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先月(2017年6月)

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11 件中 1 件~ 11 件を表示

天下太平〈快楽の園〉は果てしなく——ミュンヒハウゼン男爵は靴ひもを引っ張り、ハーリ・ヤーノシュ将軍は大法螺を吹く

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 要するに「病んでいる」ということか。ソーカルとブリクモンの『「知」の欺瞞』(岩波書店、2000年)は、現代ポストモダン思想に蔓延する科学概念や専門用語の誤用・濫用を糾弾し、大きな反響を呼んだ。著名な思想家たちの危うい言説はなぜ糾弾されることなくまかり通ってきたのか——本書の著者ブーヴレスによれば、それは「一時的な失態」(p.57)などではなく、フランスの現代思想界に巣食う宿痾なのだという。

 フランス思想界を特徴づける「文学的哲学主義」(p.165)は、自由な思考とは「ありとあらゆる権利を持ち、どんな規則をも超越している」と主張し、科学であれば不可欠であるはずの論理や論拠あるいは経験的事実は自由な思考を侵害する全体主義的な攻撃ないしいわれなき制約であるとして敵視する。しかも、制約なき自由な思考は、他者による批判をいっさい許容しない。それは「フランスの知識人の習性(それも憎むべき悪癖)」(p.184)と著者はたたみかける。容赦ない弾劾はことの深刻さを印象づける。

 制約も批判も糾弾もない自由の楽園——この〈快楽の園〉にいるかぎり、攻撃目標にされた思想家たちが「気まずさや何か罪悪感をあらわすかもしれないなどと期待してしまうのは、かなりのお人よしであったと言うべきだろう」(p.63)と著者はきわめて悲観的である。そして、病んだ思想家たちの〈たわごと〉や〈法螺話〉を陰に陽に支持してきたメディアに対しても著者は批判の矛先を向ける。著者は言う:「合理的思考にも存在する権利があるわけで、まさしくそうした権利の擁護こそが今日では必要ではないかとも思っている」(p.197)。

 本書はタイムリーに登場した翻訳書だと私は思う。「訳者あとがき」も役に立つ。シニカルな文体に最初はなじめなくても、いらだちにも似た著者の思いはよく伝わってくる。何も変わっていないし、これからも変わらないのか——なんだか気が重いな。

【目次】
凡例


1.人文系知識人に「科学的である」と見せる技術について
2.人文系知識人に科学的素養が欠けていることが、この惨禍の真の原因か
3.いかにして濫用の張本人が犠牲者へ、そして告発者へと変貌するか
4.無知であることの利点、ならびに一種の高度な理解と見なされる混同
5.ゲーデルの災難、あるいは不完全性定理を我田引水する哲学者の技術
6.「貴様も同じだ!」という論法
7.哲学の本当の敵は誰か
8.ソーカル事件とその後——教訓は理解されるのか
9.批判の自由なき思想の自由
エピローグ

訳者あとがき
人名索引

【原書】
Jacques Bouveresse 1999. Prodiges et vertiges de l'analogie: De l'abus des belles-lettre dans la pensee. Editions Raisons d'agir.

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紙の本バージェス頁岩化石図譜

2003/10/31 17:46

生物進化版“驚異の部屋”の写真集——バージェス石切場と古生物学者たちに乾杯!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 故スティーヴン・J・グールドの『ワンダフル・ライフ:バージェス頁岩と生物進化の物語』(原著1989年,日本語訳1993年)の大当たりは,カンブリア紀の地球上に実在していた“フリークス”たちを一躍銀幕のトップスターに押し上げた.実際,この十年あまりの間に,「アノマロカリス」とか「オパビニア」などふつうに考えれば一般社会に浸透するはずもない生きものたちの名称のみならず復元図やアニメーションが雑誌やテレビで繰り返し流されてきた.

