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レビューアーランキング
先月(2017年8月)

逢坂さんのレビュー一覧

投稿者:逢坂

12 件中 1 件~ 12 件を表示

侮るなかれ!これも立派に時代物!!

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 小学生の頃に連載が始まって、中学生の頃にアニメが始まった。そんな私は現在社会人だったりします。サザエさんほどではないけれど、ひそかに続いている長寿アニメの原作です。
 主人公は乱太郎、きり丸、しんべヱという三人組。彼らは忍者の学校・忍術学園に通う「忍者の卵」略して「忍たま」であります。いつも騒動を巻き起こす彼らのハチャメチャドタバタギャグ漫画……であるにはあるのですが、この漫画の面白さはそれだけじゃないでしょう。
 ギャグはもちろんですが、歴史的要素が本当に濃い。時代設定は室町時代後期で武将たちが台頭するちょっと前の話ですから、まさに草の者たる忍者の黄金時代。忍術に関することはもちろんですが、時代の風俗を本当に丁寧に描かれていているのです。中学生の頃には「歴史のテストには役立たないけれど歴史を知ることができる!」と豪語しておりました。
 アニメとの最大の違いはシビアなシーンが見受けられること。子供向けとはありますが作中では戦が起こっていますし、人を傷つける罠のことも解説されています。また忍術によって人を奸計にはめる描写すらあります。時代小説ほどの重量感はないけれど『忍者を忠実に描いている』漫画です。子供だけでなく、大人でも十分に楽しめる要素があると社会人になった今では胸を張ってお勧めできます。
 巻の初めの方は若干絵柄が違っていますので、原作を初めて読まれるという方は真ん中あたりからチョイスするといいかもしれません。どの巻も読み切りなので大丈夫。個人的にはキャラクター総出演の話がある14巻や20巻がお勧めです。この二冊で忍たまをはじめ先生や関係者など主立った忍術学園のキャラクターのほとんどを網羅できます。
 お子さんに買うという名目で、まずは一冊いかがですか?

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紙の本まどろみ消去

2003/03/14 21:49

綺麗に騙されたい人に

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「10が二つ、4が二つある。どんな順番でも良いから、これらを全部使って、足したり、引いたり、掛けたり、割ったりして、答えを24にしたまえ」

などなど、作中に事件の他にも様々なミステリィを供し、多層的に楽しむことの出来る本格推理小説を読ませてくれる森博嗣の著作。本書はS&Mシリーズの六作目として並べられていますが、シリーズを知らなくても充分に楽しめる嬉しい短編集です。

一般論になりますが、ミステリィに限らず短編というのは筆者の力量がストレート現れます。私は『臨機応答・変門自在』から森博嗣を読みはじめたという変わり種なのですが、作家としての力量は「本業は理系の研究者だし…」と正直たかをくくっていました。難解な理系の単語を並べて、難解に見せかけることで読者を煙に巻いているのだろう、と。

が。

巧い! と思わず膝を叩いてしまいました。いかに緻密で意表をついたトリックでも、拙く騙されたのでは読後感は悪いものになる。最悪、ミステリィそのものを嫌いになってしまうことだってありえる。だけれど、この本ではそういうことがない。よかった、と思いました。初めて読みだしたミステリィが森博嗣でよかった、と。

ミステリィを読むにあたって読者が切に望むことは「綺麗に騙される」ことでしょう。謎自体ではなくて、いかに綺麗に謎が配されているかが、推理小説の本当の要です。これらの短編は見事にその欲求を満たしてくれる心地よい秀作ばかりで、ミステリィビキナーにお勧めの一冊です。筆者は後に「森の持っている可能性の大多数が、既にここにある」と語っていますが、この一文を見た私が、頬を緩めたことは言うまでもないでしょう。

