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先月(2017年6月)

kouさんのレビュー一覧

投稿者:kou

42 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本チェーザレ 破壊の創造者 1

2007/08/12 00:15

私の母は娼婦―― そして父は怪物だ

18人中、18人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

惣領冬実さんの描くチェーザレ・ボルジアと聞いて、これは読まなきゃ!と思っていました。

チェーザレ・ボルジアと言えば、ルネッサンス期に小国に分裂していたイタリア半島を統一しようとし、志半ばにして斃れた青年。婚姻を許されない法王の息子、自身の野心のため妹ルクレツィアに度々の政略結婚を強いた冷徹さ、反面そのルクレツィアと近親相姦関係にあったという噂や、彼に影のようにつき従ったという暗殺者ドン・ミケロットの存在、政敵を次々に暗殺したというボルジア家の毒薬カンタレラ、レオナルド・ダ・ヴィンチとの親交、反抗を許さない冷酷さと、『君主論』の著者マキャベリに「かつてある人物の中に、神がイタリアの贖罪を命じた一筋の光が射したように見えた。だが残念ながら、彼は活動の絶頂で運命から見放されてしまった」と言わしめる魅力を兼ね備えた人物……などなど、様々な噂と謎に包まれた魅力的な人物です。

作者の惣領冬実さんは外国の文献などもかなり綿密にあたり、彼がどう育ち、何を思い、何を目指した人間なのかというところまで、できる限り忠実なチェーザレ伝を作ろうとしているように伝わってきます。
その分惣領冬実さんの代表作とも言える『3 THRREE』や『MARS』などのようなドラマチックさにやや欠ける面もありますし(まあこれらは少女漫画なので)、そこがちょっと物足りない気もしますが、そこが却ってクールに仕上がっていて引き込まれます。
うまいのはアンジェロという青年を置いたこと。メディチ家の恩恵でピサの大学に入学しながら、チェーザレの魅力に惹かれていく、世間知らずながらも天才肌の彼を視点に持ってきたことで、お話がかなり親しみやすくなってきています。

それにこの時代は、ルネッサンスだけあって他にも魅力的な人物が沢山いるのですよ。
まだ話としてしか出てこない(出てくるかどうかも不明ながら)メディチ家のロレンツォ・イル・マニフィコ、ミケランジェロ、ラファエロ、サヴォナローラ、マキャベリ、カテリーナ・スフォルツァ…
今後歴史上の重要人物たちが、どのような描かれ方で登場するのか。それを考えるのも楽しいです。

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人形のふしぎ

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

お山のお世話をする山の主さまたちや、お天気をつかさどるものたち(風師や雪師など)たちのお話を集めた連作短編集。

作者さんらしいやわらかいお話たちでした。
この人のお話を読むと、やさしいというのは、かなしいや、せつないとイコールなのかもしれない、なんて思うことがあります。
もちろん単にやさしくこころ温まるお話たちもあるのですが、ときどき、やさしくあたたかいからこそ、かなしみが底の方からコポコポと湧き出てくるように感じるお話もあるのです。
今回の表題作にして描き下ろしである中篇『ゆきのはなふる』は、そんなお話でした。
一緒に収録されている、他のお山の主さまたちの恋物語なども、素敵なお話ですが、今回はやっぱりこの表題作が一番です。

雪を降らせるのが仕事である雪師の幻宵は、ある日、とても繊細な造りの等身大の人形(ヒトガタ)を拾います。そのまま捨て置くのも忍びなく持ち帰り、「雪花」と名づけて手元に置くことにするのですが、雪花は、幻宵たちが口ずさむ唄などに反応して動くことが分かります。
人形なのに姿かたちは人間と変わりなく、動く。魂があるかのようなのに、人形。
雪花の存在をどう受け容れればよいか戸惑う幻宵ですが、見つかった造り手から、あることを聞きます。
これは、「人形」という不思議な存在のお話であると同時に、喪失についてのひとつのお話。

やわらかで切なくてやさしいこの物語と、作中の唄の響きが、とてもよく合っています。
下に唄の一部を引用しますが、最後まで読むと本当にすてきなので、ぜひ作品を手にとって味わってみてください。

 北風木枯らし吹いたなら お山に冬が参ります
 ひいらり白く枝の先
 ゆきのはなふる はなのふる
 霜が降りたらお魚は 苔を枕に水の底
 しんしんつめたいお星さま
 ゆきのはなふる はなのふる

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私たちはどこへ行くのか?