 本書は,バージェス動物相の写真集である.それもとびきり美麗で鮮明な化石標本の写真ばかりを選りすぐっている.バージェス動物相での海綿動物の多さは時代背景を感じさせる.古生代に君臨した三葉虫が登場するのは当然として,それらを含む節足動物類はすでに多様化への道を歩み始めている.一見したところ系統関係がまったくたどれないように見えても,バージェス動物相の大部分は既知の生物群との類縁関係があると推定されている.グールドには申し訳ないことだが,類縁がまったく推論できないアノマロカリスやオパビニアは実は少数派なのだという基本認識が本書から伝わってくる.

 カナディアン・ロッキーにあるバージェス動物相を産出した石切場の地質学的な解説やこれまでの調査史を振り返る本書は,生物進化劇の初期を彩った“フリークス”たちの演技を排した実像を示した貴重な図鑑だ.バージェスの動物たちが「確かに生きていた」ことを実感させる写真の数々をじっくりとあじわっていただきたい.多毛類の毛1本まできちんと保存されている写真や捕食されて消化管の中でそのまま化石になった写真を見せられるとき,読者は新たな衝撃と感銘を受けるにちがいない.

(三中信宏/農業環境技術研究所主任研究官)


【目次】
序 i
まえがき iii

第1部
1.研究史 1
 1.1 発端 1
 1.2 間奏曲 8
 1.3 ケンブリッジ・プロジェクト 9
 1.4 より多くの化石産地,より多くの動物 13

2.地質概要と化石の保存 16
 2.1 ウォルコット石切場 16
 2.2 運搬と埋積 20
 2.3 化石の保存 23
 2.4 バージェス頁岩動物群集 25
 2.5 その他のバージェス頁岩動物相 27

3.カンブリア紀の放散 30
 3.1 原生累代の終わり 32
 3.2 エディアカラ生物相 33
 3.3 カンブリア紀の大爆発 35
 3.4 バージェス頁岩動物相の意義 37

第2部
4.バージェス頁岩の化石 39

バージェス頁岩からの種の記録 205
参考文献 211
文献目録 213
訳者あとがき 224
索引 227

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ルネサンス哲学

2003/09/30 18:39

中世から続く思想系譜の連続体をルネサンスで輪切りにする

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

【ルネサンスの神話】——すなわち「古代を再発見」した人文主義者たちが「暗黒の中世」からの解放(再生=ルネサンス)を成し遂げたという通説はもう撤回するしかないだろう.本書の著者は言う:「ルネサンス期と中世とを結びつける連続性や推移を曖昧にしてはならない」(p.4)と.ルネサンスの哲学や思想をそれだけ切り出して特別扱いするのではなく,中世的な精神的基盤や古代ギリシャ・ローマの思想が「数百年を経るうちに連続性と変形とをあらわにしていくだろう幅広いカテゴリー」(p.57)から成る連続体として理解すること——本書の目標はここにある.

 当時の「哲学」は人文科学から自然科学まで広範囲の知的活動を含んでいた.魔術や錬金術でさえその頃は実験科学としての性格を帯びていた.中世のスコラ哲学の基層にあった権威的なアリストテレス主義(第2章),それに対抗する人文主義者によって古代から再生したプラトン主義(第3章),そしてストア派・エピクロス派などの諸派(第4章)は,全体として時代を貫く巨大な系譜を形づくっていた.著者は個々の思想家の足跡をたどることにより,この系譜を見渡そうとしている.

 第5章はルネサンスの自然哲学を論じる.アリストテレス的世界観を排し,プラトン主義に帰依した大多数の自然哲学者たちは,宗教的迫害に遭いつつも,経験科学としての自然魔術を実践し,書物ではなく自然に学ぼうとした.そこにもなお中世からの思想的遺産は息づいていたのだが,もはや特定の思想的権威に寄りかかることはなくなった.すなわち,併存する思想群は単一ではなく「複数の権威」(p.360)をもたらし,結果として古い自然哲学や形而上学は衰退していった(第6章).

 15〜16世紀のルネサンス哲学は本格的研究がまだまだ不足していると著者は言う.ルネサンス哲学を不当に貶めたバートランド・ラッセルもまたルネサンス哲学の桎梏から逃れることができなかったとは皮肉なことだ.