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紙の本壬生義士伝 上

2003/01/06 23:21

「おもさげながんす、吉村先生」

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 泣きたければ浅田次郎を読む。天国までの百マイルを初めて読んでからの、私のポリシーなのですが、今回もやはり、泣きました。
 主人公は吉村貫一郎。諸士取調役兼監察、剣術師範などをを歴任した、もちろん実在する新撰組の幹部です。それなりに新撰組の資料には目を通しているものの、詳しい人となりを知ったのはこの本が初めてでした。
 物語はさまざまな人物へのインタビューという形でもって進みます。その挿話として、貫一郎の独白が入ります。とにかく切なくて切なくて、皆が皆人間臭く、だから一層物悲しい。各々の登場人物たちが、確かにあの幕末の世に生きていたのだと、翻弄されていたのだと、そして吉村貫一郎が大切に思えて仕方がなかったのだと、肌に感じることのできる、お話です。中でも斉藤一の語る鳥羽伏見の戦いのくだりは秀逸で、新撰組のすべてを凝縮した、そして吉村貫一郎という人物像を鮮烈に描き出した、非常に印象に残るシーンでありました。
 また史実を感じさせるエッセンスもふんだんに含まれており、稗田利八のセリフには思わずニヤリと口許を緩めてしまいます。
 貫一郎は非業の死を遂げますが、どうかラストの大野次郎右衛門の手紙まで、しっかりと目を通して下さい。家族のために、義のために、命を散らした、誠の南部武士・吉村貫一郎。表題の意味が明らかになったとき、なんともいえない感動が胸に込み上げてくるはずです。
 実は映画の方も一足先に試写会にて視聴してきたのですが、原作を知っていると、より深くお話にのめり込めること間違いないです。本を読むときも、映画を観るときも、ハンカチのご用意を忘れずに。

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紙の本ゲームの名は誘拐

2002/11/26 13:11

ゲームの審判は読者?

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 その帯にまず目がいきました。青色の表紙に金の帯、これは目立ちます。その帯に書かれていた「前代未聞の誘拐小説! 事件は犯人側からのみ描かれる」という一文が、この本に興味を持ったのきっかけ。警察が誘拐事件に対してどのように動くのだろうか、また、そしてそれらに対しどのような対処方法があるんだろうか、というズレた好奇心がはたらいて手に取ってみたら──面白かった!
 
 誘拐犯の主犯は主人公の佐久間駿介なのですが、作家自身の推薦文(これは書店で見られます)にもあるとおり、とにかくキザなんだけれど、キザに見合った能力を持った人という、この誘拐ゲームにはなくてはならないキャラクターを持った人物。キザといってもステータスやブランドにこだわる鼻持ちならないキザではなくて、自分自身、自分の能力にひたすらにこだわるという中身のあるキザ。素直にカッコイイ! と感じてしまった。
 
 読む人によってはあまりに出来すぎた主人公に疑問を抱いてしまうかもしれないけれど、この誘拐劇は完ぺきに成し遂げられなければならない裏があった──最後のどんでん返しがこれまたビックリ。左手に残るページ数から考えればもう一波乱があるのはわかっているはずなのに、それでもドキドキしたしラストが待ち遠しくてたまらなかった。
 
 ゲームの勝者はどちらか。私個人としては佐久間の判定勝ちにしてあげたい。

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本職が勧める「実用書」

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 新米の医療従事者がまず最初につまずく要素はなんなのか。いくつか上げることができますが、その中に「言葉の難しさ」というものがあると思います。かくいう私もすでに数年病院で勤めていますが、専門用語には未だに頭を悩ませてしまいます。特に略語などは場面によって意味が変わってくるので、それら一通りを把握するだけでも大変です。
 そんなわけで新米は専門書よりもまず辞典を求めて本屋に出かけるわけです。とにかくつまづくのは略語。なにかわからないことがあって調べようとしても、取っ掛かりとなる単語の意味がわからなければどうしようもありません。
 職場では座右になるのだから、できればコンパクトなサイズで……そしてできれば略語の内容だけでなく意味も載っているものを……と思い書店で読み比べてみたのがこの辞典です。実は過去に第三版を買っていたのですが紛失してしまい、あわてて第四版を買い直したというほどの座右の書となっております。
 語句の多さはもちろんのこと、専門的もしくは説明を要する略語に関しては、そのほとんどに注釈がついているという、誠にありがたい内容になっています。装丁や字組も読みやすくシンプルで、巻末にはもちろん計算式や正常値一覧なども収録されています。暇なときに注釈を斜め読みするだけでも、お医者さんの会話にずいぶんと明るくなるはずです。普通に仕事をしていたら絶対に関わらない単語も、この本から教わりました。
 略語辞典も一冊は持っておいた方がいい。実用書として、本当にお勧めです。