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

(あらすじ)
母には捨てられ、唯一の理解者であった叔母も亡くして父親のもとを飛び出したグレアム、女優という地位に夢中になり子どもを顧みなくなった母親を捨てたアンジー、母親の死にショックを受け話すことができなくなったため、地下に閉じ込められてしまったサーニン、父親に殺されかけたマックス。
居場所を求めて家出した僕たちは、港を探してさまよっている船のよう—— 。いつの間にか寄り添い、旅をするようになった少年たちの孤独な魂の行方は?

物語の前半は、4人の居場所探しの旅です。町から町へさすらいながら、世の中の汚さや、逆に人のこころのあたたかさに触れてゆく。
けれど後半、彼らを受け止めてくれる庇護者を得た瞬間・・・つまりずっと捜し求めていた居場所を得た瞬間から、これは人間の善良性や社会規範に寄り添いたいと願いながら寄り添えぬ孤独と絶望、罪の意識、そして寄り添いたいと願う対象である社会が抱える欺瞞や、人間存在そのものへの疑問、などなどがテーマになり、徹底して展開されていきます。
ある事実をひたすら隠しつづけてきたグレアムは罪の意識から逃れられず、そんな彼をアンジーたちは追いかけ、彼らを愛しく思う大人たちは彼らのために動く。
この作品は終り方が“え、これで終りなの?”というもので、初めて読んだ時は非常に不満でしたが、何度か読むうちにこれはこれでひとつの結末なのかもしれないとも思えるようになってきました。それでも続きがあるのなら読みたいという気持ちも強く残っていますが、著者が亡くなってしまった以上、それも望めません。

これ、初めて読んだ時はこの4人の少年たちに感情移入していたのですが、時が経てば経つほど、彼らを取り巻く大人たちの言葉に深い共感を覚えます。それだけ歳を取ったという事なのでしょうが、子どもたちの視点と、大人たちの視点、その両方をここまで見事に描写したという点からも、三原さんの感性の鋭さが窺えますね。

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壮大なSF物語

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

4千年前、長く激しい戦争の末、カーマの民は星を凍結させた。凍った星の名はルーン。カーマの民は隣星マージに移り住み、そこで「賢者」を頂点とする厳格な階級社会を形成する。
長い歴史の影で、過去の戦争の記憶も意味も風化し、一部の特権階級のみが伝えられた事実を知る時代・・・支配層に属する呪師の息子である少年ドゥルクは、並みいる呪師候補生を押しのけて、ルーンへの研修旅行に参加することになる。
ようやく氷の解け始め、カーマの民は故郷であるルーンへの帰還を始めていた。過去を忘れた原住民イムリの住むルーン。多くの謎と、隠された歴史の眠るルーンへと。

ものすごく壮大かつ重厚なSF作品です。ファンタジー作品とオビにはあるけど、これはSFじゃないのかなぁ? まあどちらでも構いませんが。
4千年前の、星すらも凍らせた戦争の歴史、隠蔽された過去、夢を操るというイムリたちの秘められた力、奴隷民イコルの存在、あらゆる生物が持っているという彩輪(オーラのようなもの?)と、それを利用して他者を操る侵犯術、呪師である父親に侵犯術で心の内すべてを検閲されているドゥルク、ドゥルクの夢に頻繁に現れる行ったことのないルーンの風景と会ったことのない少女、それを不安そうに見つめる、どうもイムリであるらしい母親・・・・・・何から何まで、ものすごく丁寧に作りこまれています。その分急激なお話の展開というよりは、流れるようにゆったりと、でも確実に変わっていくというようなストーリー展開なので、1,2巻同時発売にしてのは正解かも。1巻の終わりで“なかなか面白いかも”で、2巻を読み終える頃には“早く続きが読みたい”になっていました。
インドのカースト制度を連想させるカーマの厳格な階級社会の崩壊や、ドゥルクが関わるのであろうイムリの目覚めなどが、今後のお話に出てくるのかなと思いますが、これだけ作りこまれていると、まだまだ他にも色々な展開がありそうで楽しみです。

