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先月(2017年8月)

伊藤計劃さんのレビュー一覧

投稿者:伊藤計劃

2 件中 1 件~ 2 件を表示

紙の本ニューロマンサー

2002/02/21 01:01

きれいな小説

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 テクノロジーが、政治とかエリートとかのてっぺんだけじゃなくて、どぶ底レベルの人間から変えてゆく。そういう認識を、コンピュータが生み出す人間の新たな認識の地平とからめて描き出した…というインパクト、いわば「最初にやったもん勝ち」の衝撃を取り払ってみれば(それもかっちょよくて凄いことなんだけど)、この小説に残るのは「場所」の印象、静かにまぶたに残る空間の雰囲気、だったりする。

 冒頭のチバシティこそごちゃごちゃしてて猥雑だけど、あとはイスタンブールのエキゾチックな感じ、空港ターミナルのあの雰囲気、人気のない高級リゾートの、塵一つない奇妙な清潔さ、熱心に清掃された漆喰の廃虚のような無人空間、がらんとしたプール。そんな「場所」と、奇妙に歪んだドアとかグロテスクなホログラムとかの「オブジェ」が現代美術のような「妙な感じ」を残す。
 思えば、サイバースペースにしてもこうした「場所」の印象たちの一つにつらなるものとしての役割が大きかったのかもしれない。

 ぼくにとってこの本は、猥雑でブレラン的なチバシティのステロタイプなイメージよりも、リゾートやお城のがらんとした廃虚感に身をゆだねる(バラードの風景の乾いた心地よさに近い)「きれいな小説」だ。

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ロクでもない現実の、ロクでもない戦争

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 人はどんな事柄からもやたらと教訓を引き出そうとする。戦争ならばなおさらだ。「地球よりも重い」ところの命が大盤振る舞いでドカドカ消費され、金もインフラも壮大に失われる。湾岸戦争で石油の利権云々ゆーおめでたいアメリカ陰謀論者もいたけれど、現代の戦争のコストは、はっきりいってそんなもんではとーてー見合わないほど巨大なものにふくれあがっている(とくにアメリカ式の戦争のコストは)。現代の戦争は支配とか利権とかでは埋め合わされない、ムチャクチャ効率の悪いソリューションだ。
 というわけで、アメリカがソマリアに介入したとき、それは多分、本当に善意からだったんだろう。ある種の無神経さがあったとしても、ソマリアはアメリカの「利権」にとってなーんの意味もない、ただの地図の場所にすぎなかったわけだもん。飢えてる人々がいる、虐げられている人々がいる。そしてアメリカはやってきた。俺達がなんとかしてやる。悪い指導者を打倒し、この乾いた大地に平和の二文字を打ち立ててやる。

 そしてアメリカ兵が死んだ。損耗18パーセント。損耗3分の1で敗北と言われる現代戦の基準から言えば、こいつはムチャクチャ高い数字だ。なんてたって5人に1人が死んだってことだから。

 この本はその戦いの記録だ。ベトナムより後の戦闘では最大の損害を出した、アメリカ軍のある戦闘の記録だ。

 なんてたって陸軍はレンジャーにデルタ、海軍はSEAL、海兵からリーコンと、映画でもお馴染みのアメリカの特殊部隊だけが99人投入されたのだ。作戦が1時間で終わると考えても決してごう慢とは誹れないだろう。実際、彼らはカウントされてる数字で500人(本当は1000人近くともいわれる)のソマリア人を殺したんだから、キルレシオからいえば勝利といってもおかしくない。
 でも彼らは負けた。

 彼らは一昼夜にわたって、モガディシュの中心部に釘付けにされ、各部族のミリシアはおろか一般人からもタコ殴りにされることになった。瞬殺みたいな作戦だったから夜間装備なんて想定していなかったし、食料も水もない。まわりじゅうみんな撃ってくるから、こちらとしても子供だろーが女だろーが撃ちまくるしかない。

 そして、膨大な数の屍が築かれた。

 この闘いはロクでもない。意味もなく、教訓もない。それでもあえて教訓を探すとするなら、熱いヤカンには触るな、とか、悲惨な国が悲惨なのは、彼らが悪い指導者に虐げられているからではなく、国民自身が心の底から平和を望んでいないからだ、という身も蓋もないこれまたロクでもない教訓でしかない。

 自分の身を守るために、女性を、子供を撃たねばならなかったアメリカの若者たち。自分の家族や家を奪われたソマリアの人々。もっとよい方法があったはずだ。それをいうのは簡単だと思う。アメリカは傲慢だったのだろうか。そうかもしれない。じゃあ国連は傲慢じゃなかったのかな? そもそも当のソマリア自身がなんとかしようという努力を充分にはらってたのかな。多分違う。こいつは、どうにもならない現実の、どうにもならなかった善意の話だ。貧乏な学生のためにパンにバターをいれてやったら、そのパンを学生は設計図の消しゴム代わりに使っていたため、設計図が滅茶苦茶になった、っていうO・ヘンリの話がある。じゃあアメリカは何もしない方がよかったの? そうじゃない。アメリカが何もしなくても、国内ではバッタバッタと人が死んでた。じゃあアメリカはいいことをしたの。もちろん違う。彼がやったのは余計なお世話でジェノサイドに転がり落ちた不様な失敗だ。

 答えはない。こいつは現実の物語だ。映画がどんなできなのかは知らない(まだ)。でもこいつは読んだ方がいい。現実の命のやり取りの物語だ。

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