(三中信宏/農業環境技術研究所主任研究官)

【目次】

序(ポール・オスカー・クリステラー) iii
はしがき vi

第1章:ルネサンス哲学の歴史的背景 1
  古代と中世の哲学的遺産 1
  ルネサンスという枠組における哲学 18
  人文主義 23
  教会と国家 35
  ルネサンス期における哲学の変形 49

第2章:アリストテレス主義 59
  ルネサンス期の多様なアリストテレス主義 59
  アリストテレス主義の伝統における統一性と多様性 62
  ルネサンス期の八人のアリストテレス主義者 75

第3章:プラトン主義 127
  アリストテレスからプラトンへ 127
  マルシリオ・フィチーノ 144
  ジョヴァンニ・ピコとニコラウス・クザーヌス 163
  敬虔な哲学,永遠の哲学,プラトン哲学——フランチェスコ・パトリッツィ 185

第4章:ストア主義者,懐疑主義者,エピクロス主義者,その他の革新者 197
  人文主義,権威,疑い 197
  ロレンツォ・ヴァッラ——言語対論理学 211
  ペトルス・ラムスの単純な方法とその先駆者たち 230
  懐疑の危機 242
  ユストゥス・リプシウスの新しい倫理体系 266
  政治と倫理的混乱——エラスムス,モア,マキァヴェッリ 275

第5章:自然と権威の対立——古典からの解放 293
  学問の書物と自然の書物 293
  ジョルダーノ・ブルーノの哲学的情熱 298
  新しい自然哲学 312

第6章:ルネサンス哲学と現代人の記憶 339

訳者解説 371
注 401
参考文献 480
人名索引・事項索引 497

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現代生態学の「山」に挑んで

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 岩塊のような外見、しかも洞窟壁画のごときカバージャケット——重さ(2.9kg)と厚さ(1300頁)を前にしてたじろがない読者はきっと少ないだろう。しかし、覚悟を決めて通読してみると、意外なほど疲労感があとに残らない。版を重ねてきた定評ある教科書ならではの熟成の証左なのだと思う。

 全体の構成は、個体からはじまり、個体群を経て、群集へとスケールの階梯を昇っていく。環境内での生物個体の生存条件、生物間の相互作用、そして群集の中でのネットワークへと複雑性の段階を追うにつれて、しだいに関係の学としての生態学の全体像がつかめるように、章立てがなされている。煩雑な数式は驚くほど少なく、その代わりに豊富な事例がうまく配置されている。初学者にも学びやすくという教育的配慮がいきとどいた教科書だ。その一方で、本書は必ずしも「教科書」的に無難なスタイルにとどまってはいない。数理モデルの功罪や生物多様性保全のあり方を論じている箇所では、著者らの見解が打ち出されており、格好の論議の素材を提供するだろう。

 本書を読むと、かつての生態学で「生態系」が果たしてきた中心的役割が、いま「群集」というキーワードに取って代わられていることに気づかされる。ローカルな地域環境に成立した生物群集の個別的なあり方が現代生態学の基本スタンスであるとしたら、この半世紀の間に生態学がたどった学問的発展はいったいどのようなメッセージをわれわれに示しているのだろうか。本書はこの好奇心を十分に満たしてくれる。

 最後に、本書の翻訳について——よくぞ訳してくれたというのが正直な心情だ。訳文にはところどころ「砂粒」のようなミスが散見される(その頻度は章によって差があるようだ)。しかし、このような大著が日本語で読める幸せに比べれば、そういう「ざらつき」は許容範囲だ。本書をひもとく多くの読者は、現代生態学の全体像とその射程の広がりを目の当たりにして、きっと知的体験をエンジョイできるだろう。ま、とにかく登攀してみませんか。

(三中信宏/農業環境技術研究所主任研究官)

【目次】

本書のねらい
はじめに — 生態学の領域

第1部 生物

 第1章 生物と環境との対応
 第2章 環境条件
 第3章 資源
 第4章 単体型生物とモジュール型生物の生活と死
 第5章 空間的時間的な分散・移住と分布様式

第2部 相互作用

 第6章 種内競争
 第7章 種間競争
 第8章 捕食
 第9章 捕食者の行動
 第10章 捕食者の個体群動態
 第11章 分解者とデトリタス食者
 第12章 寄生と病気
 第13章 共生と相利