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紙の本影との戦い 改版

2006/03/12 13:24

自分自身の影

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

多くの島が連なるアースシーの世界。
その島々のひとつゴント島で山羊飼いの息子に生まれた少年・ハイタカは、不思議な力を持っていた。彼を見出した魔法使いオジオンは、彼に「ゲド」という真の名を与え、魔法を学ぶロークの学院に送り込む。
そこでゲドは様々な魔法を学び力をつけていくが、己の傲慢と虚栄心から恐ろしい影を呼び出してしまう。それ以降、影に付きまとわれる不安と恐怖、葛藤の日々にゲドは苛まれることになるが…
『指輪物語』『ナルニア国物語』に続いて映画化されることになったファンタジーの名作『ゲド戦記』の第1巻です。映画の前に読み返してみました。
『ゲド戦記』は、大きな魔力を持つ男・ゲドの生涯を軸に、アースシーという多島世界の成り立ち、光と闇を描き出した物語です。映画は3巻の『さいはての島へ』が中心になるようですが、原作を読んでおくなら、やはり1巻から読んだ方がいいでしょう。
これを読んだのはほぼ10年ぶりで、内容も細かいところは覚えていなかったので、割と新鮮な気持ちで読むことができました。
いや、それにしても少年ゲドの高慢ちきなこと。自分の力に絶対の自信を持ち、その分うぬぼれが強く、馬鹿にされることは我慢ならない。物事を知ること、学ぶことの重要さを説く師匠たちの言葉も、なかなか彼の心の底までは届きません。
まあこの位の年頃なら自然なので、それほど苛々したり不快に思ったりはしませんでしたが、その分微笑ましいというか、話の筋が読めるだけに“そんな風にうぬぼれていると手痛いしっぺ返しを食うんだよ”と心配になるような気持ちで読み進めて行きました。
案の定、自分を馬鹿にする学友を見返してやりたいという気持ちに囚われたゲドは、死人の霊を呼び出そうと禁断の術を使い、得体の知れない影を呼び出してしまいます。その影からゲドを救うために、学院の長・大賢人のネマールは死に、ゲドも生死の境をさ迷います。
なんとか生の世界に立ち戻ったゲドを待ち受けていたのは、恐ろしい影が解き放たれたという事実と、その影は世界に災いを撒き散らすためゲドを狙っており、影に捕まればゲドは内側から喰らわれるだろうという恐怖でした。
ゲドはその後、逃避行の末に最初の師匠である沈黙の魔法使いオジオンのもとに戻ります。そこでオジオンから影と向き合うという助言を与えられ、それまでの影から逃げまわる日々とは逆に、影を追う生活が始まります。恐ろしい力を持ってゲドを追ってくるくせに、ゲドが追うと弱々しく逃げる影、それでも分かちがたくゲドと結びついている影の正体(名前)は一体何なのでしょう?
自分自身と向き合うという成長のテーマに貫かれたお話ですが、ゲド自身は勿論、ゲドを導くオジオンや、ゲドを助ける友人のカラスノエンドウなど、彼を取り巻く周囲の人々が魅力的です。
決してはやらず、地に足をつけて自分のなすべきことをなし、世界の一部分として生きる彼らの生活には、学ぶべきことが色々ありそうです。
まあ、でもそんな小難しいことは措いて、ゲドの成長と影との戦いの物語として読むだけで面白いお話でした。
しかしこれ、一応児童書なんですよね。
映画化されると、それに伴って原作も売れるのが普通ですが、『ハリポタ』や『ナルニア』と違って、子どもにも判り易い平易な文章とは言いがたいものがあります。
“映画化されるから原作読んでみたけど途中で挫折しちゃった”という人が多く出る、『指輪物語』と同じパターンを辿るんじゃないかと少々心配です。

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紙の本プラチナ・ビーズ

2009/04/05 16:18

北朝鮮の権力中枢での謎の動き。 その鍵を握る言葉"プラチナ・ビーズ"とは?

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

米国防総省直轄情報機関の日本における出先機関<会社>に勤める情報分析官・葉山は、調査中、北朝鮮の権力中枢にある動きがあることに気づく。
同じ頃、基地から姿を消した兵士が惨殺死体となって発見される。
失脚していた金達玄の復権と、その影に見え隠れする外国人らしき男の存在、そして謎の言葉“プラチナ・ビーズ”。
葉山は謎の中心にたどり着くことができるのか―― ?
 