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恋愛、歴史、壮大なロマン。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 王女になってみたいと思ったことが何度もあった。召使いを大勢抱え、望めばすべてが叶う夢の生活。常に王子の傍らにて守られながら幸せに満ちた時を過ごす。主人公のユーリはそんなお姫さまの生活を手に入れた稀少な存在……というのはいささか冗談口が過ぎるだろうか。この物語は現代日本でごく平凡に暮らしていた中学生のユーリが、古代中東の大国ヒッタイト帝国にやって来てから帝国の第二位の権力をもつ皇妃(タワナアンナ)に即位するまでの物語である。

 この長編漫画、注目してもらいたい点がいくつもある。そのひとつが、皇族というものを実に忠実に描いている点である。お姫さま、つまり皇族というものは楽に暮らしているわけではないということをドラマチックに展開させている。そうしたドラマの中で、権力も地位も宮殿に棲む人間としての義務を果たしてこそ得られるべきものなのだと、ユーリは成長過程のうちに学んでいく。今までの少女漫画ではあまり語られることのなかった歴史と国の重みとが丁寧に描かれたこの作品は、大河ロマンとしても十分に通用する。

 もちろん少女漫画に欠かすことのできないラブロマンスも健在だ。後に恋人から夫となる皇子カイル・ムルシリがその相手だ。このカイルというのが容姿も地位も実力もすべてを兼ね備えた完璧な青年で、大勢の側室を娶ることができる身分でありながら正室一人だけを愛しぬくと誓う、まさに理想の「王子様」なのだ。
 だがしかし。この作品では皇族という地位が単なる飾りとしてではなく、国を動かす「ちから」を奮うものとして描かれているだけに相思相愛であるはずの恋は前途多難である。ユーリは身分をもっていなかったために正室になるのは大変難しいことであったし、皇統を狙うナキア皇妃はもともとは邪魔者のカイル皇子を殺すための生け贄としてユーリを古代に呼び寄せていたのだから。歴史の動乱と権力闘争に流されることなくひたすらにお互いを愛しぬこうとする二人の姿は、ラブロマンスの醍醐味そのもといえるだろう。
 また、二人のロマンスを揺さぶるのは動乱ばかりではない。カイルの異母弟ザナンザ、ミタンニ王太子マッティワザ、そしてエジプトの将軍ラムセスといった国を統べるほどの器量をもちまた等しく美形という青年達の存在も見逃せない。

 骨太の大型歴史ロマン。少女漫画はちょっと……という人にも、是非読んでもらいたい。

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紙の本いきな言葉野暮な言葉

2003/12/16 22:18

Sheissocute!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

女の可愛らしさに年齢はない。
どこかで聞いたような言葉だけれど、この本を読んで実感。
著者である中村喜春さんは元新橋芸者で、
1956年に渡米してからは日米親善・文化交流に力を注ぎ…
ここまで読まれて「あれ?」と思われた方、ありがとうございます。
あなたはこの書評を細かく読んでくださっているいい人です。

喜春さんは1913年生まれ、この本の発行時には御歳79歳。
いくら女性とはいえそんな年齢の人が果たして可愛いらしいと
評されるものだろうかと疑問に思われるのはごもっとも。
けれど可愛らしいのだからしょうがない。

本著は花柳界・歌舞伎界由来の言葉をはじめ
芸者ならではの男女の艶事にまつわる言葉、
喜春さんが日本にいらした頃には普通に使われていた言葉など、
実にさまざまな『いきな言葉』を紹介してくれています。

日本語の奥ゆかしさはもちろんのこと
とにかく堪能してもらいたいのは喜春姐さんの可愛らしさ。
「まったく、今どきの子は」という嘆きは、
一定の年齢を越した女性であれば一度は抱いたことはあるはず。
けれど、こんなに可愛らしく、情を込めて嘆いた人はいないでしょう。

古き良き日本語教本としても、自分磨きの教本としても、
なかなか楽しめる一冊です。

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根府川へ

2003/11/15 21:46

時の端を結びゆき

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私たちは毎日、しんどいくらいに繰り返してる。
かつては学生であったこと、かつてはOLだったこと、
夫の妻であること、子供の親であること。
子供のころには感じなかったしんどさが、近ごろギチギチと吐息を細くする。

