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先月(2017年5月)

やづさんのレビュー一覧

投稿者:やづ

3 件中 1 件~ 3 件を表示

紙の本ラッシュライフ

2005/12/01 02:56

電車で読んだ方、いらっしゃいますか?

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「アヒルと鴨のコインロッカー」、「重力ピエロ」、「グラスホッパー」。
 この方のお名前には幾度も出会いながら未読だったことに、この本で気付きました。これって全部、伊坂さんの作品だったんですね・・・・・・。
 読んでる途中で頭が熱くなって、終わるとぼうっとしてしまう。中盤から興奮して興奮して、その掛け値なしの面白さに、頬が緩んでたまらない。
 そんな理由で、私にとっては、外ではとても読めない本でした。
 最後まで行かなくても、自分が今とても面白い物を読んでいることがわかるんです。溢れんばかりの期待と、すでに持病のような不安をもって読み終えた時、さらに大きな喜びが待っているという幸せ。
 思わず溜息をついてしまう読後感、大げさなのに疑う気も起きないストーリー展開。ひょっとしたら早い段階で、すでに「騙されたっていい!」という、盲目的な恋愛にも似た感情を引きずり出されてしまっていたのかもしれません。それくらい、好きなお話でした。
「最高時速240キロの・・・」という、ドキドキするような一文。特にそのふたつめを読んだ時点で、すでに私は、この世界にどっぷり浸かることをためらわなくなっていたようです。
 時には苦笑してしまう、うーんと唸る、登場人物たちの芯からくる言葉の数々も、「言い切るなあ」とは思いながら決して馬鹿にできません。そのうちの一つを二度も読み返した時には、思わず目頭が熱くなりました。極端で、力強くて、温かい言葉です。
 ミステリーを中心に読んできた私にとっても、これは徹底的に楽しい作品でした。読者を満足させること、楽しませること、読んでよかったなと思わせること。この三つを満たす物においては、これ「以上」をまだ知りません。
 上記三つにこだわり抜いたこの作品は、「読み物」としての原点とさえ言えるのかもしれません。本当に、素敵です。
 そして、まるで風刺と示唆をふんだんに含んだ童話のような、根底にある普遍的な要素。
 これもまた、大きな魅力の一つなんでしょう。
 出てくる誰もが欠かせないんです。全てを持った、何かが足りない、いっそ何もかもが足りない、そんな色とりどりの人たち。
 誰に会っても何を聞いても、救われるのはいつも内側から。(一つだけ、外部からの大きなプレゼント?もありましたが・・・)
 最終的にはそれに尽きます。気付かない人もいるし、そもそも考えない人もいる。もともと「何か」を持っていた人もいるし、中にはたしかに、代償が大きすぎた人もいる。でも、内側からやってきたその「何か」は、もう外側の誰にも奪えはしない。
 さらに仕上げとばかり頬が緩んだのは、「謎」という物に対する魅力的なスタンスなんですが、これは、この作者の方の持ち味なんでしょうか。
 とにかく、とてもうれしい作品でした。そして変な話ですね!

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その「残酷」が指し示すもの

6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 とてもよくできた展開の漫画であることは、今さら言うまでもないかと思います。たまに「天才」という評価を目にするのも、この世界の持つ唯一無二の印象と、あとは変則的な連載スタイルなどから、何となくではありますがわかる気がしました。

 この作品にはとても残酷な描写が多々見られます。とはいえ痛い描写が苦手な私でも勢いで読み通してしまえるくらいだったので、ある程度耐性のある人ならば問題にならないほどだと思います。何より画的な残酷さを遥かに凌駕する精神的な?残酷さの方が際立っているので、その魅力に惹き付けられるまま読めてしまう部分も大きそうです。

 エキセントリックで練られたプロットと、時に大胆なのに時にはっとするほど繊細なエピソードを編み込む手腕にはただただ感動しました。絵が雑なのが気にならないほど濃い内容に、漫画でできることをある一つの限界まで詰め込んだかのような印象さえあります。
 また何よりも素敵だと感じたのが、恐らくは作者の中にあるだろう清潔な倫理観です。「清潔」と言うと何だか違う気もするのですが、とにかくある確固としたものを持った人でないと、この美しいまでの「残酷さ」は描き切れないと思いました。それは主人公ゴンの、特に性格の設定からしてよく見えると思います。最初はあまりにもプロトタイプに思えたゴン(この名前がまた・・・)のキャラクターが、巻を経るごとにじっくりと、あまりにも重要な価値を持っていることに気付かされる喜びは何とも言えません。

 この漫画で素晴らしいことは、十分に現実的な「残酷」を一種のファンタジー設定を隠れ蓑にさんざん剥き身で晒しておきながら、決してそのままにしておかないことです。それに対抗する主人公がいる「少年マンガ」なのだから、もちろん当然ではあるのでしょう。
 しかしここにもう一つ妙味があって、主人公自体が時にその「残酷」を(積極的にではなくとも)よしとするような状況があるのです。ベストではなく、ベターを選択する場面が幾度も訪れる。
 しかし彼はそんなにも過酷な状況の中、決定的に主人公としての役割を守っている。守ることを「許されている」と言ってもいいように思うのですが、このぎりぎりのラインを分ける要素は微細でありながらあまりに大きく、また少しでも目測を誤れば予定調和か主人公失格、どちらの状況にも陥りかねないので、その見極めもまた常人離れしているように感じました。