===============
 
面白かったです。こういう謀略小説の類ってあまり読んだことがなかったし、文庫にあるまじき厚さにも少々たじろいでいたのですが、読み進むうちに止められなくなりました。
葉山自身の過去や、葉山の上司・エディ、米軍の内部調査員・坂下など、それぞれが好き勝手に動いているようで、どんどん一つの方向に収束していく展開はスリリングで目が離せない。そしてその登場人物たちも一癖も二癖もあって、読んでいるだけで面白いです。
それにしても考えさせられたのが、今の日本のあり方や食べ物のことについて。
出てくる登場人物たちのほとんどが外国人で、そこから見た日本評のようなものもさり気なく散りばめられているし、話の中心となる北朝鮮の飢餓のあまりの惨さや、ぬくぬくとした日本にある自分、というものを振り返らざるを得ない本でもありました。
ここに書いてあることがそのまま全て真実だとかは思わないけれど、著者自身の経歴もあって、日本の一端ではあるのだろうなぁ、と色々考えさせられる作品でもありました。

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生きること、死ぬこと、愛すること

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

(あらすじ)
終末期の患者の精神的な救済のために存在する人造遺伝子人間、通称「愛人(アイレン)」。
赤ん坊の頃の宇宙コロニーでの事故がもとで余命幾ばくもない少年・イクルは、意を決して「愛人」の申請をする。そしてイクルのもとにやってきた少女・あいとイクルは、丘の上の家で人生最後の日々を送ることになる。
 
タイトルと、展開によってはいくらでもやらしくなれそうな設定に敬遠していたのですが、評判がいいので読んでみました。そうしたらば、最初の懸念は杞憂に過ぎず、どこまでも純粋で、かつ哀しく力強い物語でした。
 
物語は、既に種としての生命力を失いつつあるかに思える人間たちが生きる世界が舞台。
生殖能力は失われ、めざましい新たな芸術や発見もなく、宇宙への進出を果たしたという事実も単なる過去にすぎず、世界は紛争と暴力であふれている。
そんな中、イクルとあいの物語はどこまでも日常で、どこまでもイクルとあいという個人をクローズアップしながら、互いの死への恐怖(愛人の寿命はその目的から十カ月前後とされている)と、初めての恋の喜びとを描いています。
その一方で、過去に見捨てられた宇宙コロニーから突如あらわれて「人間とは何者か?」という問いを人類に突き付けた謎の来訪者「HITO」。そのHITOのキリトと対話した国連の女性・カマロや、その残酷な外側の世界とイクルたちの世界の両方に存在する女性・ハルカの側から描き出される世界は、絶望的なまでの暴力と閉塞感に満ち満ちています。
この2側面の対比バランスが絶妙で、だからこそ素晴らしい読後感をもたらしてくれました。
こういうくらーい世界観って嫌いじゃないのです。むしろイクルとあいの物語だけだったら、まあまあ面白いで終わったと思います。
絶望的な・・・まさに人類の終焉が目前に迫っている時、自分たちの生命が祝福されているなどとは到底信じることができない世界で、呪われた存在のままにそれでも生きることを選択する人々と、しっかりと生きたイクルとあいの姿はやっぱり感動的だったと言っていいのでしょう。
 
結局あいが愛人として造り替えられる前は何者だったのかとか、人類に呪いをもたらしたものの正体とかははっきりしないままでしたが、それでいいんだろうなと思います。

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人間は怪物になりえるのか?

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人間の命は平等だ——
1986年。ドイツの病院で天才脳外科医と評価の高いDr.テンマは、ある事件をきっかけにそう信じられるようになった。そして頭部に銃撃を受けた少年・ヨハンの命を、遅れて運び込まれてきた市長より優先して救うが、その少年は、手術後すぐに双子の妹・アンナを連れて姿をくらましてしまう。
10年後、東西統一後のドイツでは奇妙な連続殺人事件が起きていた。その一連の事件を引き起こしているのがヨハンで、自分がモンスターを甦らせてしまったのだと知ったテンマは彼を追うが…?

これの感想は、なんだかとても難しいので飛ばしてしまおうかとも思ったのですが、紹介せずに済ませるのは勿体なさすぎる作品なので、つらつらと思ったことを書いてみました。