自分の両親はどうだっただろう。
母の夫で、夫の妻で、私の両親。今では二人の孫をもつ老夫婦。
いくらか感情の行き交いはあったようだったけれど、
よき夫婦であり、よき両親であったかのように思う。

「なけなしの愛情だなあ、親のフリしてさ、そう思わないか」

表題作「根府川へ」よりの抜粋である。
飄々とひとりきりで世を流れてきた叔父は知っていた。
地に足つけて家族という名の潅木の根を下ろそうとしている兄夫婦が、
しんどいくらいに親であることを繰り返していたことを知っていたのである。

しんどい繰り返しは、生きることととても密接な関係にあって、
いま私たちのそばにも、なかにも、むこうがわにも、そこら中に存在する。
主人公の「おれ」においてもそれはおなじであって、
叔父はそんな「おれ」のしんどい繰り返しを知ってか知らずか、
ある日ひょっこり顔をのぞかせて、さらりと告げる。

「親のフリしてさ」

単色のサインペンで描かれたような、インクのにじみもカスレも見える
情感あふれる描写の中にあって、なんと現実的な言葉なのだろう。
「おれ」はいまを生きる人間なら、誰しもがもつ閉塞感を持っている。
見栄からくるものなのか、義務感からくるものなのか、由来は人様々であろうけれど
叔父の言葉になおすとすべてまとめて「フリ」ということになる。

物語の最後で「おれ」は父親の日記を目にすることになる。
天袋の奥にしまわれた三日間の日記にえがかれていた、しんどい繰り返しの帰結に、
「おれ」だけでなく、物語を読み進めてきた私たちも、きっと多くのことを感じるはずだ。

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溺れる魚

2003/01/05 23:55

解決しない犯罪小説。展開を楽しもう。

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 一言でいうなら、痛快。スピード感がすごくて登場人物も展開も破天荒。だからといって理解に苦しむということはなく、登場人物たちは それぞれのキャラクターをもち、行動理念がある。周到に、緻密に、サスペンスタッチで進められた前半から、唐突に、不条理に、ジェットコースターのごとき怒濤の勢いで展開していく後半へとスイッチしても、それでも無理なくついていくことが出来たのは、やはり一人ひとりの登場人物たちが、ちゃんと描かれていたからだと思う。
 この作品はサスペンス、というよりはエンターテイメント小説だと思う。サスペンスの、それも警察犯罪ネタとして読むととんでもないことになる。
 まずは秋吉刑事。彼は女装癖をもった人物で、制服を集めていたりもする。当然正規に購入したものばかりでなく、窃盗によって入手したものも多数所持している。そして白州刑事。彼は捜査一課強行犯係の人間だが、突入した現場で犯人を射殺し、あまつさえ現場にあった現金を横領したという経験をもつ。
 所持している、経験している、という言い回しになっているのは、彼らが正式に起訴されていないからである。彼らはとある特命を受けることにより、これらの罪を不問に処すという選択肢のない選択を強いられ、事件に関わっていくことになるのである。
 主人公からして、こうなのだから、周囲の人間も常識的なキャラクターをしているはずはない。事件の発端をつくり、諸悪の根源ともとれる会社重役の保坂がいっそまともに見えてくるから不思議だ。
 