第3部 中間的な概観

 第14章 生活史の多様性
 第15章 個体数の多さ
 第16章 存在量の操作:駆除と間引き

第4部 群集

 第17章 群集の性質
 第18章 生物群集におけるエネルギーの流れ
 第19章 生物群集における物質の流れ
 第20章 群集構造への競争の影響
 第21章 群集構造への捕食と撹乱の影響
 第22章 食物網
 第23章 島,面積,移入
 第24章 種の豊富さのパターン
 第25章 保全と生物多様性

用語解説
訳者あとがき
引用文献一覧
学名索引
生物名索引
事項索引
著者・訳者紹介

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明かされた〈家族誌/家族史〉からダーウィン進化学の起源をたどる

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書は,チャールズ・ダーウィンを取り巻くダーウィン一族の〈家族誌〉であり,19世紀のイギリス社会の中で彼らがたどった〈家族史〉でもある.自宅を研究の場としてその生涯を送ったチャールズ・ダーウィンは日常生活と研究生活が深く密着していた.そのダーウィンを先祖にもつ著者は,ダーウィンの家族との関わりが彼の自然淘汰説や進化観・生命観に深い影響を及ぼしていることを明らかにしようとする.チャールズ・ダーウィンひとりがこの伝記の対象ではない.家族と親族の全体に光を当てているのが本書のもっとも大きな特徴だ.

 ダーウィン家の〈家族誌/史〉を叙述する本書の中でひときわ鮮やかなスポットライトを浴びているのが,チャールズとエマの長女アニー(アン・エリザベス・ダーウィン)だ.1841年に生を受け1851年にわずか10歳で亡くなったアニーはダーウィン家の中でもことのほか愛されていたという.しかし,結核が原因で(と著者は推測する)1851年にアニーは高級保養地モールヴァンで息を引き取り,ダーウィン夫妻は立ち直れない悲しみに打ちひしがれた.

 生物の「死」は,「神」や「罪」とは何の関係もなく,自然の過程のひとつにすぎないのだというチャールズの秘めたる信念は(pp.368-369),アニーの死によって「最後の一押し」を受けたと著者は言う.そして,『種の起源』に代表される著作や書簡を傍証として挙げながら,アニーの死がダーウィン進化論に色濃く反映されていると指摘する.

 著者は家族内の資料や聞き書きを踏まえつつ,これまでのダーウィン伝とは一味も二味も異なる「ダーウィン家の物語」を綴った.プロの科学史研究者とは異なる文体になったのは,〈研究対象〉に対する親族としての親近感なり一体感が反映されているからだろうか.600ページを越える大著だが,これまで同様に読みやすい訳文は心地よかった.

三中信宏(農業環境技術研究所主任研究官)

【目次】
家族と友人リスト——9
まえがき——19

第1章 金剛インコの館 23
第2章 翼竜のパイ 49
第3章 赤ん坊の自然史学 93
第4章 幼いクロコダイル 131
第5章 ギャロップの調べ 175
第6章 信仰、クリケット、フジツボ 223
第7章 遠い世界 257
第8章 子供のむずかり 285
第9章 モールヴァンでの別れ 311
第10章 喪失と思い出 345
第11章 死病 383
第12章 種の起源 407
第13章 オランウータンまで徹底的に行く 443
第14章 神の刃 467
第15章 人間の由来 497
第16章 つましきものへのこだわり 529

解題——進化学を育んだ家[渡辺政隆] 571

原註 [611-583]
図版出典一覧 [613-612]
索引 [627-614]

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それでも生きていくサイエンティストたちの姿

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書は、いまの日本の社会の中でかれら「科学者」が置かれている状況をさまざまな視点から見据えた本である。毎日新聞での長期連載を踏まえ、関係者の証言やインタビュー、そして各種の統計データに基づいて、実像としての科学(者)の姿を総体的に描き出そうという努力が感じとれる。

