サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. hontoトップ
  2. レビュー
  3. 有駒屋さんのレビュー一覧

レビューアーランキング
先月(2017年8月)

有駒屋さんのレビュー一覧

投稿者:有駒屋

2 件中 1 件~ 2 件を表示

紙の本本当の話

2001/12/08 12:44

檻の中の不条理

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 相手を納得させられる言い訳を用意しておくことは、現代社会で生きる上で必要不可欠な礼儀のひとつと言えると思う。逆に言えば、他人の理解できないような行動はしてはいけない、ということだ。

 この「本当の話」は、ソフィ・カルの3つの出版物をまとめて翻訳したものらしいが、すべて写真とテキストからなっている。その中から特に、「ヴェネツィア組曲」について触れさせていただく。
 「ヴェネツィア組曲」は、尾行の話である。カルは、ある男性がヴェネツィアに行くと言う話を聞いて、わざわざパリからヴェネツィアに赴き、その男を尾行する。その男性のことをカルは殆ど知らない。性的興味を抱いていたわけでもない。それでもカルはひたすらその男を追う。電話をかけ、宿泊先を突き止め、宿の向かいの建物に入れてもらって張り込み、出てきた彼をつけまわす。彼の写真を撮るとともに、彼がカメラに収めた風景をまた、カルも写真に撮る。何日も何日も、執拗に尾行する。何の目的もなく。ただ尾行するだけ。殆ど変態の行為である。

 しかし、「ヴェネツィア組曲」に変態の気持ち悪さはない。それどころか面白いのである。それは、誰にでもある無意味な行動への欲求を、ソフィが代わりに満たしてくれるからだ——本書の巻末に収められた、「ヴェネツィア組曲」の解説で、ボードリヤールはこのような指摘をしている。意味のある、他人に理解してもらえる行動を常にとっていくのは、結構疲れるのだ。たまには不条理なこともしてみたくなる。
  しかし、一般の人は、あまりそれを実行にはうつさない。それほど暇でもないし、「変な人」になるのはやっぱり怖い。でも、意味の束縛から逃れて、時には不条理な世界に浸りたい。だから、不条理漫画が流行ったりする。カルの「ヴェネツィア組曲」も、無意味への憧れを満たしてくれる。だから心地よい。

 ただ、カルの尾行が完全に無意味かというと、そうではないように私は思う。訳者の野崎歓は、この理解不能な尾行はカルが女だからこそ許される実験だ、と指摘するが、カルの尾行が許されるのは、カルが女性であるとともに、芸術家であるからだ。芸術家の変な行動には、なぜか皆寛大である。むしろ、変な行動こそが偉大な芸術家の証し、のごとく考えられている節さえある。普通の人と違う感性がなければ、優れた芸術は生み出せない、ということか。だから、理解できないことをしても、許される。さらに、「ヴェネツィア組曲」の場合には別の理由もつく。それは、カルの尾行が、こうして出版され、彼女の作品として発表されているということである。作品として発表されたと言うことは、これはもう理由なき行動ではない。芸術のための行動、作品の制作である。立派な動機のある行動である。理解できる。仮に、どうしてそれが芸術なのかは理解できなかったとしても。この場合、カルがすでに認められている芸術家だということも大きい。ガラクタを集めて組み合わせ、「芸術だ」と言ってもただの変人かもしれないが、それがどこかの美術館に入っていたりすれば人の見る目は違う。芸術という言葉は、理解できない行動を理解できるものに変えてしまう、魔法の言葉なのだ。カルの尾行は、いわば檻の中の不条理である。だからこそ安心して楽しめるのである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

人魚とビスケット

2001/12/06 22:58

謎と謎解きと

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 1951年3月7日、イギリスの新聞の個人広告欄に次のような広告が載った。「人魚へ。とうとう帰り着いた。連絡を待つ。ビスケットより」。謎のやり取りは、なる第3の人物の介入、沈黙を続けていたからの応答などなどを経て、5月21日、終止符を打つ。「人魚へ。意志の力を振り絞り、この気持ちにひどく反する言葉を。さようなら。ビスケットより」。……
 イギリスで実際に掲載され、話題になった個人広告の謎。筆者はそれを元に、この謎の広告の背景としての海洋冒険物語を作り上げている。

 物語としても面白い本書だが、一番の魅力は何と言っても、素材となった個人広告の持つ強烈な謎である。是非、冒頭に配された広告のやり取り部分を読んでみて欲しい。一体この裏にはどんな事情が……と、想像力をかきたてられる。この広告が実際にあったものだというのがまた魅力的である。小説家が最初から解決を前提に作り上げた謎ではなく、厳然たる謎として存在する謎。その謎たる個人広告の背景である冒険物語の部分がフィクションである、というのも良い。それを確かめて(巻末の解説で確認)、私は安心した。本の中では解決していても、現実世界ではこの謎は未だ謎なのだと。
 私はミステリ好きである。ミステリ好きは、魅力的な謎解きを求める。しかし謎解きと同じくらい、いやそれ以上に、魅力的な謎を愛しているのがミステリ好きという人種なのではないかと思う。だからミステリ好きにとっては、謎が解かれるのは快感ではあるが、同時に寂しさも伴う。ああ、魅力的な謎が消えてしまう……という寂しさ。ジレンマである。そんなミステリ好きにとって、本書はジレンマを解消してくれる素晴らしいミステリである。魅力的な謎。そして魅力的な謎解き。さらに、実際は謎は解かれておらず、謎として保たれているという事実。本書を存分に楽しんだあと、あなたも広告を元に、あなた独自の解決編を創造してみては如何。
 

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

2 件中 1 件~ 2 件を表示