ヨハンを追ううちに、彼を生み出した旧東ドイツの孤児院511キンダーハイムで行われていた恐るべき実験や、その実験に関わっていた人間たち、またヨハンと同様に実験の被験者とされていたかつての子ども達のことが明らかになってきます。 実験で、子ども達は記憶を奪われ名前を奪われ、代わりに非人間性を植え付けられる。その最高傑作とも言うべき存在がヨハンだった訳です。
テンマをはじめとして、失っていた記憶を取り戻したアンナ(ニナ)や、511キンダーハイム出身のフリー記者・グリマー、ドイツ連邦捜査局のルンゲ警部らを中心に、道中に関わった様々な人々との出会いをも描きつつ物語は進んでいくのですが、この作者は、本当に人間を信じているんだなぁというのが、その端々から窺えます。
登場してくる人たちは、重要人物も脇役も、みんなそれぞれ悲惨な過去を背負っていたり、裏街道を突っ走ってきて非人道的なことも沢山行ってきていたりするのですが、それでも彼らはどこかに暖かいこころを持つ人間なのだということを度々手を変え品を変え描いているんです。その“人間的”な部分に光を与えて照らし出すのがテンマという存在なんですね。
そういう意味では、悲惨で恐ろしい過去が描かれていても、どこかで安心して読めるお話でもあります。
そして、そのテンマですら救いきれなかったのが、彼の双極に位置するモンスターとして造り上げられてしまったヨハンなのです。そのヨハンの絶望と、最後の最後で人間に立ち戻ることのできたグリマーの涙との対比が、静かに胸に響きました。

かなり長いし、お話も非常に複雑、しかもテーマも深い物語なので、時間のある時まずは一気に、その後じっくり読み返してみてください。

ちなみに物語の一番最後、あの読者のご想像にお任せします的な終わり方、結構好きだったりします。

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聖者の異端書

2006/03/18 15:21

異端書として封印されていた古の手稿が語る「名もなき姫」の探索の物語

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

礼拝堂から発見された古の手稿と、かつての教皇の手からなる覚書は、明らかに異端に属するものだった。
その手稿が語るのは、消失した夫を探す「名もなき姫」の冒険と、そこで遭遇した不可思議な出来事や賢人・亡霊たち。異民族の土地。

「名もなき姫」による手稿というかたちで始まる物語ですが、そこはすっとばして読んでも問題なく、十分面白いです。
結婚式の最中に雷に打たれて消えた夫を探して旅に出る、一地方の領主の姫君「わたし」のお話なのですが、この「わたし」の性格が魅力的です。
宗教の支配力が強く、女性は抑圧されている時代。たおやかで従順な姫君を期待されながら、その枠に収まりきらない理性と現実主義。周囲の価値観に疑問を抱きながらも、果たしてその期待に応えられるか真剣に悩んだりもして、乳母の言いつけどおりにっこりと微笑む特訓をしていたりする。
とても不思議なバランスなのですが、それが魅力的で、なんとなく川原泉さんの描く漫画の主人公たちを連想させるようなところもあります。
そんな「わたし」が旅の過程で出会う「賢い人・セラフ」や亡霊付の名剣、大断層の向こう側−異民族の土地で出会う異なる風習や、人語を解する獅子との神についての対話が、寓話的だったり哲学的だったり、かなり抑えられているものの人の愛憎物語だったり…
新人さんですが、かなりの掘り出し物でした。
続編はないでしょうし、出さないで欲しいのですが、また別の物語を是非是非読んでみたいです。

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紙の本新世界より

2009/08/17 18:11

この手記は、千年後の同胞にあてた長い手紙である

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

(あらすじ)
科学文明崩壊の千年後、呪力と呼ばれる超能力を手にした人類は、牧歌的な暮らしを謳歌しているかのように見えた。
しかし夏季キャンプで偶然にも、摘発から逃れるために進化した自走式図書館ミノシロモドキを捕獲した子どもたちは、そのミノシロモドキから、自分たちからは隠されていた人類の血塗られた歴史と、現在も自分たちを取り巻く恐怖について知ってしまう。
悪鬼や業魔についての伝説、誰にも意識されぬまま消えていく子どもたち、人間たちに使役される知的生物バケネズミ...何も知らずに育った子どもたちを、悪夢が襲う!
 
