて宇宙への挑戦は続けるべき」と毛利氏は言っていた。

本書は毛利氏のチャレンジスピリッツあふれる良書である。 過酷なトレーニングやシャトルでの多忙を極める秒刻みのスケジュールなど宇宙飛行士と呼ばれる人たちがいかに優れた人であるかがよくわかる。 また、宇宙への挑戦が人類にとって必然ともいえる進化への道なのが毛利氏の情熱とともに伝わってくる。

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遺伝か環境か?

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現在、犯罪者は年5000人のペースで増え続けており、刑務所は定員オーバーになっているとゆう。 背景には不況による閉塞感からくる様々なストレスがあり、いまや日本の安全神話は崩壊し、緊急事態ともいえる時代に突入しつつある。

人は何故犯罪を犯すのか? 世の中のほとんどの人が踏みとどまる一線を超えてしまったのは何故か? これは古典的命題のひとつである。

本書は遺伝説をとっているが、もちろん それをドライブさせる環境も無視してはいない。 囚人から家庭環境などを聞き取り調査し、脳機能やホルモンバランスの検査など多角的なアプローチで分析していく。

驚くのは、刑務所や囚人サイドの積極的な協力姿勢である。 面会はもちろん、この目的のための身体検査や各種テストの実施など、日本の閉鎖的な刑務所となんという違いだろう。 その日本の刑務所で看守の暴行が問題になったが、閉鎖的な環境がその一因になったのは言うまでも無い。

日本の刑務所が閉鎖的なのは社会通念上特異なことではない。 考えてみよ、犯罪が起きたとき世の人々はどう反応するか? 加害者に対し(時には被害者にも)物理的には壁の向こうへ追いやり、心情的には「バカがやったこと」として、全てが終わりである。
そこには、学問の対象としてはもちろん、再発を防ぐとゆう発想のカケラも無い。

日本の犯罪の周辺状況は上代からの「島流し」と少しも変わっていないのである。
しかし、凶悪犯罪の増加と、その動機の了解不可能性(*)から刑法や裁判の公判の改正などが議論されているが、いずれも対処療法だし、問題の根本的な解決にはならない。

とにかく、犯罪学の基礎研究さえも無いのである、研究には材料が不可欠なのは言うまでも無い。 犯罪者の研究となると、ほとんどがアメリカなど欧米の成果なのも、これで理解できよう。

日本の司法当局は自らの閉鎖的な体質が今日の犯罪増加の一因となったことを恥じるべきだろう、また それを見て見ぬふりをして社会の多数派に安穏としてきた私たちも猛省すべきである。

(*)了解不可能性…立花隆 著「文明の逆説」の書評を参照

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紙の本南京の真実

2002/09/04 10:24

歴史の空白を埋める貴重な記録

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本書は日中戦争下の1937年の末に当時中国の首都だった南京でおきた虐殺事件の貴重な記録である。著者のジョン・ラーベはドイツの企業、ジーメンス社の支社長で当時の南京の状況を詳細に日記に書いている。その内容は日本軍の暴虐が続くなか、安全区という難民非難所で人々を救おうと命がけで奔走する様子が赤裸々に描かれている。ラーベは30年中国に暮らしていて、本国のドイツ以上に愛着があったのだという。そのため目の前の悲劇を見過ごせなかったのだろう。公開されることもない私的な日記にここまで書き続けたラーベ氏の情熱には民族や国家を超える、新たな道があることを感じさせる。

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火山灰考古学

2002/08/30 13:29

火山国ならではの学問

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火山灰考古学「テフロクロノロジー」とは降灰した地層から年代を算出する学問で火山の多い日本で発達した。 本書は専門書だが火山灰をキーワードに年代の測定、当時の環境などが少しずつ明らかになってゆく様子はなかなか面白い。 火山灰は種類によって数千キロのかなたにまで降灰するので、それが地表に積もりスッポリと覆いかぶさって、何千年も保存したり、噴火時期から年代を特定できる。