 いまの科学者たちを取り巻く環境はたいへん厳しく、「生業(なりわい)」としての科学はけっして平坦な道ではない。かつてのオーバードクター問題の再来はかねてより予想された通りだし、研究資金を求めての競争、研究ポストの獲得と維持、女性研究者の人事的処遇の問題、科学に対する社会的・文化的な受容のあり方——いずれも、他の職業と同じく、科学もまた実社会の中でさまざまなハードルを乗り越えようとしている。本書の読者は同じ目線の高さで科学者を見ることができるだろう。

 科学者を「理系/文系」と分けるのはもともと何の意味もない。本書はそういう恣意的な分類を越えた「研究者白書」でもある。科学という思考のスタイルあるいは問題解決のツールが現代社会の中でどれほど有効であるのか、それがどのように受け入れられているのかを考えるとき本書は論議の足がかりを与えてくれる。

 その一方で、本書は新聞記事の「束」以上の内容的な深まりがない。現代科学の「裾野」を幅広く渉猟し、科学者個人のエピソードや事例はそれぞれに印象的だ。それだけに、本質的にもっと重要な問題(大学院生倍増計画の結末、国立大学法人化の将来シミュレーション、科学と科学論の関わりなど)について、本書ならではの見識があってしかるべきではないだろうか。幸い、本書の刊行を契機とするシンポジウムが開催されたり、毎日新聞紙上の連載もなお続いている。中間報告として本書を読むならば、取り上げられたテーマのひとつひとつがさらなる考察のきっかけを与えていることは確かだ。

(三中信宏/農業環境技術研究所主任研究官)

目次(1) 目次(2)

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〈黒船〉がやってきた!——覗き穴から見たダーウィニズムの上陸

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 チャールズ・ダーウィンに発する進化思想は自然科学のみならず,周辺の人文・社会科学にもさまざまな光と影を残してきた.「人文・社会科学にとってダーウィニズムとは何だったのか」を問うことは,今後の両者のあり方への示唆を得る上で興味深い.本論文集は京都大学人文科学研究所における共同研究を踏まえて出版された報告書で,650ページを越える大部の本だが,進化学と人文系諸学問との関係について考察できる場を久しぶりに与えてくれるものと期待された.

 第I部ではダーウィニズムの伝播の過程で生じた科学史的エピソードが取り上げられる.進化学が周辺諸科学に及ぼしてきた影響の浸透度は学問分野によって異なり,またその受容に際してはさまざまな理論的・概念的な変容が伴っていたことがわかる.第II部では,進化思想を一般社会のあり方に反映させようとしたいくつかの試みが科学史的に回顧される.ダーウィニズムが上陸した国ごとにみられる特徴ある受容は印象的だ.第III部は,多くの社会問題を派生した優生学と優生運動を思想的に支えたバックボーンを検証する.第IV部は,進化思想のもたらす現代的諸問題を論じる.

 個々の章には十分なページが割かれており,情報量も多く,教えられる箇所が多々あった(人名索引だけでなく事項索引もほしかった).しかし,全体としての出来がイマイチであると言わざるをえないのは,多くの章が個々の研究テーマを掘り下げることに終始していて,グローバルな視点が根本的に欠如しているからだと思われる.編者は「ダーウィニズムと社会という問題はけっして過ぎ去った歴史ではなく,現代の問題なのである」(p.iv)と言う.にもかかわらず,本書全体を通読したとき,ダーウィニズムの現代的問題への接続を意識させるものがあまりにも希薄であることに驚かされる.現代へのつながりが強調されていたならば,きっと本書を手にする読者層の幅がもっと広がっただけでなく,最後まで読んでみようとする意欲が持続したのではないかと思う.