電力の使用は著しく制限され、呪力が全てにおいてものをいうようになった千年後の世界です。「八丁標」と呼ばれるしめ縄(?)を越えて町の外に出ると、奇妙な進化を遂げた生物が跋扈する世界。でも「八丁標」の中は呪力で守られているから、人間に危害を加えるようなものは何一つ存在しない・・・蚊ですら入ってこれないtてすごいよね。
そんな小さなコミュニティの中で、一見のどかに、実は厳重に管理されて育った子どもたちが、自分たちを取り巻く世界の現実を知り、右往左往する間もなく、次々に起きる事態の変化に翻弄されていく。
大人になった早季の手記というかたちで展開されるお話なのですが、回想録のようになっているので感情移入しやすかったです。また早紀が生き延びていることは設定からも分かるものの、それ以外の彼女の仲間たちがどうなるのかは読み進めてみないことには分からず、一気呵成の勢いで読んでしまいました。
呪力も含めすべてにおいて平凡だけれども精神的な安定度(おそらくアイデンティティの安定度を指しているんだと思う)の高い早紀、早紀の親友である赤毛の美少女・真理亜、真理亜に恋する少年・守、口から生まれてきたかのように出まかせ上手で楽天家の覚、仲間たちのリーダー的存在で、呪力も思考力も抜きん出ている少年・瞬。
この5人の子どもたちに感情移入しながら、次々に出てくる興味深い生物や現象・伝説などの謎が明かされる部分にも興奮します。
さらに後半は、人類が何千年にもわたって繰り返してきた血塗られた歴史から逃れ、新たな秩序を確立するにはどうしたらいいのか?という究極の問が浮かび上がってきます。それに対する答えとしてある現在の町の姿の矛盾点、その陰にあるバケネズミの存在などもあり、色々考えたりも。
なんとなく恩田陸さんや新井素子さんを連想もしました。
 
それにしても読みやすかったです。かなり色々な素材がてんこ盛りなのですが、エンターテイメント性を失わず、小難しくはなっていない。この読みやすさ、読ませる力はなかなかのものだと思います。
さらに千年後の未来、早紀の手記を読む人間がいるのか、その人間はどんな世界を生きているのか・・・つい想像したくなってしまう余韻がありました。

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紙の本スロウハイツの神様 下

2009/06/15 21:12

苦しくてやさしい、現代のおとぎ話

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

(あらすじ)
新進気鋭の脚本家・赤羽環は、譲りうけた一軒家を友人たちに格安で貸し、共同生活を始める。
ある事件のために筆を折り、その後再起を果たした人気作家チヨダ・コーキに、彼のマネージメントを一手に引き受ける編集者黒木、漫画家を目指す狩野、映画監督になりたい正義、正義の彼女で画家の卵である森永すみれ、環の親友である円屋。
まるでトキワ荘のようだと笑いをかわして始まるスロウハイツでの日々の辿りつく先は――?
 
若いクリエーターたち(またはその卵)が共に暮らすスロウハイツでの日々を、それぞれの視点を借りながら丁寧に追っていくお話。
『凍りのくじら』でも思ったけれど、この著者は本が大好きなんだろうなあ。本好きな人ならきっと共感できる、本が人に生きる糧を与えるという感覚をとても上手に描いています。
クリエーターを目指すだけあって(いやそれともクリエーターに限らず人は誰でも)、それぞれがそれぞれに抱える事情や想いがあって、それは時にぶつかり、焦燥に駆られ、衝突し、軋轢が生まれ、やさしい修復をくりかえし、「ゆっくりと、丁寧に、時間をかけて」送られる日々は、ここで暮らした人たちへの文字通りの贈り物だったのかもしれません。
 
登場人物たちの年齢設定によるのか、お話によるのか、デビュー作『冷たい校舎の時は止まる』や『太陽の座る場所』ほどには自意識過剰ではなく、淡々と、けれど丁寧に掘り下げられていく人物描写も読んでいて心地よかったです。
それに環が幸せいっぱいとは到底言い難い人生の中で出会ってきた人たち、図書館司書のお姉さんや、駅員のおじいさんらの存在もよかったです。描写も最小限で、けれどこんな風に小さなさり気ない好意とも言えないくらいの好意が降り積もって、人を生かすんだと思わせてくれる。それを如実に感じさせてくれたのが最終章の「二十代の千代田光輝は死にたかった」でした。
作品の中には出てこなかった、そんな小さな小さな本人には見えないところで動かされる気持ちが、きっとそれぞれ他の人生の中にも存在しただろうし、私たちの人生の影にもあっただろうと思える。それはちょっとばかり切なくも心温まり、泣けることです。

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明かされる「破滅の日」の物語

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

古代鳥人族の末裔と、辺境に隠れ住む軍医・ジャックの交流から始まった物語、第2巻です。
今回は、100年前に一族が体験した「破滅の日」の真相が語られます。
火山のふもとに、いまだ生息していた竜たちと共に穏やかに暮らしていた鳥人族。しかし幼い占い師・リヴァーは繰り返し不吉な夢を見、聖地とされる火山には今までは足を踏み入れてこなかった人間たちの姿が目撃されるようになる。
一族の占い師・ツー・スピリッツは、一族の運命を見定めようと長老とともに火の山に登るが…
  