北海道の有珠山や三宅島の火山ガスなど、火山による災害は私たちが肌で感じる脅威だ。
しかし、古来からこの地に住む人々は火山と共生してきた、過酷な環境のなかを生き抜いた先人たちに尊敬の念が芽生える。

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死海文書の謎を解く

2002/08/25 12:57

宗教のルーツを探す旅

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発見されてから50年以上たった現在でも死海文書の解読は困難である。もちろん、当事者が長年にわたり死海文書を公開しなかったのが主な原因だが。

死海文書に関する書籍は多いが翻訳されたのは少ない、理由は文書が古文字で書かれており専門家による研究書になってしまい一般的でないこと、もうひとつは無神論者の多い日本では宗教の違いからくる様々な摩擦を肌で感じる機会が少ないために、宗教に無関心になってしまうことがあげられる。

本書は宗教学者ではなく冶金学者の手によって書かれたものだが、文書の一部が銅板に刻まれ、まるまった状態で発掘されたので、いかにして元にもどし解読するか研究者は悩んだらしい。冶金学者の著者がこの問題に取り組みはじめたのも、この銅板がきっかけだとゆう。

死海文書を書いたのはクムラン・エッセネ派と呼ばれるセクト(宗団)で一神教を崇拝し、厳しい教義をもっていたという。彼らは後にユダヤ教となり、そこから分派したのがキリスト教となる。銅板には彼らが持っていた莫大な財宝の隠し場所が記されていると以前から言われていたが問題なのはその出所である。著者は財宝のルーツをたどり、古代エジプトとの接点を見つけてゆく。このあたりはヘタな推理小説より、よっぽど面白い。

宗教学者からみれば著者はアマチュアだが専門家の意見をベースに慎重に解読をすすめており、冶金学を切り口にして死海文書と古代エジプトのみならず、3大宗教のルーツに迫る情熱には脱帽する。

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紙の本「田中真紀子」研究

2002/08/16 13:27

再び振り下ろされた「知の巨人」の筆

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「田中真紀子辞任」の日に本書が発売されるという、タイムリーな展開になったが「真紀子ブーム」に便乗した、そこらへんの低俗な本とは一線を画した内容になっている。真紀子辞任の日にテレビ出演した立花氏は「彼女は辞任しても、また復活する気でいる。将来総理もありうる」と言い、反田中派に冷や水を浴びせた。

本書は田中真紀子賛美でも批判でもない、また立花氏の歴史的名著「田中角栄研究」のような金権腐敗を分析したものでもない。田中真紀子を知ろうと思ったら、その父親である角栄を知る必要があり、角栄を知るには、彼が総理大臣だった時代と逮捕され刑事被告人となった後も「闇将軍」として日本の政治をウラから操っていた戦後の「暗黒時代」を知る必要がある。そのため、話はあっちこっちへ飛ぶが、本書は対話の形式が中心で読みやすくなっている。また、立花氏が過去に書いたり話したりしたことも対話の中に自然にはいっており、若い読者もついていけるよう配慮がされている。

それにしても、本書でたびたび出てくる政治の金まみれの腐敗ぶりには驚きを超えてあきれ果ててしまう。戦前戦中の軍国主義といい、戦後の金権腐敗と刑事被告人に支配された角栄の時代といい、なんでこんなバカげたことがあったのかと思うが、我々日本人には彼らの跳梁跋扈を許す土壌を文化の一部にもっているのではないか?

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鮮やかな生きた歴史書

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本書は「知の巨人」こと立花隆氏が80年代に「情報ウォッチング」として週刊誌に連載していたコラムをまとめたものである。この80年代はバブル経済の揺籃期にあたり、後に第二の敗戦と言われる「失われた10年」を産み落とすことになる。

日本は今、戦後最悪の状況にある。企業倒産、失業者、犯罪は増え続け、政治家や役人、警察は腐敗し、産業廃棄物による環境破壊や狂牛病、農薬による食品汚染、以前は考えられなかった
都市部における集中豪雨などの災害。どれもこれも深刻な社会問題である。