(三中信宏/農業環境技術研究所主任研究官)

【目次】

はしがき i

ダーウィニズムと人文・社会科学(阪上孝)3

I 概念と論争
ダーウィンを消した女 ——クレマンス・ロワイエと仏訳『種の起源』(北垣透) 46
カプセルのなかの科学 ——スペンサー=ヴァイスマン論争(小林博行) 89
「変質」と「解体」 ——精神医学と進化論(大東祥孝) 127
親族研究に置ける進化概念の受容 ——進化から変容へ(田中雅一) 159

II 進化論から見た社会
闘争する社会 ——ルドヴィク・ダンプロヴィチの社会学大系(小山哲) 192
『動物社会』と進化論 ——アルフレッド・エスピナスをめぐって(白鳥義彦) 237
加藤弘之の進化学事始(武田時昌) 265
群体としての社会 ——丘浅次郎における「社会」の発見をめぐって(上野成利) 318
個体としての生物、個体としての社会——石川千代松における進化と人間社会(斎藤光)360

III 人種と優生学
人口とその徴候 ——優生学批判のために(宇城輝人)410
アメリカ人類学に見る進化論と人種(竹沢泰子) 452
人種主義と優生学 ——進化の科学と人間の「改造」(アメリカの場合)(小林清一) 490

IV ダーウィニズムの現在
「ダーウィン革命」とは何であったか(横山輝雄) 534
必然としての「進化の操作」——現代社会における人と自然の行方を考える (加藤和人)559
進化経済学の現在(八木紀一郎) 588

ダーウィニズムの展開 関連年表 631
人名索引 [650-640]
執筆者一覧 652

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紙の本生命40億年全史

2003/03/31 19:02

個人史で散りばめられた生命史がじっくり読める

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 「全史」という本書のタイトルから「歴史年表」のような退屈な内容を想像した読者は、みごとに先入観を裏切られるだろう。40億年におよぶ地球上の生物の進化史を見渡したとき、人間の一生など泡沫にも満たない一瞬のかけらに過ぎない。その人間がなぜ進化を研究しようなどと思い至ったのか——本書の著者は古生物学者としての自らの経歴を振り返りつつ、生命のたどってきた歴史を描いている。

 「原始スープ」の中で最初の生命体がその痕跡を残した始生代に始まり、単細胞から多細胞への体制の進化と多様化、エディアカラ動物相やバージェス動物相など奇天烈な見かけをもつ生物たちの系統関係、光合成植物の登場による海から陸への生物の進出、大陸移動と隕石落下など時代を彩るさまざまな地史的ページェント、恐竜たちの栄枯盛衰、続いて哺乳類の躍進とヒトの登場、そして偶然と必然のはざまに見えてくる将来の姿——さながら連続劇を見るように、この地球上で起こってきた進化の物語が次々と紡ぎだされる。

 進化研究は、過去から現在まで数多くの論争が闘わされてきた学問分野である。科学の営みをどろどろとした感情のからみを抜きにして語るのはきっと偏っているだろう。化石収集にまつわるコレクターどうしの確執、分岐分類学をめぐる大英博物館の展示論議、そしてバージェス動物相の解釈をめぐる最近の大論争など、本書には数多くのエピソードが登場する。それらに対して著者の抱いた感慨はたいへん興味深い。

 語り口に臨場感があるのは、著者自身がそれらの進化の舞台に何度も足を運び、化石を手にしながらものを考えているからだろう。本書の魅力は、ひとりの古生物学者がたどってきた個人史を開いて見せている点にある。著者自身の、そして身近な研究者たちの多くの個人史が撚り合わさって、地球上の生命史が解明されてきたことが実感できる。確かに、本書は「伝記」にふさわしい読み物だ。

(三中信宏/農業環境技術研究所主任研究官)

【目次】
第1章 悠久の海 9
第2章 塵から生命へ 43
第3章 細胞、組織、体 98
第4章 私のお気に入りと仲間たち 127
第5章 豊壌の海 160
第6章 陸上へ 204
第7章 森の静謐、海の賑わい 250
第8章 大陸塊 281
第9章 壮大なものと控えめなもの 313
第10章 終末理論 355
第11章 乳飲み子の成功 389
第12章 人類 429
第13章 偶然の力 468
訳者あとがき 479
索引 [485-493]
本文写真クレジット 494

【原書】Richard Fortey (1997) Life: An Unauthorised Biography.