もーっ、圧巻でした。
1巻を読んでいる読者には、この100年前の物語がどんな結末を迎えるかは容易に想像がつくわけで、それでも、いやだからこそなのか、ぐいぐい引き込まれます。悲壮な事態に直面するなかで、懸命に道を探すいまだ幼いケイヴやリヴァー、ベアたちの姿が痛々しく、そんな彼らを見守る大人たちが、毅然としているだけにとても哀しい。何も語らず、問わず、ケイヴたちの行動を見つめる彼らの生き方は、この破滅の日を生き延びたケイヴたちの世代にしっかりと受け継がれているように思えました。
一転、物語の現在では、その「破滅の日」をかなり悲惨な想いをしながら生き延びたリヴァーが何やら考えて一族から離れ、一族のもとを訪れなくなったリヴァーを探すべく、ベアとハローオ、ウルフらが捜索隊として出立します。他にも戦火がこの地にもじわじわと及びつつあったり、ジャックともゆかりがありそうな少年兵が落っこちてきたり、次の巻での動きを予告するような符丁がたくさん。
お話に思いきりのめりこんで堪能した揚句、続きも楽しみな2巻でした。

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子どもだけに読ませておくのはもったいない

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

前々から気になっていたこの本。ついに買いました。そして読みました。
すばらしいです。
「中高生に読んでほしい12歳からの読書案内」となっていますが、これ、大人でも充分満足できますよ。
まず其々の章で設定されているテーマは、「希望がわいてくる本」「勇気があふれてくる本」「情感が豊かになる本」「コミュニケーションの大切さに気づく本」「冒険の楽しさを味わう本」・・・・・・etc、etc。
それらが更に小さなテーマに分けられ、エッセイから入門書、児童文学に現代小説、絵本にライトノベル、歌集に詩集など、取り上げられている本も実に様々です。

紹介の仕方もうまいです。
見開きで1冊の本を紹介しているのですが、まず右側のページに本の売り文句とごくごく簡単な紹介、書影や出版情報に加えて「本からのメッセージ」として短い引用文が丁度よいバランス配置で並べられています。
で、左側のページに、紹介者の文章。
飽きずにどこからでもパラパラとページをめくっていけます。

これを読んでいて、あぁこれも読んでみたいなぁ、面白そうだなぁ。うんうん、これは本当に素敵な作品だよね、と色々感じることができて、とても楽しかったです。

ちょこっとだけ紹介すると、これを読んで読みたくなったものは・・・
『14歳からの哲学』、『こころのほつれ、なおし屋さん』、『ナシスの塔の物語』、『ルート225』『常識の世界地図』・・・他にも沢山ありました。

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紙の本Banana fish 1

2006/09/09 22:28

いつか日本に行こう——

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

(あらすじ)
ニューヨーク、ダウンタウンのストリートキッズを取り仕切る少年・アッシュは、ある日マフィアに追われて死にかけた男に出会う。彼が言い遺した言葉は「バナナ・フィッシュ」 。サリンジャーの小説で“死を招く魚”を意味する言葉であり、ベトナム戦争から廃人となって戻ってきた兄・グリフィンが時おり呟く言葉でもあった。
そんな折、ストリートキッズの取材で知り合った日本人の少年・英二とアッシュは強い友情を育むようになるが、バナナフィッシュを巡る謎は、更なる大きな陰謀と闘争にふたりを巻き込んでいく…!

このバナナフィッシュを巡って繰り広げられるマフィアや国家までも巻き込んだハードアクションものであり、アッシュと英二との友情物語でもあるお話。
マフィアのボスであるディノ・ゴルツィネに見込まれ、あらゆる教育を施されて育ったアッシュは、自由になるために、兄の仇を討つために、英二や仲間を守るために、常に戦いの中に身をおくことになります。
そこへ自身もベトナム戦争を体験しバナナフィッシュの謎を追っていたフリー記者・マックスや、アッシュの教育係だった殺し屋・ブランカ、NYのチャイニーズを束ねる華僑一族の少年でアッシュを自分と同じ地獄に引きずり込もうとする月龍などが加わって、物語は複雑な人間模様と壮大なスケールをもって描かれていくのですが、その血と硝煙にまみれた世界でアッシュを支えるのは、何の力も持たない英二の純粋さと暖かさです。
繰り返し「俺が怖いか」 と尋ねずにはいられないアッシュと、それに対して何度でも「まさか!」 と答える英二。このふたりの絆が大きな魅力。こんな風に、常に何が起ころうとも自分を信じて味方してくれる存在というのは、少女漫画読者の永遠のあこがれじゃないでしょうか。 いつか日本に行こうと話すふたりの姿は、とても暖かくもの悲しい雰囲気を醸し出していました。