なぜ、こんなことになってしまったのか? 突然起こったように見える、これらの現象も実は
何十年も前から伏線が敷かれていたのが本書を読むとわかる。人々は刻一刻と危機的状況に
なりつつある問題を利息つきで未来に持ち越したのだ。

しかし、もはや未来への持ち越しは許されない状況である。このままいくと本当に「破滅」の
二文字が見えてくる状況になりかねない。ソ連や東欧の歴史を見るまでも無くカタストロフは
現実に起こりうるのだ。今一度、私達は過去を見つめ直すべきではないか?
復活の処方箋は探すのではなく、生み出すものではないか? 本書は困難な環境のなか苦闘する
現代人にとってバイブルとも言える名著だと思う。

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ウォーター 世界水戦争

2002/06/20 12:32

マザーネイチャーの慟哭

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数百万年にわたり小さなサルにとって安住の地だったジャングルが激変する環境によって減少し、荒涼としたサバンナに変わった。
アフリカを旅立って100万年あまり。小さなサルは文明を築き発展させ、かつて小さな無力なサルだったことを忘れた。

この地球にとって人類は小さな存在だった、いかに多くなっても肉食獣や病原菌、環境の激変、同種族による殺し合いなどの驚異にさらされ、いつも絶滅の淵にいた。しかし、この人類が文明を築き巨大化させたためにマザーネイチャーたる自然を揺さぶることになる。問題なのは30億年という悠久のときのなかで生命を生み育んできた、水をふくめた自然の巨大にして複雑なエコシステムについて人類はまったく無知だということだ。その自覚も無いまま環境を我が物顔で加工した結果、数々の公害となって人類を襲い、今再び生存の危機に直面しているのが現状である。

水資源涸渇の問題は「地球温暖化」や「内分泌かく乱物質汚染」と並ぶ待ったなしの緊急課題である。本書を読むと、世界各地で目を覆いたくなるような現状が続出している。イスラエルと周辺諸国との水をめぐる紛争やナイル川においてのエジプトとエチオピアの5千年を超える対立。実際に戦争まで引き起こしたインダス川の利用権をめぐるパキスタンとインドの紛争など。人種や宗教、政治が複雑に絡み合い、ぬきさしならない状態にある。

本書は水問題という新たな視座で世界を切るときのメスとして、また、解決への処方箋を探る手がかりとしても最適の一冊だろう。
著者のマルク・ド・ヴィリエ氏の「常識は無知の形のひとつ」という言葉には重みがある。

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紙の本昭和陸軍の研究 2巻セット

2002/06/15 14:03

戦争「狂」時代の叙事詩

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本書はタイトルのとうり昭和陸軍について研究、分析したものである。著者の保阪正康氏は太平洋戦争を中心とした昭和史を数冊書いているが、この本はその総括とも言える名著であり、十分な内容の中身たっぷりの本である。
明治新政府軍として誕生した建軍時代から第二次世界大戦後の戦友会の実態までを視野にいれたとき、はじめて見えてくる日本軍の真実の姿を保阪氏は緻密な分析力と洞察力で赤裸々に描いてゆく。
序戦ともいえる日清及び日露戦争後、日本軍は大きく変貌してゆく。「勝利」で終わったこの戦争も実態は悲惨だった。
日清戦争の戦死者1万3488人のうち厳冬地における兵站が不十分だったために1万1894人が「凍病死」した。また日露戦争では旅順要塞攻防戦で肉弾攻撃を繰り返し、この戦闘だけで日清戦争時を上回る1万6935人が戦死し、最終的には12万人が戦病死した。

以上、戦術的には大失敗だったにもかかわらず軍人たちは勝利に驕り、いささかの反省もみせず、太平洋戦争という昭和史最大の愚行に突き進むことになる。読めば読むほどミリタリズムの「狂気」と「恐怖」に暗澹たる思いがする。
戦争の話になるとバイアスのかかった部分的抽出に根拠をおいた俗論が幅をきかせているが、そんな幼稚な愚論にあきあきした人にオススメの一冊である。

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