 そして特にキメラアント編に入ってからは、「残酷の出自」ともいうべきやや哲学的な寓話でもあるような印象でした。これはグリードアイランド編でも感じたことですが、時に決して個人に帰属させてしまうことのできない、けれど必ず特定の個人や、ある集団を出口として登場する「残酷さ」の、もはや一つの現実を鮮やかに描き出していると言っていいように思います。敵役は、「敵まで魅力的でスゴイ」などと一言で言ってしまえるような単純な構造はしていません。もちろんわかり易く魅力的に仕上げられている敵もいますし、それ自体とてもよくできていることには違いないのですが、その一段下に最大の地雷が埋め込まれているのかのようです。
 表面上の魅力の多寡にかかわらず、「彼ら」の違いが一体どこから来るのか、また「彼」個人の背景にある膨大な事実というものに思いを馳せるとき、さらなる「残酷さ」とも言うべきものが存在することを知り、そのあまりの巨大さとそれを指し示した作者の手腕に、あらためて呆然とするのです。

 もちろんエンターテイメントですから、「必ず読むべき」というような薦め方をしたい物ではありません。けれど生理的に受け付けない場合以外であれば、読んで決して損はしないと思います。
 特に少年時代にこの世界観を心に容れた人は、一つの大きな財産を持つことになるのではないでしょうか。「恐怖」「残酷」といった要素が、扱う側の料理一つでこうも違ったメッセージを発するのかということに、ただ驚くばかりです。
 そしてここにはもう一つ、深い深い悲しみさえ編み込まれているように感じます。手の付けようのない現実を提示しながら、それでも全体では絶望を肯定する印象が無いのは、やはり主人公の存在のおかげでしょう。「何かしたのは~」という21巻にある印象的な台詞一つを取っても、ある強い悲しみと底知れない業が見えるようで背筋が震えました。そしてそのエピソードでさえ、その「残酷さ」を突き詰めて考えれば・・・??といった具合で、真剣に読むと疲れるほどです。
 一体どんな最後を迎えるのか想像もつきませんし、たくさんの時間が掛かりそうですが、できることならこのまま長く続いて、作者納得の終着点に辿り着いてほしいと願ってやみません。

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紙の本秘密

2003/07/20 17:41

たとえラストを予測できたとしても、これではきっと意味がありませんでした。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 遅ればせながら読みました。
 
 読む前に私がしたことは、書評を読み、この物語に潜む「秘密」を何パターンか想像することでした。
 大体の設定は映画の紹介などで知っていたので、色々と考えてみることはできました。しかしあやふやで取り留めのない想像とはいえ、すぐ行き詰まってしまっていては、泣くほどの衝撃を与えることは難しいんじゃないかという結論に辿り着くのにそう時間はかかりません。
 だから一体どうやって泣かせてくれるのかと、少しひねくれたくらいの気持ちで読み始めたんです。なのに。
 
 視点は平介で進みます。ほとんどの物事は平介の目を通して読者に与えられます。だからこそどうしようもなく募る直子への不信と、平介自信への不信。
 しかし理性で制御できるぎりぎりの内側での彼らは、どこまでも誠実に日々を暮らしてゆくのです。
その「維持すべき思い」に縋りつく姿があまりにつらく、同時にとても愛しくなります。
 わき道に逸れても、時々ずるくても、どうにもならないくらいずれ始めても、彼らは確実にそこを目指している。

そして、ラストです。

 「それ」を認識したとたん、私はしゃくりあげて泣いていました。しようと思えばこらえることもできたでしょうが、それでは私自身があまりにもつらすぎる気がしました。泣かずにはいられませんでした。
 
 そんな痛い話はちょっと、と思われる方。つらい、とは書きましたが、これはそんな物語ではありません。

 上でも述べたように、言いようのない思いは、本当につらくてたまりませんでした。でも、それはこの物語の中にたしかにあるものに気付かされてしまうからです。
読み返せば平介の見た世界の端々に、ラストへと繋がる必然性が潜んでいたことがわかります。
 
 人間という限界のなかで彼らがとった最善の策は、同時に、何よりもお互いへの愛情がさせたことだと思うのです。それが例えばどんなものを含み、これからどんなふうに姿を変えたとしても。
行き着く場所がどこかもわからないまま、彼らが守り抜こうとしたものを守るにはそれしかなかったのだと、衝撃とともに深く納得させられてしまいまいました。
だからこそ、あまりにもつらい。

 できることなら記憶を消して、もう一度出会いたい物語というのがあります。本作は私のなかで、間違いなくそんな物語です。

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