登場人物もみんなきれいにたっていて楽しめるのですが、パパ・ディノが悪役に徹していて素敵でした。月龍は最後までお子さまで個人的には物足りなかったのですが、彼は元々ああいう役だったのだろうなと思います。残念だったのはブランカ。登場が劇的だっただけに、その後ももう少しがんばってほしかったです。

一応文庫で全11巻ですが、番外編に収録されている『光の庭』も読んでください。物語はこの短編で本当に完結すると思うので。
名作との評価が名高い作品で、私は最近になって初めて読んだのですが、本当になんで今まで読んでなかったんだろうと思うくらいの名作でした。 読むべし読むべし!

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真実の帰還 上

2006/04/09 13:07

世にも不幸な物語にして、秀逸なファンタジー

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

前作『帝王の陰謀』で、王位を狙うリーガルに捕らえられ苛烈な拷問の末、ブリッチとシェイドの協力でなんとか命を取り戻したフィッツ。
けれど巷で忌避される<気>を使っての脱出だったため、フィッツ=シヴァルリとしての生は永久に失われた。誓約を捧げ仕えてきたシュルード王は既に亡く、継ぎの王ヴェリティは六公国の救い手・旧きものの探索に赴いたまま行方不明。フィッツに残されたのは限りない懊悩と拷問によって深く植えつけられた強い恐怖、そして僭王リーガルへの憎悪のみだった。
フィッツは<気>の絆で結ばれた狼・ナイトアイズだけをともに、リーガルへの復讐を果たそうと内陸を目指すが…

<ファーシーアの一族>完結編。三月からずっとこのシリーズを読み続けてきて、ようやく読了しました。
ものすっっっごく面白いです。
寝不足の頭を抱えて寝なきゃと思いつつ夜更かししたこと数回、電車を降りすごしたこと1回。ページをめくる手が止まりませんでした。
とにかく描写がリアル。このお話は<技>と<気>という魔法が重要な地位を占めるので、動物と絆を結ぶ<気>に関連して、犬や狼、物語の後半ではドラゴンなど様々な動物が登場します。しかも今作冒頭では、フィッツは狼ナイトアイズと思考を共有することで生き延びているのです。その動物達の思考の特殊さ、人間とは異なる思考のあり方がとってもリアルです。人間のように思考する動物たちではなく、あくまで人間とは異なる生き物としての思考なのに、どこか親しみも感じられるのです。
動物たち以外にも、内陸を旅する過程で見る世界のありようや、そこに生活する人々の生き様、<技>の夢で見る赤い船団に襲われる地域の悲惨さなども、強い現実感を持って迫ってきます。

それにしてもフィッツの不幸なこと。
これまでも、ここまで追い詰めるかというくらい不幸でしたが、この『真実の帰還』冒頭ではやられました。ナイトアイズと思考を共有したため、狼のようになってしまったフィッツが、人間性を取り戻すまでの過程は、まさに世にも不幸な物語です。そしてその後も、息つく暇もなく様々なことが降りかかってくるのですから、目を離す余裕はありませんでした。
そうして内陸を踏破し、山にいたり、更にその先、ヴェリティのいる旧きものたちへの住処に到ってからの展開は、哀愁を帯びてきます。
その先に悲劇が待ち受けているのが分かりつつ、フィッツだけでなく他の者たち—— ヴェリティも、彼の妃であるケトリッケンも、道化も、ケトルもスターリングも—— 犠牲を払い、それでも愛情と義務を保ち、己の道を進もうとしている。
それを、すべてを終えたフィッツが回想しているのだから、もの悲しくもなろうというもの。

物語が終わった後も、まだ謎や伏線は残されています。
道化に関すること、フィッツの母親、フィッツのその後(このままじゃあまりに不幸すぎる…)、子ども達の先行き……
別シリーズとして続編が出ることは既に決定しているとのこと、楽しみです。早く読みたいなあ。

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