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先月(2017年8月)

川名栞さんのレビュー一覧

投稿者:川名栞

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本渚にて

2003/10/27 13:21

タイトルの意味するものは?

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「渚にて」。ずいぶんと感傷的なタイトルである。表紙もなんとなく静謐感が漂う。
しかし話はこうだ。クルージング・スクールの船が暴風雨に巻き込まれ、7人の少年少女が孤島に漂着する。リーダー格の宗近、武士の黒木、男勝りのカスミ、ごくごく普通の少年の冬馬、料理長のフライデー、暗い小林、どこまでも女の子っぽい未知。
冒険モノというか、漂流モノ。おや、久世光彦にしてはエンターテイメント性が強いかな?と思いながら読むはじめる。

さて、無人島にたどり着いた人たちが何をするかといったら、サバイバルに決まっている。なりふりかまわず、食うために躍起になる。
…しかしこの本にでてくるサバイバルはちょっと違うのである。必死ではあるが、なにをするにも文化の香りが漂う。彼らは、自分たちが文明をもったが人間であることを第一に、行動をおこすのだ。
寝床を造り、島を探検し、病気にかかり、時には気が狂いそうな不安に耐え…。
仲間同士の奇妙な連帯感と対立が細かに描写される。彼らは大自然の中で生きるが決して野生化はしない。久世光彦らしい、と思う。

ところでこの物語は冬馬の一人称によって語られるのだが、そこが、うまい! 冬馬の視点によるほかの6人の描写のバランスにリアリティがあると思うのだ。
彼は多少冷静すぎる少年だが、彼なりに、尊敬する人、好きな人などがもちろんいて、そういう人の描写は事細かなのに、少し気に入らない人の描写はおざなりだ。
さらにその人間関係も、時間の経過とともに少しずつ変化していく。
それはこういった一人称の語のリアリティが、読者に島での生活に現実感を抱かせる。

興味深いのは、性的なことに関する問題である。ここはさすが久世光彦。彼の客観的なのに、耽美的で濃い文章は無人島でも健在だ。しかし、矛盾するようだが、彼の描く少年少女の性は、島の大自然に抱かれて、ずいぶんと健全で原始的なもののように感じられた。男女の営みは、人間を後世へつなぐための行為、そういう感じがするのだ。
現代文学を感覚的に受け入れてきた私は、性について考えるとき、このような視点があることに驚かされる。

物語の中盤からは、7人は、日本に帰ることを夢見ることをやめ始める。この島でずっと暮らしてもいいのではないか?とまで思い始める。こう思うに至る過程は、冒険小説の特性上、ネタバラシしないほうがいいだろう。読んでどきどきしていただきたい。

私が興味深いのはラストだ。島に残るか、帰るか、という彼らの「選択」。常識的に考えて、ラストは非現実的だし、ラストだけが誰かの妄想なのかもしれない。
ある意味で「逃げ」を許容する作者の広いまなざしが示されているのかもしれない。
しかしどうであるにしろ、大自然の中では、現代の倫理や批判は無意味である。


ここで、思う。「渚にて」というタイトルについて。
内容にぴったりだとは言えない気がする。その言葉から連想する静けさは最初から最後まででてこないのである。
私見であるが、「渚にて」という言葉にはなんだか滅びのイメージがつきまとう。ネビル・シュートの同名の傑作小説「渚にて」を連想してしまうからだろうか。
いや。私はこう思うのだ。「渚にて」、は最後の選択をした彼らを暗示する言葉ではないのか、と。

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