 勢いに乗せられて最後まで読み切っても、事件は解決していない。
 しかし、不条理ではあれども、わずかに口元を緩めてしまうこのラストが、私は好きだ。

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紙の本書斎曼荼羅 本と闘う人々 1

2002/04/02 23:43

みっしりとした「化け物」

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 本。それもとんでもなく大量の。
 そう聞いてまず最初に想像したのは古書店の風景であった。近ごろ流行りの新古書店ではなく、商店街に昔からあるような、店番のおじいさんが奥でひっそりと読書をしているような、ああいった店である。
 子供のころはこの種の古書店はひどく怖く思えた。天井まで届いている本棚はもちろんのこと、棚の隙間、部屋の隅、机の下、果ては通路にまで、ありとあらゆる空間が本で埋め尽くされた、あのみっしりとした紙の空間は外から眺めているだけでも息が詰まった。大人になった今でも、古書店に入るときはいくらか尻込みしてしまう。本というものは、実はとてつもない質量をもつ「化け物」なのだ。
 この本ではそんな「化け物」との闘いを精緻なイラストでもって紹介している。通常、書斎といえば趣とゆとりのある場を思い浮かべることだろう。しかし、ここで紹介されている書斎は違う。まさにそこは本と人との闘いの場。本の侵略に抗する闘いの最前線なのである。
 ひとことで表現するなら、凄まじい。
 本が本棚からはみ出ているだけなら、袋詰めになっているだけならまだいい。床一面に敷き詰められた本、トイレに積み上げられた本、流しの吊り棚に詰め込まれた本、文字通り家の中にそびえたつ本の山脈、そしてこれらと闘いながらも共存している人々……。文章だけではピンとこないかもしれない。まずは本を開いて、これらの言葉の意味を確かめて欲しい。
 執筆にあたっては作者御自身も相当に闘われたのではないかと思う。時には本だけでなく帯のコピーまで模写している緻密さで、あの凄まじい「化け物」を描き起こしているのだから。
 もちろん折り合いをつけながら闘っておられる方々もいらっしゃる。住居そのものを図書館にされた方や、本のために家を購入した方などである。世間一般的に見ればこれらも尋常なこととはいえない。それでも、この本の中にあっては普通に見えてしまうのだから不思議だ。

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紙の本溺レる

2002/03/31 22:45

近くも遠い、絵本のような。

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 絵本を読んだかのような気分になる本だった。ゆとりのある字組のためだろうか、それともひらがなの多い文体のためだろうか。字組にゆとりがあるのはわかる。しかし、これは読み返して気づいたことなのだけれども、実はそれほどひらがなが多く使われているわけではなかった。いくらかの名詞と動詞がひらがなで書かれているだけで極端に漢字を避けているわけではない。それどころか辞書でしか見かけないような難しい漢字だって出てきている。なのに幾度も読み終わった今も、絵本を読んだ後のような妙な浮遊感が残る。
 恋愛の相手のことを「さん」づけで呼ぶこれらの短編は、どれもするすると頭の中に入っていってしまう。それがどうにも心地よくて読み進めていると、びっくりするような登場人物たちの「局面」にたちあってしまうのだが……。
 あの文章の近しさは、直に話を聞かされている感覚に近い気もする。だがそれぞれの語り手たちは読み手のことなど意識している様子はまったくなく、また当然のことながら我々は物語の外の存在である。話を聞かされているというのとは、やはり違う気がする。
 この距離感はやはり絵本に最も近いのだと思う。それも隣にあって読んで聞かせているような。
 さやさやという音の正体はなんなのか、誰と溺れるのか、亀は鳴いているのか、なにがいったい可哀相なのか。やさしくもするすると心にしみ込んでいく文体と、遠くも近しい語り口。あの不可思議な浮遊感に、どうかゆったりとひたってもらいたい。

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紙の本eメールの達人になる

2002/11/19 23:28

大切なものは心配り。

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たまには本でも読んでみようかと、立ち寄った本屋で見かけた集英社の新書フェア、装丁に魅かれて平積みのワゴンに歩み寄り、少しでもとっかかりがありそうで、どうせ読むなら有名作家の本はないだろうかと探してみたら見つかった一冊です。自分はネット中毒で、eメールはビジネスではなく私用で使うことが多いのですが、これからは仕事で使う機会も増えてくるのだろうから、少しはちゃんとしたものを身に付けようと思い手にした……はずだったのですが。

日本語のおくゆかしさと、おくゆかしい日本語ゆえに心を砕かねばならないという、eメール云々よりも、日本語の特性を改めて考えさせられた一冊でした。後半は例文(実際に作家がやりとりしたメール)ばかりでありましたが、どうしてそのような例文になったのか。村上流の心配りと日本語に対する洞察は、読んでいて面白く、そして素敵だと思いました。

日本語ゆえに求められる心配り、公私に関わらず相手が存在するからこそ求められる心配り、eメールの特性ゆえに求められる心配り。この本は『心配り』という行為の中の、とりわけeメールに関する指南書、という形容がぴったりなのではないでしょうか。

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