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投稿者:BP

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紙の本アラビアの夜の種族

2002/02/24 10:33

剣と魔法と知恵と書物の幻想小説『アラビアの夜の種族』

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 ナポレオンによるカイロ進行の緊迫感と、狂気を呼ぶ物語が誕生していく夜の語りの静謐感、そして語られた物語『災厄の書』の持つ幻惑感、これらの重層的な織物が『アラビアの夜の種族』である。

 まず冒頭わくわくさせるのは、読むものを狂気に導き歴史さえも覆す一冊『災厄の書』の紹介のくだり。そしてその物語が今、作中作として語られるのである。
 ここで思い出したのが、川又千秋の『幻詩狩り』(中公文庫)。これも人を狂気に導く「時の黄金」と題されたテキストをめぐる物語だった。しかしテキスト自体の全貌は描かれていない。
 古川日出男はその狂気の一冊をまるごと小説の中で描ききろうというのである。冒険的試み。読者に宣言した上で、小説家として挑戦を挑んだ覚悟は凄いと思う。そしてその結果は、重層的な読後感とともに我々読者の前に現出する。

 幻想小説として一般的な剣と魔法と知恵の対決。この部分の描きこみも素晴らしいが、『アラビアの夜の種族』では書物の対決という魅惑的なもうひとつの要素が重要な位置を占めている。小説家の挑戦、その当然の帰結として。

 まずいくつかの図書館が登場する。『13』(角川文庫)で、主人公橋本響一の幼児期を図書館を舞台にして印象的に描き出した古川日出男は、ここでも魅力的に図書館を描写している。アーダムが赴いたゾハルの「書物の建築」、イスマイール・ベイが『災厄の書』に耽溺するカイロの図書館、ファラーが訪れる地下迷宮の奇人都市で本男が管理する図書館。
 物語において魔術と同等にキーとなるのがこの図書館の書物である。地下迷宮の対決の中で、「誤読」「著者」「筆致」という言葉がたんなるメタフィクションのたわ言としてだけでなく有機的に物語を紡ぐ言葉となる瞬間。小説読みの醍醐味が味わえる幸福な一瞬がここにある。

 そして語られる後日談。『災厄の書』を作り出したもう一人の主人公アイユーブの真実。ここでも書物が登場する。

 言葉にこだわる異能作家の挑戦の成果は、剣と魔法と知恵と書物の重層的な幻想小説として我々の前に結実した。

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