【訳者コメント】 訳者の愚痴理

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「知は力なり」——知識獲得の手段としての生物学の歴史をたどる

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 こういう歴史書のスタイルもあるのかと新鮮な印象を受ける。本書は、いくつかの研究領域に光を当てることにより、「自然界についての知識であると同時に、その知識を獲得する方法についての知識でもある」(下巻, p.572)生物学のたどってきた道のりを明らかにしようとする。題名の「知のツールとしての科学」は、確かに本書全体を貫くテーマを掲げるスローガンだ。つまり、単なる回顧的な歴史趣味から本書は書かれたのではない。むしろ、新たな世紀を前にした生物学が過去2000年に及ぶ長い歴史をどのように継承して、将来へのビジョンを描いていくのかといういわば「攻めの視点」のもとに、ツールとしての生物学の基盤を再認識する試みである。

 先駆者たちの自然学思想を概観した第1部では、生物学という「科学する心」がどのように育まれてきたのかをたどる。精神的存在によって世界を理解しようとする宗教とは異なり、科学は「自然現象を基にして自然界の事物や出来事を説明する」(上巻, p.33)。生物学においても、どのようにして仮説を立て、それをテストし、推論を重ねるのかが「知を得るツール」として確立されていった。続く第2〜4部では、進化学・遺伝学・発生学という今日の生物学で重要な位置を占めている領域ごとに、どのように問題状況が認識され、その解決への努力がどのようになされたのかが論じられる。当時の資料にまでさかのぼった詳細な記述は臨場感を感じさせる。

 生物学教育に長い経験をもつ著者の手になる本書は、とりわけ生物学を教える立場にある読者には得るものが多いだろう。「我々は今、人類の永続的な未来にとって、生物学の知識こそが不可欠であるという、歴史的な瞬間に到達している」(上巻, p.4)という序論の言葉は、「知のツール」としての生物学の意義を教える「攻めの生物学史」が、これまでにもまして生物学の教育課程の中で必要とされていることを物語っている。

(三中信宏/農業環境技術研究所主任研究官)

【上巻目次】
はじめに v
序論 1
 生物学のための概念的枠組み 5
第1部:自然を理解する 9
 第1章:科学思想の先駆者たち 11
 第2章:アリストテレスとギリシャ人の自然観 33
 第3章:理性的なギリシャ人? 51
 第4章:ユダヤ・キリスト教の世界観 71
 第5章:科学の復興 93
 第6章:模様石と可塑能力 123
第2部:進化思想の発展 155
 第7章:進化に関するパラダイム 157
 第8章:ダーウィンの仮説を検証する 179
 第9章:進化の立場から見ると 207
 第10章:時代を越えた生命 231

【下巻目次】
第3部:古典遺伝学 271
 第11章:パンゲネシス(汎生説) 273
 第12章:細胞説 295
 第13章:染色体連続性の仮説 311
 第14章:メンデルと遺伝学の誕生 333
 第15章:遺伝学+細胞学——1900〜1910年 353
 第16章:ショウジョウバエの遺伝学 383
 第17章:遺伝子の構造と機能 419
第4部:発生の謎 447
 第18章:第一の原則 449
 第19章:発見の世記 469
 第20章:記載発生学 487
 第21章:分析発生学の夜明け 509
 第22章:発生中の相互作用 541
むすび 571
訳者あとがき 577
引用文献 [12-25]
参考図書 [10-11]
出典 [8-9]
索引 [1-7]

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進化学による諸学問の統一・統合への揺るぎなき信念を伝えるマニフェスト

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 過度に専門化・細分化されているといわれている現代科学は、その一方で統一・統合への方向づけをその底流にもっている。とりわけ、現代の進化思想では、人文科学まで含めた諸学問の「統一(unification)」を明確に射程に入れている。その遠大な目標が構想されたのは、1940年代に進化の「総合学説」が成立したときだった。

 19世紀の思想家ウィリアム・ヒューウェルは、異なる分野からの知見を統一する帰納的推論を指し示すために「統合(consilience)」という新たなことばを産みだした。本書は、「統合」をキーワードとして、進化思想による自然科学と人文科学の統一の歩みを歴史的に振り返り、さらに将来への展望を述べた野心作である。

 四半世紀前に大著『社会生物学』やそれに続く『人間の本性について』で論議を巻き起こした著者ウィルソンは、遺伝子-文化の共進化理論を踏まえて(第7章)、人間に関わる諸学問分野——心・行動・文化・経済・政治・芸術・倫理など——の統合への道を提示する。「統合への信頼は、自然科学の基礎である」(p.16)と断言する著者は、その目標達成をさまたげる要因を次々に糾弾する。それは、視野の狭い科学者の「全体像に対する関心の欠如」(p.50)であり、「生物学はお断り」(p.226)と言い続ける社会学標準モデルであり、「二つの文化」の対立を深めるだけのポストモダン思想(p.260)であり、道徳は経験科学とは無縁であるとみなす超越論的倫理観(p.290)である。

 マニフェストたる本書は、著者による過去の著作と同様、広く社会的な論議を巻き起こすだろう。最終章で述べられているように、果たして諸学の統合はリベラルアーツを復権させ、われわれに智恵をもたらしてくれるのだろうか。学問の統合という大きな流れをそこに感じつつ、それがもたらすであろう将来像を思い描いてみたい。

(三中信宏/農業環境技術研究所主任研究官)

【目次】
第1章:イオニアの魔力 7
第2章:学問の大きな枝 13
第3章:啓蒙思想 21
第4章:自然科学 59
第5章:アリアドネの糸 85
第6章:心 121
第7章:遺伝子から文化へ 155
第8章:人間の本性の適応度 201
第9章:社会科学 221
第10章:芸術とその解釈 255
第11章:倫理と宗教 289
第12章:行き先 325
謝辞 363
解説(佐倉統) 367
原注 [1-31]
索引 [I-VIII]

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進化こそ究極の治療法——ダーウィン医学としての「進化疫学」

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 ペスト、インフルエンザ、結核、そしてエイズ——数々の病原体の侵略が人類の歴史を彩り、おびただしい犠牲者の山を築いてきた。しかし、病原体もまた他の生物と同様に「進化」をする。本書は、病原体の「進化」に焦点を当て、進化を踏まえた疫学(進化疫学)が可能ではないかと主張する。病原菌がどのように病原性を獲得し、その分布を拡げていったのかを進化的に考察することが本書のメインテーマである。

 疫学的観点からは、ある病原菌が特定の社会や文化において蔓延した原因を探ることが重要だ。本書の最大の魅力は、世界史的な見地に立って、ある伝染病の流行原因とされてきたものの背後に潜むもっと進化学的な因果を暴き出そうという姿勢である。病原体の「媒介手段」を重視するのは疫学ならではの焦点の当て方である。人から人へ病原体を伝播するのは必ずしも蚊のような生物や空気・飛沫・糞便だけではない。院内感染のように、病院の医師・看護者・付添い者もまた「文化的ベクター」として病原体の拡散に貢献することがある。さらに、社会制度や文化水準あるいは戦争のような世界史的事象もまた重要な文化的ベクターと成り得る。

 本書では、文化的ベクターを積極的に操作することにより、病原体を押え込むという治療施策の可能性があると提案される(p.135)。エイズ治療の具体例を挙げながら、病原体の疫学的特性を把握することにより病原性の進化を操作するという長期的視点が、短期的な薬剤処方をより効率的にすると著者はいう。進化ははたして究極の医療を可能にするのだろうか。

 本書の主張は明快で、手堅い論議の進め方をしている。残念なのは原書の出版(1994年)から翻訳出版までのタイムラグが長いという点だ。この分野は急速に進展しており、「いまはどうなっているのか?」という点に本書を手に取る読者の関心が向くのは道理だと思う。詳細な文献や索引が載っていて、読者は本書の背後で支えている個別研究の蓄積をじかに見ることができる。のぞむらくは、本書が描いた「進化疫学」の現在の状況を示すポストスクリプトがあってほしかった。

(三中信宏/農業環境技術研究所主任研究官)

【原題】Evolution of Infectious Disease.

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